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テック 2016.09.01

【CEDEC2016】VR×ボードゲーム『アニュビスの仮面』ゲームデザインの意外な着眼点

8月24日から3日間にわたって開催されたCEDEC2016ではVRに関するさまざまな講演が行われました。

今回は、ギフトテンインダストリ株式会社の濱田隆史氏により行われた「VRの弱点を利用したVRボードゲームの開発とそのゲームデザイン」についてレポートしていきます。

ゲームデザインのきっかけはVRの”弱点”

アニュビスの仮面
アニュビスの仮面

同社が販売しているボードゲーム『アニュビスの仮面』は、プレイヤーが順番に簡易型のVRゴーグルを使用してダンジョンの様子を見渡し、その様子を周りの人に伝えてマップを組み立てる、VRを活用したボードゲームです。

アニュビスの仮面

濱田氏は、「弱点は遊びになる可能性がある」という話から講演をスタート。弱点や制限は〇〇できないという意味ですが言い換えると〇〇してはいけないというルールと考えることもできます。

アニュビスの仮面
ここで濱田氏はVRの弱点に注目します。VRでゲームを作るのは初めてで分析した結果「一人しか見えない」、「酔ってしまう」、「かぶり続けているとムレる」という3つの弱点を見つけこれを元にゲームデザインを考えて行ったとのこと。

アニュビスの仮面
最初の弱点である「一人しか見えない」という所はVRゴーグルを着用する人数は一人のままで、その人が見ている専有情報を他の人に伝える「非対称性を利用した協力型ゲーム」という方式に。

アニュビスの仮面
続いての弱点「酔ってしまう」という点はそもそも歩かないことを前提に周りを見渡すだけのデザインを考案。配置されているオブジェクトの共通点を見つけ、同じ場所であることに気がつくことができる、というゲーム性を生み出しました。

アニュビスの仮面
最後の弱点「かぶり続けているとムレる」は60秒間という制限を設けてムレる可能性を極力低くしています。さらには「時間内にどれだけ情報を伝えられるか」という点でゲーム性の向上にもつながったとのこと。

ゲームデザインと世界観構築を分ける「両足モデル」

アニュビスの仮面
『アニュビスの仮面』はゲームデザインと世界観を完全に切り離して開発をしていったとのこと。「両足モデル」と呼んでいます。
アニュビスの仮面
まずは簡単なモデルを使ってゲームデザインの構成を行います。ある程度ゲームデザインが固まったら世界観のネタ出しに移り絵を書いて考えていくという方式です。

アニュビスの仮面
最終的にはエジプトを舞台にした「冒険家とピラミッド」が採用されましたが、VRゴーグルをハッキングツールとして使いロボットにお宝を取ってきてもらう「ハッカー怪盗と博物館」という世界観もあったと濱田氏。

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アニュビスの仮面

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アニュビスの仮面

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まず「世界初VRボードゲーム」というゲームデザインで1歩先に行きます。
その後に「見たことがない斬新な設定」という世界観を作ってしまうと2歩先と進みすぎてしまいユーザーが付いてこれなくなるリスクが発生します。
アニュビスの仮面
「既視感のあるモチーフ」という世界観にすることでユーザーが離れる問題を回避できます。世界観選びに迷った場合にこの図を参考することで突拍子もない物になってしまうことはなくなるとのこと。

アニュビスの仮面
アニュビスの仮面
逆に低リスクで話題を集めたいといった場合はある程度安定したゲームデザインにします。そして世界観の部分で流行っているキャラクターや違和感のある組み合わせにするといった工夫が必要になってきます。

「世界初のVRボードゲーム」というゲームデザインは『アニュビスの仮面』で使ってしまったため現在製作している2作品目のVRボードゲームでは世界観の方で勝負していきたいと濱田氏。

タイムライン分析

アニュビスの仮面
アナログゲームはデジタルゲームに比べて開発が簡単であると言われていますがその分テストプレイを行う必要があります。その際に役に立つ、タイムライン分析が紹介されました。
アニュビスの仮面
横軸が「時間」、縦軸が「楽しさ」を表しています。楽しさが一定感覚でありジグザグな表になる場合が良い例です。

アニュビスの仮面
「途中で飽きるパターン」というのは一度楽しさがあった後に来る物がなく右肩下がりなグラフになってしまいます。
アニュビスの仮面
「オチがないパターン」の場合は一度楽しさがあった後に淡々と続く横ばいなグラフになります。しかしこれは悪いことではなく家族でプレイした場合などにそこから会話が生まれる場合があるとのこと。

アニュビスの仮面
初期の『アニュビスの仮面』をプレイした時のグラフです。
地図が完成した後に正解と見比べるだけで終わってしまい楽しさが下がっていました。
アニュビスの仮面
そのような場合にタイムライン分析が役に立ちます。まず右側の下がっている部分をカットします。青色の部分はうまくいっている所で間を見ると平坦な場所があり
ここに最後のオチを作ることが可能です。うまく使うとこのようにピンポイントでネタ出しができるとのこと。

タイムライン分析を利用して製品版の『アニュビスの仮面』には地図を揃えた後に入り口からゴールまでを結ぶという追加要素が入りました。

シャッターチャンス

アニュビスの仮面
話題となったボードゲーム『枯山水』からもヒントを得ています。『枯山水』では、毎回違う結果になるため写真を取ってSNSに投稿するユーザーが多く、これを見てシャッターチャンスを意識するようになったとのこと。

アニュビスの仮面
『アニュビスの仮面』ではシャッターチャンスが2つあります。1箇所目はVRゴーグルを被っている場面で滑稽な格好をしている様子。匿名性が確保されているためSNSに投稿しやすい点。2点目は地図が完成したときの喜びの場面。協力して作ったものは撮る可能性が高くなります。
アニュビスの仮面

最後に行われた質疑応答での『アニュビスの仮面』で最も苦労したポイントは何かという質問には制作コスト、と濱田氏。さらにVRゴーグルとマップやオブジェクトのパーツを一箱に収めるところでで苦労し、最終的にトレー方式にしたと述べました。


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