2025年7月28日、サンリオがXR/メタバース開発企業のGugenkaを子会社化したニュースは、業界に大きなインパクトを与えた。サンリオが長期の永続成長のために掲げた「グローバルIPプラットフォーマー」戦略において、XRやメタバースはどのような役割を担うのか。そして、Gugenkaとのタッグは、バーチャル体験にどのような革新をもたらすのか。
今回、Mogura VRはサンリオの常務執行役員である濵﨑皓介氏と、Gugenkaの代表取締役である三上昌史氏に独占インタビュー。今回の統合の背景から、両社が見据えるXRの未来、そして「SANRIO Virtual Festival」の進化まで、その戦略の核心に迫る。
なぜ今? 必然だった両社の統合
――もともと「SANRIO Virtual Festival」(以下、Vfes)で何年も協働してきた両社ですが、このタイミングでの小会社化の経緯を教えて下さい。
三上昌史氏:現場の方から「チャンスがあればGugenkaとより深く連携したい」というお話は以前からいただいていました。私たちの事業は、国内のあらゆるIPと全方位でお取り組みをさせていただくことが前提にあります。その点で、「みんななかよく」という理念を掲げ、多様なIPとのコラボレーション実績が豊富なサンリオさんは、これ以上ないパートナーだと感じました。この連携を元にGugenkaとしてのスケーリングも目指しています。
濵﨑皓介氏:サンリオとしては、「IPプラットフォーマー」を目指す上で、IPのマネタイズの出口を増やしていく必要がありました。Gugenkaさんの「ホロモデル」(※3DデジタルフィギュアをXR技術で表示できるプラットフォーム)は、IPホルダーにとって非常に魅力的なプラットフォームになると考えています。
そこへサンリオキャラクターを展開することはもちろん、私たちが持つ他社IP向けの営業リソースを活用し、「ホロモデル」へ他のIPさんを誘致することもできます。これはGugenkaさんにとっても大きなシナジーになるだろうと以前から話していました。
今回、同じ目線で取り組む体制になったことで、これらのリソースを惜しみなく供給できます。また、VRChatで開催している「SANRIO Virtual Festival」を配信プラットフォームとして育てていく上でも、(これまで制作に関わってきた)Gugenkaさんの力は今後ますます必要になります。
――なるほど。両社の戦略的な思惑が一致した形ですね。
濵﨑氏:はい。私たちはGugenkaさんと共に、VRChat内で外部でのチケット販売(※Gugenka運営の「Xマーケット」での販売)や「パフォーマーギフティングシステム」という出演者への投げ銭機能に近い体験の実装など、新しい取り組みにも挑戦してきました。サンリオとGugenkaが一体となることで、VRChatの世界にも新しい風を吹かせることができると考えています。
「寄り添い」と「夢中」で語るXR
――サンリオの中で、XRやメタバースはどのように位置づけられているのでしょうか。
濵﨑氏:サンリオでは、ファンとの関わり方を「夢中時間」と「寄り添い時間」に分けて考えています。「夢中時間」は、YouTubeやゲームのように、一つのコンテンツに集中している時間です 。一方、私たちが得意としてきたのは「寄り添い時間」。例えば、勉強中に使う筆箱にキャラクターが描いてあったり、部屋の隅にあるぬいぐるみがふと目に入って癒されたりする、そういった日常に溶け込むあり方です。
その中で、「ホロモデル」のようなプラットフォームは、私たちが元々得意としてきた「寄り添い」の形に近いと感じています。今「ぬい撮り(※ぬいぐるみを携帯し、旅行先などで風景と共に写真を撮影する行為)」が流行していますが、ARフィギュアもそれに近い体験を提供できます。物理的なモノと違い、デジタルならいつでもどこでもキャラクターと一緒にいられる。これは、単純接触効果を最大化する上で非常に強力な接点であり、ビジネス的にも有望だと考えています。
――一方で、VRのような没入型の体験はいかがでしょうか。
濵﨑氏:VRの没入体験には2つの側面があると考えています。ひとつは、VRならではの「IPの世界に入り込む」体験です。すでに世の中にコンテンツが溢れている中で、VRヘッドセットを装着する理由を作るには、その世界の一員となって、キャラクターがすぐそばにいるという感覚や、その世界の営みに参加できるような体験を提供することが重要です。
もうひとつは、ユーザー同士のインタラクションです。VRChatがこれほど流行している理由は、そこでのコミュニケーションにあると思います。私たちは、そのコミュニケーションにエンタメ体験を付加できると考えており、例えば、VTuberの活動の主戦場がバーチャル空間に移行していくといった流れも考えられます。
実際に、私たちが運営するVTuber事務所のタレント(※VTuberグループ「にゃんたじあ!」)がVR上でグリーティングイベントを行ったところ、ファンが感極まって泣いてしまうほどの感動が生まれました。VTuberにとっての最高体験は、バーチャル空間でお互いに3Dモデルとして会い、インタラクションできることではないでしょうか。
三上氏:現実とバーチャルの融合は、今後さらに進んでいくと思います。5年以内には、サンリオさんのキャラクターが、ぬいぐるみとして部屋にいる状態から、ホログラムのように現れてコミュニケーションが取れる未来も十分にあり得ると考えています。
サンリオVfes、その進化と未来
――「Vfes」は業界でも最大級のイベントになりました。手応えはいかがですか。
三上氏:想像以上の規模感でプロジェクトが広がっていると感じています。Vfesの歴史が積み重なるにつれて、「Vfesに出たい」という声を聞く機会が本当に増えました。バーチャルイベントが一回で終わってしまうことも多い中で、ここを目指したいと思える「武道館」のような存在になりつつある手応えを感じています。
濵﨑氏:私としては、当初の想像以上にファンの皆さんから支持していただき驚いています。最初は町田(サンリオでVfesのプロデューサーを務める町田雄一氏)が壮大な構想を語っていて、「何を言っているんだ?」と半信半疑でした 。しかしその後、本当に技術が進化し、多様なIPが集まる世界へと発展していきました。
――今後のVfesはどのように進化していくのでしょうか。
濵﨑氏:Vfesとしての年2回の盛り上がりは今後も継続していきたいと考えています。その上で、将来的にはリアルのテーマパークのように常に遊びに行ける場所にしていきたいです。博物館の常設展と企画展の関係に近いかもしれませんが、常設展としていつでも楽しめる場やコンテンツがありつつ、来場するきっかけとなる企画展として、年に数回のフェスやVTuberの定期ライブなどを開催していくイメージです。
また、リアルとの融合も進めていきます。まさに社内にも「ロケーションベースエンターテイメント」を企画するチームがあり、バーチャルピューロランドのコンテンツをリアルな場で活用したいという話が出ています。ヘッドセットを購入してもらうよりも、イベント会場で体験してもらう方がユーザーにとってのハードルは低いですから、そうした展開も積極的に検討しています。
統合で加速する新たなVR体験
――両社の統合によって、具体的にどのような変化が期待できますか。
三上氏:企画制作のサイクルは圧倒的に早くなると思います。私たちは常に新しいサービスを立ち上げていくことを意識しており、「SANRIO Virtual Festival」で培ったものや、その過程で生まれたアセットを、どうすればもっと多くの人に楽しんでもらえるか。その気づきをサービス化していくという流れを、今後も続けていきます。
濵﨑氏:VRChat上のバーチャルピューロランドで、これまでにはなかった新しいVR体験が作りやすくなります。例えば、「パフォーマーギフティングシステム」は、これまでは会社間の調整が必要でしたが、一体化したことでスムーズに実現できるようになります。コンテンツの質と量の両方を強化し、今までの常識を超えるような体験を創造していけると考えています。
――グローバル展開も加速しそうですね。
濵﨑氏:はい。デジタルコンテンツは時間や物理的な制約といったハードルを越えやすいという強みがあります。実際にVfesでは、来場者の約7割が北米からです。デジタルライセンスは国境がないため、基本的にグローバルディールが前提となります。私たちにとって、デジタルでの展開はすなわちグローバル展開なのです。
三上氏:ファンにとっても、全ての作品のグッズが自国で販売されるわけではないので、デジタルコンテンツをスピーディーにお届けできる価値は非常に大きいと考えています。
「XR版ニコ動」実現への本気度
――サンリオさんのXR事業への取り組みは、あくまでファンエンゲージメントの一環なのでしょうか。それとも事業として収益化を目指すものですか。
濵﨑氏:最終的にはファンエンゲージメントに繋がると考えていますが、前提として事業として収益化することを目指しています。今年から新設されたデジタル事業本部では、私もトップライン(売上高)にコミットしています。もちろん、XR事業は中長期的な視点が必要なため、Jカーブを描くような事業計画を立てています。
――長期的な視点で見据えているのですね。
濵﨑氏:はい。経営陣とも、5年、10年のスパンでXRプラットフォームを育てていくという認識を共有しています。弊社の社長としては「XR版のニコニコ動画を作るぞ」という意気込みで、私もそのつもりで取り組んでいます。
サンリオキャラクターだけでなく、あらゆるIPが登場し、ユーザー自身も巻き込んでいく。そんなプラットフォームを目指しています。

(サンリオ・濵﨑皓介氏(左)とGugenka・三上昌史氏(右))
