業界動向 2019.12.09

医療×XRで切り開く未来。Tokyo XR Startups出身起業家インタビュー(第三回:株式会社HoloeyesCEO谷口直嗣氏、COO杉本真樹氏)

患者を治す医師を助けるという姿勢

若山:

ビジネスモデル確立のところでも、新城さんの加入によってチームビルディングが進んだわけですね。とは言え、VR+データサービスという医療現場にとっても目新しいものを医療機関などに販売に行った時、実際の医療関係者からの反応はいかがでしたか?

谷口:

VRということで言うと、これまで2Dだったものが3Dでビジュアルで見えることと、医者の大半はヘッドマウントディスプレイをかぶったことがなくて新鮮に感じていただけること、その掛け算で非常に反応は良かったですね。

データの蓄積に価値があるという話は、結構30代くらいの若い人には非常に受けるというか、彼らはデジタルを使っているので、すぐ理解してくれました。

若山:

年代によっても反応が違いそうですね。

谷口:

そうですね。ただこれがオペに使えそうというところではすごい興味を持っていただいていますね。

杉本:

サービスを売るだけではなくて、患者さんが本当に良くなるとか、数字としていい結果が出ることをソリューションとしていることにメリットを感じていただけていると思います。

一番思っているのは、患者を治す医者を助けるということ。外科医を助けると、その人がもっとたくさんの患者を助けるんですよ。結果、僕たちは間接的に患者さんを治していることになると思っています。医者、特に外科医は、環境も過酷だし、誰かがサポートしないと医者は疲弊して倒れちゃうような状況です。医療の知識と必要な技術があって医者をサポートできる人、そういうキャリアがこれから必要になると思っています。

それを実践して、こういうキャリアを次作りたいなと思いますね。それには、エンジニアリングがわからないとだめです。なので、僕もなるべく現場にエンジニアと行って、お互い知識を共有したいと思います。僕もエンジニアの集まりに行きます。コーディングの会とか行きますし、エンジニアたちと一緒にアプリの制作にも関わっています。お互い最前線の現場にいるというのが重要かなと。


(Holoeyes社提供:Virtual realityの空間を共有した遠隔手術シミュレーション)

若山:

医療に貢献する姿勢は医療現場に新しい技術を導入する時に絶対欠かせない要素だということですね。

杉本:

あと乗り越えないといけないこととしてよく言われるのは、誰がお金払うの?Who pay? あとは、Who buy?誰が買うのというのが重要です。薬機法がクリアされていない、医療機器としての承認が取れていない、というプロダクトだと病院が予算として医療機器として購入できない。

なので、今薬機法の承認、医療機器としてプログラム医療機器の承認を取るプロセスを進めています。僕らもその責任者になって、講習受けたりしていているところです。会社としても医療機器製造販売業者の許可を取っていこうと思っています。それが1つ目のハードルですね。

それがもしクリアできれば、今度は保険点数の加算というハードルが出てくるんですけど、そこについても具体的な打ち手の検討を進めています。


(「この仕事は人の役に立つし、何より患者を助けているという実感がある」。)

若山:

医療の経済面、そしてレギュレーションもしっかり理解していないと入って分野ですね。

谷口:

レギュレーションに関しては、6月12日にRegulatory Hacksというイベントを開催しました。薬事コンサルの方でもVRとかディープラーンニングとか、最新のIT技術をわかっている方はあまりいない。デジタルヘルスのスタートアップが早くビジネスをスタートできるように情報共有をするようなコミュニティを作っていこうかなと思っています。

若山:

すごく貴重なコミュニティになりそうですね。薬事関係の費用は、医療業界のスタートアップにはすごく重いですし。

谷口:

薬事の体系自体がデバイスを作ることを想定している面があります。そうすると製造とか、梱包とか、工場がどうのという話になりますが、ソフトウェアだとそういうものが全部いらなくなる。

杉本:

我々は、医療VRであること自体を売りにするんじゃなくて、VRは当たり前になりつつあることを前提に考えています。デバイスも既存のそれこそスマホで段ボールのゴーグルでもいいし、既存のプラットフォームに簡単に乗るようなサービスを今作っています。そこが従来の医療機器とは大きく違います。

従来の医療機器や医療サービスは、メーカーが自分たちのオリジナルの筐体や機器をソフトウェアと一緒に売っていたりとか、ソフトウェア単体であっても特殊なLinuxベースだったりとか、そうでないと動かないものが多かったんですね。

それに対して、汎用性を高めるという意味で、すでに当たり前になっているようなプラットフォームやネットワークで使えるという変化は大きい。それが重要だと思いますね。

若山:

安い民生用のXR機器でも機能的には医療分野へ応用できる可能性はありますね。

杉本:

Oculus Questが出ましたが、我々はすぐに対応して実装しました。そういう開発力の高さとスピードを強みにしていきたいと思います。デバイスが出て、売れる前にもう作って、いつでもローンチできる状態を先に作っておくとトレンドを追いかけていけますし、話題にもなります。
 

海外展開

若山:

Holoeyesは海外展開にも早い時期から取り組んでいますね。

谷口:

海外のユーザーからの反応も一様に良いです。アメリカは何度か行きましたが国も広くて、なかなかKOL(Key Opinion Leader)と言われる医者に会えないというところがあります。売るためにコンサルティングしますよとか、保険会社の系列の病院で実績を作りますみたいな、ビジネス側の人は多くてアメリカが資本主義のど真ん中の国でもあるので、市場を確保するのにお金と時間がかかりそうです。

かたやドイツでは、たまたまベルリンのスターアップナイトというイベントに参加した時JETROの方にドイツの大学病院を紹介していただきました。その病院でもHololensを使ったテストを行っていたので、一緒にやりましょうということになって、NEDOのコファンド事業を活用して一緒にグラントを取りにいっています。

若山:

海外には医療のXRの会社がいくつかありますが、その中でも評価されているという手ごたえはありますか?

谷口:

海外のXRの会社も今はまだそれほど手広く事業展開していないし、展示会とかでお会いしても、まあ仲間だよな、みたいな感じです。現状ではしのぎを削るライバル競争というところまではきていなくて、みんなで一緒に盛り上げようみたいなところです。

杉本:

医療分野でのXRの活用はどこもまだコモディティ化していなくて、市場も小さいです。海外を見ると、日本ほど全国的にCTやMRIが普及している国はなくて、データがないんですよね。個別に取引のあるドクターや研究者からの要望で作られたXRソリューションがメディアに出ている。大きくスケールしているXRのプロダクトも無いしたくさんの病院に広く普及しているという状況ではないですね。

米国のSurgical Theaterなど注目を集めるスタートアップは出てきましたが、彼らもまだ一部の診療科領域のみ、しかもXRハードウェアも一部のみに対応という感じで、特定のデバイスや大学に依存していて、当社のように誰でも使えるプロダクトは少ないと考えています。

若山:

医療分野の場合、国ごとに参入障壁が有ると思います。

杉本:

アメリカではFDA、ヨーロッパではCE、それぞれレギュレーションがあります。アメリカの手ごたえが弱いひとつは、FDAが取れていないとそもそも病院に入れられず、そこがものすごく厳しい。

あと医療保険制度の大きな違いがあって、国民皆保険みたいな国は本当に少なくて、アメリカも人によって保険が違う。保険者がドクターを指定したり、富裕者層はプライベートホスピタルとして、優秀なドクターを見つけてきて個人的にお金を払っていたりする。保険会社が介在してもドクターが強く勧めないと新しいプロダクトはお金の支払が受けられない。そういった仕組みになかなかリーチできなくて、さっき谷口さんが言ったように、そこに至るまでに中間業者的な人たちがいっぱいいるわけです。俺が紹介するとか、製薬企業の連携の仕組とか、ファンド付きの団体とか、そこを介さないと病院は入れないとか、複雑な構造になっています。


(Holoeyes社提供:Mixer realityを活用した医用画像情報の空間的共有)

若山:

現時点での国内外での実績をお聞かせください。

谷口:

現在、40くらいの施設で使われています。例えば、トヨタ記念病院では年間使用回数無制限の契約で、非常に使用頻度高く使っていただいています。マネタイズが出来始めています。

若山:

今後は薬機法をクリアし、医療機器の製販免許を取り、保険収載を目指すという成長シナリオでしょうか?

谷口:

ビジネスに関しては、臨床で保険というところは非常にわかりやすくて、王道ではあるのですけれど、いろいろ見ていると、それ以外にいろいろ使えそうなところもいっぱいあると思っています。なので、新しいマーケットを作っていきたいなというのがあります。例えば、セールスフォースみたいなプロダクトって、昔は紙で管理していた業務があって、次にローカルのシステムでやって、それがクラウドになっていった、ユーザーはそこに価値を見出している訳ですよね。

Holoeyesの製品を活用して自分のやったことが3次元で残っていくとこというのは、長期的には価値になると思っていて、そういうところをビジネスにしていきたいと考えています。
 

Tokyo XR Startupsのメリット

若山:

Tokyo XR Startupsに参加して良かったことは?

谷口:

XR専門のアクセラレーターは他に無いので、XRの仲間がいたのが良かったかなと思います。

杉本:

XRのスタートアップを横並びに見られたというのは大きいです。他の企業達の成長を見られるじゃなないですか。ある意味ライバルであり、ある意味仲間であり、ノウハウを共有したりとか、情報交換の場になったと思います。プログラムの途中で何回かメンタリング。成果報告会があって、あれはすごい刺激になったと思っています。

若山:

経営の中で、一番苦労したことと、嬉しかったことをひとつずつお聞かせください。

谷口:

苦労したことは、今年実施した資金調達が大変というか、手続き的なところで苦労しました。最初のラウンドのときは投資家がニッセイ・キャピタル1社だったのですが、今回は当社が主体になって投資家数社のとりまとめをやらないといけなくて、それが初めてなので、こちらがスケジュールを組まないといけないなど苦労しました。

杉本:

Tokyo XR Startupsの後、はニッセイさんからの投資が決まるまでは、ビジネスとして成り立つためのノウハウもわからなかったし、不安という意味では大きかったです。個人的には神戸大学を辞めて、東京に来て、会社やるぞと思った時とか、そのときはまだ国際医療福祉大学と兼任だったんですけれど、大学を辞めて一時期この会社しかメインの給料がないという環境に自分を追い込んだのも勝負でしたね、自分なりに。

だからここにエフォートかけて、お金が回るまでやろうとは思いました。それが一番苦労というか、大きなハードルだったと思います。

若山:

それによって加速した部分もありますね。

杉本:

嬉しかったのは、一番最初は「VRクリエイティブアワード2016」での優秀賞。会社を作るきっかけとなったアワードを谷口さんと富士通の人と協力してもらって、評価されたこと。「社会実装済みなことが受賞にふさわしい」というコメントをもらったことが一番嬉しかったことかな。その後、「Microsoft Innovation Award 2017」や「楽天テクノロジー & イノベーションアワード2018」で高い評価を得られた時も嬉しかったです。

テレビだと「情熱大陸」の番組内での徳島大学の症例がうまくいったとき。実際の患者さんの肝臓手術で、オペ室なのでネットワーク環境も悪い中、手術中に撮影した3D画像をその場で30分以内にXRアプリ化し、空中で滅菌手袋のまま、癌や血管のホログラフィーをジェスチャーコントロールでき、術者や助手、ベテラン教授から若手外科医、学生まで手術チーム全員の理解に役立てたこと。社会的影響力の高い番組で社会的意義の大きい実例をご紹介できたのも大きな意義がありました。

若山:

谷口さんはいかがですか?

谷口:

僕が嬉しかったのは、トヨタ記念病院で年間の契約が決まった時です。それが大きいです。

若山:

それは嬉しいですよね。

谷口:

年間契約までには長い時間がかかりました。会社を作った直後に大阪で医療の展示会で最初にお会いして、その後別ルートでお話しがきて、結構長い時間やり取りをして、いろいろな質問項目が来て、それに答えて、結局契約してくれて、今は高い頻度で使っていただいていいます。


〔一番嬉しかったのは、年間契約が決まったこと〕

杉本:

それから、今年の4月1日に当社が関わっている研究プロジェクトについて科研費が2つ取れた、つまり国費を使う研究として認められたことというのも大きかったです。しかもそれは代表が僕じゃないんですよ。第3者の若手外科医による研究がオーソライズされて、次の世代に伝えられているのは、最も嬉しかったことの一つですね。
 

将来展望 グローバルなスタンダードに

若山:

最後に、Holoeyesの将来展望についてお聞かせください。

谷口:

2年後にはニッチですけどグローバルな会社にするってことですかね。

若山:

グローバルにはこだわるというお考えですね。

杉本:

僕はHoloeyesを始める前に3Dプリンターを使った臓器モデルの制作を別の企業と組んで実績を積みました。今、学会に行くと、そのやり方で作った臓器モデルがいろいろな医療機器メーカーの展示に使われているんですよ。いわゆるスタンダードになっていて、そのモデルを使って医者がトレーニングを受けている。

Holoeyesのプロダクトも医療のスタンダードになるまでやりたいと考えていて、教育も、手術のトレーニングも、シミュレーションもナビゲーションも、まずHoloyesで勉強しましょう、立体を理解しましょうというスタンダードになりたいと思います。

若山:

我々も是非グローバルスタンダードのプロダクトになっていただきたいと思っています。本日はありがとうございました。


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