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VTuber 2024.12.27

【VTuber判例シリーズ】VTuberの演者の本名・年齢をネット上で暴露する行為についてプライバシー侵害の成立が認められた事例を弁護士が読み解く(東京地判令和2年12月22日)

VTuberなどアバターを利用した活動が広く行われるようになった今、アバターに対する誹謗中傷、プライバシー侵害、ハラスメント、知的財産権侵害など様々な法律問題が起こるようになっています。

そこで、この連載では、弁護士の関真也氏に、VTuberに関連して実際に起こった裁判事例をもとに、こうしたトラブルに対する法的な考え方と対処法を紹介してもらいます。

(※本記事は、関真也法律事務所ウェブサイトより許可を得て編集・転載したものです。)

事実の概要

原告の活動等について

原告は、「V」という名前のアバター又はハンドルネームを用いて、「バーチャルYouTuber」(動画配信サイト「Youtube」において、2D又は3DCGなどのアバターを用いた動画等を制作・配信する活動を行う配信者又は当該アバター自体のこと。以下「VTuber」という。)として活動している。「G」は、主としておとぎ話をモチーフとしたVTuberの集団であり、「V」はその一員であった。

本件投稿について

氏名不詳者は、不特定の者が閲覧可能なインターネット上の電子掲示板「5ちゃんねる」内の「G」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)上に、以下の投稿(以下「本件投稿」という。)をした。

≫●●
●●は30歳以上確定してるだろ
逃げるなよ

※「●●」の部分は公開情報上黒塗りされています。

判決の要旨

本判決は、以下のとおり述べ、発信者情報の開示を命じた。

・・・によると、本件投稿は、VTuberとして「V」のアバターネーム又はハンドルネームで活動していた原告について、不特定の者が閲覧可能なインターネット上の電子掲示板上で、原告はインターネット上で自らの本名や年齢を明らかにすることを望まず、これらが一般に知られている状況にはなかったにもかかわらず、その本名が「A」であることを、その概ねの年齢とともに明らかにする内容のものであったことが認められる。

そこで検討すると、本名や年齢は個人を特定するための基本的な情報であるところ、インターネット上で本名や年齢をあえて公開せずにハンドルネーム等を用いて活動する者にとって、これらの情報は一般に公開を望まない私生活上の事柄であると解することができるから、本件投稿は原告のプライバシーを侵害するものであったと認められる。

また、被告は、原告の本名や年齢は既知の情報であったとも主張するが、本件全証拠を検討してもそのようには認められない(なお、〈略〉によると、過去に原告がテレビ番組に出演した際、原告の年齢がテロップに表示されたことがあったと認められるものの、これは本件投稿より10年も前の出来事であり、これをもって原告の年齢が一般に知られていたと認めることもできない。)。

考察

法律上保護される「プライバシー」とは

「プライバシー」とは、私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利のことをいいます(東京地判昭和39年9月28日判時385号12頁〔宴のあと事件〕)。

プライバシー侵害は、次の場合に成立するとされています。

本判決は、VTuberの演者の立場に立った場合に、その本名や年齢は公開を欲しないであろう私生活上の事実であると認め、プライバシー侵害の成立を認めました。

また、被告は、原告の本名や年齢は既知の情報であったこと、すなわち「一般の人々に未だ知られていない事柄」でないことという上記(iii)の侵害要件を満たさないと主張しましたが、証拠がなかったためその主張は退けられています。

本判決から分かる注意点

インターネットにおいて匿名で活動する人物を特定する本名、年齢その他の情報を公開することはプライバシー侵害となり、損害賠償請求等の対象となることがあります。

SNSのハンドルネーム等が代表的ですが、VTuberを含め、バーチャル空間においてアバターを用い匿名で活動する本人の本名等を暴露することも、同様にプライバシー侵害となるおそれがあるため、安易に公開しないよう注意しなければなりません。

裁判例によれば、もし特定のVTuberの演者の本名・年齢等が一般的に知られている場合には、そのVTuberと結び付けてその本名・年齢等に言及することはプライバシー侵害とならない可能性があるといえます。しかし、そのVTuberの演者の本名・年齢等が現時点において一般に知られているかどうかは、慎重に確認する必要があります。本判決でも、10年前にテレビ番組のテロップで年齢が表示されたという事実は認定されていますが、だからといって現時点においてそれが一般的に知られているとはいえないと評価し、プライバシー侵害を認めています。

VTuberや所属事務所の立場からは、所属契約のみならず、各種業務委託契約やスタジオ利用契約等において、演者のVTuber活動に関与する全ての関係者との間で、VTuberと演者を結び付けることとなり得るあらゆる情報の秘密性をひときわ強く守るために工夫した秘密保持条項を置くなどし、演者のプライバシーがしっかりと保護されるよう対処することが重要です。

VTuberの演者様、所属事務所その他関係者の皆様のご参考になれば幸いです。

参考記事

VTuberへの誹謗中傷や意図的な炎上工作はどこから犯罪? 弁護士に話を聞いた – MoguLive

弁護士が解説 VTuberデビューする前に知っておきたい基礎知識(法律編) – MoguLive

【VTuber判例シリーズ】VTuberの演者に対する名誉感情侵害の成立が認められた事例を弁護士が読み解く(大阪地判令和4年8月31日) – MoguLive

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