三洋化成工業株式会社は、次世代AR/VR光学デバイスに活用可能な、新しいナノインプリント用UV硬化樹脂「HILUCIS(ハイルシス)」を開発しました。この新素材は、可視光領域での透明性とナノインプリント適性を保ちながら、耐光性と高屈折率を両立。この技術により、AR/VRデバイスの視野角拡大や光学性能の向上が期待されます。
ナノインプリント技術は、ナノメートル単位の微細なパターンを樹脂に転写する加工方法です。この技術はAR/VRデバイスをはじめ、フラットパネルディスプレイやスマートフォンのカメラ、顔認証システム、自動運転用センサーなど、幅広い光学デバイスで使用されています。
これらのデバイスには、光を効果的に制御するための導波路や回折格子といった光学部品が不可欠です。光学部品としては、ガラスや樹脂が用いられており、特に、高屈折率の「ナノインプリントUV硬化樹脂」は設計の自由度、生産性の高さを生かしつつ、視野角の拡大や光制御性能の向上に寄与するとして注目されてきた、とのこと。
しかし、高屈折率樹脂で使用される代表的なフィラーである酸化チタンは光学活性が高く、紫外線による光触媒作用で樹脂の劣化を引き起こす可能性があります。同じく代表的なフィラーの酸化ジルコニウムは酸化チタンと比べて屈折率が低いため、屈折率が 1.8 以上の樹脂では耐光性との両立が課題でした。
今回、三洋化成工業株式会社が開発した新しいナノインプリント用UV硬化樹脂「HILUCIS(ハイルシス)」は可視光領域での高い透明性と複雑なパターンでも正確に転写される性能を兼ね備えつつ、非常に優れた耐光性と高屈折率(屈折率nd=1.9)を両立。この新素材は特殊な無機フィラーと、ディスプレイ用UV硬化樹脂の設計技術を組み合わせることで実現した、とのことです。
具体的には可視光領域(400nm~800nm)で90%以上の光線透過率を実現。かつ、曇り度(ヘーズ)を0.1%以下に抑えつつ高い屈折率により、薄い素材でも光の進路を大きく変更可能です。これらの特性により、AR/VRデバイスの薄型化や軽量化が可能となり、装着時の快適性向上にもつながります。
また、HILUCISは紫外線などの強い光にさらされても変化しにくい特性を持っています。従来の高屈折率樹脂では、光による劣化が課題でしたが、HILUCISは長期間にわたって透明性を保つことができ、かつAR/VRデバイスの画質維持と長寿命化が実現します。さらに、複雑な微細パターンも正確に形成できるため、より高度な光学設計が可能となります。
三洋化成工業は、この新素材を活用し、AR/VRの没入感向上や、自動運転センサーの性能向上に貢献していく方針です。HILUCISは、2025年1月末に東京ビッグサイトで開催される展示会や、米国サンフランシスコでの展示会で紹介される予定です。
(参考)プレスリリース