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業界動向 2025.09.10

「XR導入はマストではない」からどう進める? ホロラボ、エスユーエス、積木製作が語る製造業DXの成功ポイント【XR Kaigi in 福岡レポート】

2025年9月2日、国内最大級のXRカンファレンス「XR Kaigi」の姉妹イベントである「XR Kaigi Hub in 福岡」が開催された。本記事では、その中で行われたパネルディスカッション「事例から語る!製造業におけるXR活用のポイント」の模様をレポートする。

本セッションでは、XRの産業活用を多角的に支援する3社が登壇。株式会社エスユーエスの圓城氏、株式会社ホロラボの岩崎氏、株式会社積木製作の下川氏が、それぞれの知見から製造業におけるXR活用のリアルな現状と未来を語り合った。本稿では、彼らが現場で見てきたポテンシャル、乗り越えるべき「壁」、そして導入成功の鍵を紐解いていく。

話者紹介


圓城 氏(株式会社エスユーエス): 最先端領域事業開発担当。エンジニア派遣を主力事業とする同社にて、XRやAI領域の新規事業を牽引。人材ビジネスとXRのシナジーを追求する。

岩崎 満 氏(株式会社ホロラボ): 取締役 事業推進部。MRデバイス「HoloLens」の黎明期からアプリケーション開発を手掛ける同社にて、現在は営業組織を統括。豊富な現場経験を持つ。

下川 氏(株式会社積木製作): 元々建築事務所からスタートし、建築CGの知見を活かしてXR開発へ。特にVR安全教育コンテンツの分野で多くの実績を誇る。

XR活用を支援する登壇3社の紹介

【エスユーエス】「派遣×XR」のシナジーで人材育成から支援

最初に登壇したのは、株式会社エスユーエス。同社は従業員1400名のうち9割がエンジニアであり、全国約500社の製造業へエンジニアを派遣する人材ビジネスを主力としている。圓城氏は、「我々はXRが本業ではない会社」としながらも、5年ほど前から顧客のAIやXRに関する相談が増え、新規事業として立ち上げたと語る。同社のユニークな点は、人材ビジネスとXR事業のシナジーにあるという。

「これからXRの技術活用が進むと、自社のプロジェクトでエンジニアを育てられる状況でなければいけません。そういったフェーズが来た時のために、我々自身がグループ会社としてXRの教育アカデミーを持っています。ここで育成したエンジニアを派遣していくのが我々のビジネスモデルの1つです」

【ホロラボ】HoloLens黎明期から培った技術で現場の課題に挑む

続いて登壇した株式会社ホロラボは、Microsoft社のMRデバイス「HoloLens」の登場と共に設立された、まさにMR開発のパイオニアだ。現在はHoloLensに限らず、Meta QuestやPicoといった多様なデバイスに対応し、XRに関する幅広い開発を手掛けている。岩崎氏は、半導体メーカーやオフィス家具メーカーでの営業経験を経てホロラボに参画し、現在は営業部門を統括している。同社が製造業向けに提供する代表的なソリューションを2つ紹介する。

1つ目は、株式会社アイシンと共同開発したMRアプリケーション「TechniCapture」である。これは、製造ラインにおける新人教育の課題を解決するものだ。

「従来はストップウォッチでタイムを測りながら『どこが遅れているのか分からない』という曖昧な指導しかできませんでした。それを、Questで熟練工の動きをモーションキャプチャーし、新人さんが重ね合わせて見ることで、どの工程がどう遅れているのかが視覚的に分かるようになります」

感覚的な指導から、データに基づいた具体的なフィードバックへ。熟練工の暗黙知を可視化し、効率的な技術伝承を実現する好例である。

2つ目は、工場などの大規模空間を3Dスキャンして得られる「点群データ」の活用だ。点群データは非常に重く、扱えるPCやソフト、人材が限られるという課題があった。

「僕らは(点群データを)高速で圧縮して、95%ぐらいまで軽量化できるという技術を持っています。これを使うことで、限られた人しか扱えなかった工場データを、誰もが使えるようにしています」

この技術は「DAWN」としてパッケージ化されており、XR空間上でのデジタルツイン活用を前進させるものとして注目されている。

【積木製作】建築CGパースのリアル表現がVR安全教育へ

最後に登壇したのが、株式会社積木製作。同社は元々建築事務所としてスタートし、建築CG制作を得意としていた。その知見を活かし、約10年前のOculus DK1の登場を機にXR業界へ参入したベテラン企業だ。

下川氏は、現在では人員の8割がXR関連に従事していると語る。同社の主力となっているのが、トレーニング系のXRコンテンツ、特に「安全体感VRトレーニング」である。

「我々が一番最初に(XRで)お仕事をいただいたのは、製造業の会社様で、『高所から落ちるという事故をVRで擬似体験できないか』というお話でした。たまたまそのコンテンツが色々なメディアに取り上げていただいたところから、我々の開発が進んできました」

「指を落とす」「車に轢かれる」「高所から落ちる」といった、現実では決して体験したくない労働災害を、バーチャル空間で再現する。この衝撃的な体験が、座学だけでは得られない高い安全意識を醸成するとして、多くの企業で導入が進んでいる。現在では60種類以上のコンテンツを提供しており、同社の技術力と実績を物語っている。

製造業におけるXR活用のポテンシャル

各社は製造業におけるXRのポテンシャルをどのように見ているのだろうか。ホロラボの岩崎氏は、「現場のDX化を進められること」がXR技術最大の強みだと断言する。

「職人さんの技術というのは、なかなかデジタル化できなかった現場の課題だったと思います。紙であればOCRのようなものでデジタル化できますが、XRの技術を使うことで、今まで口や背中でしか伝えられなかったことをデータ化できるのは非常に有用です」

また、エスユーエスの圓城氏は、「(体験しなければ)気づかなかった価値」にこそ、XRの大きなポテンシャルが眠っていると語る。

「バーチャルでできるのは、時間と場所を選ばない以外に、ストーリーを体験させてくれることなんですね。ガス漏れの危険性を体験させるVRを作ったのですが、教科書では分かっているのに、バーチャル空間で現場にポンと置かれると、みんな吸い寄せられるように窓を開けないんです。『これが現場で人が死ぬんですよ』ということをお客様自身も気づいていなかった。そういった、100回に1回しか起こらない事故のようなものを100回連続で起こすことができるので、体に覚えさせることができるのです」

XR導入を阻む「壁」とその乗り越え方

圓城氏は、XR導入の最も根本的な課題として「XRはマストではないので代替策もある」という事実を挙げた。そもそもXRの導入には関係各所の深い理解が不可欠となるが、それが最初の大きな壁となる。

また大きなネックとなるのが、セキュリティ要件だ。企業のネットワークに外部デバイスを接続することに対し、情報システム部門は当然ながら慎重になる。

「最近その壁を乗り越えるためにどうしたらいいかと考えたのですが、情シス担当者の横にいる人事の方に導入してもらおうと思っています。人事の方が対応してくれるとなぜか話が円滑に進み、壁を乗り越えられたりすることがあります」(圓城氏)

安全教育や研修といった文脈で人事部を巻き込み、セキュリティという技術的な課題を組織的な協力関係で乗り越えるといった解決策もあるのだ。

また、ホロラボの岩崎氏は、コンテンツ実装以前の、より基本的な課題を指摘する。

「海外製のヘッドセットが多いので、まずそもそも電源のつけ方が分からないとか、『ハンドトラッキングって何?』みたいなところからのサポートが多いです。日本市場で展開していくのであればやはり電話サポートは必須だなというのが一番大きな課題です」

さらに岩崎氏は、導入推進担当者と、実際に現場で使う作業員との間に生じる理解度のギャップにも言及した。担当者は熱意を持って導入するが、現場の作業員からすると、よく分からない新しいデバイスでしかない。この温度差を埋め、誰もが面倒を見なくても使える状態にすることが、本格的な普及への課題だと語った。

導入成功の鍵は「決済者・PoC・社内起業家」

数々の壁を乗り越え、XR導入を成功に導くためには何が必要なのか。セッションの最後に、3名の登壇者がそれぞれの視点から成功の鍵を語った。

積木製作の下川氏は、まず「決済者を巻き込むこと」の重要性を強調する。現場の担当者がどれだけ熱意を持っていても、部長や役員といった決済者がその価値を直接体験し、理解しなければプロジェクトは前に進まない。「現場の熱心な一般の社員さんがイベントで良いねと言っていただいても、部長さんとか上の人たちが見てくれないと話が上がらない」という言葉通り、トップ層の理解こそが、予算獲得と全社的な協力体制を築く第一歩となる。

続いてホロラボの岩崎氏は、その決済者を説得するための具体的な手段として「PoC(概念実証)」を挙げた。XRはあくまで目的達成の手段であり、PoCでどれぐらいの費用対効果があるかを具体的な数値で示すことが不可欠だ。データに基づいた提案が、上層部の意思決定を後押しする。

そしてエスユーエスの圓城氏は、上記2点に加え、プロジェクトを牽引する「人」の存在が成功を左右すると説く。強い推進力と責任感を持った、社内起業家のような熱意ある担当者が不可欠であり、しっかり責任を与えたほうがよいと語る。経営層がそうした人材を見出し、適切な権限を与えることが、プロジェクトを成功に導くエンジンとなるのだろう。

競合より共闘、横のつながりを活かしてDX化を進めよ

会場からは、現場が求めるデバイスのスペックとコストに関する質問が挙がった。これに対し岩崎氏は、「Meta Quest 2ぐらいの性能でバッテリーが8時間ぐらい、値段が5万円ぐらい」と話す。下川氏も、防爆(※電気機器の火花や高温などによる火災・爆発発生を防ぐこと)対応といったハイエンドな要求もあるとしつつ、やはりコストとのバランスが重要であると補足した。

最後に、自身も社内推進者の立場にあるという参加者から、「壁を乗り越えるためのマインドやアドバイス」を求める質問もあった。圓城氏は「孤独な戦いになることもあると思うが、横の繋がりは大事。競合というより共闘する仲間を増やしていくのが一番良い」と語り、下川氏は「上手い人はPRが上手い。プレスリリースを出したり、メディアに取り上げてもらったり、社内への発信の仕方で認められるスピードは上がる」と、社内外への情報発信の重要性を説いた。

製造業におけるXR活用は、現場の課題を解決する実践的なツールとして定着しつつある。本セッションで語られた知見は、XR導入を目指す企業にとって、貴重な道標となるだろう。

次回の「XR Kaigi Hub」は大阪!

「XR Kaigi Hub」の熱気は、次なる都市へ。2025年9月11日、12日の2日間にわたり、eスタジアムなんば本店にて「XR Kaigi Hub in 大阪」が開催されます。関西のXR・AI・メタバースに関心のある皆様、この貴重な機会をお見逃しなく。

XR Kaigi Hub in 大阪
開催日程: 2025年9月11日(木)・12日(金)
会場: eスタジアムなんば本店
公式サイト: https://hubinosaka.peatix.com/view

国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京で開催!

そして、年間の総仕上げとして、国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京ポートシティ竹芝で開催されます。バーチャル領域の担い手がノウハウや技術をシェアし、繋がり、高め合うことを目的とした本イベントに、ぜひご期待ください。

XR Kaigi 2025
開催日程: 2025年12月1日(月)〜3日(水)
会場: 東京ポートシティ竹芝
公式サイト: https://xrkaigi2025.studio.site/


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