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業界動向 2018.10.17

VRコントローラー「STEM」5年越しで出荷断念を発表 出資者へ返金

今から遡ること5年、2013年10月にクラウドファンディングKickstarterで資金調達に成功したVRコントローラー「STEM」が、出荷を断念し出資者へ返金することとなりました。2014年7月の出荷を予定していたところ延期を繰り返し今回の返金に至ります。

6DoFコントローラーの先駆けSixense

開発元のSixense社は、Oculus RiftのDK1出荷開始当時、数少ないコンシューマー向け6DoF(位置トラッキングを含む前後左右上下)のコントローラー、Razer Hydraを手がけていました。DK1自体は回転のみの認識だったため、VRコントローラーとしてのHydraの魅力は非常に高いものでした。

そして2013年、同社はVR向けのコントローラー「STEM」でKickstarterのキャンペーンを開始しました。これはまだ、HTC ViveやOculus Rift独自のコントローラーがリリースされる以前のことです。同年10月には目標額を上回る60万ドル(約6,600万円)の資金調達を行い、クラウドファンディングを成功させました。

予定されていた製品出荷は2014年7月。しかし一向にその気配はなく、遂に4年以上もの年月が経過しました。そして今回、Sixenseは全出資者への返金を表明するに至ったのです。

Oculus、HTCのオリジナルコントローラーが痛手

この間、同社には何が起こっていたのでしょうか。2014年から実に今年の3月まで、 SixenseはSTEMのリリースは近いと公言していました。3月には最新の出資者向けアップデートで「製造開始に近づいている。最終フェーズを待ってほしい」と述べています。

実際のところ、1年前の2017年10月には、同社内でSTEMの出荷に対して重大な疑いが生じていました。VR専門メディアRoad to VRがSixenseのCEO、アミル・ルービン氏に行ったインタビューで、同氏は次のように明らかにしました。すなわち、2016年にHTCとOculusが自社のVRコントローラーを発売して以降、STEMにとって状況は厳しくなると分かってきた、しかしモバイル向けVRヘッドセットに望みをつなぎ、その用途へとプロジェクトを方針転換した、ということです。

その後もSTEMをリリース出来ずにいる間、状況はさらに悪化します。2017年10月、Oculusは一体型VRヘッドセットのプロトタイプ、Santa Cruz(現在のOculus Quest)向けのコントローラーを発表。この時点で、STEMをコンシューマー市場にリリースする意味があるのか、再検討するに至ったとRubin氏は話しています。

企業向けへと方針転換

Rubin氏によれば、同社はKickstarterで調達した60万ドルを、2014年末までには使い切っていました。しかしその後も市場へリリースすべく、研究開発への投資を続けていたと言います。

コンシューマー向けを断念してからは企業向けのソリューションへと方針転換。2018年初頭にはヘルスケア企業のPenumbraとジョイントベンチャーを設立しました。そしてSixenseは今年9月、このジョイントベンチャーへの出資比率引き下げに伴い資金を獲得、今回の返金に充てるということです。

このように失敗に終わったかに見えるSTEMですが、ルービン氏はこれは遅れの1つに過ぎないと述べています。STEMは形を変えて、市場へのリリースが近づいている、ということです。
同氏は次のように語りました。「現在の6DoF光学コントローラーは、初期の『ボール式マウス』と同じようなものです。我々がSTEM技術をコンシューマー市場にリリースする際には、『(コンピューティングにおける)マルチタッチ』のようなインパクトを与えると信じています」

(参考)Road to VR
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