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VR映像プロデューサー・待場勝利の「VR映画の夜明け前」第3回

第1回目にお話ししたとおり、スクリーン映画の始まりはリュミエール兄弟による記録映画だと言われています。スクリーン映画の歴史はドキュメンタリーと共に始まったように、ドキュメンタリーはVRの映像表現の可能性を広げています。今回はVRにおけるドキュメンタリー映画を取り上げたいと思います。
 
全米トップ3の発行部数を誇るニューヨーク・タイムズは、2015年11月に同誌が製作した360度動画作品が見られる動画配信アプリ「NYT VR」を立ち上げ、紛争地帯に生きる子どもたちの生活を追ったドキュメンタリー作品『The Displaced』と100万個以上のGoogle Cardboardを同誌の定期購読者に配布しました。また2016年11月にはサムスンと提携し、毎日ひとつの360度映像を配信する「The Daily 360」を立ち上げました。彼らはVRを新たなジャーナリズムの手法と捉えて、VRを使ったドキュメンタリー作品に多数チャレンジしています。

難民問題を360度で捉えた作品『The Displaced』

この作品は紛争によって故郷を追われたスーダン、シリア、ウクライナの3人の子どもたちを取り上げたVRドキュメンタリーです。2016年のカンヌライオンズのエンターテイメント部門グランプリを獲得しました。

映像が始まると、いきなり荒れ果てた学校の教室の中に連れていかれます。目の前には黒板に何か文字を書いている少年がいます。

シーンが変わって、沼地で船を漕ぐ少年がいます。さらにシーンが変わり、高台で難民キャンプのようなテント群を少女が眺めています。
 
「第二次世界大戦以来、6,000万の人々が戦争と迫害によって家を失っています。その半分は子供です。これは3人の子供の話です。」というテロップが出て、冒頭3つのシーンの子供達が今回の作品の主人公だということが、一瞬にしてわかります。
 
1番目の男の子が体験者をまっすぐに見ています。彼が11歳のウクライナの男の子であるということと、彼の境遇がテロップで説明されます。そして自分の言葉で戦時での様子や思ったことを語ります。その語りをバックに、映像は荒れた建物の屋上で元気に弾薬を集める彼と友達の様子が映されます。
 
続けて2番目の男の子は沼地の真ん中に立ち、体験者をまっすぐ見ています。彼は南スーダンの9歳の男の子です。彼は船を漕ぎながら、戦時に祖母と一緒に沼地の中を逃げてきた話を語ります。一緒に逃げてきた祖母は避難している時に亡くなってしまったようです。
 
3番目の女の子が畑の真ん中に立って、体験者をまっすぐに見ています。彼女はシリアの12歳の女の子です。彼女と家族は今、シリアを離れてレバノンで暮らしています。彼女は毎朝4時に起きて、家族のために畑仕事をしています。他の子どもたちと一緒にトラックの荷台にぎゅうぎゅう詰めで畑に連れていかれるシーンは、すぐ隣に自分も一緒に存在している感覚になり、なんとも言えない気分になります。
 
シーンは突然切り替わり、南スーダンの大草原の多くの人たちの中に連れていかれます。彼らは何かを待っています。遠くから飛行機が飛んで来る音がして、空を見上げると上空から飛行機が何か白い物体を落としていきます。

突然の出来事で思わず身を屈めてしまったのですが、多くの人たちがその白い物体に駆け寄るのを見て、それが救援物資だと知りました。私は救援物資を待つ人たちの中にいる体験を初めてしました。
 
3人の子どもたちの環境は決して良くありません。でも彼らは 逞しく生きています。友達と笑ったり、難民キャンプの中を駆けっこをしたり、そんな彼らを寄り添って見ているような感覚になります。
 
作品の最後に、子どもたちが体験者をまっすぐに見つめます。そして、体験者に向かって、子どもたち自身の言葉で自己紹介をします。 何でもない短い自己紹介なのですが、すごく記憶に残るラストシーンです。
 
全然違う場所に住んでいる3人の子どもたちが戦争という行為によって、幸せだった全てを失ってしまっているということは説明されています。しかし私がそこで出会ったのは、どんな環境でも逞しく生きている子どもたちの姿です。その逞しい姿が切なさを増し、私自身が見ていることしかできない無力な存在だということに気づかされる作品でした。

https://www.youtube.com/watch?v=ecavbpCuvkI

1人のフランス人アーティストを追った作品「Walking NY」

この作品は写真を使ったストリートアートを制作することで有名なフランス人アーティストの「JR」が、ニューヨークに大規模なストリートアートを誕生させるまでを追った作品です。

作品はニューヨークのど真ん中から始まります。
次のシーンはアトリエで、今回の作品のテーマについてJRが体験者に話しかけます。そして今回の作品のモデルの男性を撮影してプリントし、路上にプリントした写真を貼る。ストリートアートを完成させるべく淡々と作業のシーンが続きます。ここまでは、この作品はVRである必要があるのか? と思ってしまうほど淡々としています。
 
しかし、全てこのシーンのためにあったのかと思わせるクライマックスが訪れます。気が付くと目の前にヘリコプターが1台見えてきます。ふっと周辺を見回すと、自分自身がヘリコプターを前に空中に浮いていることに気づきます。下を見るとニューヨークの街並みが見えます。素晴らしい風景なのですが、自分自身の足元に何も無いため、少し恐怖を感じます。その状況に慣れてくるころ、眼の前のヘリコプターの中で、一生懸命地上の写真を撮影するJRの姿に気づきます。その写真を取っている地上を見てみると、はっきりではありませんが、今回JRが制作した作品の全体像が見えます。盛り上げる音楽の効果に自分自身が空中に浮いているドキドキ感、そして作品の全体像を始めて見る感動で、気持ちがすごく高揚している自分に気がつきました。

最後にニューヨークタイムズマガジンの表紙が映し出されて、作品は終わります。彼の巨大なアートは、このように空から見るのが正しい見方なのかもしれません。

https://www.youtube.com/watch?v=f0-89v4Fk-M

従軍記者を体験する作品 「The Fight for Falluja」

こちらは、2006年6月にイラクのファルージャを取材した従軍記者を追うVRドキュメンタリー作品です。戦時中の最前線を舞台にしたVR作品はこれが初めてではないかと思います。ディレクターはピューリッツァー賞を受賞したBen C. Solomon氏です。

最初のシーンで、どこかの屋上で腹ばいになって銃を構えるスナイパーと、それを見守るイラク兵士たちが見えます。緊張感がドンドン高まり、それを打ち消すように一発の銃声が響きます。
 
次のシーンでは、イラクのファルージャを車で走っています。戦時のため人が一人もおらず、道路は荒れ果てています。Solomon氏はイラク軍に従軍して取材をしています。彼はイラクの最前線で取材するのが初めてですが、イラク軍の兵士たちはとても明るく彼や体験者に接してくれます。やがて何気ない雑談の中で、突然銃声が聞こえます。その瞬間身を屈める兵士。一気に空気が凍りつきます。ここは戦場だったことに気づかされます。
 
この作品は2つのエピソードに分かれています。エピソード1は、ファルージャの奪還までの緊張感を戦時の最前線に連れて行き体感させます。エピソード2では、戦争の余波が残る建物が破壊されている市内を歩きます。市内の刑務所を尋ねると、まだ生々しい状態で荷物が残されています。そこには畳半畳ほどの独居房があり、体験者がそこに入るとドアが閉められてしまいます。1人狭い独居房の中に閉じ込められると、恐怖に襲われます。この感覚はきっとスクリーンでは感じられないVRならではの表現、体感ではないでしょうか。

場面は変わって、家を失ったファルージャ市民のキャンプを尋ねます。40度近い気温の中ですが、多くの人は屋根しかないコンテナで生活をしています。その生活は過酷で子供も大人もコンテナの中に集まって暮らしています。Solomon氏に向かって、ファルージャの人たちは安全な日が早くきて欲しいと訴えます。荒れ果てたファルージャ市内を車で回るシーンで作品は終わります。
 
ドキュメンタリーVRは今までとは明らかに違う事実を体験させます。これはVRならではの映像表現と言っても過言では無いと思います。ニューヨーク・タイムズはVRを使ったジャーナリズムの可能性を模索しています。

https://www.youtube.com/watch?v=_Ar0UkmID6s

まだニュースのように即時性が無いため、ストーリ性のあるドキュメンタリー作品が多いのかもしれません。近い将来には即時性のあるニュースもVRで見る時代がくる可能性もあります。
 
国内外の多くのメディアで、ドキュメンタリーVRの配信は少しずつ始まってきています。VR映像の特質を考えると、実際に事件が起きている場所に連れて行かれるような体感ができるため、テレビやスクリーンと違って主観的に情報を受け取りやすくなると言われています。そういう意味で共感性を産みやすいドキュメンタリー的手法は、VR映像に向いているとよく言われます。

スクリーン映画の歴史が語るように、映像の始まりは記録映像やドキュメンタリーのようなノンフィクションから映像表現が始まっています。近い将来、ノンフィクションだけでなく、フィクションに関してもVRならでは映像表現が多く生み出され、VR映画という新たなジャンルの夜明けが来ると私は思っています。
 
今回ご紹介させていただいた『NYTVR』はGear VR, iOS, Androidでご体験いただけます。
 
またコンテンツの詳細は下記の公式HPをご覧ください。

『NYT VR』

※本記事の内容はあくまで私見に基づくものです。ご了承ください。

Mogura VR主催 イベント情報
10/29 VRにおける映像表現手法・ストーリーテリングを語る 公開座談会

VR体験施設の検索サイト「taiken.tv」



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この記事を書いた人

待場勝利

株式会社eje、VR推進部執行役員。大学を卒業後、アメリカで映画製作を学ぶ。TVディレクター、20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパンで日本語版プロデューサー、サムスン電子ジャパンではGear VRを担当。2016年から株式会社ejeでVRのコンテンツに関わる。数々のVR Projectを担当。ejeではVR CRUISEとVR THEATERの運営に携わる。

Twitter:https://twitter.com/VR_CRUISE
Facebook:https://www.facebook.com/VRCruise

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