「AIグラス」というカテゴリーのデバイスが世界でにわかに注目を集めている。
Metaが2023年に発売したRay-Ban Metaが世界的に人気が爆発したからだ。MetaはRay-Banを擁するエシロールルックスオティカとの結びつきを深め、別ブランドであるオークリーからも2機種を発売、そして、Ray-Ban Metaの第2世代、さらにディスプレイ付きの新機種「Meta Ray-Ban Display」を発表した。
Metaだけではない。このAIグラスはプレイヤーが爆発的に増えており、Xiaomi、HTC、中国TCL傘下のRayNeoも参戦した。GoogleはAndroid XRというプラットフォームとともに、Gentle Mosnter、Warby Parkerなどメガネメーカーとの提携でMetaを追おうとしている。
新興勢としてはLooktech、Even Realities、INMO、Brilliant Labs、Hallidayをはじめ、1月のCES以来、雨後の筍のようにデバイスが登場している。
興味深いのは、各社でAIグラスの機能が絶妙に異なる点だ。カメラ、マイク、スピーカーあたりが標準搭載だが、これらすら機種により採用状況が異なる。Metaが採用したディスプレイも、すでに搭載されているものもあるが、緑色の単色の場合とフルカラーの場合もある、といった具合に多様だ。
| デバイス名 | Ray-Ban Meta(Gen 2) Oakley Meta HSTN/Vangurad |
Meta Ray-Ban Display | Even G1 | Halo |
| メーカー | Meta / EssilorLuxottica | Meta / EssilorLuxottica | Even Realities | Brilliant Labs |
| 価格 | 379ドル~ | 799ドル | 599ドル | 299ドル |
| 重さ | 53g | 63g | 40g | 40g |
| 搭載AI | Meta AI | Meta AI | デフォルトではなし | Noa |
| 表示 | なし | 片目 フルカラー ウェーブガイド方式 |
両目 緑単色 ウェーブガイド方式 |
片目 フルカラー Micro OLED |
| カメラ | あり | あり | なし | なし |
| 音声 | スピーカー/マイク | スピーカー/マイク | マイク | スピーカー/マイク |
売れている、AIグラス
とにかく、売れている。これまでスマートフォンやスマートウォッチでやっていたことが限定的であれ代替できる。そして、見た目を犠牲にせず「ちゃんもメガネである(オシャレに日常使いできる)」ことが、ここまで広がっている要因だろう。
Metaとエシロールルックスオティカはいずれも四半期決算発表で、AIグラスの売れ行きが好調であることを明言。すでに全世界で300万台以上を出荷し、その勢いが加速していると宣言している。だからこそラインナップを拡充している。
米国では、Ray-Banの直営店の店頭で1番最前列にあるのはAIグラスで、その状態が1年以上続いている。これはもはや単なる「新しいものを押してる」からではない。「売れるから押してる」のだ。
筆者も米国に行ってUberに乗った際、ドライバーと雑談していたら「Ray-Banのあれだよな?」と聞かれ、一般にも認知が進んでいることを実感できた。
AIグラスの真相
ところで、このデバイス群が「AI」グラスと呼ばれている割に、肝心のAI昨日に関してはまだ発展途上の機能だ。
MetaはMeta Ray-Ban Displayを発表した壇上で、音声でAIとやりとりをしようとして2度デモに失敗した。CTOによれば、音声誤認識に基づくサーバー負荷の問題がAIに正常な処理をさせなかったようだ。
それだけこのAIグラスというデバイスは実験的で、これからの発展性が見込めるデバイスとも言える。
そもそもAI機能だけでなく、カメラ、スピーカー、マイクを組み合わせて、これまで手元でやっていたことがメガネでできてしまう時点でかなり便利なことは間違いない。
これが何を意味するかといえば、スマートフォンやスマートウォッチ、イヤホンなど既存のデバイスの置き換えが進むということだ。そして、そこにAIが入り込んでくることによって、さらに便利になる未来がすぐそこにあると感じられる。
全員がつけるようになるか?
その便利なメガネ型デバイスがどこまで広がるのかは分からない。個人差もあるからだ。
こうした「便利ではあるが、人による」という感覚も含めて、新しいデバイスに触れたときの感覚は使ってみなければ分からないだろう。
スマートウォッチが登場したときのことを思い出して欲しい。これまでの一般的な腕時計の機能が拡充され、スマホを取り出さずに通話を開始できるし、さまざまな情報を通知で教えてくれるようになった。その結果、スマホを取り出す時間は減り、広がった。その後、常時腕に巻くという特性を活かしたヘルスケア関連の機能が拡充され、その役割が確立した。
しかし、スマートウォッチであっても個人差は存在する。普段から腕時計を使っていなかった筆者は、色々なスマートウォッチを試してみたものの、結局腕に装着することの違和感が拭いきれず使っていない。
また、Appleのイヤホン「Air Pods」シリーズも、それ単体で任天堂の総売上を超えるほど売れている大ヒット商品になったとはいえ、誰もが使っているわけではない。ワイヤレスイヤホンというカテゴリーに広げて考えてみてもそうだ。誰もが使っているわけではない。個人差は必ずある。
AIグラスに話を戻そう。ディスプレイが自然に使えるとなったら、いよいよスマートフォンやスマートウォッチで重要な要素だった「情報の表示」も代替できるようになる。スマートウォッチの表示領域は十分に代替してしまいそうだ。メガネの方が日常的に使っていることもあり、最初のハードルがない分しっくりきやすいとも言える。もう手元をチラチラ見ながら現実と画面の中を行ったり来たりする時間が激減する未来が近づいているのだ。
このような未来像は論理的にも想像でも、導かれるかもしれないし、頭では理解できると思うが、筆者はRay-Ban Metaを米国滞在中に入手し、日常的に使ってみたことでこの感覚が体感でも理解できる。
そして、Ray-Ban Metaを使う30年前から筆者はメガネをかけて人生を過ごしてきた。コンタクトレンズはドライアイで相性が悪く、レーシックなどの手術は怖くてできなかった。そんな眼鏡ユーザーだからこそ、メガネが便利になったら最高だと思えるのだ。
なぜ、日本で売られないのか?
AIグラスだが、非常に残念なことがある。
それは、記事執筆時点では日本国内で発売されているAIグラスがほとんど無い、ということだ。
Ray-Ban Metaはもちろんのこと、Metaとエシロールルックスオティカが進めるAIグラス群は、いまだに日本では販売されていない。さらには無線機能を備えるデバイスを国内で使うために必要な技適も取得しておらず、日本展開をする気がないようにすら思える。
また、その他のデバイスも中国国内のみ販売だったり、英語サイトで海外から購入するのみ、など日本国内で簡単に手に入るAIグラスが存在しない。
なぜ日本市場に参入しないのか? 市場ポテンシャルが何らか低いと見られているのか、その真意を各社は明言しない。アジア人の鼻が低い顔の形状へのフィッティング、店頭が前提になるので販売体制の構築など、ただ売るだけではない多くの準備が必要なことは推測できる。
また、新しいデバイスには特別な販売方法が付き物だが、そのやり方自体も整備されていない印象だ。Ray-Ban Metaこそ北米ではECでも店頭でも比較的簡単に購入できるが、ディスプレイ付きのMeta Ray-Ban DisplayはECでは購入できず、店頭で予約してデモを受けて、ようやく購入できる。
この販売方法はAppleの空間コンピューター「Apple Vision Pro」の店頭での販売方法と酷似しているが、Apple Vision Proは今やオンライン購入できるから、それよりも厳しい。
しかし、メーカーにはぜひこうしたハードルを乗り越えて、日本での販売をお願いしたい。日常的にAIグラスを使っている筆者からすれば、この新しく、未来につながるデバイス群が、日本で広がる余地がないことは残念でしょうがない。
確かに日本で広がるには他国と異なる事情もあり時間がかかるかもしれない。しかし、それでも体感ベースで未来を実感できるデバイスが日本で入手困難な状況なのは大きな機会損失だ。
AIグラスは、これまであったデバイスとは異なる体験ができるだけでなく、AIと組み合わせるインターフェースとしては最前線に位置している。さらにARグラスというさらに理想のデバイスにも繋がる大きなピースだ。
そして、黎明期の現時点で気をつけたいのは、さまざまなデバイスが登場している一方、ちゃんとデバイスとして、「メガネ」として成り立っているものは少ないということだ。ジャンルが確立の途上であるがゆえに、同じ「AIグラス」でも体験価値も、評価も異なるだろう。
似たジャンルのグラス型デバイスとして、 XREAL ONEをはじめとする空間ディスプレイがある。日本でも家電量販店で購入できる。グラス型ディスプレイといった感じで、あくまでも「画面」それも「大画面」に特化したものだ。毎日つけたまま日中を過ごすようなデバイスではない。これはこれで便利なので体験した方が良いのは確かなのだが。AIグラスとは体験価値が根本的に異なる。
未来を覗くことのできるAIグラスの一刻も早い日本国内での発売を願うばかりだ。



