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企業動向 2024.08.23

必要なのは”遊び心” バーチャル発のリアルお祭り「Vket Real 2024 Summer」で聞いた企業・自治体ブースの声

8月3~4日、東京・秋葉原&渋谷、そして大阪・心斎橋の3会場で開催された「Vket Real 2024 Summer」には、主催であるHIKKYのコンテンツやクリエイターの展示ブースのほかにも、多くの企業・自治体ブースも用意されていました。

VRChatから始まったバーチャル上のお祭り「バーチャルマーケット」が現実に飛び出し、人と人とコンテンツを結ぶハブともなったこのイベントにおいて、各企業・自治体ブースのみなさんはどのような手応えを掴んだのか、また感じ取れた課題の有無を聞いてきました。

バーチャルアイドルとコミュニケーションできる場を作っていたSO.ON project LaV ブース

東京スクールオブミュージック&ダンス専⾨学校から誕⽣したバーチャルアイドルプロジェクト「SO.ON project LaV」(運営:大阪スクールオブミュージック高等専修学校)のブースでは、各VTuberとのVRヘッドセットを利用したオンライングリーティングをはじめ、グッズの配布・販売を行っておりました。そもそも「SO.ON project LaV」はVKetの公認ソングを発表するなど、イベント出展へのモチベーションが高いブースです。お話を聞いたのはグリーティングイベントの時間の前でしたが、すでに多くのお客さんがブースに訪れていました。

「初めてこのようなブースを出展しましたが、やはりブースのなかに動きがあると違いますね。多くのユーザーさんやインフルエンサーの方に見ていただいております。また専門学校の学生といっしょにブースの運営をしていますが、何をすればお客さんが足を止めて見てくれるかというのを実地で学べる場所になっている、という手応えもありましたね」

バーチャル出展との相乗効果を実感できたというMESSEブース

“整う”サウナカルチャーをバーチャルで展開したMESSE。現実ではフィンランド式サウナ店舗を運営し、人との交流の接点を作る「居場所事業」を展開している企業ですが、Vket Real 2024 Summerではブース内からバーチャルマーケット内のメッセブースを体験できるコーナーと共に、サウナ貸し切りチケットやサウナハットなどのリアルグッズが当たるプレゼントキャンペーンを実施していました。

「僕らは今回初めて出展させていただいたのですが、最初はバーチャルとリアルの棲み分けがどんなものか把握できていなかったんですね。実際にはめちゃくちゃ反響が大きいと感じましたね。バーチャルマーケット2024 Summerのブースを体験していただいた方がVket Real 2024 Summerの現実側のブースにも来ていただいて、『あのMESSEさんのブースなんですね』と言っていただけることが多かったです。特にリアルでいいなと思っているところは、より密接なコミュニケーションがとれるところだと感じていますね」

ビジネスユーザー向けの商材はやや埋もれた感じがしたGUNCY’Sブース

モーションキャプチャーに関するテクニカルコンサルティングサービス「Mocap SOS」を展示していたのがGUNCY’Sブース。ゲームエンジンを用いた映像制作において、リッチな表現を求めるのであれば必須といえるモーションキャプチャーですが、企業向けの商材であったことからお祭り目的の来場者とはやや相性が悪かったかもしれません。

「バーチャル側の方では出展していないので、こちらVket Real 2024 Summer側のブース出展のほうしかわからないのですが、来場されている方の人数はすごく多いなという印象があります。ただどのようなお客さんが来られるか把握できていなかったというのがあるのですが、課題として、一般のVRユーザー向けのコンテンツを用意しておけばよかったなというようなところがありますね」

バーチャルから現実商品への誘導に成功したロート製薬ブース

2019年、誰でも女子高生の匂いになるということでSNSでバズった「DEOCO」を用いたゲームコンテンツをバーチャルマーケット2024 Summerで提供したロート製薬は、Vket Real 2024 SummerのブースでVket限定デザインのVTuber根羽清ココロDEOCOシートを販売していました。ちなみに、ロート製薬は、2018年から根羽清ココロを企業の公式VTuberとし運用していたり、2023年にEスポーツチーム「REJECT」とスポンサーシップ契約を結んでいたりと、プロモーション事業においてオンラインのエンタメ文化に積極的に参加しており、バーチャルの文化にも今回のように手を広げているところも、見逃せないポイントです。

「前回のバーチャルマーケットでは、バーチャル内でリップクリームの制作体験をして実際に購入できるというコンテンツを展示したのですが、期間中に商材が売り切れてしまったんです。そのことから、メタバース空間で体験したことをもとにリアルな商品の販売までの動線が引けたことに手応えを感じました。今回はまだイベント開催中なので結果の話はできないんですが、もともとXでバズっていた商品を展示したこともあり、多くの方にとって馴染みのある商品で新しい体験ができたというのは多くの反響を頂いております。あとバーチャルマーケットのお客さんはXを見られることが多く、親和性が高いという気づきもありました」

当たりくじや射的で夏祭りの雰囲気を強めてきたベルクブース

関東圏のスーパー、ベルクのブースは夏祭りそのもの。スーパーという自社サービスの訴求ではなく、マスコットキャラのベルクックを前面に出しながら、当たりくじや射的で来場者を楽しませるという企画となっていました。ベルクは、これまで5回連続でVKetに出展というかたちで参加しており、VRChatにリアル店舗を再現したワールドを制作。サンリオ主催のバーチャルイベント「SANRIO Virtual Festival 2024」でもミニショーを実施するなど、メタバース活用に熱心な企業のひとつと言えます。

「いままでバーチャルマーケットで連続出展、そして前回の冬にVket Real 2023側に初めて出展し、今回のVket Real 2024 Summerにも出展しているわけですが、ベルク、そしてベルクックに対するファンの方が増えてきたという実感があります。今日も多くのお客さんがひっきりなしにブースまで来ていただいておりますし、現実側で出展することで、VRで培ってきたベルクに対するエンゲージメントの高さが可視化されていると感じています」

秋葉原のメイドさんが店員となっていたそらのうえショッピングモールブース

24時間365日。年中無休で営業しているメタバースの商業施設そらのうえショッピングモールは、バーチャルとリアルの両方でブースを展示。Vket Real 2024 Summerでは、コラボをしているメイドカフェの店員さんが来場し、チェキ体験や、メイドカフェのVR体験ができるコーナーを用意していました。なお、そらのうえショッピングモールは、VKetの利用しているVRChatではなく、XR CLOUDというWEBブラウザ対応のプラットフォームを利用しています。ジブリやトミカなど、複数の企業が出展しているという点では、VKetとも一部運営方法が共通しています。

「Vket Real 2024 Summerは、まさに現実のお祭りですね。我々の場合はVRゴーグル&バーチャルコンテンツをいろいろと用意しているんですけれども、リアルな会場とバーチャルな会場では、求めるものが違うという気がしています。来場者のみなさんがリアルなお祭り的な体験の方を重視されているようで、現状はバーチャルコンテンツの訴求には直接結びつくとは感じられていないところがあります」

VTuberと出会えたMEWLIVE/バンダイナムコミュージックライブブース

ユノ・ミハナダさん、熊乃ベアトリーチェさん、闇依ろいろさんたち、MEWLIVE所属VTuberと画面越しに話せるイベントを展開していたのがMEWLIVE/バンダイナムコミュージックライブブースです。MEWLIVEは、声優やアーティストとして活動している人のVTuberプロデュースも手掛けるグループで、活動によって、リアルとバーチャルの架け橋となることを標榜しています。

「普段ネット上でコメントなどのやりとりさせていただいている視聴者さんがいたりするわけですけれども、こういったお話会のようなイベントを催したりすると、ネットで知り合ったネトゲ友達とオフ会で初めて会ったような感覚を得られることから、みなさんに喜んでいただけて嬉しく思います。バーチャルの存在から生身の力を感じる、そういった機会にもなっているんじゃないかと思っております」

高層ビルの間をつなぐ一本橋を渡るゲームで盛り上がっていた東洋建設ブース

右から左から強風が吹き付ける一本橋の上を渡るVRゲームなどを展示していたのが東洋建設ブースです。東洋建設は、企業向けのウォークスルー型のVR体験を複数手掛けており、現場での研修などに活用するといった施策を実施しています。今回の展示では一般ユーザーでも体験できるものを用意していました。安全第一な建設現場だからこそ安全装備が大事ということが学べるのですが、シンプルながらもなかなか難易度が高いゲームデザインに、多くのプレーヤーと観客が歓声を上げていました。

「今回のブース展示ですが、まず広報的な目的があります。もっと若い人たちに建設業の魅力とかを知ってもらって、この業界に入ってきてほしいなという思いから、VRコンテンツと合わせてヘルメットとかハーネスとかを展示しました。これにより、建築のことをより知ってもらえたかなと思っております。もう1つの目的としてバーチャル空間の中にもたくさんの都市ができてくる、いろんな社会が生まれてくるなかで、デジタルツインとその先のメタバースを見据えているところがあります。バーチャルの中で建築物を使う方の意見を聞いて、フィードバックできればいいなと考えています」

生きているうなぎを展示していた静岡県浜松市ブース

企業だけではなく、地方自治体が参加した例も。バーチャル側ではうなぎのつかみ取りゲームを、リアル側では艷やかで生き生きとしたうなぎの水槽を展示していたのが静岡県浜松市ブースです。多くのグッズやフードを販売していたことも印象的でした。浜松市はVKetへの参加が2回目。浜松市の認知向上、魅力の発信という目的で参加しているようです。

「バーチャル側ですが、浜松にはうなぎがある、餃子があるといった認知度向上や、最終的には遊びに来ていただくとか、移住定住とか、そういったことを目的にバーチャルでプロモーションをやっています。その中でバーチャルマーケットさんは来場者が多く、とてもいい効果があるなと感じています。リアルブースは初めてなんですけれども、展示しているうなぎの水槽の写真を撮ってくださいましたし、物販も半日経たないうちに初日分がなくなっちゃうくらいの勢いでした。お客さんの熱量が本当にすごいですね。この秋葉原という場所で効果的な展示ができていると実感しています」

有料サブスクサービスの1ヶ月無料チケットを大盤振る舞いしていたVRChatブース

今年、HikkyはVRChatと、公式のパートナーシップ契約を締結。今回のリアルイベントにも参加しました。そもそも、VRChatは無料で使えるソーシャルVRサービスですが、有料サブスクサービスVRChat+も用意されています。月額9.99ドルもしくは年額99.99ドルでグループの作成や、登録可能アバター数の増加など、様々なユーザー限定機能が提供されるのですが、今回のVket Real 2024 Summerのブースではこのサービスの1ヶ月無料チケットを配布していました。

「かなり暑い日なのに、わざわざブースまで来てくれている方が多くて感動しています!」

リアルのばまんさん&やみえんさんと会えたUUUMブース

渋谷会場では、UUUMの方にお話を伺いました。ドリンクのお渡し会のイベント時間前だったため、イベント参加による反響などはまだわからないとのことでしたが、それでも手応えは感じたとのことです。ちなみに、今回イベントに登壇した、人気ストリーマーのやみえんさんはこのイベント後にVRChat用のアバター姿を披露。VRChatのクリエイターや識者と会談する長時間配信を行っています。

「すでにファンの方が多く来てくださっていますし、いままであまり知らなかったという方もブースまで来てくださっています。みなさんの熱気がすごいですね!」

WEBカメラトラッキングが体験できたデジタルスタンダードブース

大阪会場のデジタルスタンダードブースでは、WEBカメラでフルボディトラッキングが可能なTDPT -Three D Pose Tracker-が体験できました。一般的なWEBカメラの画角だと、2~3メートル離れた位置でなければ全身のトラッキングができないとのことでしたが、身体にトラッカーをつけなくても良いという快適さは感動できるものですね。

「みんなが『すごい』って言ってくださって、作った側とかとても嬉しいなと感じています。同時に啓蒙活動っていうか、宣伝が足らないなとも感じましたね。というのも、カメラトラッキングって言葉は出てきてると思うんですけど、 実際どれぐらいのもんなんだとか、どこまでできんのっていうのがまだまだ知られてないなっていうのはわかりましたね」

ビジネスライクなメタバース/VRイベントとは大きく異なる空間に

XR Kaigi、メタバース総合展、TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールドなど、VR領域の人々が集うイベント・展示会は様々なものがあります。そのほとんどがビジネス目的の場となっていますが、Vket Real 2024 Summerは違います。各ブースの方がおっしゃっていたように、ここは純粋な夏祭りの場。ゆえに、来場者と共にお祭りを楽しむことを目的として設計されたブースに多くの人が集まっていました。

筆者の目にはバーチャルマーケットが好きな人だけではなく、インバウンドで日本に訪れた海外の観光客の方も楽しんで参加していたように映りました。原稿執筆時点ではまだ来場者数が公開されていませんが、全部の会場の参加者数を合計したら、かなりの動員数になったのではないかと予想できます。参加ブースの担当者の方それぞれの手応えの話を聞き、実際のブースの盛り上がりを見るに、このような空間でプロモーションを成功させるには、まず遊び心が必要だろう、と強く感じました。


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