AR技術がベースとなる光学シースルーのレンズを用いたグラス型デバイスが何台も発売され、大きな市場が形成されつつありますが、そのほとんどは情報端末となるスマートフォンやPCと物理ケーブルで接続する有線接続型です。
その状況に対し、NTTコノキューデバイスは取り回しが軽快なワイヤレスARグラスの「MiRZA XRD-T01」(ミルザ)を2024年秋に発売するべく、開発を進めています。
試作機を取材させていただく機会を得たのでレポートをお届けします。
Snapdragon AR2 Gen1を採用したARグラス
MiRZA XRD-T01の基本スペックからご紹介しましょう。使用時のサイズは横幅約187mm×高さ約45mm×奥行き約184mm。質量は約125g。ワイヤレス機ゆえにデバイスそのものの制御は外部接続するスマートフォンではなく、グラスに内蔵されているSnapdragon AR2 Gen1プロセッサが担当します。
とはいえ、MiRZA XRD-T01はスタンドアローンで動くデバイスではありません。活用するには必ずスマートフォンと専用アプリが必要になります。
開発中である現時点において動作確認がとれているのは、Snapdragon 7+ Gen 3を搭載したシャープのAQUOS R9のみで拡大を目指す模様。接続にはBluetooth5.0またはWi-Fi 6Eが使われます。
MicroOLEDディスプレイの解像度は1920×1080ピクセル。視野角は45度(対角)。パネルの最大輝度は約1000nitsです。バッテリー容量は不明ですが、公称の連続使用時間は1~1.5時間です。
エンターテインメントを楽しむことを主目的としたワイヤードなARグラスは光学プリズムを用いて映像を眼に届けますが、MiRZA XRD-T01はLetinAR社が開発した薄型ミラーバー方式の光学モジュールを採用しています。そのためレンズの中央ちかくに、何本ものスリットのようなミラーが入っています。
この方式のメリットは、薄型化・軽量化が目指せることと、映像反射によるロスを低減できることから、フレーム上部に収まるディスプレイの輝度を抑えながらも明瞭な映像が得られることが挙げられます。
フレーム中央に備わっているのは、1920×1080ピクセルの解像度をもつRGBカメラ。
左右にはそれぞれモノクロカメラが組み込まれています。これらのカメラは、クアルコムが提供しているXR開発プラットフォーム”Snapdragon Spaces”を用いることで、別途開発するアプリでの利用が可能です。なおカメラ使用時はタリーランプ代わりのLEDが点灯。撮影していることが周囲に伝わるよう設計されています。
テンプル部分にはマイク計4機、スピーカー計2機と、1機のタッチセンサーが組み込まれています。他にも装着状態を認識するための近接センサー、ディスプレイの輝度調整を行う照度センサー、6DoFを実現する空間認識センサーが入っています。
テンプルの末端部にはUSB Type-Cポートがありますが、これは充電/給電用のもの。モバイルバッテリーを接続することで動作時間を伸ばせるそうです。
ハンドトラッキングもサポート
興味深いのは、ARベースのARグラスでありながらハンドトラッキングによる操作もサポートしていること。表示するアプリ・ウィンドウの選択など、基本的な操作はスマートフォンにインストールしたMiRZAアプリで行いますが、ハンドトラッキング対応アプリを選択すれば、以後はワイヤレス接続したスマートフォンをポケットに入れた状態で操作できます。
つまり、MiRZA XRD-T01はハンズフリーで操作できるXRデバイスとなるわけです。
XR需要の高まりを実感できる展示が集まった、「Unity産業DXカンファレンス2024」レポでもご紹介しましたが、NTTコノキューデバイスはMiRZA XRD-T01を工場などの現場における遠隔作業支援デバイスとしても捉えています。MiRZA XRD-T01のカメラで捉えた現場の状況をオフィスに送り、作業手順を映し出して効率化を図るといった使い方も可能です。
会話をリアルタイム翻訳するアプリにも対応
会話をリアルタイムで翻訳し、字幕として表示できるXrai Glassアプリにも対応します。字幕表示のフォントサイズや、字幕が表示される位置や色の調整が可能。またMiRZA XRD-T01、スマートフォン、両デバイスのマイクが同時に利用できるため、騒がしい場所でも会話相手の口元にスマートフォンを持っていくことで、話している内容を着実に聞き取り、翻訳文を見ることができます。
他にも複数のブラウザウィンドウを並べて表示させたり、3Dモデルを自由な角度から見ることができるアプリなど、現時点で12社のソリューションパートナー、2社の事例創出パートナーと、UIやMiRZA XRD-T01を活用したサービスなどの開発を進めているとのことでした。
コンシューマー向けのMiRZAも2025年に発売予定
バッテリーを内蔵していることを考慮すれば、約125gという重量は軽いと感じます。しかし稼働時間が1~1.5時間というのは短い。この点においてNTTコノキューデバイスは、初号機となるMiRZA XRD-T01を法人/開発者向けと位置づけています。筆者の知る限り、現時点においてワイヤレスARグラスの市販機が他に存在していない以上、MiRZA XRD-T01から新しいビジネスの芽が創出されていくのでしょう。
そしてNTTコノキューデバイスは、ARベースのARグラスを世の中に広く浸透させるべく、二号機の開発も進めているといいます。
希望小売価格が24万8000円となるMiRZA XRD-T01に対して、2号機は一般ユーザーでも購入しやすい価格帯を目指しながら、メガネ型デバイスであることも追求していくとのこと。NTTコノキューデバイス 代表取締役社長 堀清敬氏にPCとの接続や、SteamVRへの対応は考えていくのかと尋ねたところ、「技術的には可能ですが、没入感が強いゴーグル型デバイスの対抗馬となるものではなく、現実もスムースに体験していただく製品を作っていく」といった返答をいただきました。
2号機の登場にも期待したい国産ARグラス「MiRZA XRD-T01」、まずは法人・開発者向けのエコシステムが構築できるのか期待したいところです。