スマートグラスへの注目度が高まっている。
先日のGoogle I/Oで「Android XR」採用のスマートグラスが発表された影響が大きいのだと思われるが、それだけではないだろう。昨年以降製品が増えてきており、今年のCESにも多数のメーカーが出展していた。
では、ここからさらに増えていくスマートグラスをどう理解し、選び分けて行けばいいのだろうか?
あくまで「2025年前半での視点」という話ではあるが、少し考察していきたい。
スマートグラスを4つに分けて定義
スマートグラスには明確な定義がない。通常のメガネではなくデジタルデバイスとしての機能を備えたもの、というくらいのふんわりした定義しか存在しない。
その中であえて分類するとすれば、以下の4つになる。便宜上大型のヘッドセットも混ぜているが、理解のための方便だと思っていただきたい
・ポジショントラッキングや手の認識を備え、アプリやオブジェクト単位で空間に配置できる、文字通りの「AR/MRグラス」
例:HoloLens、Vision Pro、Meta Quest 3/3S、Orion(Meta)、Project Moohan、Project Aura、Spectacles(Snap)、MiRZA


(Vision ProとProject Moohan。現状は大柄なものが主流。開発方針も多様)
・Display Port Alt Modeなどで外部入力した映像を表示。3DoF/6DoFなどの機能を備えるが、本質的には「空間に表示するディスプレイ」
例:XREAL Air、XREAL One、VITURE One、Rokid Max、ASUS AirVision M1、RayNeo Air 3s

(XREAL One。市場で「ARグラス」と呼ばれるものの大半がこのタイプ。実際には「空間ディスプレイ」と呼ぶべき製品)
・スマートフォンと連動し、そこから情報を表示。カメラなどのセンサーは内蔵しておらず、純粋な「情報表示系グラス」
例:Google Glass(2012年)、Even G1、ENGO 2

(Google Glass。歴史が古いタイプ。業務用製品も多い)
・スマートフォンなどと連動し、その中の情報を表示。カメラやマイクなどのセンサーを介してAIと情報を連動、周囲のコンテクストを取り込んで人をサポートする「AIグラス」
例:Ray-Ban Meta、Android XR グラス型試作モデル


(Ray-Ban MetaとAndroid XR グラス型試作モデル。AI連動で注目が集まっているのはこのタイプ)
このほか、Bluetoothで音声だけをスマホから送るもの(HUAWEI Eyewear 2など)もあるが、ここではちょっと省かせてもらう。
多くの人が考える「理想的スマートグラス」は最初にあげた「AR/MRグラス」だが、現実問題として難易度は相当に高い。理想的なものは結局ヘッドセット・タイプになっており、かなりかさばる。筆者が体験した中ではOrionがかなり理想に近いが、開発にはまだ時間がかかるだろう。どちらにしろメーカーごとの差異も大きく、同じ枠に入れているが、実際の中身はまとまっていない。
一つ言えるのは、結局「スマートグラス」を名乗る以上、メガネ型であるべき……というところだろうか。ヘッドセット型はこの時点で少し外れてくる。逆に言えば、ちゃんとしたAR/MRを実現しようとすると、今はどうしてもメガネ以上のサイズになってくる、という話でもある。
「ソフトでなにをするのか」がポイント
AR/MRグラス以外のパターンはどうだろう?
こちらはハードウェアの開発・製造のメソッドがある程度確立している。したがって多くの企業が参入しやすいし、その上の差別化も重要になってくる。
もちろんポイントは「なにを狙うか」だ。
市場では「ARグラス」と呼ばれているが、「空間ディスプレイ」「情報表示系グラス」「AIグラス」は、ARグラスとは言えない。情報を表示するものの、現実のどこかの情報を拡張(Augment)するわけではないからだ。いずれも「人間に対し情報の価値を高める」存在であり、使い方の違い、と言っていい。
技術的難易度で言えば、空間ディスプレイが一段下ではある。3DoF・6DoFやディスプレイの空間固定といった機能が入っていないなら、グラスに内蔵される機能は比較的シンプルといっていい。
一方、AIグラス型も、ディスプレイを内蔵するか否かで開発難易度は大きく変わる。
本質的には、AIグラス型はディスプレイ内蔵である必然性はない。人とのインタラクションは主に声であり、ディスプレイがあれば「声より素早く情報を把握できる」という話だと考えればいいだろう。
無論ディスプレイは内蔵していた方が魅力的だが、ディスプレイ搭載は「価格」「バッテリー動作時間」とのトレードオフになる。しかし搭載しない製品であっても、「カメラとマイクから情報を入力して価値を人に返す」という役割は果たせる。そのため、Android XRも「ディスプレイなしのAIグラス」を一つの選択肢として用意している。
また、ディスプレイ非搭載になると、メガネ側の開発難易度が急激に下がるのも重要な点だ。
ディスプレイ非搭載のAIグラスは「Ray-Ban Meta」に代表される製品群だが、Ray-Ban Metaのヒット(2023年末発売)以降、同様の製品は展示会などでも多数見かけるようになった。
情報系グラスはまだヒット作がない。可能性は大きいと思うのだが、やはり作り込むのが難しいだろう。現状では「Even G1」が最もヒットに近いと感じる。


(情報系グラスの「Even G1」。今年初めから出荷を開始。価格は599ドルから)
一方で、ディスプレイ搭載のAIグラスと情報系グラスは今後急速に融合していくものと予測される。結局のところ、AIの部分はスマホとクラウド側に依存しており、ハードウェアの差異は小さいと考えられる。だとすれば、融合していくのは必然だ。
その場合、当然ながら多くの価値は「メガネの外」に生まれる。
アプリを作ってクラウドにあるAIをAPIで呼び出し、翻訳や画像認識を行わせるのは簡単なことだが、そこで差別化し、価値の高いものにするのは難しい。
翻訳も画像認識も便利だが、「できる」だけでは生活の価値向上には直接つながらない。どう見せるのか、どれだけ遅延を小さくするのか、そして「認識した画像は何につかうのか」など、ユーザー体験を構築する要素は数多い。
現状、どういうデータが取得できてそれをどう活かせるのか、という知見は蓄積途上だ。6月4日(アメリカ時間)、Metaは「Project Aria Gen 2」というスマートグラスを公開した。Project Ariaは商品化を目指すものではなく、あくまで「リサーチプロジェクト」だ。Project Ariaは2019年から続くものだが、センサーが多数ついたスマートグラスでリサーチを続けるのは、それだけ「どんなデータが取れるのか」「それでなにをすべきなのか」、課題の洗い出しが終わっていない、ということでもある。

(Metaのリサーチ用スマートグラス「Project Aria Gen 2」)
その中で、GoogleはAndroidの上にプラットフォームを構築し、Androidスマホとの強い連携を軸に開発がされている。ということは、同社のAIである「Gemini」やAndroidスマホ内の機能との連携が考慮され、それが差別化点になるということだろう。単にアプリで連携するよりも一段深い機能を提供することになる可能性は高い。
OS連携がさほど大きな価値にならない可能性もあるが、アプリがどこまでの価値を提供できるのか、精査する必要がある。これは、まだ機能についての認知が進んでいない初期の製品選びにとっては、特に大きなハードルになるだろう。
「メガネとしての価値」をどう担保するのか
スマートグラスが注目されるのは、ヘッドセット型よりも日常的に使えそうな感じがするから……という部分が大きい。社会受容性は、このジャンルが定着する上で重要だ。
現実問題として、ヘッドセット型とスマートグラス型で実現できることには大きな差があり、理想的なAR/MRグラスの実現には相当な時間がかかる。その前段階であり、屋外でも気軽に使えるものとしてスマートグラス、特にAIグラス型が注目されることになった。
ここでもう一つ重要な点は、「メガネである以上、かけ心地も重要」「視力補正も必須」という点だ。
ディスプレイ付きのものは、人によっては視力補正がないとちゃんと見えない。ヘッドセット型を中心に、既存のHMDではインサートレンズ(視力補正用の追加レンズ)を使うものが主流。設計柔軟性が高く、乱視を含めた多様な状況に対応できるが、その分コストがかかる。現状、複数の機器に対応するインサートレンズはないため、機器を用意するごとにコストが追加されていくのが厳しい。
空間ディスプレイ型には、VITURE Proのように「近視向けの視度調節」を内蔵したものもある。こちらは追加コスト不要で楽だが、レンズを組み合わせるために視野が暗くなりやすいこと、設計上採用できる機器が限られること、そして、乱視や度の強い調整が難しいことなどの制約がある。
実のところ、ディスプレイのないものでも視度調整は重要であることに変わりはない。日常からメガネ・サングラスとして長くかけ続けるためには、メガネとしての視度調整が必要になるからだ。
現状、レンズの入れ替えに対応した企業に依頼するのが一般的だが、どこがどの製品を扱えるかは明確ではない。いかにも市場初期の混乱……というところだろうか。
Ray-Ban Metaの場合には、実はレイバンの直営店に行くとレンズ(サングラス機能込み)を度付きのものに有料で入れ替えるサービスが用意されているという。アイウェアメーカーやメガネ販売店との連携が増えれば、こういうスタイルは一般化するのかもしれない。
そもそも「メガネ」としてつけるなら、自分のスタイルや好みにあったものが望ましいし、顔にフィットしていて付け心地が良い点も重要だ。

(Ray-Ban Metaは多彩なデザインバリエーションで支持を得ている)
Ray-Ban Metaは日本で販売されていないが、その理由は、MetaのAIが日本語対応していないことに加え、鼻あての部分のデザインが日本人を含むアジア系の特徴(要は鼻が低い人が多い)にフィットしていないから……ということはある。
GoogleはAndroid XRで、アイウェアブランドの「ジェントル・モンスター」「ワービーパーカー」との提携を発表した。これは、メガネとしてのフィッティングとデザインの多様性に期待してのことだろう。
スマートグラスをITガジェットと見るならデザインは「狙いすました1種類」でいいかもしれないが、アイウェア=メガネと捉えるなら、多様な価値観への対応が必須となる。
Ray-Ban Metaがヒットしたのも、結局は多数のバリエーションがあり、サングラスとしての完成度は高いからだ。アイウェアメーカー・アイウェアブランドとの協業が唯一の回答ではないが、「どう多様性を実現しているか」には注目しておく必要がある。
なお、視力補正の課題は、一般的にはコンタクトレンズの併用で解決できる。ただ、Vision Proなどのアイトラッキング機能を備えたヘッドセット型では、センサーとの相性の問題から、ハードコンタクトレンズやカラーコンタクトレンズは使えない、という問題もあった。
そういう部分も含め、「メガネとしての使い勝手の情報が多数あり、相談もできる」ことが重要になっていくだろう。
大手がアイウェアメーカーと提携するのは、そういう部分での課題を少なくしていくため……という部分もありそうだ。