VTuberグループ「ホロライブ」を運営するカバー株式会社が取り組んできたメタバースプロジェクト「ホロアース」。新エリアの解放などによって、サービス当初と比べて大きく発展してきましたが、2026年6月28日にサービスを終了することが電撃的に発表され、ファンや市場関係者から困惑の声が上がっています。
正式版となるver.1.0.0リリースから約1年という短い運営期間でしたが、発端となった企画「ホロライブ・オルタナティブ」自体は2021年から始動しており、長年をかけて開発してきたプロジェクトであることが伺い知れます。今回のサービス終了により、カバー社は約32億円の特別損失を計上するなど、その影響の大きさは計り知れません。
MoguLiveでは初期段階にカバー社にホロアースについてのインタビューを行っており、以降も体験レポートなどを通してホロアースを追ってきました。本記事ではこれまでに公開した記事を元に、ホロアースが終了に至った背景を紐解いていきます。
ホロアースの歴史を辿る
そもそもの発端となったプロジェクト「ホロライブ・オルタナティブ」は、2021年2月に発表された企画で、ホロライブのVTuberのifストーリーを展開する異世界創造プロジェクトとして誕生しました。本企画では、アニメPVや漫画「ヤマト神想怪異譚」などのメディアミックス作品が相次いで発表されましたが、その中でもメイン企画として進行したのが、2021年10月に発表されたメタバースプロジェクト「ホロアース」でした。
「ホロアース」は、ホロライブのVTuberとファンがバーチャル空間を一緒に体験できることを目標にしたメタバースで、現在のホロアースの基礎となっているコミュニケーションロビーやサンドボックスゲームがこの時点で計画されていました。当時は「メタバース」が社会の大きな話題となって急速に広まった時期であり、インタビューではホロアースもその方針に舵を切ったことが伺えます。
合わせてVTuberの配信等でプロトタイプが公開されており、広大な空間でクラフトが楽しめる様子が映し出されていました。インタビューで担当者は『従来品を例に出せば「Minecraft」や「ARK: Survival Evolved」のような作品と近いイメージのものになります。』と述べており、実際モンスターと戦い素材を集め、ミッションをクリアしていくことでクラフト要素がより充実していくというゲーム部分が強くプッシュされており、当時のホロライブ内で流行したゲームのトレンドをおさえて開発してきたことが読み取れます。
インタビューはこちら。
また、サンドボックスよりも先行して行われたのが、ホロライブ所属VTuberのバーチャルライブです。ホロアースのシステム稼働性、およびサーバ負荷の検証などを目的とした「プロトライブ」が2022年12月に実施され、AZKiさん、森カリオペさんの歌を目の前で視聴できました。ユーザーのアバターは簡易的なものながら自由に動けるようになっており、VTuberたちのトラッキングもしっかりとライブに反映されているなど、将来性を感じられるものとなっていました。
その後、2023年11月にサンドボックスゲームの一部を体験できる「シミュレーションルーム」、2024年5月にファッションを購入・変更できる「オルタナティブ・シティ」が実装されました。まだメタバースとしてのアバター同士での充実した交流などができる機能は揃っていませんでしたが、将来的にどんな空間を作りたいかの方針が示された印象を受けました。
そして、2024年12月に実装されたのが、待望の大規模なオープンフィールドです。広大な平原で自由に探索やクラフトを楽しめるモードで、発表当初よりもグラフィックやできることがパワーアップした印象です。ゲームとして手応えを感じられるものとなっている他、プロテクトキューブや観測ビーコンといった独自性のあるシステムもあり、無料のゲームながら細かく作り込まれていました。
2025年4月、ホロアースにユーザーがアイテムを販売できるマーケットプレイスが実装され、ver.1.0.0として正式リリースされました。また、ユーザー⾃⾝がアイテムを作って販売するUGC要素はインタビューの時点で言及しており、約3年越しの実現となりました。
まとめると、ホロアースは「サンドボックスゲーム」「VTuberライブ」「クリエイターマーケット」と、それぞれの方向性の機能を進化発展させていったプラットフォームと言えます。ただし、最近のアップデート情報を追ってみると、サンドボックスゲーム要素のアップデートよりも、マーケットプレイスやアバター同士で交流できる空間の充実に力を入れていたようにうかがえます。
ホロアースの現状と、そこから見える問題点
ホロアースはver.1.0.0以降も精力的にアップデートを重ねてきました。新エントランス「フォーカル・スクエア」をはじめとして、「魔界ジオ」 「城塞都市ウェスタ」 「キョウノミヤコ」「セレスティアル・ビーチ」 といったエリアが公開されました。また、新キャラクターや新家具、フェイストラッキング機能も追加されています。驚きなのが、起動時にアニメオープニングが用意されていることです。
ユーザーを呼び込む施策も行われてきました。ときのそらさんを皮切りに、ENを含めたホロライブのVTuberたちがホロアースに降臨し登場しており、ファンと直接交流を実現しています。同時視聴イベントやホロアース開催のライブなどにも精力的に活用されており、ホロライブのメタバースであることが強調されてきました。
ここまでの情報を振り返ると、なぜサービス終了に至ったか疑問に思うかもしれません。実際、ホロアースの個々の要素は未完成ながらも、間違いなく高いクオリティーで作られていますし、ホロライブのVTuberに会えるという他にない強みもあります。同時期に大量にサービス開始した国産メタバースと比較しても、規模感や完成度が抜きん出ている印象です。
しかし、サービス終了発表後に新エリアを中心に散策しましたが、その間他のユーザーとすれ違うことがあまりなく、閑散としていた印象が拭えませんでした。サービス終了発表後の平日の日中だから仕方ないかもしれませんが、もう少し人がいてほしいというのが正直な感想です。シミュレーションルームには新要素が追加されてはいますが、オープンフィールドがリリースされた当初ほどの驚きや目新しさは感じられません。
カバー社の代表取締役社長CEOの谷郷元昭氏によれば、サービス終了に至った要因をホロアースの展開方法にあったと述べています。
では、なぜホロアースは終了の道を選んだのか。谷郷氏は、その要因は「ホロアース固有の展開方法」にあったと分析します。 「ライブをやったり、ゲームをやったりと、いろんな要素を盛り込んでしまった。ライブという分野に絞れれば可能性があったかもしれないが、大きく事業を展開しすぎてしまった」。
実際、昨年度にも社内で継続の是非について議論があり、一度はライブ機能にフォーカスする形で立て直しを図ったものの、期待したほどの成果には至らなかったといいます。また、タレントにとっても「既存の配信アプリ(ホロライブ)」と「ホロアース」という2つの選択肢が生まれたことで、結果として負担が生じていたことも課題として挙げられました。
加えて、「重要なプロジェクトだったにもかかわらず、自分自身がそこまでコミットできる立場になかった。こうした社運をかけるようなプロジェクトであれば、自分が事業責任者として立つべきだった」と、経営者としての反省の言葉も。同日のIRでは、代表取締役社長および取締役CTOの役員報酬を自主返納することも発表されています。
カバー株式会社 2026年3月期 メディア向け決算説明会の記事より
上記を踏まえてホロアースを振り返ると、本サービスの非常に複雑な構造が浮き彫りとなります。サンドボックス、ライブ、ファッション、クリエイターマーケットといった多数の要素が用意されていますが、多面的に展開することで大きな負荷がかかってしまい、ひとつひとつの要素に注力できなかったように読み取れます。本来予定していた開発期間は2年であったことを考えると、その負荷の大きさは想像以上だったのではないかと思えます。
また、ホロライブのVTuberが来たときにファンが集まって盛り上がるものの、そういったVTuberのイベントに依存している部分も大きく、ひとつのメタバースとしては求心力に欠ける印象です。タレントに頼らない独自性として「ホロライブ・オルタナティブ」の世界観がありましたが、終盤に公開されたエリアで表現された部分以外では特に目立たず、ホロライブのVTuberのifストーリーを感じられることは多くありませんでした。
ユーザーの中には主体的にサンドボックスやアイテム製作を楽しんでいる様子も見られましたが、収益・集客を生むUGCの部分が発展途上のままでした。メタバースの成功事例と呼べるRobloxやVRChatでは、一般クリエイターがワールドを作れる要素がありますが、ホロアースが打ち出してきた方針とは異なっており、新規層が居着く場所を提供し続けるのは難しかったように思えます。ユーザー同士を繋ぐ施策も足りなかった印象です。
ただし、他のプラットフォームと比較してみても、機能の拡充やサービスのアップデートの量は非常に多く、スピーディーに開発が行われていたのも間違いではありません。もし、続けていれば、上記のような不満点が解消されるといったことも考えられます。
将来、ホロアースの資産を活かしてくれることに期待
結果として、サービス終了が決定した「ホロアース」。2026年3月の後半に新エリアを公開するなど、これから盛り上げていこうとする動きも見られたので、6月でのサービス終了はやや急速に見えます。大手メタバースサービスの撤退などで世間のメタバースへの風当たりが強くなったことも影響があるように思えますが、実際のところ、上記の説明会では前年度に継続の是非が議論されていたと述べていたことから、以前からサービス終了を検討していたことが伺えます。
残念な結果となりましたが、ホロアースの開発資産はVTuber事業に引き継がれ、タレントの配信やライブ演出に活用されるそうです。今後は、自宅配信環境のアップデートや、今後の3Dコンテンツ制作の基盤にしていくなど、新しい形で技術を活用していくこととなります。ホロライブのVTuber自体、VRChatを利用した配信なども増えてきており、バーチャル空間を通してVTuberとファンを繋ぐ流れは今後も続いていきそうに思えます。












