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テック 2018.12.17

VRはゲームよりイベントでしょ!clusterが目指すVRならではのライブイベント – VIVE JAPAN デベロッパーミートアップ2018講演レポ

12月3日に開催された、VR関連開発者向けイベント「VIVE JAPAN デベロッパーミートアップ 2018」。その中で行われた「バーチャルYouTuberセッション」では、Wright Flyer Live Entertainment、cluster、バーチャルキャストなどVTuber関連の企業が多数参加し講演を行いました。

今回は「cluster」を開発・提供するクラスター株式会社代表取締役、加藤直人氏による講演「大規模商業VRイベントを実現する技術と課題。clusterが創造する未来とこれから」をレポートします。また、本講演の全編を収録した動画はこちらから。


(クラスター株式会社代表取締役の加藤直人氏)

clusterってなに?

VR空間上でバーチャルイベントができるサービスが「cluster(クラスター)」です。2017年6月に正式版がリリースされています(VTuberで言えばちょうど電脳少女シロの初めてのダンス動画があがった時期にあたります)。

そして2018年の5月、アバターのアップロードに対応。これによってVTuberのファン参加型イベントプラットフォームとしての運用がスタートし、月ノ美兎のVR教室生放送ファイ博士夏のファイ祭り初代ポンコツ女王決定戦 ガチンコクイズbattle in cluster深層Webから御機嫌よう in clusterなどが開催されています。

https://www.youtube.com/watch?v=sMO1TcfxlSw
https://www.youtube.com/watch?v=4S7bUk8NKxc

最近ではVアイテムというギフティングのシステムが追加されています。アイテムを買って投げることで演出が華やかになり、演者にもお金が入る、という盛り上げるための機能です。


初代ポンコツ女王決定戦 ガチンコクイズbattle in clusterより)

また、有料チケット販売でのライブも可能となっており、輝夜月が行った「輝夜 月 LIVE@Zepp VR」は5,400円のチケット数百枚がものの9分で完売。映画館のライブビューイングも5,000枚が完売するなど、成功を収めています。

「VR上での興行のノウハウは世界トップクラスを自負」している、語る加藤氏。これは無限の可能性を秘めていると同時に、“現状、難しい課題が多数ある”という話に移っていきます。

VRライブ会場運営の「つらい話」

加藤氏は「バーチャルイベントは現時点で、大きく分けて『技術的な課題』『非技術的な課題』の2つがある」、と具体例をあげて説明していきます。

技術的な課題

1. ネットワークつらい問題
たくさんの人にVRイベントへ参加してもらいたい、となると真っ先に壁になるのはネットワークの同期の問題。律儀に全ユーザーの状態を同期していくと、人が増えれば増えるほど際限なく情報のやり取りが増えてしまいます。

この問題については細かくパフォーマンスを調整・チューニングしていくのではなく、先に仕様で抑えていく方法を取ったそうです。まず、発表者・パフォーマーと、オーディエンスを切り分けました。現在のclusterでは、登壇者側の権限がないと一切言葉をしゃべることはできませんし、演壇にも登れません。パフォーマーを優先し、一方でオーディエンスをシンプルにしていくことで、より多くの人が入れる空間を作れる仕組みです。

また人数が多い場合は、一部の人たちは他の人から姿が見えない「ゴーストモード」になります。これも負荷を避けるため。ゴーストモードでも普通にclusterへ入って体験できるのですが、自分の姿は他ユーザーの空間に反映されないシステムです。

2. 描画つらい問題
clusterにはアバターをアップロードできるからこその魅力が多々ありますが、100体のアバターが同じ空間にいれば100体分の負荷がかかるので、処理するPCのメモリもCPUも何から何まで限界になってしまいます。なのでここも、仕様でなんとかする方針を取ったとのこと。clusterではパフォーマーのアバター保持を最優先にし、描画負荷が一定を越えた場合はオーディエンスがデフォルトアバターに戻るようになっています(ちなみに輝夜月のライブの時は、観客全員が強制的に「エビ」のアバターになる仕様でした)。

VRでは様々な可能性を持つ自由な空間が実現できるものの、その自由は技術的な限界とトレードオフ。PCのスペックをとにかく食うので「最低限、VR ReadyPCでの快適動作を死守」「ギリギリのスペックの場合は、派手な演出のフレームレートを落とす」という部分をベースに、仕様の調整をしていると語りました。

バーチャルイベントの非技術的な課題

1.「ユーザーのPCスペック」バラバラ問題
VRイベントにいざ参加しようとしても、全員がまったく同じものを見られる……というわけではありません。ユーザー側のPCスペックはまちまちですし、パーツごとの組み合わせを洗い出していくとすさまじい数に。さすがの加藤氏も「対応するVRヘッドセットが動くPCすべてのサポートは不可能」としたうえで、どのようにこの問題を解決するかを考え、目標を「最高の体験ではなく、納得感と満足感を届ける」に設定。そこで重要なのは、サポート体制です。

3日間に渡って事前体験会を開催した上で、チケットを購入した人と事前にDMでコミュニケーションを取るなど、念入りな体制を敷いています。


(Oculus GoやVIVE Focus、そして来年発売のOculus Questなど、一体型VRHMDが普及していけばスペックがバラバラという状況は多少ましになるかも? という話も)

2. ユーザーのサポートが基本リモートになる
オンラインのライブイベントは、現実と違うことだらけ。「当日問題なく入室してくれるか?」「不具合があったときどうする?」「お金を払ったのに入れなかったらどうする?」「迷惑行為をするユーザーの対処は?」といった悩みから、「そもそもclusterをVRサービスだとわかって購入してくれているのか?」という根本的なところまで考える必要があるとのこと。

また、一番多かった問い合わせは、ライブビューイングのチケットを購入した人からの「これはPCがないと見れないのか?」という根本的な質問だったそう(この質問には「映画館で見てください!」と丁寧に返信したとのこと)。VRライブの仕組みが浸透しているとは言えないのが現状です、と加藤氏。そこでサポートフロー構築に取り組んでいったそうです。


初代ポンコツ女王決定戦 ガチンコクイズbattle in clusterより)

また、clusterはTwitterアカウントユーザーが多いので、メインのやりとりはDMとのこと。
「窓口がかわいい女の子だと、やりとりがマイルドになるのではないか……?」という思いから、くらすたーちゃんが誕生したという噂(?)も語られました。

ちなみに、輝夜月のライブでの場合、9割以上が正常に参加できていました(残りの人は、入ろうとしたかどうかもわからない状態だったそう)。入れなかった人が1人、音が聞こえなかった人が1人。これは視聴者側のPCスペック等の問題で、運営とのやりとりとお詫びで納得頂いているとのこと。

3. 新しい試みで主催側がそもそも不慣れ問題
clusterでの大規模ライブイベントは、おそらく世界初の試みだろうとのこと。となると、誰もノウハウがない。試行錯誤しながら組み立てている真っ最中です。

例えば配信・収録環境の確認として、ネットワーク環境、モーションキャプチャー環境(リモートの演者も多いそうです)、音声収録環境は大丈夫かを綿密にチェック。当日のオペレーションとして、ユーザーの入場・待機は現実と違うが大丈夫か、演者への指示の出し方は大丈夫か、カメラへの指示・スイッチは大丈夫かを確認しています。

特に現実のライブと違って、HMDをかぶるとすぐ会場にインしてしまうので、現実とVRの流れの把握の重要性を語っていました。輝夜月のライブでは、そこを解消するために入場ゲートを設置し、敢えてVRで「移動する」「会場まで行かせる」ことが話題になりました。



また演者への対応は、リアルとの違いが大きいので大事、と加藤氏。「VR上での動き方や見え方は違うので、先に覚えてもらう必要がある」「イベント中に演者のテンションが上がるとと動きがおろそかになりがちなので、VRならではの動作確認も大切」「そして不測の事態からの離脱方法も」と、気持ちよく演じてもらうための情報共有や事前リハーサルを万全に行う必要を語りました。

4.バーチャルライブは「落ちる」問題
「バーチャルイベントは、どれだけ準備して突き詰めて開発しても“落ちる時は落ちる”んです」と語る加藤氏。だからこそ、落ちる前提でのバックアッププランを構築することに重きを置いているそうです。

落ちた時のシミュレーションとして「延期の意思決定」を機械的にする(心理的負担を減らす)、「ユーザーへの通達」はオートマティックにする、再公演を先に見据えておく、など。主催者との打ち合わせでは「落ちる前提」でコミュニケーションをとっておくのが重要。「神に祈らず万全を期そう」をモットーに掲げていました。

バーチャルイベントはやる価値がある!

ここまで「大変な部分」「つらい部分」を多数あげた一方、続けて加藤氏は「バーチャルイベントの良いところ」の価値を熱く語りました。

人件費が抑えられる。

VRライブは、かなり大きく人員削減が見込めます。誘導、警備、設営準備、撤収人員、演出・仕掛け人員のコストが削減できると加藤氏。もちろん凝ったことをやろうとすると準備にコストがかかりますが、それでもリアルイベントとは人件費は大幅に異なります。

場所代・機材代がいらない

リアルイベントは場所を押さえるのがとにかく大変。しかしVRであれば、ほしい広さのハコがほしいときに使えるというメリットがあります。また、順番待ちの概念がありません。設営撤収で前後日を抑えなければいけない、とかのライブならではの大変な作業が必要なく、カメラや照明など高価な機材も不要。むしろここは、現実より高性能な上に自由ですらあります。

そして、演出が増えても実装コストだけで済みます。「たとえば現実で紙吹雪を飛ばすとすれば、一発でとんでもない額がかかるためなかなか実験ができません。しかしVRであればトライアル&エラーがやりやすく、演出のグレードアップも比較的楽になります」と加藤氏。

演出がやりたい放題

VRであれば会場が動的に変化することや、演者が空を飛ぶことが容易になります。背景が一瞬で変わるのは、リアルでは絶対できない演出です。安全性も抜群で、空を飛んでも危なくないし、室内で花火を打ち上げても法律に引っかからないといいことづくめ。

VRはゲームよりイベント!

最後に加藤氏は「イベントとVRの相性のよさ」について語っていました。VRのネックのひとつが、いわゆるVR酔い。ゲームの場合は特に、「自分が止まっているのに視野が動くこと」で感覚がずれる「ベクション酔い」が大きな問題になります。しかしイベントはよほどのことがないかぎり、ベクション酔いが起こりづらいと加藤氏。こうした観点から、そもそもVRとイベントは相性が良いのではないか? と語り、「VRはゲームよりイベントでしょ!」という言葉で講演を締めくくりました。これからVRを使ったイベントは数多く行われそうなので、clusterの動向と発展に期待したいところです。


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