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活用事例 2024.11.20

“空間ショッピング”の時代へ ZOZO×アンリアレイジがApple Vision Proで挑む全く新しい購入体験

VRを活用した新たな購入体験価値を求めて、ZOZO NEXTが興味深い取り組みをしています。それが「ANREALAGE SPATIAL SHOP powered by ZOZO NEXT」。Apple Vison Proを装着して、ファッションブランドANREALAGEの新作アイテムを間近で見て、感じて、予約購入できる仕組みです。

2003年に誕生した日本のファッションブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」は、2014年にはパリ・コレクションのファッションショーを360度全天球カメラで撮影し、現場の様子をスマートフォンとVRゴーグルで見られるようにしたり、DECENTRALANDで開催された世界最大級のメタバースファッションショー「METAVERSE FASHION WEEK」に参加するなど、新しい技術を活用した展示にも積極的です。

「ANREALAGE SPATIAL SHOP powered by ZOZO NEXT」の興味深いところは、多人数が同時にアクセスしてコミュニケーションが取れるメタバース的な空間ではなく、体験者個人一人だけが入室する空間・体験設計としたところ。

2024年11月16日(土)~24日(日)に渋谷PARCOで開催されるANREALAGE新コレクション先行受注会で一般公開される前に体験してきたので、レポートしましょう。

ゆったりした空間で、一人だけで買い物ができる贅沢な時間

Apple Vision Proをかぶり、アプリを起動すると、最初にANREALAGEの新コレクションファッションショー「ANREALAGE SPRING/SUMMER 2025 COLLECTION “WIND”」のムービーが再生されます。WIND、すなわち風をテーマとしたもの。風を吹き込むことで服の形状が変化する様子が伺えます。地球温暖化が進む事情を意識して、ファンを内蔵した空調服のデザインを見せてくれたものとも考えられます。

メインエリアに入ると、視界に入ってくるのは新作バッグ類が展示されているターンテーブルです。

また右を向くと、バッグと同様のデザインが施された新作シャツ、Tシャツ、パーカーを見ることができます。

ハンドトラッキングでターンテーブルを回し、気になるアイテムを手元にもってきていろんな角度から見たり、拡大縮小することができます。気に入ったアイテムは予約リストにいれることで、ANREALAGE新コレクション先行受注会での注文が可能となります。

ここで感じたのは、高精細パネルを用いているApple Vision Proのアドバンテージです。使われている3Dモデルのテクスチャーデータが高精細ゆえに、間近で見ると強い実在感を覚えます。時空の歪みを表現したというデザインの妙や、実際のアイテムの生地の雰囲気も伝わってきました。

また操作が直感的でわかりやすい点にも価値があると感じます。

前述したように、「ANREALAGE SPATIAL SHOP powered by ZOZO NEXT」はANREALAGEのファンが集まるANREALAGE新コレクション先行受注会・渋谷PARCO会場でお披露目される技術です。いままでVRヘッドセットを使ったことがない方々も多く来られるでしょう。

一般的なVRヘッドセットはコントローラーの操作方法を伝え、理解してもらう段階で時間を消費してしまい、その間に体験者がVRの視界に慣れずVR酔いとなってしまうことがあります。高精度なハンドトラッキングを実現しているApple Vision Proであれば、操作になれるまでの時間を大幅に短縮できるメリットがあります。バッグの蓋をあけて中を見るといったギミック、カラーバリエーションがあるアイテムは色の選択、洋服であればサイズの選択といった操作に関しても、戸惑うことが少なくなると予想できます。

Apple Vision Proアプリ開発はトライ&エラーの連続だった

「Create the future of fashion and the NEXT Big Thing.」をミッションに掲げ、ファッション領域におけるユーザーの課題を想像しテクノロジーの力で解決し、より多くの人がファッションを楽しめる世界の創造を目指しているというZOZO NEXT。その中でもZOZOグループの新規事業の創出を目的としてR&DをおこなっているMATRIX部門が、この「ANREALAGE SPATIAL SHOP powered by ZOZO NEXT」を開発したそうです。具体的なお話を開発責任者である玉村雄大さんにお聞きしました。


玉村 雄大(たまむら ゆうだい)
株式会社ZOZO NEXT MATRIX本部 XR/AI部 ディレクター
IT系メガベンチャーにてゲーム関連の映像制作や3DCG分野の業務に従事したあと、2020年にZOZOテクノロジーズ(現ZOZO NEXT)に入社。2023年5月より現職。XR/AI部にて主にデジタルファッション領域のプロジェクトを推進。

「ANREALAGE SPATIAL SHOP powered by ZOZO NEXT」の開発においては、ラグジュアリー体験を意識されたとのことです。その視点から、自分だけのゆったりできる空間での買い物体験ができるUIUXとなったのでしょう。

玉村「そういう意味では高価格帯だったりとか、世界観をすごく大事にされてるブランドさんがフィットしやすいだろうなとは考えています。なお、空間デザインはブランドさんによって変えることができますし、ブランドさんの中でも、コレクションごとのテーマに合わせて変えることができます」。

数あるブランドのなかからANREALAGEと取り組むことになった理由。それはANREALAGEがテクノロジーに興味を持つブランドであったことが大きな理由となりました。

玉村「過去にもいろんなチャレンジをされてきたのがANREALAGEさんです。Apple Vision Proが発売される頃から弊社のチームの中でも、VR領域で何かユースケースを作れないか、新しい購買体験ができないかと議論していた中で、ANREALAGEさんとのコミュニケーションのなかで、彼らも購買体験をアップデートしたいといった話が出てきたこともあり、一緒に今回のプロジェクトをやりましょうっていう形でスタートしました」。

メインエリアの空間デザインに関しては、ANREALAGEから伝えられたコンセプトワードを元に、ZOZO NEXTで設計したそうです。

玉村「今回はいただいたワードからイメージしたものを弊社で設計しましたが、ブランドさん側のデザイナーさんと一緒に設計をするといったことも柔軟に対応できますね」。

Apple Vision Pro用のアプリがまだ少ない現状において、新規開発はトライ&エラーの繰り返しだったといいます。

玉村「普段、3Dデザインソフトの画面をPCのディスプレイに表示している状態だと、空間の広さによる体験の良し悪しをイメージできるのですが、Apple Vision Proで見てみると「ギャップがある。ちょっと狭いかなって感じる」といったことがありました。UIを作るところにおいても、従来の平面のディスプレイ向けの作り方とは違うと感じました。例えば、ウェブサイトを作る場合は画面の中に要素を綺麗に全部収めれば良いのですけど、Apple Vision Proは視界を自由に動かせるので、必ずしも一定の枠の中に収める必要がありません。逆に収めすぎて圧迫感があったりということも。これはもうトライ&エラーを繰り返すしか無いと感じています」。

個人的には、ソファに座っているリラックスした状態でゆっくりと楽しめるUIになっていると感じました。

玉村「VRだと立って、歩いての体験もできます。しかし今回はANREALAGEさんの世界観を再現する、ブランドのコンセプトを体感していただくという意図があったので、ラグジュアリーで、リラックスした状態を意識しました。ここは柔軟に対応できるところなので、他のブランドさんとの取り組みのときは、異なるUIとなるかもしれません」。

今回は高級ファッションブランドの、オフラインにおける新コレクション先行受注会での新しい購入体験価値を求めて開発したため、使用するデバイスはApple Vision Proを選択したそうです。ブランド側から、オンライン用に、多くのユーザー向けのシステムを作ってほしいというオーダーがあれば、Meta QuestシリーズやPicoシリーズ、VIVE Focusシリーズ/XR EliteといったAndroidベースのスタンドアローンヘッドセット向けのアプリ開発も視野に入っているそうです。

玉村「進化した技術が消費者の生活の中にどんどん入り込んでくる、というビジョンを思っています。基本的には新しいショッピング体験、ファッションの楽しみ方の観点で、お客様に満足していただくプロダクトを生み出すために、色々模索はしていきたいなと考えています。ご興味のあるブランドの方や、百貨店様がおられましたら、話を聞いてみたい段階でも結構ですので、お問い合わせください」。

今回のアプリでは自分の体型を入力、3Dモデルに反映し、ベストな服のサイズを選ぶといった機能はありませんでしたが、オーダーがあればいくらでも開発できるとのことです。一人だけの空間でショッピングができるメリットとして、ショップ店員など他人に開示するには恥ずかしいと思える要素もカバーできる技術になると感じられる体験でした。


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