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業界動向 2023.01.10

全面的にリニューアルされた「Magic Leap 2」は法人向け光学シースルー型AR機のスタンダードになりうる

2022年12月7日に都内で行われた「Magic Leap 2」の体験レポートをお届けする。

初代「Magic Leap 1」の発売から4年が経過した。その間、同社も経営面での変化を経て、海外では2022年秋から「Magic Leap 2」が販売を開始している。

残念ながら、日本での発売は未定だ。「来春には」とされているが、正式なところは、価格も含め未公表だ。だが、実機で動作をチェックすることができたので、そのインプレッションをお伝えしたい。

一言で言えば、「法人向け光学シースルー型AR機のスタンダード」になり得るデバイスだ、というのが筆者の感触である。


(Magic Leap 2。左にあるのがCompute Packで、HMDの中にあるのがコントローラー。 撮影:西田宗千佳、以下同じ)

サービス設計は「完全な法人向け」にリニューアル

まず、Magic Leap 1(以下「ML1」)とMagic Leap 2(以下「ML2」)の大きな違いを述べておきたい。ML2には「アプリストア」に類するものがない。これは、個人市場向けも想定していたML1とは異なる点だ。

イベントなどでコンシューマが使うことも想定はしているが、他社製品のように、コンシューマが自分でアプリを入れ、カスタマイズして使うことは想定していない。アプリはそれぞれの業務に合わせて開発し、導入して使うのが基本だ。完全に法人利用を想定して作られている。

ハードウェア構成は変わらないが、デザイン・機能を刷新

サービスの位置付けが変わったのはわかった。では、ハードはどう変化したのだろうか?

ハードウェア構成は変わっていないが、デザインは一新され、機能もかなり変化している。とくにCompute Packの性能が飛躍的に高まっていて、かなり精細なデータを処理できる。


(Compute Pack。ML1と同じく肩にかけるような構造だが、中身は新アーキテクチャだ)

ハードウェアは「HMD(ヘッドマウントディスプレイ)+Compute Pack(演算部)」という構成で、ML1時代から変わっていない。しかし大きいのは、ML1のCompute PackがARMコアベースのSoC(NVIDIA製)を採用したのに対し、ML2はカスタムSoC(AMD製)に変えた点だ。

アーキテクチャはZen 2ベースなので、Steam Deck(携帯型ゲーミングPC)に搭載されたプロセッサに近い規模だと考えられる。メインメモリーも8GBから16GBに倍増している。

OSとVRAMの領域があるとはいえ、メインメモリーが16GBに増え、処理性能も倍以上に拡大したと考えれば、相当に規模の大きなアプリも作れるようになった、と考えていい。その分、Compute Packから派手に排熱が起き、消費電力も増える可能性は高いが、性能とのトレードオフと言える。


(Compute Packはより高い排熱性能が必要になったため、空冷用のダクトが目立つ)

なお、OSは同じAndroidベースだが、フルパワーを出すには、ML2向けにビルドしたほうがいい。コンシューマ向けだと面倒なことになるが、法人向けであれば問題はないだろう。

HMDが装着しやすくなり、コントローラはカメラ・処理系を内蔵する設計に

HMDはデザインが変わり、よりかけやすくなった。後頭部にしっかり奥まで被る必要はなくなっている。一方で、視力矯正には日常使っているメガネではなく、アダプター式のレンズを併用する形になっている。


(HMD部。重量は約260gと軽く、付けやすい)


(視力矯正にはアダプター式レンズを使う)


(フロントにはインサイド・アウト用のカメラと距離センサー、RGBカメラなどを搭載)


(内側から見ると、視野の下に片目2つずつの「アイトラックセンサー」があるのがわかる)

コントローラーも新しいものになった。

トラックパッド内蔵である点は同じだが、コントローラー内にインサイド・アウトでの位置認識によるカメラが内蔵され、認識精度がより高まっている。奇しくも、同時期に発売された「Meta Quest Pro」でもコントローラーにカメラと処理系を内蔵するアプローチを採用している。コストをかけられる機器ではこの設計がトレンドになっていくのかもしれない。


(コントローラー。カメラを内蔵し、コントローラー自体でインサイド・アウト方式によって位置を把握する)

HMDは縦方向に視野を大きく拡大、実用性アップ

もっとも変化が大きいのは、やはり、HMD部の構造だ。ML1もML2も、いわゆる光学シースルー型ディスプレイとなっている。ビデオシースルーの方が空間とCGを自然に重ねることはできるものの、光学シースルーには「バッテリー消費が少なくなる」「外界が常に遅延ゼロで見えるので安全」という利点がある。法人向けを狙うML2には、光学シースルーの方が向いている。


(HMD部をつけてみるとこのような印象に。ML1も印象的なデザインだったが、ML2は別方向に振った感じのデザインだ)

従来との違いは2つに集約できる。

1つ目は視野角(FoV: Field of View)が広い、ということ。従来は横長の視野だったが、ML2では縦長に近い視野になった。公式サイトのスペックシートには「44.6 x 53.6 x 70°」と表記されている。ARディスプレイのスペックは「1440 x 1760ピクセル/120Hz」とされており、この点からも、視野が縦方向に長いのがわかる。

次に、首を上下に動かす頻度が減る、ということだ。ML1にしろ、マイクロソフトの「HoloLens」シリーズにしろ、AR系デバイスのFoVは、VR系のそれに比べて狭い。ML2も「視野全体を覆う」ところまではいかず、「視野中央を覆う」感じであることに違いはない。ただ、ML1に比べて縦方向の視野が倍くらいに広がったので、自然に見ているだけでかなりの範囲が見える。首を上下に動かす頻度が劇的に減るので、使い勝手は大きく異なる。

「Dimming」によって光学式の欠点をカバー

もう1つの違いは「Dimming(減光)」の機能を搭載したことだ。これは光学式シースルーだからこそ重要な要素になる。

光学式シースルー方式の欠点は、「映像の裏に背景が透けてしまうこと」だ。黒は透明として扱われるし、白のように強い光でも、完全に外光をシャットアウトするのは難しい。CGをよりはっきり見せるには、なんらかの工夫が必要になるわけだ。

そこでML2が搭載したのが「Dimming」の仕組みである。

やっていることは意外とシンプルだ。目の部分に「透過しづらい部分」のシルエットを描くためのモノクロ液晶シャッターを搭載し、表示する画像に合わせて切り替えていくのだ。遮蔽物のない状態よりも外光が目に届く量は減るが、用途を考えればさほど問題にならない。

例えば、動画や文書などの注視する領域があると、その領域の「外」を減光(暗く)することで、注視領域はより読みやすくなる。逆に物体を表示する場合には、その物体のシルエットに合わせて黒い領域を作ると、背景が透けることなく物体が見え、より自然さが増す

次の写真をよく見ていただきたい。目の部分に、なんとなく「黒いシルエット」が見えていないだろうか。これがDimmingされた領域だ。


(映像を見ている側からは、物体があまり透けない感じではっきり見える)

この機能があることによって、光学シースルー型ARの表現をより自然なものにしているのが、ML2最大の特徴と言えるだろう。

法人向け光学シースルー型AR機としてはベスト

結論として、ML2は「法人向けとしてはとてもいい」デバイスだと思う。HoloLens 2の最も大きな競合でもあるし、「時間が経って成長した、HoloLens 2のニーズを引き継ぐもの」でもある。一方、冒頭で述べたように、開発ができないコンシューマが扱う製品ではないので、マスに売れることはないだろう。

課題があるとすれば「バッテリー動作時間」だが、TDP(熱設計電力)は15W近傍と思われるので、45Wくらいの出力があるUSB Type-Cの電源と長めのケーブルを併用すれば、カバーできるだろう。

あとは価格だろうか。日本での価格は未定だが、アメリカでは3,299ドルから。この辺も含め「法人仕様」ではある。

法人向け問い合わせ窓口(mljapancontact (at) magicleap.com)はすでに用意されている。気になる方は、上記のアドレスまでコンタクトしてみていただきたい。

(編注:迷惑メール防止のため、半角アットマークを(at)に置き換えています)

(執筆:西田宗千佳、編集:笠井康平)


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