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業界動向 2025.03.17

Meta、ARグラスの大幅なコスト削減の見通しに期待 その意外な突破口

Metaの開発中ARグラスプロトタイプ「Orion」で使用されている炭化ケイ素製レンズのコストが大幅に削減できる道筋が見えてきたようです。MetaのXR部門Reality Labsのチームは「電気自動車産業による原材料の生産能力拡大と製造技術の進歩により、今後数年でコスト削減が進む可能性がある」と明らかにしています。

Metaは2024年9月の開発者会議Meta Connectにて、開発中のARグラス「Orion」を発表しました。Orionはプロトタイプではありますが、視野角70度など現時点で展開されているあらゆるARグラスの先を行く、非常に高性能かつメガネの形状を実現。製品化を見据えたデバイスです。

Orionの高い性能を実現しているキーコンポーネントの1つが炭化ケイ素製ウェーブガイドレンズです。Metaはブログで、この次世代レンズのコスト削減について言及しました。

レンズの原材料である炭化ケイ素は従来、その高い電力効率と低い発熱性から、主に高出力チップの基板として使用されてきました。しかし、Metaが注目しているのはその高い屈折率です。通常のガラス製導波路レンズの屈折率が約1.8であるのに対し、炭化ケイ素製ウェーブガイドレンズは2.7と約50%高い屈折率を持っています。この高い屈折率により、ARグラスは広い視野角(FOV)を実現できます。

光学科学者のPasqual Rivera氏は「従来のグラスを装着すると、虹色の映り込みが非常に気になり、AR表示に集中できなかった。まるでディスコにいるようだった」といいます。一方、炭化ケイ素製導波路レンズを使用したグラスを装着すると「静かなクラシック音楽を聴いているような感覚で、AR体験に集中できた」と述べています。

ARグラスにおいて、炭化ケイ素製ウェーブガイドレンズが重要な理由はいくつかあります。まず、高い屈折率により、複数のプレートを重ねる必要がなくなり、デバイスの薄型化・軽量化が可能になります。以前は視野角を確保するために3枚のガラス製ウェーブガイドレンズを重ねる必要がありましたが、炭化ケイ素製ウェーブガイドレンズでは1枚で済みます。

また、ゴースト画像(画像の二重表示)や虹色の映り込みといった光学的な問題も解決できます。さらに、炭化ケイ素製ウェーブガイドレンズは熱伝導性に優れているため、デバイスの冷却面でも利点があります。

一方で、炭化ケイ素製ウェーブガイドレンズは製造が難しく、コストが高いという課題がありました。炭化ケイ素はダイヤモンド工具でしか切削や研磨ができないほど硬い材料であるため、非常に高いコストがかかるのです。しかし最近、このコスト削減への道筋が見えてきています。

MetaのXR部門Reality LabsのARウェーブガイド技術のリーダーであるGiuseppe Calafiore氏によると、電気自動車(EV)産業の成長により炭化ケイ素の供給能力が大幅に拡大しました。同氏は「Orionを開発していた当時には存在しなかった供給過剰の状況です。供給が多く需要が少ないため、コストが下がり始めています」と述べています。

ただしEVに使用される炭化ケイ素はそのままレンズに流用することはできません。しかし、同じくReality LabsのリサーチサイエンスディレクターであるBarry Silverstein氏は、「サプライヤーは光学グレードの炭化ケイ素を製造する新たな機会に非常に興奮しています」と述べています。

ウェハーのサイズも重要で、「ウェハーが大きいほどコストは下がりますが、プロセスの複雑さも増します。それでも、サプライヤーは4インチから8インチのウェハーに移行し、一部は12インチウェハーの前駆体に取り組んでいます。これにより、ARグラスの生産量は指数関数的に増加するでしょう」と同氏は説明しています。

Metaは2030年までに消費者向けARグラスの製造を目指しており、価格は「スマートフォンやラップトップの領域」になることを期待しています。炭化ケイ素製ウェーブガイドレンズのコスト削減は、その実現に向けた重要なステップとなると考えられます。

(参考)MetaRoad to VR

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