『アイドルマスター』シリーズ初の作品越境型xRライブ「IDOL WORLD SUPER FESTIVAL 2026(以下、IWSF2026)」が、2026年7月24日〜26日の3日間にわたって京王アリーナTOKYOで開催された。
IWSF2026は単なる作品横断の「合同ライブ」ではない。同シリーズが「“MR”-MORE RE@LITY-プロジェクト」を掲げて推進してきたアイドルの活動拡大と世界観の表現を、「シリーズ初の越境xRライブ」という形で具現化した、20周年イヤーのフィナーレを飾る一大イベントだ。
特筆すべきは、3日間の公演それぞれで「ALLダンス」「ALL生バンド」「ALLコール&レスポンス」という異なるテーマを掲げていたことだ。ダンスが得意なアイドル、歌唱力を強みとするアイドルなどが各公演のテーマごとにラインナップされ、十人十色の個性を持つアイドルたちの魅力が前面に押し出されたライブとなった。
しかし、それだけではない。これらのテーマ設定は、「キャラクターであるアイドルを、いかにして現実に存在させるか」という命題に対して、三者三様のアプローチで挑戦するものだった、とも捉えられるのではないだろうか。
我々がよく知る『アイマス』のアイドルたちだけではなく、1日目にはダンサーが、2日目にはバンドが並び立ち、3日目には観客の熱狂的な声が空間を埋め尽くしたステージで、観客はどのような“MORE RE@LITY”を感じることができたのか。3日間の公演を現地で体感した筆者の目線と、会場で見聞きした観客の反応から紐解いていく。
『アイマス』20周年イヤーのフィナーレ公演にして、「MRプロジェクト」の集大成
2025年7月に迎えた20周年を記念して、さまざまな企画を展開してきた『アイドルマスター』シリーズ。その20周年イヤーのフィナーレ公演として位置づけられたIWSF2026は、同シリーズの作品に登場するアイドルたちが一堂に会する、越境型合同ライブイベントだ。
天海春香ら765プロダクションに所属する面々はもちろんのこと、最新シリーズ『学園アイドルマスター』の初星学園に籍を置くメンバーまで、これまでは交わる機会のなかったアイドルたちが、事務所の枠を越えてステージに並び立つ。まさに「夢の共演」が実現する3日間、というわけだ。
正式な公演名は、「THE IDOLM@STER 20th Anniversary MORE RE@LITY LIVE IDOL WORLD SUPER FESTIVAL 2026」。
「MORE RE@LITY LIVE」と銘打っているように、そこには『アイドルマスター』シリーズが近年推進してきた「“MR”-MORE RE@LITY-プロジェクト」が前提にある。
このプロジェクトの目的は、従来の「ゲーム」の領域に限定せず、シリーズに登場するアイドルたちの活動の可能性を広げること。2022年当時の発表では、以下の3つの軸で展開するプロジェクトであると説明されていた。
- アイドル個人の魅力を活かしたマルチなタレント活動の強化
- xRやリアルタイムモーションキャプチャ技術を活用した展開の強化
- 音楽ストリーミングサービスでのシリーズ楽曲展開
事実、同シリーズのキャラクターが企業や自治体とコラボレーションする機会は年々増えており、イベントに関しても、3DCGのアイドルたちが現実のステージに立つスタイルのxRライブがたびたび開催され、公演のたびに技術と演出のアップデートが重ねられてきた。
今回のIWSF2026もその流れを汲んでおり、シリーズ初の「越境xRライブ」であると同時に、2022年から取り組んできたMRプロジェクトのひとつの到達点とも言えるイベントになっている。シリーズ20周年を祝う祭典であることは大前提としつつ、これまでの技術と演出の蓄積が結実した集大成、という見方もできるだろう。
特筆すべきポイントとして、DAY1を「ダンス」、DAY2を「生演奏」、DAY3を「コール&レスポンス」と、3日間それぞれで異なるテーマを掲げていた点も挙げられる。
十人十色の魅力を持つキャラクターたちの個性を「ライブ」という場で最大限に発揮させるための、『アイドルマスター』ならではのコンセプト設計だと考えられる。この三者三様のアプローチこそが、仮想と現実の境界線を溶かす“MORE RE@LITY”の3つの切り口として機能していたのではないだろうか。
では、どのような演出がアイドルの実在感を生み出していたのか。その強烈な実在感を根底から支えていたステージの構成から見ていこう。


(飛田給駅には応援広告が、京王アリーナTOKYO周辺にはオリジナル応援幕が掲出されており、ライブを盛り上げようとするプロデューサー(ファン)のみなさんの熱量の高さを感じられた)
アイドルをステージ上に“召喚”するメインディスプレイと、実在感を補完するサイドディスプレイ
各公演の話をする前に、ライブのステージ構成について整理しておきたい。京王アリーナTOKYOのメインアリーナのステージ上には、3日間を通して5枚のディスプレイが設置されていた。
ステージ中央背後に設置されていたのが、最も大きなメインディスプレイ(A)だ。
この一番高い場所にあるディスプレイは、アイドルたちを現実の物理空間へ召喚するための、言わば「ステージそのもの」だ。ライブ全編を通して画角が変わることはなく、常に「アイドルたちが今立っている場所」という不動のアンカーとしての役割を果たしていた。
メインディスプレイの左右、一段下がった場所には2枚のサイドディスプレイ(B・C)が設置されており、その外側、さらに一段下がったステージ背後にも、2枚のサイドディスプレイ(D・E)が配置されていた。これら4枚のディスプレイは複数の役割を持たされており、パフォーマンスによって異なる映像が映し出されていた。
VJ演出としてビジュアルエフェクトを流すこともあれば、DAY3では「コール」を表示する場所としても使われていた。一般的な音楽ライブ同様に、会場内を動き回るカメラが観客越しにステージを映したり、観客のサイリウムにフォーカスしたりする場面もあった。
逆に一般的なライブでは見られない役割として、「バーチャルカメラ」の映像を流していた点もこれらサイドディスプレイの特徴だ。
『アイマス』のxRライブに限らず、キャラクターライブにおいては、会場内を動き回る実写カメラとは別に「バーチャル空間のステージに立つキャラクターを別アングルから映す」ためのカメラが存在していることが多い。特にオンライン配信があるライブでは、視聴者はこのバーチャルカメラからの映像をメインとして見ることになる。

(サイドディスプレイB・Cは映像演出以外にも、メインディスプレイ同様に「アイドルが立つステージ」として使われる場面も多かった)

(中央寄りのディスプレイA・B・Cのそれぞれでステージ上に立つアイドルを1人ずつ映し、外側のディスプレイD・Eでは、バーチャル空間で歌うアイドルにフォーカスした映像を映している)

(オンライン配信で見た同シーン。配信ではバーチャルカメラからの映像を中心に流しつつ、現地会場を動き回るカメラからの映像を合間合間に流していた)
現地会場にいる観客にとっても、バーチャルカメラからの映像は大きな意味を持つ。ステージ中央で歌うアイドルの姿を別アングルから立体的に捉えることで、メインディスプレイだけでは平面に見えやすい映像に対し、「奥行きのある空間」が存在していると認識できるからだ。
アリーナ規模のライブともなれば、観客全員が肉眼で表情や細かな動きを捉えることは難しい。観客の多くは「ステージを直接見る」時間よりも、「サイドディスプレイに映ったカメラ映像を見て楽しむ」時間のほうが長くなるはずだ。
その点を踏まえると、生身の人間のライブと「体験」の構造自体は変わらないことに気づかされる。「中央のステージの熱量を感じながら、サイドディスプレイの映像を見る」という、現実のアリーナライブにおける鑑賞体験と何ら違いはない。そこに映し出されるのが生身の人間だろうがキャラクターだろうが、観客がライブを楽しむ体験の構造はまったく同じなのだ。
それだけでも「アイドルたちが目の前のステージに立って、歌って、踊っている!」と感じられる体験となっていた。
【DAY1 -YAKUDOU-】アイドルたちが生身のダンサーと並び立つ!大勢で繰り広げられる圧巻のダンスパフォーマンス
「YAKUDOU」と題したDAY1のテーマは、ALLダンス。広々としたステージ上に最大20人のダンサー(IWSFダンサーズ)が登場し、アイドルたちと見事な共演を果たした。
プロのダンサーたちによる圧巻のパフォーマンスは言わずもがな、アイドルたちのパフォーマンスにも目を見張るものがあった。星井美希、橘志狼、芹沢あさひ、紫雲清夏ら「ダンス」に定評のあるアイドルが出演し、宙返りやアクロバティックな技を決めるなど、期待以上の本格的なダンスを見せつけた。

(「vs.BELIEVERS」菊地真/芹沢あさひ/牙崎漣/橘志狼/緋田美琴/舞浜歩)

(「RAY OF LIGHT」芹沢あさひ/橘志狼/牙崎漣/舞浜歩/菊地真)
正直に言えば、開演前までは「キャラクター×生身のダンサー」のコラボレーションが、これほどまでに見映えの良いものになるとは想像していなかった。
気になっていたのが、ステージ上で踊る生身のダンサーと、ディスプレイ上で歌い踊るキャラクターが同時に存在することで、ステージ上が混雑(大所帯化)してしまう点だ。視覚的な情報量が過多になり、ステージのどこに焦点を合わせればいいのか分からなくなるのではないか、という懸念があった。
ステージ上の演者の立ち位置の問題もある。ディスプレイがステージ背後にある以上、生身のダンサーはアイドルたちよりも手前に立つことになる。いわゆる「バックダンサー」の位置でパフォーマンスができないため、どのような見映えになるのか想像がつかなかった。
しかし蓋を開けてみれば、見にくさや違和感は一切なかった。生身のダンサーの存在によって、アイドルたちが本当に同じステージに立っているように錯覚させられる瞬間すらあったのだ。

(「Dance in the Light」牙崎漣/舞浜歩/菊地真/城ヶ崎美嘉)
客席からステージを見ると、遠近法によって奥行きが適度に圧縮される。手前で踊る生身のダンサーと、その奥にいるディスプレイ上のアイドルが、遠目には完全に「同じステージ上でパフォーマンスしている」ように見えたのだ。一糸乱れぬフォーメーションダンスと、アイドルたちの動きと見事にシンクロしたパフォーマンスによって、その「同じ空間に立っている」という実在感が強固に支えられていた印象も受けた。
ライティングの自然さにも触れておきたい。

(「ミラーボール・ラブ」伊吹翼/星井美希/上水流宇宙/紫雲清夏)

(「Marionetteは眠らない」紫雲清夏/城ヶ崎美嘉/伊吹翼/芹沢あさひ/十王星南)
特にDAY1は、レーザーライトが会場を飛び交い、カラフルなスポットライトが激しく明滅する演出が多かった。にもかかわらず、スクリーン上のアイドルたちが空間から浮いて見える瞬間がほとんどなかったのだ。
現実の照明効果と3D空間内の光源処理が完璧にリンクしており、「ダンサーとアイドルが同じ光を浴びながらパフォーマンスしている」と感じさせる強い説得力が生まれていた。

(ダンスのバリエーションも多彩で、DAY1では想像以上に幅広いパフォーマンスを堪能できた。中でも異彩を放っていたのが、十王星南による「小さな野望」だ。『学園アイドルマスター』作中のライブシーンでも剣を使ったパフォーマンスが印象的だったが、大勢のダンサーが加わることでより一層荘厳な雰囲気を醸し出していた。神谷奈緒・上水流宇宙の2人が同じく剣を手に登場した瞬間には、会場中から割れんばかりの歓声が響き渡っていた)

(ダンスの話からは少々逸れるが、『学園アイドルマスター』のアイドルたちの存在も、実在感を高める要素として機能していたように思う。『学マス』での「担当アイドルのアリーナライブを見ながら写真を撮る」というゲーム体験が、彼女たちが現実のアリーナのステージに立っている光景と重なり、「ゲームで見た光景が目の前に広がっている(現実のアリーナにゲームのアイドルが飛び出してきた)」ように錯覚した瞬間があった)
【DAY2 -ZESSYOU-】全身で感じる生演奏の音圧と、歌姫たちの歌唱力に打ちのめされる
DAY2は、「生演奏」という聴覚からのアプローチで実在感を演出した公演となった。
「ZESSYOU」と題したDAY2のテーマは、ALL生バンド。ラインナップにもロックな面々が揃っていたことから、開演前は激しいロックライブになるものと想像していたのだが、その予想は良い意味で裏切られた。
オープニング映像よりも先に、ステージ上段へストリングス隊が登場。三浦あずさによる「隣に…」のソロ歌唱がシームレスにスタートしたのだ。そのまま如月千早による「細氷」へと繋がる構成は、「今日は歌と演奏で魅せる」というDAY2のテーマ性を強く提示するような幕開けだった。
ここで注目したいのが、バンドメンバーの立ち位置だ。
一般的なライブでは「中央手前にアーティスト、背後や両脇にバンド」という配置が定石だが、今回は「ステージ下段にバンド、上段にストリングス、そして最上段(のディスプレイ)にアイドル」というレイアウトが採用されていた(※ストリングス隊は出番のタイミングのみ登場)。
これにより、目の前で演奏される楽器の重低音と、空気を物理的に震わせる音圧を、全身で感じ取ることができた。

(「我が混沌のサバト・マリアージュ」望月聖/アスラン=ベルゼビュートII世/都築圭/三浦あずさ)
もちろん、生演奏ではなく音源を再生する形式でも、アリーナの音響施設を使えば十分に迫力は出る。実際、DAY1でも座席が振動するような重低音を響かせるダンスナンバーが披露され、視覚的なパフォーマンスと組み合わさることで感じる「迫力」が確かにあった。
しかしそれでもやはり、「生演奏」でしか生み出せないダイナミクスと音の厚みもある。冒頭のアコースティックな演奏には、その生演奏ならではの臨場感を伝え、観客を「音楽を聴く態勢」へと引き込む役割もあったのだろう。

(「ENDLESS DANCE」如月千早/月村手毬/最上静香)

(「Rockin’ Emotion」雨夜燕/木村夏樹/斑鳩ルカ)
DAY2では、冒頭の765プロが誇る歌姫たちに始まり、「歌」に並々ならぬこだわりを持つアイドルたちが次々に登場。ロックにとどまらない多種多彩な楽曲を、時にパワフルに、時に美しく、時に情感たっぷりに歌い上げていく。別事務所のアイドルがハモリやコーラスで参加する場面もあり、合同ライブならではの夢のコラボレーションに客席は大きく沸いた。
「実在感」という点において特に圧巻だったのが、斑鳩ルカを筆頭とする「1/3」のパフォーマンスだ。
視覚的な装飾を削ぎ落としたシンプルなステージの上で、スポットライトに照らされて歌う、1人のアイドル。やがて月村手毬とレトラの2人が加わり、どこか境遇が似ており、「歌」への深い思い入れを持った3人のシンガーの歌声が、会場全体を包み込んでいく。
洗練されたライティングの効果もさることながら、観客の意識を釘付けにする圧倒的な歌声と、それを重厚に支える生演奏の存在感。この2つが掛け合わさることで生み出されたリアリティは、「生演奏」というアプローチだからこそ到達できた表現だと言えるだろう。
【DAY3 -KYOUMEI-】「声」で一緒につくるライブ体験と、20年の積み重ねを感じる「アイ・クライマックスメドレー」
「KYOUMEI」と題したDAY3のテーマは、ALLコール&レスポンス。
事前の告知こそなかったものの、「最終日もステージを使った演出があるのではないか」「如月千早武道館単独公演で活躍したようなロボットが登場するのではないか」と予想していた。
しかし結論から言えば、この最終公演において、現実のステージ上に何かが立つことはなかった。ダンサーやバンドの姿はなく、そこにいるのはディスプレイに投影されたアイドルたちだけ。だが、そのディスプレイと客席の間の空間を埋め尽くすように、これまでの2日間以上に激しく飛び交っていたものがある。
それこそが、アリーナを埋め尽くす観客から発せられる「コール(声)」だ。
DAY3では、演者側のパフォーマンスだけでなく、観客自身の「声」がライブ空間を成立させる最大の演出装置として機能していた。実際、オープニング映像の出演者紹介のラストには、DAY1・DAY2にはなかった「And You!!!!!!!!!」という文字が表示されており、会場にいる全員でつくり上げるライブであることが冒頭から強調されていたのだ。
ライブ中は、ほとんどのパフォーマンスで画面にコールガイドが表示されていたため、たとえ不慣れな楽曲であっても安心して声を出すことができた。中央横の2枚のサイドディスプレイ(B・C)はもちろんのこと、3D空間の内部(アイドルが立つ空間のステージ後方)にもディスプレイが出現し、曲の展開に合わせてコールが示される場面も見られた。
アイドルの呼びかけに観客が全力で応え、その熱量を受けたアイドルたちがさらにパフォーマンスの熱を上げる。ステージから放たれる歌声だけでなく、アリーナ全体が一体となってコールを送ることで、はじめて1つの「パフォーマンス」として完成する。その結果、会場の一体感が尋常ではなかった。

(「MOON NIGHTのせいにして」島村卯月/天道輝/花海咲季)

(「アイドルは、かく語りき」櫻木真乃/安部菜々/松田亜利沙/灯里愛夏/藤田ことね)

(「自己肯定感爆上げ↑↑しゅきしゅきソング」春日未来/日高愛/藤田ことね/松田亜利沙)
セットリストも、観客と一緒にライブを作ることに特化した構成となっていた。中でも、MC直後に「アイドルは、かく語りき」からスタートしたブロックの盛り上がりは、ここ数年で現地参戦したどのライブをも凌ぐほど凄まじいものだった。
そうした狂騒を経て、ライブ終盤は『アイドルマスター』シリーズ全体の物語へと収束していく。「アイ・クライマックスメドレー」と題して各ブランドの楽曲を立て続けに披露し、天海春香のソロステージと、各事務所のセンターアイドルたちによる歌唱を経て、最終日のフィナーレを飾る「アイ NEED YOU(FOR WONDERFUL STORY)」を全員で合唱した。
アプローチこそ違えど、いずれも強烈な“MORE RE@LITY”を体感できる3日間だった。

(「shy→shining」灯里愛夏/櫻木真乃/春日未来/天海春香/島村卯月/天道輝/花海咲季/日高愛)
生のMCがもたらした、生きたコミュニケーション
最後にもう一点、アイドルたちの実在感を決定づけていた重要な要素として、「MC」について言及しておきたい。
念のため断っておくが、アイドルたちのパフォーマンスが事前収録されたものなのか、リアルタイムで行われたものなのかについて、当然公式からの明言はない。本稿での言及は、あくまで筆者個人の印象と、会場の反応を見た上で、「そのように感じた」という推測に基づくものであることをご了承いただきたい。
その前提を踏まえた上で、まず3日間を通してリアルタイムで喋っていたと思われるのが、各公演の「前説」だ。
DAY1は星井美希、DAY2は如月千早、DAY3は天海春香が、それぞれシルエット姿でディスプレイ上に登場。いわゆる「影ナレ」の形で注意事項を説明する一幕で、明らかに「会場の様子が見えている」「観客の声に即座に反応している」としか思えない瞬間が何度もあったのだ。
特にわかりやすかったのが、DAY1の美希と観客とのやり取りだ。
美希「本公演は、途中……」
観客『お~?』
美希「休憩を~?」
観客『おお~!?』
美希「設けて〜〜〜?」
観客『おおお~!?』
美希「おりまーーーーーっ……せーーーん!!!」
観客『ウオオオオオオオオオオオオ!!!!』
美希「――みんな、そういうのが好きなんだね~?」
はたから見れば何が珍しいのかと不思議に思う人もいるかもしれないが、要するにこれは「キャラクターとの“生”のコミュニケーション」に他ならない。
用意された台本を一方的に読むだけでなく、観客の反応を見て、“キャラクター本人”としてリアルな言葉を返す。ごく短時間のやり取りであっても、「自分たちの声に対して、キャラクター本人がリアルタイムで応えてくれた」という体験から得られる実在感は、計り知れないほど大きい。
そして、この「生」っぽさをひときわ強烈に感じたのが、DAY3のMCだ。
今回はシリーズ初の合同ライブということで、事務所の枠を超えてアイドルたちが言葉を交わす光景を心待ちにしていたプロデューサー(ファン)も多かったはずだ。事実、DAY1やDAY2でも期待通りの光景が繰り広げられ、会場からは歓声や笑い声が絶えなかった。
そんななか、DAY3の最初のMCの最中に、ふいに観客たちがどよめいた瞬間があった。
それが、「みなさんに聞きたいんですけど……外、雨に降られちゃいましたかー?」と春日未来が問いかけた一幕だ。その問いに対し、アリーナ席の観客が両手に持ったサイリウムで「✕」を作って応えると、それを見て「……バツ? バツが多いですかー?」と即座に返したのだ。
もちろん、あらかじめ天候別に複数のパターンを収録しておいた可能性もゼロではない。しかしDAY3のMCでは、その後も言葉を若干噛んだり、複数人が同時に喋って声が重なったりする場面が散見された。さらに、観客の反応を待ってから返答するテンポ感も、DAY1・DAY2とは明らかに異なっていたのだ。
MC自体の尺も他の2日間より長めに設けられており、こうした「生」感あふれるトークによってアイドルの実在感が色濃く演出されていたことは、DAY3の大きな特徴と言えるだろう。
現実と仮想の境界線を溶かす「ヴイアラ」の役割
このリアルタイムMCから感じられる実在感を極限まで高めた存在として、1人のアイドルが果たしていた役割について言及しておきたい。
vα-liv(ヴイアライヴ)(以下、ヴイアラ)の灯里愛夏だ。
2023年に始動したヴイアラは、YouTubeでの「ライバー活動」を主体とするアイドルプロジェクトだ。ゲームなどの「作品」をベースに物語が描かれる他のアイドルたちとは異なり、ヴイアラの3人は我々と同じ現実世界を生きている。日々の配信でコメントを通じてリスナーと交流し、ゲーム実況やVTuberとのコラボも行う。普段からファンとリアルタイムで言葉を交わしている彼女たちは、我々にとって極めて身近な存在と言える。
言い換えれば、「各々の“物語”を下地にした作品のキャラクター」としての振る舞いが求められる他のアイドルたちの中で、ヴイアラの3人だけは圧倒的に自然体でいられるのだ。
DAY3のMCにおける愛夏のトークは、リアルタイムゆえにひときわ輝いていた。感極まって泣きそうになる姿は紛れもなく等身大の女の子そのものであり、先輩アイドルたちとのやり取りも(すべてがアドリブではないにせよ)自分の言葉で喋っているように見えた。
極めつけは、至近距離で藤田ことねと向かい合った瞬間にマイクに乗った、「アッ、カワイイ…」の一言だ。とても演技とは思えない、思わずぽろっと漏れ出たような素の反応は、彼女たちが本当に目の前のステージ上でやり取りをしているという確信を与えてくれた。観客からしても、「そりゃあ間近でことねを見たらそうなる」という強い共感と説得力があった。
決められたセリフや演技ではなく、自然体で喋っている存在が1人でも混ざると、その空間には確かなリアリティが生まれる。そして、彼女と同じ地平に立っている他のアイドルたちも、同様に「今、そこにいる」と強く感じられるようになるのである。
ここでは特に実在感が強かったDAY3の愛夏を取り上げたが、宇宙とレトラもそれぞれの公演で同じ役割を果たしていた。普段からヴイアラの配信を追っているファンであればあるほど、「いつも画面越しに言葉を交わしている身近な推しが、偉大な先輩アイドルたちと同じ現実のステージに立っている」という事実に、より一層強い実在感を覚えたはずだ。
ライブ全体から見れば、彼女たちはいち出演者に過ぎないかもしれない。しかし、ヴイアラの3人の存在が、観客に“MORE RE@LITY”を体感させる上で極めて重要な一翼を担っていたことは間違いない。
YouTube配信を、現実世界を主戦場としながらも、『アイマス』の世界と世界観を共有し、先輩アイドルたちと同じ地平に並び立つことができる3人。そんなヴイアラの今後の飛躍がますます楽しみになる3日間でもあった。

(コールリーダーとして愛夏のソロ曲パフォーマンスを支え、MCでは会場を大いに沸かせた、松田亜利沙の果たした役割も無視できない。怪我によって一時は出演が危ぶまれていた愛夏についてMCで言及した、「怪我を乗り越えステージに立った愛夏ちゃんを、亜利沙も、“灯され隊”の一員として、全力で盛り上げさせていただきましたぁ!」という発言は、ある意味で『アイマス』世界のほうから現実世界へと歩み寄った発言だったとも捉えられる)
ちなみにヴイアラの3人は、最終公演の翌日にYouTubeで振り返り配信を実施している。愛夏からは、「(亜利沙について)人として好き」「ウサミンさんがいてくれたから(MCが)回ってたんですよ!」「ことねさんに会うたびに『かわいいですね!妖精ですか?』って言ってた」といった裏話や熱い感想が語られている。
「アーティストが自身の配信でライブの振り返りをする」という光景自体は決して珍しくないが、ヴイアラはここでも前述の役割を果たしている。ライブでもそうだったように、『アイマス』のアイドルたちを「同じステージに立った先輩アイドル」として言及しているのだ。
https://www.youtube.com/watch?v=6plIDp6hk7U
作品のキャラクターではなく、「尊敬すべき共演者」として『アイマス』のアイドルたちの話をしている姿を見ることで、ここでもまた彼女たちの実在感が高められる。今回のライブを楽しんだ人は、3人での感想配信のほか、各々の個人チャンネルで行われている振り返り雑談もあわせてチェックしてみてほしい。
「MORE RE@LITY」の集大成とこれから
IWSF2026は、DAY1では「ダンス」による視覚的なステージパフォーマンスの興奮を、DAY2では「生バンド」による歌と演奏を全身で浴びる体験を、そしてDAY3では「コール&レスポンス」を通じて会場全体でライブを創り上げる楽しさを味わうことができた3日間だった。
本稿では、キャラクターとの生きた掛け合いが実現した前説や、DAY3における「リアルタイムMC」が実在感を高めていた点について言及してきたが、こうした試みは今回が初めてというわけではない。
過去に開催されたライブイベントを遡れば、2018年開催の「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」の時点で、すでに「リアルタイムMC」や「アイドルと同じステージ上で踊るダンサー」という演出は実現していた。
それらの経験の蓄積と技術的なアップデートを下地として、2022年に満を持して発表されたのが、冒頭でも触れた「“MR”-MORE RE@LITY-プロジェクト」だ。今回のIWSF2026は、まさにそのプロジェクトの集大成と言えるライブだった。
以前、MoguLiveにて実施したヴイアラのプロデューサーへのインタビューにおいて、同氏はMRプロジェクトについて次のように語っている。
「MRプロジェクト」は“MORE REALITY”を志向するプロジェクトとして進めているのですが、その根本には「Mixed Reality」、虚構と現実が溶け合う新たな世界観表現、いわゆる複合現実の拡張が1つのテーマとしてあるとも捉えています。なにがバーチャルで、なにがリアルで、といった二元的な解釈を越えた感動体験を味わえる、そんな世界観に可能性を感じていますし、今回の配信で、改めて目指すべきものは間違っていないという手ごたえも感じました。
これまでは「アイドルマスター」という世界観と我々の暮らす「リアル」という世界観がそれぞれあって、その二つの世界観の境界線にある余白を、「アイドルマスター」側の世界観から埋めていくといったアプローチだったのですが、今回のヴイアライヴではそれを逆転させています。つまり、リアルから「アイドルマスター」の世界観に向けて余白を埋めていくアプローチをしている構図ですね。
(アイドルマスターの挑戦的なプロジェクト「vα-liv(ヴイアライヴ)」は何を目指すのか? 「PROJECT IM@S vα-liv」プロデューサーインタビュー)
現実世界と『アイドルマスター』の世界の境界線を溶かし、リアル側からのアプローチによってその余白を埋める存在。
これまでにも先輩アイドルとコラボする機会はあったヴイアラだが、今回のIWSF2026は、現実のアリーナという大舞台で彼女たちが果たした「境界線を溶かす」という役割の大きさを、改めて強く実感させられるライブだった。

(ヴイアラは今年2月にVRChatで開催された「Sanrio Virtual Festival 2026」にも出演しており、「VR」という境界線のない空間で3人のパフォーマンスを楽しめた。MRプロジェクトが目指す方向性とは少々異なるかもしれないが、VRを活用した今後の展開にも期待したい)
その上で、IWSF2026が3日間を通じて我々に示したのは、xR技術を使って単に「キャラクターをリアルに見せる」という段階の、さらに先にあるビジョンだった。
生身のダンサーが放つ肉体性、生バンドが叩き出す圧倒的な音の圧力、そして観客自身の声と熱狂。それら現実世界の「生」の要素を、仮想のアイドルたちと等価な存在として、同じ地平に配置する。すると、仮想だったはずの存在は、現実の身体・音・声と完全に地続きになることで、ごく自然に「今、ここにいる」と感じられるようになるのだ。
シリーズ20年間の“これまで”の文脈をしっかりと汲み取りつつ、現実と仮想が交わる“これから”の展開がさらに楽しみになった3日間。『アイドルマスター』が追求し続ける“MORE RE@LITY”のひとつの到達点となったIWSF2026だが、これが終わりではない。
最終公演のエンドロールが流れた直後、「NEXT xR LIVE PROJECT」として、新たな合同ライブイベント「765 PRODUCTION × 961 PRODUCTION IDOL ULTIMATE ONCE AND FOR ALL」が発表された。ちょうど1年後、京王アリーナTOKYOで激突する両プロダクション、そして『アイドルマスター』の今後から、まだまだ目が離せそうにない。
https://www.youtube.com/watch?v=MF1Dq_sgeAo
「THE IDOLM@STER 20th Anniversary MORE RE@LITY LIVE IDOL WORLD SUPER FESTIVAL 2026」イベント概要
- 公式サイト:IDOL WORLD SUPER FESTIVAL 2026
- 会場:京王アリーナTOKYO
- 開催日:2026年7月24日(金)・25日(土)・26日(日)
- 出演アイドル
- DAY1:星井美希、菊地真、神谷奈緒、城ヶ崎美嘉、伊吹翼、舞浜歩、牙崎漣、橘志狼、芹沢あさひ、緋田美琴、紫雲清夏、十王星南、上水流宇宙、玲音
- DAY2:如月千早、三浦あずさ、木村夏樹、望月聖、最上静香、ジュリア、都築圭、アスラン=ベルゼビュートII世、斑鳩ルカ、樋口円香、雨夜燕、月村手毬、レトラ、詩花
- DAY3:天海春香、高槻やよい、島村卯月、安部菜々、春日未来、松田亜利沙、天道輝、紅井朱雀、櫻木真乃、小宮果穂、花海咲季、藤田ことね、灯里愛夏、奥空心白、日高愛
- 配信アーカイブ:IDOL WORLD SUPER FESTIVAL 2026 |ASOBI STAGE
THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.





























