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業界動向 2022.10.21

Adobe・3D事業責任者に聞く、VR対応モデリングツール「Substance 3D Modeler」登場の背景

10月18日(アメリカ太平洋時間)・19日、Adobeの年次イベント「Adobe MAX 2022」が開催された。毎年多数のアプリケーションとその進化が発表されるのだが、今年は特に「3D」「イマーシブ系」のアプリケーションが目立つ年でもあった。2019年以来開発を続けてきたAdobeの3Dツール群「Substance 3D」に「3D Modeler」が登場し、基本的なツールが一通り揃ったことが大きかったのだろう。

(「Adobe MAX 2022」は米ロサンゼルスで開催)

今回、Adobeの3D&メタバース担当ヴァイスプレジデントであるセバスチャン・ドゥギ氏に話を聞く機会が得られた。VRやメタバースとも大きく関係する、Adobeの3D製品群の現在と今後について聞いた。

(Adobe 3D&メタバース担当ヴァイスプレジデント、セバスチャン・ドゥギ氏)

Substance 3Dは2019年にAdobeがAllegorithmic社を買収し、Allegorithmicのメインプロダクトであった「Substance Painter」を軸に広げてきた3Dツール群である。ドゥギ氏はそのAllegorithmicの創業者にして元CEO。Adobeに買収された後は、関連事業を統括する責任者を務めている。

2019年からの“準備”がようやくひと段落

さて今年は、テクスチャなどの製作ツールだった「Substance 3D Sampler」にフォトグラメトリやUVマップなどを使ったモデル作成機能が追加され、さらに、一から3Dモデルを構築する「Substance 3D Modeler」を発表した。

Substance 3D Modelerは、ポリゴンを貼るのではなく、粘土細工の感覚で3Dモデルを作るツール。基本的にはPCで動作するのだが、Meta Quest 2や発表されたばかりのMeta Quest ProをPCにケーブル接続することで、VR空間内でモデリングができるという特徴を持っている。会場でも、Quest 2やQuest Proの実機(!)を使って、実際にモデリング体験をすることができた。

(Substance 3D Modeler。基調講演ではドラゴンをモデリングする様子が紹介された)

(Meta Quest Pro×Substance 3D Modelerでモデリングを体験する筆者)

ドゥギ氏は「Modelerは新しく開発した”バージョン1.0″。非常に特別なタイミングを迎えられた」と話す。

実はSubstance 3D Modelerも、元になったツールが存在する。Oculus(現Meta)が開発していたVR空間でのモデリングツール「Medium」だ。2019年12月、Allegorithmic買収の後を追うようにAdobeに技術と開発チームが買収され、そこから新たに開発が始まったという。

「確かに、Substance 3D ModelerはMediumが元になっています。Mediumの技術として我々が活用したのは、コアエンジン部分と、Signed Distance Fields(SDF)エンジン、ボリューメトリックレンダリングエンジンといったところです。それらはそのままに、インターフェースは全て作り直し、デスクトップ(PCでのモデリング作業)向け互換性も持たせました」とドゥギ氏。

使ってみるとわかるが、VRでのモデリングはかなり快適で面白い。

「VRでモデリングする場合、モノや人によって効率はかなり変わります。2倍から10倍速くなる……という感じで、かなり幅はあります。我々のデモや開発も行なっている人物は、元々ILMにいて、マーベル・シネマティック・ユニバース作品の『ハルク』のモデリングを担当していた経験があります。実は、彼をModelerの“最初のユーザー”にしたくて弊社に来てもらったのですが。彼は『もう圧倒的に効率がいいので、ほぼVRでしか使ってない』と言っていますね」(ドゥギ氏)

そのくらいUIに自信がある、ということなのだが、それがどう作られたのか? と質問すると、ここでも面白い答えが返ってきた。

「“ドリームチーム”を組んで開発をしました。Googleから来た人もいれば、Media Molecule出身の人々にもチームに入ってもらって開発を進めたのです。そう、『Dreams』を作った人たちですね」(ドゥギ氏)

ご存知の方はご存知かもしれないのだが、「Dreams(日本語名では『Dreams Universe』)」とは、フランスのソフトメーカー・Media MoleculeがPlayStation 4向けに作った「クリエイティブゲーム」だ。粘土のような感覚で3Dモデルを作れるモデラーやマップエディターを持ち、ゲームから映像まで、あらゆるものを作れる。ちょっと説明が難しいので、以下のトレイラーを見ていただくのが最もわかりやすいかもしれない。そして「Dreams」はPlayStation VRにも対応しており、VRの中でモデリングができたのだ。

このようなクリエイティブツールを作っていた経験のある人々が合流し、Mediumを作り直して構築したのが「Substance 3D Modeler」ということになる。

なお、現状、VRモードはMeta Questシリーズにのみ対応している。だがドゥギ氏は「他のデバイスへも広げる」と話す。「今後は、すべてのVR機器で使えるようにしていきたいです。そこではOpenXRを利用します。ただし現状はQuestのみ。順に広げていくつもりです」

(Quest ProだけでなくQuest 2でもモデリングできるが、他のHMDへの対応はこれから)

Substance 3D Samplerはフォトグラメトリに対応、スマホ単体キャプチャも視野に

ドゥギ氏が「もう1つ重要なアップデート」と強調するのが「Substance 3D Sampler」の新機能だ。前述のように、今回はテクスチャのキャプチャだけでなく「立体物のキャプチャ」にも対応した。

(Substance 3D Samplerが「立体物のキャプチャ」にも対応。フォトグラメトリで3Dモデル生成が可能になった)

「PCとMacに対応したアプリケーションですが、数十枚の写真から、フォトグラメトリで3Dモデルを生成できるようになりました。同時にUVマップやカラーマップも作りますから、1度でモデル作成に必要な作業が終わります」(ドゥギ氏)

製作に使う写真はハイクオリティであるほど良いが、一眼などで撮影したものだけでなく、スマートフォンの写真にも対応している。

ただし現状、あくまでスマホで撮影した写真データをPC/Macで読み込んで生成する形。スマホアプリ上でのモデル生成には対応していない。しかし「スマホへの対応もする」とドゥギ氏は明言した。

「PC/Macでの処理を選んだのは、まず今回は最高の品質・最高のフォトグラメトリを実現することが目的だったからです。もちろん、高解像度なデータであるほど望ましいです。しかしこの先では、スマホアプリだけで完結するようにしていきます」(ドゥギ氏)。

スマホアプリの利用も想定しているのは、3Dデータの利用について、需要が今後爆発すると見ているからだ。

「3Dはまずゲームから始まりましたが、今では映像の視覚効果にも使われ、プロダクトデザインにも広がっています。誰もが3Dを使いたがるのには2つの理由があります。1つは、モノを開発段階で作る必要が減る、ということです。そうすればより早く、より安くモノ作りを進められます。サンプルを作る量が減るので、CO2の削減にもなります。2つ目は、ウェブサイトでなにかを販売する際、3Dで視覚化できればより売れるのが明白だからです。買い手と密接な関係が広がるでしょう」(ドゥギ氏)

(「Substance 3D Stager」。このように、製品の外観を3D化して活用する例の増加が想定されている)

「3Dデータといえばメタバース」というイメージがあるかもしれないが、ドゥギ氏は「現状から先の話」としてメタバースを捉えている。一方で、ものづくりやマーケティングにおける3Dデータの必要性は、結果的にはデジタルツインやメタバースでの物販につながる話でもある。

ARもさらに身近なものに

さて、AdobeはARプラットフォームとして「Aero」を持っている。今年はAeroにも新しい機能が追加された。それは「App Clips」への対応だ。

App Clipsとは、アップルのiOS/iPadOS向けの仕組み。丸いバーコードのようなものをiPhoneで読み取ると、アプリの一部機能だけを切り出した「縮小版」を、AppStoreを開くことなくダウンロードできる。小さなアプリになるので読み込みもすぐ終わる。ARアプリであるAeroがApp Clipsに対応すると、サイズの大きなARアプリそのものをダウンロードすることなく、簡単・高速に、目の前に複雑なARを表示可能になるわけだ。

(アップルのサポートページより引用。今は活用の幅が狭い技術だが、今後App Clips対応ARアプリが作れるようになれば、話は変わってくるかもしれない)

この対応は現在準備中で「年内には提供する」とドゥギ氏は言う。App Clips + Aeroのようなプラットフォームで使う3Dデータも、結局はどこかで作らねばならない。そうすると当然、Substance 3Dの用途がそこで広がることにもなる。今後、Adobeの名前を3DやXR、メタバース関連で耳にすることはますます増えそうだ。

(執筆:西田宗千佳)


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