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企業動向 2025.01.15

おかえり、Googleーー空間コンピューティング時代に向けて試されるAndroid XRの本気

2024年末、Googleは突如XRデバイス向けのOS「Andorid XR」を発表した。そしてサムスンから最初のXRヘッドセットを出すべく準備を進めているという。そして、ソニー、XREALらがパートナーとなってサムスンに続こうとしている。

筆者は2021年に、GoogleがVR/MRから撤退することが明らかになった時にこんなタイトルの記事を書いた。

以降、Googleはスマートフォン向けのARプラットフォーム「ARCore」に注力し、着実なアップデートを続けていた。

再度XR本格参入を図ることが宣言されたからには、Googleを迎える記事を書かねばならない。

本記事ではAndroid XRについて、今後登場してからの注目点をまとめていきたい。

Android XRとはなにか

Android XRはXRデバイスを動かすためのOS(オペレーティングシステム)だ。

起動してから開くメニューやデスクトップに該当するホームシーン、アプリのインストールから起動、ジェスチャなどによる操作など、コンピュータ=デバイスの基本的な動作に関わる全てを担う基盤ソフトウェアということになる。

XRデバイスとは、MRヘッドセット、そしてARグラスのことだ。明言はされていないが、MRヘッドセットの中にVR機能は含まれていると思われる(開発者向けページでは、VRゲーム「Job Simulator」の移植が発表されている)。そのため、XROSとでも呼びたいところだが、より機能面に特化したこんな言い方が適している。それが、「空間OS」(Spatial OS)だ。

XRデバイスをこれまでディスプレイの中に平面的に広がっていたOSのユーザーインターフェースが空間に3次元的になる“空間コンピュータ”だと考えてみよう。

そのOSはインターフェースが全て空間に配置されており、OSによる体験も全て3次元的であるとしたときに、空間コンピュータのOSの名前として「空間OS」という言葉はしっくりくる。

同様のOSとしては、AppleがVision Pro向けに「visionOS」、MetaがMRヘッドセット向けに「Horizon OS」、XREALがARグラス向けに「Nebula OS」を、それぞれ展開している。

スマートフォンのOSデザインが初期の頃から大きく変わり、いわゆるフラットデザインに変化していったように、空間OSのイメージもおそらく普及の過程で大きく変わっていくと思われるが、2025年初旬時点での空間OSのイメージはおおよそ、「空間に画面が浮いており、アプリを起動でき、平面のウィンドウ内でアプリを操作できるもの」もあれば「ウィンドウの中が3Dになっているもの」「現実空間の中に3DCGを配置するもの」もある。

Android XRが示す空間OSの要件「AI」

空間OSとして名乗りを上げたのはMeta、Appleの後になるが、Android XRが明確に独自の特徴としている要素がある。

それがGoogleの生成AIとして知られる「Gemini」の搭載だ。空間OSにおいて、AIとのやりとりは、もはやいわゆるテキストでプロンプトを打ってのやりとりではない。ユーザーはAIと声でやりとりをしながら、空間コンピュータの操作をサポートしてもらう。

これまで、空間OSの入力方法はジェスチャーがほとんどだったが、Android XRは操作部分をAIが担当することが予告されている。すでに、ウェアラブルデバイスとAIの相性の良さはRay-Ban Metaが証明し始めている。ユーザーの目の前に見えているものを教えてくれたり、声だけで思い通りの指示ができたりすれば、ジェスチャーよりも便利な操作方法になりうる。

SLAMによる空間認識やハンドトラッキング、ホームシーンを始めとするユーザーインターフェースなど、Android XRの空間OSとしての機能は、先行するOSと同じなので後発だ。しかし、AIとの組み合わせがどこまで真価を発揮するのか、ユーザー体験を一変させる可能性があるため、注目したいところだ。

今度こそ覚悟が求められる

GoogleのXRの試みはスマートフォンARを除いて、悉くクローズしてきた。長らくR&Dを続け、2016年には製品を発売したものの続かなかった「Project Tango」、2017年の一体型XRヘッドセットのOS「Daydream」、そしてその一号機としてレノボと発売した一体型MRヘッドセット「Mirage Solo」。

どの取組も技術の限りを尽くして革新的で、市場にとっては新しい価値を提供するものだったが、いずれも早すぎた。そして早すぎたが故に継続させるだけのエコシステムを構築できなかった。

しかし、発想自体が完全に潰えたわけではなく、その後、様々なデバイスにコンセプトが継承されている。例えば「Project Tango」の発想は、Lidarの搭載されたiPhoneとして、DaydreamとMirage soloはHorizon OSとMeta Quest 3として、後に別のプレイヤーが製品化と市場開拓に成功している。

メガネ型デバイスという観点ではGoogle Glassもあまりにも早いデバイスだったが、2023年から2024年にかけてRay-Ban MetaやXREAL Air 2が市場を切り開いた。

そんな中で登場したのがAndroid XRだ。今度は発想は一番手ではない。

だが、空間OS自体はまだ始まったばかり。Meta Quest 3は手頃なVRヘッドセットとしてのニーズが高いから数百万台という台数が出荷されてるのであって、まだまだ「空間コンピュータ」として売れているわけではない。Apple Vision Proは高額なことから出荷台数は控えめなはずで、コンテンツが増えない。他の類似のデバイスも同じだ。

Googleは今度こそAndroid XRで空間コンピュータの市場を開拓できるのか。

「早すぎたからうまくいかずに撤退した」ということは事業としてうまくいかなかったという結果だけでなく、「Googleが参入したから」という期待でプラットフォームについてきた、志の高い開発者たちの信頼を一定程度失ってしまったことも意味する。

「今回は以前のようにすぐに撤退しないか?本気で取り組んでくれるのか?」

これまでのように出足が鈍かった時にしっかりと踏ん張って取組を継続させるだけの長期的なビジョンを持っているのか。本気での参入を期待したい。

Android XRを待ち受ける挑戦

記事執筆時点では、アナウンス以上の情報が少なく、まだ日本では実機体験もできていないため、まだ情報量が少ない中にはなるが、近々にAI以外にもAndroid XRに期待したい点を挙げていこう。

一つ目は対応デバイスの幅広さへの対応だ。Android XRがどの「空間OS」とも違うのは、MRヘッドセットとARグラスという異なる2種類のデバイス群に向けたOSになることだ。

一見、MR・ARは、共通項が多そうだが、実際のユーザー体験は大きく異なる。それぞれプロセッサの処理能力も視野角も大きな違いがあり、入力方法もまちまちだ。業界標準であるOpenXRが採用されているデバイスが多いとはいえ、どこまで共通化できるだろうか。


(画像はプロトタイプ版)

第一号として登場することが確定しているProject MoohanはMRヘッドセットだ。ARグラスに関してはパートナーを含めても、まだ具体的な製品化は発表されていない。

共通化することで開発者へのメリットは非常に大きい。Googleの実力に期待したい。

2つ目はアプリのラインナップだ。Android XRは空間OSを活用したいわゆるVR/AR/MRアプリをリリースできる。加えて強調しているのが、スマートフォン向けのAndroidアプリが全対応するという点。

しかし、筆者はそれだけでは足りないと思っている。なぜなら、Apple Vision Proが比較的近い道を辿ったが、平面を拡張する体験以外は、まだ実験的なコンテンツが多いからだ。Meta Quest 3/3s向けにはゲームを中心にアプリが登場しているが、爆発的な人気を集めるほどにはまだ至っていない。

スマートフォンのアプリを空間に複数展開できるだけではなく、ユーザーの多い平面系のアプリをいかに空間コンピュータに最適化できるかに掛かっているのかもしれない。なお、Google自身は「Googleマップ」、「Google Chrome」、「YouTube」、「Googleフォト」など純正アプリを空間に適用したアプリを準備している。

たしかに、この発表に至るまでの布石はあった。Googleマップは2019年から、「ライブビュー」と呼ばれるAR機能が搭載されて拡張し続けている。他にもスマートフォンのカメラを向けて現実世界の文字列を読み込んで翻訳したり、画像検索をかけたりする「Googleレンズ」も非常にXR向けだ。もはやアプリではなくAndroid XRに標準搭載されてほしい。「YouTube」は360度動画、180度動画(空間ビデオ)にも対応している。

純正アプリがこれまでにない価値を生み出し、他のアプリが「空間化」に追従する。そんな展開が生まれていってほしい。

3つ目は2つ目に関連して、開発者へのアプローチだ。新しいOSを展開するにあたり、関心をもった開発者をどのように支援するかは重要だ。開発者向けの説明会や文書を整え、開発者からのフィードバックを得ながらより開発者に寄り添ったフレームワークを目指す。それだけでなく、フォーラムの充実など開発者コミュニティの醸成したり、パートナー認証や時には資金も投下しながら開発者エコシステムを構築していかねばならない。

XR・メタバース関連のプラットフォームでも開発者のエコシステムがうまく構築できず消えていったものは多い。

特に日本での展開は要注視だ。米国発のプラットフォームに関しては、英語でのコミュニケーションとコミュニティ構築が優先され、日本の開発者へのアプローチが間に合わないがゆえに英語圏ではうまくいっていても日本ではいまいち盛り上がらない、ということがしばしば起きる。

開発者人口の関係上どうしても仕方ないところではあるが、GoogleはAndroid自体の開発者向けサポートやYouTubeのクリエイター向けサポートは充実している。Android XRも日本向けに抜かりなくアプローチしてほしいところだ。

ここまで、Android XRについて熱弁してきたが、Googleの参入はXR、そして空間コンピューティングの普及を加速させる起爆剤になりうる。それだけXRに戻ってくるGoogleには期待をしたい。

何より第一号となるProject Moohanがいつ登場するのか、どのような体験を提供してくれるのか、楽しみに待ちたいところだ。


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