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業界動向 2025.10.27 sponsored

連載 Meta Questの秘めた可能性を探れ (4)“安全に失敗できる学び”が未来の医者を育てる 広島大学の実践するVR教育システムの驚くべき効果

医学生が医者となって患者の問診を自然とできるようになるためには、専門知識はもちろんのこと、身体各部の診察、医療面接、救急対応などといった“現場で動くための技術”が必要となります。

そのため、診察技術や対応力を客観的に評価するための試験「OSCE(Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)」が重要視されています。

このOSCEは、診察シーンを模擬患者との実践形式で行う一種の実習。知識だけでなく、技能や話し方を含めた総合的な臨床能力が問われる場であり、医療教育の中でも極めて重要な位置づけにあります。

しかし一方で、OSCEの実施には多くの人員や設備、時間が必要となります。OSCEに協力してくれる模擬患者の確保、医療機器の準備、評価者の配置など、教育の質を保ちながらすべての学生に平等な試験環境を提供することは容易ではありません。さらにコロナ禍の時代となって、実習の機会が格段と減ってしまう事態となりました。

そこで、広島大学は2022年、XRコンテンツ開発に長けているビーライズと共同で、VR技術を活用した新たな教育システム「VR OSCE(ブイアール・オスキー)」を開発。Meta Quest 3を使って、医学生が医療診断を繰り返しVRトレーニングできるように実装しました。

VRによる教育効果の高さは、いかほどなのか? 「VR OSCE」の教育現場での活用を進めている佐伯 勇先生、服部 稔先生にお話をうかがうと、数年間かける必要があったトレーニング効果が、短ければ30分ほどで及第点にまで達するという大幅な効率化につながったことがわかりました。

左:広島大学病院 小児外科 病院診療准教授 佐伯 勇、右:広島大学 大学院医系科学研究科(医)准教授 服部 稔

実技試験とトレーニングの課題を突破するためのVR

医学生は大学において、1年生から4年生までは講義やコンピューターを用いた知識評価試験(CBT/Computer Based Testing)で知識をつけ、その後に技術の実習に入ります。知識教育に関しては明確な評価軸とカリキュラムが整っています。その後、5年生になると実際の病院に出て臨床実習を行い、6年生で国家試験を受けることになります。

佐伯先生によれば、各大学の医学部の中で、技術教育のトレーニングをどのように行うかという課題があったそうです。

「2023年にOSCEが公的化されましたが、それまではトレーニングも評価も大学ごと、各科ごとの裁量に委ねられていました。そしてこのトレーニングは時間的にもお金的にも多大なコストがかかります。現実として日本の大学では平均すると卒業までに3~7回ほどのトレーニングを行いますが、欧米の大学では平均30回くらい行っているんですね」(佐伯先生)

コストの問題は無視できません。しかし、だからといって各医学生の教育レベルに差がでてしまうことも無視できません。診察の仕方、問診の進め方、診断に至るまでの思考プロセスといった医療現場での実技力を高める方法はないのか……。その悩みがあるなか追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスの流行です。実習の多くが中止され、学生が患者と直接対面する機会は激減。実技の練習を行いたくてもできないという状況が続きました。

そのとき、文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育 高度化プラン」の補助金を医療教育の現場で活用できる機会が訪れました。佐伯先生は「VRを活用すれば、欧米に負けない教育をもたらすことができるのでは?」というアイデアを活かすべく、2021年、ビーライズと共に医療技術トレーニングシステムVR OSCEの開発をスタート。2022年に最初のバージョンが完成しました。そして、現場で実践するため、広島大学はトレーニング用に57台のMeta Quest 3を導入しました。

15分で思考を研ぎ澄ます、新しいVR実技トレーニング

VR OSCEは、医療面接・問診、視診、聴診、診断、フィードバックといったOSCEの評価項目を1つの流れとして体験できます。医学生はMeta Quest 3を装着し、3DCGで表現された目の前のバーチャルな患者に対して実際に声をかけ、問診を行います。患者の反応や会話内容はシナリオに沿って分岐し、医学生の質問の仕方や観察の精度によっても次の展開が変わっていきます。これにより、単なる映像教材では得られない診察の流れを考える力が育まれます。

最初に設定されたシナリオは20症例。症例ごとに自由に設定を変更できますし、臨床経験をもとにした症例を追加登録することも可能です。

1回のトレーニング時間は15分。「すべての問診や診察をしていてはとても間に合わないが、重要な問診・診察ができれば十分に時間があまる」(佐伯先生)とのこと。現場と同じ緊張感と集中時間を再現し、制限時間の中で医学生は「どの情報を優先して聞き取るか」「どの順で検査を行うか」を判断しなければなりません。

「実際の問診診察においても、すべてを網羅的に聞いて診察する医師はいません。症状などに応じて、適切に必要十分な問診診察を行っていくことが重要です。そういった部分をトレーニングできるよう、あえて時間制限を設定し、更に1つひとつの所見をとるのにきちんと時間がかかるようにしています」(佐伯先生)

問診においては音声認識機能を用いて、医学生が口に出した質問をAIが解析し、適切な返答を行います。自動採点機能までは実装されていませんが、すべての対話内容がログとして記録され、医学生や指導教員が後から振り返ることができます。これにより、従来は見落とされがちだった「思考の過程」を可視化できるようになりました。

“失敗してもいい”VRならではの学びが広がっていく

「実際に患者を前にして“診察してごらん”と言われたら、トレーニングに慣れていない多くの医学生は緊張で体が固まってしまうんですね」と佐伯先生は語ります。

医療面接の現場は、単なる質問応答ではなく、表情や声のトーン、間の取り方までが重要になる。しかも複数の教員や同級生に見られる中での実技試験は、想像以上にプレッシャーがかかります。

「でもVRの中では違います。ヘッドセットを装着すると、360度が診察室に変わる。外界がシャットアウトされ、患者への集中力が高まるんです。だから数分もすれば、学生は完全に医師として診察している役割を演じられます」(佐伯先生)

この没入による集中こそ、VR OSCEが生み出す最大の効果です。

学生からは「緊張感があるけれど、失敗を恐れずに練習できる」「対話がリアルで本番を意識できる」といった声が多く寄せられています。何度も同じ症例を繰り返し練習できるため、自分の弱点を客観的に振り返ることも容易です。

興味深いのは、わずかな練習でも顕著な成果が見られる点です。

「15分x2回、30分練習しただけで、実技評価が100点満点で約40点程度(不合格レベル)であったのが、60点を超える程度(合格レベル)まで上がった医学生もいました。5〜6年生の2年をかけて習得していた感覚を、短時間で会得できたんですね。もちろん、すべての技能が短時間で習得できるわけではありませんが、トレーニング効率が格段に上がったことは間違いありません」(佐伯先生)

「医学教育の立場からすると、VRであれば失敗をしてもいい。いくらでも診察のシミュレーションができるし、トレーニング期間であれば失敗をしても怒られない。これはモチベーションを高める効果があると思っています」(服部先生)
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教育者側からの評価も高く「VR OSCEは、“学生が自分で学ぶための教材”として非常に優れている」との声もあります。佐伯先生によれば全国の大学医学部に入学してくる新入生の数は毎年6000人にのぼるとのこと。彼らがVR OSCEによるトレーニングを受けられるのであれば、効率良く現場に立てる技術を学べますし、現場での患者との対応時のトラブルや医療診断ミスといった問題の発生を未然に防ぐことができるようになるかもしれません。

時間制限はあれど、落ち着いた気持ちでトレーニングできる

ここで取材陣もMeta Quest 3をかぶり、VR OSCEを体験させていただきました。

診察室のドアの向こうに立つバーチャル患者に声をかけ、椅子に座ってもらうまでを音声で誘導します。その後、画面に表示されるメニューから問診内容や診察手順を選び、実際に行動していきます。
バーチャル患者はシンプルな造形ながら、表情の変化がとてもわかりやすいのが印象的でした。特に、診察中に痛みを感じている箇所に触れたとき、言葉では説明しづらい違和感や苦痛が、表情や仕草から伝わってくるのです。

問診時の会話のテンポも自然なものだと感じます。

ある意味、これは「シリアスなゲーム」をプレイしているような体験でした。一度失敗しても「次はもっとうまくやろう」と自然に思える仕組みであることが学びを促しているのだと実感しました。
この印象を伝えると、両先生はこう答えてくれました。

「ゲームって学習効果が高いですよね。時間制限があることも、操作感があることもゲーミフィケーションです。医学教育を専門としている僕らだからこそ作れるソフトなんです」(佐伯先生)

「コンテンツに集中させるゲーミフィケーションを取り入れたからこそ、失敗も楽しめますし、失敗を学びに変えて循環させる仕組みになっています」(服部先生)

挑戦があった ビーライズが語る開発の舞台裏

VR OSCEの開発において、技術実装を担ったのがビーライズです。医学教育という専門分野でのVR開発は一般的な産業向けトレーニングとは異なり、正確性・倫理性・操作性のいずれもが高い水準で求められます。特にOSCEのように国家試験と直結する教育プロセスを再現するには「体験の質」と「教育の正確さ」を両立する設計が欠かせません。

「注力したのは症例を自由に追加・カスタマイズできる仕組みの設計です。数例だけトレーニングできるアプリでは多種多様な症例に対応できません。また指導を行う先生方や学生の方々にとって数回プレイしたら終わり、となってしまい、導入メリットが少なくなるのではと危惧しました。そのため、先生方が現場で簡単に症例を増やせるように設計しました」(ビーライズ担当者)


UI/UX面でも独自の工夫が施されています。バーチャル空間内には診察室と患者モデルが配置され、学生が自然に没入できるように設計されていますが、問診結果や診断の選択肢はテキストで表示されるため、視認性と没入感の両立が課題でした。

「現実に近い空間を保ちつつ、文字情報を読みやすく配置するバランスを意識しました。医学生に余計なストレスを与えないことを最優先にしています」(ビーライズ担当者)

ハードウェア面では、Meta Quest 3が採用されました。

「Questはスタンドアロンで動作し、持ち運びやすく、教育現場でのメンテナンス性も高い。さらに、Meta Horizon Managed Service(旧 Quest for Business)を通じたデバイス管理ソリューションがあるため、学内で複数台を一括管理できるのが大きな利点でした」(ビーライズ担当者)

佐伯先生も、Meta Quest 3の機能を待ち望んでいたといいます。

「VR機能のみに特化した機器は没入感が高すぎるために、現実の周囲の環境が見えなくなってしまいますよね。Meta Quest 3はカメラパススルーの精度が高いため、装着していても安全に周りを見渡すことができます。またミラーリングの機能があるから、体験者の視界に何があるのかを指導員が確認できるところも助かっています」(佐伯先生)

次の一手は、AIによる診断支援の実装

VR OSCEは現在も進化を続けています。ビーライズでは、より高い没入感と実践性を実現するために、手技のトレーニングが可能な触覚デバイスや、問診内容や判断の流れをより精密に評価できるAI診断補助機能の導入を進めています。

「より高い没入感を生み出すには、触覚デバイスの活用が欠かせません。現在も複数のデバイスを検証中です。AIについても、問診や診断をサポートするサービス開発を進めており、今後のアップデートで積極的に取り入れていきたいと考えています」(ビーライズ担当者)

広島大学側でも、VRを活用した別のアプリ開発を行っています。VR OSCEはいわば低難易度版。それに加え、現在は麻酔科と連携して「全身麻酔・硬膜外麻酔」のVRトレーニングを開発中です。

「全身麻酔は非常に高度な手技なんです。針を刺すときに背骨の隙間を1ミリ単位で狙う必要があり、失敗すると一生頭痛が残ることもあります。ところが、練習できる機会がほとんどない。だからこそVRが最適なんです」(佐伯先生)

放射線科との共同開発では、心筋梗塞や大出血時に行われるカテーテル治療のVRシミュレーションも進行中です。カテーテル治療は心臓や血管内部を扱うため、リアルな再現には高精度な映像と空間認識が求められますが、VRとの親和性が極めて高い領域だといいます。

「医療技術のトレーニングはおそらく50種類以上あります。採血から骨髄穿刺、カテーテルまで、それぞれに最適な練習環境が必要です。これからは各診療科と連携しながら、専門技術に対応したVR教材を増やしていくつもりです」(佐伯先生)

誰も取りこぼさない教育を、VRで

一部の医学生のための、80点を100点にするための教育ツールではなく、誰でも学べるよう30点40点を60点にするための技術。取りこぼしをしない、誰も置いていかない教育を。広島大学の理念はVR OSCEにも現れています。未熟な技術による不幸な患者を減らすことがまず大事、現場を見続けてきた2人はその点を強調します。

またVRだからこそ、諸外国と同クラスの教育環境を実現できる。いわば、教育の地域格差をなくす技術としての可能性も見せてくれました。

現場の知とデジタル技術が融合した新しい医療教育が医療教育におけるトレーニングの質を高め、同時に学びのハードルを下げる。VR OSCEは、その理想を具体的なかたちに変えた事例と言えるでしょう。

教育現場にもMeta Quest 3/Meta Quest 3Sが欠かせない時代に

Meta Quest 3/Meta Quest 3Sは、コンシューマー向けに販売されているXRデバイスですが、比較的低価格でありながら高性能かつ堅牢な設計で、教育用途にも非常に適した製品です。

現在では、メーカーであるMeta自身が、ハードウェアとソフトウェアを統合したソリューション「Meta for Education」を展開しており、セキュリティを重視する企業や組織でも安心して運用できる環境が整いつつあります。

もし教育現場へ導入したいとお考えであれば、Meta Quest 3/3SとMeta for Educationの組み合わせは、非常に有効な選択肢となるでしょう。また、企業のDX推進の一環としてXRデバイスの活用を検討している場合は、Meta Horizon Managed Solutionsについて一度問い合わせてみることをおすすめします。


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