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企業動向 2025.10.18

なぜ関西万博『モンスターハンターブリッジ』は世界を驚かせたのか? KDDIが明かす専用ARデバイス開発の裏側【XR Kaigi Hub in 大阪レポート】

2025年9月11日・12日に大阪で開催された、国内最大級のXRカンファレンス「XR Kaigi」の姉妹イベント「XR Kaigi Hub in 大阪」。本稿では、そこで
行われたKDDI株式会社の王健氏によるセッション「没入感を極める!大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオン『モンスターハンター ブリッジ』専用ARデバイスの秘話」の模様をレポートする。

大阪・関西万博で大きな注目を集める『モンスターハンター ブリッジ』。その圧倒的な没入体験は、いかにして生み出されたのか。体験の核となる専用ARデバイスの開発を率いた王氏が、その裏側を克明に語った。

登壇者紹介:王 健(おう けん)氏

KDDI株式会社 先端技術研究本部 応用技術研究2部 スマートグラスリーダー。2014年にKDDIへ入社後、XRおよびスマートグラス領域の事業開発を牽引。2018年からはスマートグラスのプロジェクトを立ち上げ、コンシューマ向けARグラスの販売やBtoBソリューション提供を推進してきた。『モンスターハンター ブリッジ』プロジェクトでは、専用ARデバイスの統括・企画を担当した。

まるで”モンハンの世界”そのもの 最先端技術で実現したイマーシブ体験

セッションの冒頭、王氏は自身がこれまでに約10回『モンスターハンター ブリッジ』を体験したことに触れ、「本当に素晴らしいコンテンツです。今日のプレゼンを通じて、少しでもこの魅力を皆さんに伝えていければなと思ってます」と語り、その魅力を解説した。

『モンスターハンター ブリッジ』は、大阪・関西万博の会場内、大阪ヘルスケアパビリオンにある「XD HALL」で体験できたコンテンツだ。このXD HALL自体が、かつてない没入体験を生み出すための巨大な装置となっていた。

直径約12m、高さ5mの円筒形シアターの内部は、側面と天面がすべてLEDディスプレイで覆われ、床面には6台の4Kレーザープロジェクターによって映像が投影される。これにより、体験者の視界360度すべてが『モンスターハンター』の世界観を映し出す、完全な映像空間が広がる。王氏は「現地で体験すると、非常に高精細で高品質な映像となります。これだけで、モンスターハンターの世界に入れると信じています」とそのクオリティを強調する。

驚くべきは、その音響設計だ。シアターの壁面と天井裏には、合計97台のスピーカーが配置され、89.1chという異次元の立体音響システムを構築している。さらに、壁面のLEDディスプレイには無数の小さな穴が開けられており、スピーカーからの音が直接体験者に届く「音響透過型」の構造を採用。これにより、映像と音が完全に一体化した、臨場感あふれるサウンドが体験者を包み込む。

この徹底した世界観へのこだわりは、細部にまで及ぶ。体験者が出入りするための扉は、映像との一体感を損なわないよう専用設計されており、閉じたときにはその存在にほとんど気づかないほど隙間が最小化されている。また、床には振動装置が仕込まれており、モンスターの咆哮や足音に合わせて振動が発生する。視覚と聴覚だけでなく、触覚にも訴えかける演出が、体験者の没入感を高めるのである。

「壁からリオレウスが!」体験を支える専用ARデバイス

この360度シアターだけでも十分に圧倒的だが、『モンスターハンター ブリッジ』の真髄は、ここに専用ARデバイスが加わることで発揮される。王氏が開発を率いたこのデバイスを装着することで、体験者は現実とバーチャルの境界が溶け合うXR体験へと足を踏み入れることになる。

今回開発されたのは、一体型のARデバイスだ。ユーザー体験と運営面を考慮し、最終的にこの形に落ち着いたという。その最大の特徴は、対角105度という、市販のARグラスを遥かに凌駕する超広視野角ディスプレイである。これにより、視界いっぱいにモンスターが迫るような体験が可能になる。


このデバイスが可能にする新たな体験は、多岐にわたる。

一つは、360度の壁面映像との連動だ。体験者が壁に映し出されたモンスターに向かって手を振ると、それに反応して目の前にARのモンスターが出現する。「壁側のモンスターが突然目の前に出てくるという体験も、たくさんの方から反響がありました」と王氏は語る。

そして、多くの体験者が感動の声を上げるのが、人気キャラクター「アイルー」との触れ合いだ。デバイスを通して現れるアイルーは、手を伸ばせば触れられそうなほどの距離に”実在”する。体験者が頭を撫でるような仕草をすると、アイルーが甘えた声で鳴いたり、じゃれついてきたりと、愛らしい反応を返してくれるのだ。王氏は「私はずっとモンハンをやってますけれども、多分モンハン初めての方でも楽しめるんではないかなと思っております」とその魅力を語る。

さらに、この体験はマルチプレイに対応しており、友人や家族と一緒に楽しめる点も大きい。仲間が放った攻撃の光が自分の隣で炸裂したり、モンスターの攻撃で友人が気絶したりする様子がAR上で共有され、一緒にモンスターと戦っている感覚を楽しめるのだ。

不可能への挑戦から生まれた開発秘話

このARデバイスは、いかにして生まれたのか。

プロジェクトは、カプコンからの「コンテンツを最大限生かせるデバイスを作れないか」という要望から始まった。王氏は、約3年にわたるカプコンとの協業を振り返り、「コンテンツ作りへのレベルの高さと、本当にディテールまでこだわる要求の高さを感じておりました」と語る。

その中でも、開発チームにとって最大の挑戦となったのが、「リアル並みの100度、視野角100度以上のARではできないか」というカプコンからの要望だった。

当時、市販のARグラスの視野角は40度から50度が主流だった。Magic Leap 2ですら70度であり、100度を超えるARデバイスは市場に存在しなかった。王氏は「正直本当にあの頃は『これ本当にできるかな』と不安でした」と、当時の心境を率直に明かした。

開発チームは、アメリカ、中国、韓国など、世界中のパートナー企業と連携し、実現可能な方式を模索。ハーフミラーを用いたバイザー型など、様々な可能性を検討した結果、最終的にフリーフォーム式の光学系を採用したヘルメット型のデバイスへとたどり着く。まだ粗削りな試作品をカプコンに体験してもらい、方向性を確立。そこから何度も設計と試作を繰り返し、ついに105度という驚異的な視野角を実現した。

次なる課題は、「測位」だった。

ARデバイスが自身の位置と向きを正確に把握するためには、周囲の環境をカメラで認識する必要がある。しかし、『モンスターハンター ブリッジ』の舞台となる360度シアターは、映像演出によって光の環境が常に激しく変化するため、一般的な可視光カメラを使った自己位置推定(Inside-Out方式)は利用できない。天井に外部カメラを設置する方式(Outside-In方式)も検討されたが、「モンスターハンターのせっかく進めている世界観を壊してしまう」という懸念から、採用は見送られた。

そこでKDDIが独自に開発したのが、赤外線を用いた世界初の測位システムだ。

天井のプロジェクター投射口などに、肉眼では見えない赤外線LEDマーカーを複数設置。ARデバイスに搭載した専用の赤外線カメラでこれらのマーカーを捉え、その位置関係から三角測量の原理で自身の正確な位置を割り出すという仕組みだ。これにより、シアターの美しい世界観を一切損なうことなく、極めて高精度なトラッキングを実現した。王氏は「これに関しては本当にARデバイスを使った技術としては世界初となっていると思います」と胸を張る。

音響面でも、困難な要求が突きつけられた。89.1chの大音響の中でも、ARデバイスから発せられる効果音がクリアに聞こえなければならない。市販のスピーカーでは出力が足りず、全く歯が立たない。そこで、国内のイヤホン開発専門業者と協力し、サウンドドライバーの選定から行い、大音量に負けない特注のオープン型スピーカーをいちから開発した。

しかし、課題はそれだけでは終わらなかった。子どもから大人まで、国籍も様々な来場者の耳の位置は一人ひとり異なる。当初の設計では、最適な位置で音を聞けない体験者が出てしまうことが判明。これを受け、開発チームは試行錯誤の末、上下にスライドして位置を調整できる可動式のイヤーパッドを考案。「時間ギリギリまで粘ってこちらの最終仕様に決まりました」という言葉から、その苦労が伺える。

その他にも、暗いシーンでもジェスチャーを認識できるよう赤外線を利用したToFセンサーを搭載したり、誤操作を防ぐために電源ボタンをあえて押しにくい構造にしたりと、最高の体験を提供するための細やかな工夫が随所に凝らされている。不可能とも思える高い要求に一つひとつ応え続けた開発チームの執念が、この唯一無二のデバイスを結実させたのだ。

Oculus創業者も来訪! 世界が注目する『モンハンXR』の衝撃

こうした苦労の末に完成した『モンスターハンター ブリッジ』と専用ARデバイスは、万博開幕後、体験者から絶賛の声が相次いでいる。X(旧Twitter)には「感動した」といった投稿が溢れ、その革新性は業界関係者からも高く評価されている。

その評価は、国内に留まらない。2025年6月、アメリカで開催された世界最大級のXRイベント「AWE USA 2025」にカプコンと共同で出展。Qualcomm社の基調講演で紹介されたこともあり、ブースには長蛇の列ができたという。特にアイルーと触れ合えるデモが人気を博し「このARデバイスが欲しい」といった声が多数寄せられたという。ブースにはOculus創業者のパルマー・ラッキー氏も訪れるなど、世界のXRシーンに大きなインパクトを与えた。


また、チャンネル登録者数174万人を誇る人気YouTuber「ひみつ基地。」が体験レポート動画を公開。体験者視点での分かりやすい紹介が話題を呼んだ。

KDDI Tech note:https://tech-note.kddi.com/n/n317658c7873e

未来の体験への招待状

セッションの最後に、王氏は『モンスターハンター ブリッジ』が、ARデバイス、360度シアター、イマーシブサウンドといった様々な技術を融合させた「世界最先端のイマーシブ体験」であると改めて強調した。カプコンの妥協なきコンテンツ創造への情熱と、KDDIの技術的挑戦が見事に結実した『モンスターハンター ブリッジ』。それは単なるアトラクションではなく、XRがエンターテインメントの未来をどう変えていくかを示す、鮮烈なショーケースとなった。

国内最大級のカンファレンス 「XR Kaigi 2025」が東京で開催!

1年の締めくくりとして、国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京ポートシティ竹芝で開催されます。バーチャル領域の担い手がノウハウや技術をシェアし、繋がり、高め合うことを目的とした本イベントに、ぜひご期待ください。

  • hイベント名: XR Kaigi 2025
  • 開催日程: 2025年12月1日(月)~3日(水)
  • 会場: 東京ポートシティ竹芝(ポートホール・東京都立産業貿易センター浜松町館)
  • 公式サイト: https://www.xrkaigi.com/

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