「RICOH THETA」が2013年に発売されて以降、同シリーズが牽引役となって多くのユーザーを獲得してきた360度カメラ。ワンショットでカメラの上下左右360度の静止画/動画を簡単に記録できます。さらに、360度カメラで撮影したコンテンツをVRヘッドセットで見ると、撮影当時の場所を追体験している様な感覚を楽しめます。昨今では多くのウェブブラウザやSNSアプリが360度に対応しており、VRヘッドセットを使わなくてもスマートフォンやPCからコンテンツをグリグリと360度動かして視聴することも可能です。
そんなTHETAの登場から5年。今ではリコー以外にもサムスン、GoPro、ガーミンなどの大手メーカーから360度カメラが発売されています。さらには360度カメラのスタートアップも複数登場しており、本記事でレビューする「Insta360 ONE X」を開発するShenzhen Arashi Visionも、360度カメラスタートアップを代表する1社です。
Insta360シリーズ最新機種の「Insta360 ONE X」は、昨年2017年に発売された「Insta360 ONE」の後継機。同社の説明によれば360度カメラであり、アクションカメラでもあるという製品で、価格は税込52,300円。強力な手ブレ補正と最大5.7Kの360度動画、1,800万画素の360度静止画が特徴です。
「Insta360 ONE X」を開封
パッケージには「360度アクションカメラ」と大きく印字されています。
パッケージの裏面には、手ブレ補正機能(「FlowState」)を活かした利用シーンが提案されています。
防水防塵は非対応。ここは注意したい点です。
ケーブル(Lightning、USB Type-B、USB Type-C、充電用)、バッテリー、バレットタイム用の紐、ソフトケースなどが同梱されています。
スティック型で持ちやすいところは嬉しいですね。
形状は「RICOH THETA」に似ています。Insta360に権利関係について確認したところ「似ているが権利はクリアしている」と説明を受けました。
本体背面。撮影中や充電中はインジケーターが光ります。
本体底面。1/4ネジ穴とmicro SDカード(最大128GB)スロットがあります。
正面レンズの上にはマイクがあります。「Insta360 ONE X」には本体モニターが搭載され、設定や撮影モードの切り替え、バッテリーの残量などを確認することができます。
カメラ側面にバッテリーを入れます。上の写真はバッテリーが入っていなく、空の状態です。バッテリー容量は1200mAh。
前モデル「Insta360 ONE」(左)との比較。形状が大きく変更されているのが分かります。
ソフトケースストラップにカメラを入れた様子。首にかけたりすることも可能です。
iOS/Android対応も、新しめの端末を推奨
「Insta360 ONE X」は、iOSとAndroidの両OSに対応しています。360度カメラによる撮影は古い世代の端末だと非対応なことも多く、「Insta360 ONE X」でも注意するべき点です。メーカー推奨/対応スペックは下記の通りです。
・iPhone 6s以上、iPhone SE
・iPad Pro、iPad(2018)
・Android端末(USB OTGサポート、RAM 2GB以上、Android 5.1以上、「Qualcomm 653 /Qualcomm 820 /Kirin 950 /Exynos 8890」以上のSOC)
メーカー公式サイトのこちらのページには対応するAndroidスマートフォンの一覧も記載がありますが(英語)、日本で人気のxperiaなどは載っていなく、国際的に人気のある端末が掲載されています。
また、安定性についてはまだ荒削りなところもありました。筆者が本体操作で動画を撮影した際には、撮影中と表示されていたのですが、撮影完了後にデータを確認したら撮影されていなかった……ということも。
また、Android端末へのWi-Fi接続に関しても不安定という声もあり、筆者の場合は一度ケーブル接続を行ってAndroidモードに設定をするとWi-Fi接続できるようになりました(Galaxy S8を使用)。同社製品の特徴であるリリース後の素早いソフトウェアアップデートによる修正に期待したいところです。
5.7Kに感動
「これなら前モデルのInsta360 ONEで十分かも……」
……というのが筆者の「Insta360 ONE X」に対しての率直な第一印象でした。たしかに静止画は画素が大きくなったことで綺麗になり、同社独自の手ブレ補正技術「FlowState」も優秀です。しかし、手ブレ補正に関しては「Insta360 ONE」と劇的な違いを感じることはできませんでした。
上の動画は「Insta360 ONE」と「Insta360 ONE X」を同じ4Kで比べた動画です。見比べると「Insta360 ONE X」はノイズが小さく画質も綺麗です。しかし、少なくともリリース直後の手ブレ補正機能については、前モデルと同程度と考えて良いでしょう。
ただし、気を付けたい点としては、Insta360シリーズはカメラファームウェアを更新していくことで、カメラを大きく進化させてきたという特徴があります。「Insta360 ONE」がそうだった様に、発売当初とは劇的に手ブレ補正を進化させる可能性も考えられます。
また、この比較はスマートフォンから4K出力した動画で比べたもの。「Insta360 ONE X」は、スマートフォンでは最大4Kまでしか出力できなく、5.7Kの出力はできません。5.7Kの360度動画を出力するには、「Insta360 ONE X」専用のPC編集ソフト「Insta360 Studio for Insta360 ONE X」を使う必要があります。
こちらは5.7Kの360度動画です。動画共有サイトにアップロードするとデータが圧縮されてしまうため、分かりにくいですが、4Kと比べると圧倒的に高画質になっていて、驚かされます。高ビットレート(最大150Mbit)出力もできるので、特にVRヘッドセットで見ることを前提とする場合は、5.7K解像度の360度動画を使うことがオススメです。
上は先ほどと同じ5.7Kの360度動画(渋谷スクランブル交差点で撮影したもの)のキャプチャです。ローカルファイルを再生プレイヤーで見るとこれと同じ程度の画質となります。
4Kとはまさしく雲泥の差を感じる品質になっており、筆者が「Insta360 ONE X」の真価を感じられたのは5.7Kを見た時でした。
逆に言えば、5.7K動画が出力できない環境だと「Insta360 ONE X」は、オーバースペックな360度カメラになってしまうかもしれません。5.7K動画の出力には高性能なGPU/CPUを搭載したPCが必要で、編集部がメーカーに確認した最低要件は「メモリ:4GB、CPU:Intel Core i5、GPU:NVIDIA GTX750」でした。
実際に筆者が試した結果では、PCのスペック「CPU:Intel Core i7、GPU:NVIDIA GTX1080」を使った場合、5.7K/30fps/101Mbitの5分の動画で約20分を出力時間として費やしました。
現実的にはWindowsのVR ReadyのPCを使わないと厳しい面があるでしょう。ちなみにMacBook Airでは、上の品質の1分の動画をレンダリングするのに90分以上掛かりました……。PCへの負担が大き過ぎたようでした。
また、先ほどの渋谷スクランブル交差点前の360度動画はInsta360の公式アタッチメント「3m自撮り棒」を使って撮影しました。
これを人間が持つとプラス1mほど上乗せされて約4m上空(ビルの2階や信号機の上程度)から、低空ドローンや鳥視点での撮影ができます。
渋谷スクランブル交差点をドローン撮影するには特別な許可が必要です。個人が許可取得をするのは非現実的ですが、この超長い自撮り棒と360度カメラを組み合わせると、個人であっても適法にドローンで撮影した様な動画ができます。
ただし非常に長いため、自撮り棒の先端のカメラは安定はしません。両手でしっかりと支えて撮影する必要がありますし、ゆっくり歩く程度の移動が限界に感じました。
余談ですが筆者は撮影中に外国人観光客の方に(自撮り棒を)指を指されて笑われてしまいました。(撮影には気持ちの問題も生じますが)面白いアタッチメントで、またカーボン製で意外と軽く、オススメできる機材です。
また「Insta360 ONE X」は、夜間の外などの暗所での撮影の性能が向上した印象です。下の画像はそれぞれ、「暗所:手動撮影(ISO800、シャッタースピード1/30sの低感度)「暗所:自動」「暗所:自動HDR」「明るめな暗所:自動」です。
「暗所:手動撮影(低感度)」全体的に暗くて潰れてしまいます。
「暗所:自動撮影」自動撮影でも調整はしてくれます。ただしノイズも発生してしまいます。
「暗所:自動撮影、HDR」HDRの場合は通常モードで撮るよりも、ダイナミックレンジが広いため、手前の植物の葉や遠くの建物などが細部まで写っていることを確認できます。
「明るめな暗所:自動撮影」夜間でも営業中の商業施設(写真の場所は渋谷ストリーム)などの明るい場所であれば、ノイズも少ない綺麗な静止画を撮ることができました。
動画でも夜間撮影をしたところ、木の枝などの細かい部分などは苦手であることも確認できました。ただ、自動撮影でもそのまま見れる程度の十分なクオリティは担保されています。
「Insta360 ONE X」の連続撮影時間は最大60分です。それ以上の時間を撮影したい場合は、バッテリーを2つ以上用意して、撮影直後にバッテリー交換して運用していくというのがベターでしょう。
また、給電しながらの撮影も可能です。給電しながらの撮影だと熱処理落ちする懸念が出てくるので、撮影環境には注意したいところです。バッテリーもホットスワップ対応で、給電しながらの撮影中ならバッテリーを抜いても撮影は止まることなく継続されます。カメラの基本的な性能向上と正当な進化を遂げている点で好印象です。
他の使用感として良い点は、Wi-Fi接続でのプレビュー撮影とデータ転送が可能になったのが、最も便利になった点でした。特に静止画は撮影後に自動的にスマホのアルバムに転送されるので、非常に便利でした。
ただし、容量の大きい360度動画については、スマホに転送する際はWi-Fiだと転送完了するのが長時間になってしまうので、同梱のケーブルを使い有線で転送するのが早くてオススメです。
話題になった「バレットタイム動画」も3Kの画質になり、「Insta360 ONE」に比べて品質が向上しました。使いどころが少なくはあるのですが、バレットタイムを使いたいというユーザーにとってはとても良い進化と言えます。
・Insta360 ONE Xでバレットタイム撮影した動画
・Insta360 ONEでバレットタイム撮影した動画
また、100fpsの360度スロモーション撮影モードも、なかなか魅力的です。特にフリーキャプチャ機能と組み合わせると面白い映像を簡単に作れるのが興味深い機能です。
高性能なPCを所有して無い、スマホで完結させたいといった理由であれば、前モデルの「Insta360 ONE」を選ぶのも堅実的な選択肢だと思います。
ただ、4Kでも画質の良い動画を撮影したいという理由で「Insta360 ONE X」を検討しているのであれば、競合する製品は「THETA V」が価格的にも近くなるでしょう(「THETA V」のアマゾンでの販売価格は45,000円と「Insta360 ONE X」よりも安い)。その場合は下記のTHETA Vとの比較項目などを参考にして、自分に合ったカメラを検討するのが良いでしょう。
4K出力環境時の「Insta360 ONE X」の「THETA V」と比較した場合の主な機能
・スマホに有線データ転送できる
・micro SDカード(最大128GB)使用できる
・バッテリーが交換式
・本体モニターあり
・編集アプリから切り出し動画編集(フリーキャプチャ)ができる
・編集アプリで動画にモーションブラーを付与することができる
・強力な手ブレ補正機能
・スマホからライブストリーミング配信ができる
・プラグインを自作できない
・第三者による開発を含めたプラグインによる拡張性がない
・マイク入力端子がない
・無線LANアクセスポイント経由のWi-Fi接続ができない
今後のアップデートや周辺機器の販売も含めてこれからも期待大
正直なところを言えば本稿冒頭の第一印象「これなら前モデルのInsta360 ONEで十分かも……」というのが、4Kの場合は本音です。しかし、5.7Kを使える環境であれば、かなりコストパフォーマンスの良い360度カメラだと感じました。
そして解像度のアップに加えて、カメラとしての基本的な性能の向上を実現し真っ当な進化を遂げたという印象です。カメラとしての完成度が向上された結果「カメラっぽい360度カメラになってきた」といったところです。
2018年10月22日時点では「Insta360 Studio for Insta360 ONE X」では、フリーキャプチャ編集ができないのですが、同編集ソフトでもフリーキャプチャ機能で5.2Kからの切り出し動画を作れるようになるのを想像すると、非常に楽しみでワクワクします。
スマホで切り出したフリーキャプチャー動画。FHD(1920 × 1080)の解像度を出力可能です。
今後のアップデートや周辺アクセサリー(「防水ハウジングケース「潜水ハウジングケース」「ドリフトダーツ(カメラを投げて撮影するためのアタッチメント)」のアクセサリーが発表されています)なども含めて、今後の更新情報も注目していきたい360度カメラと言えるでしょう。
(ドリフトダーツ。カメラを投げ飛ばして撮影するというダイナミックなアタッチメント)
■ Insta360 ONE Xのスペック/仕様
F値 |
F2.0 |
静止画解像度 |
18MP (6080*3040) |
動画解像度 |
5760*2880@30fps, 3840*1920@50fps, 3840*1920@30fps, 3008*1504@100fps |
静止画フォーマット |
insp、jpeg、dng(RAW) |
動画フォーマット |
insv、mp4、LOG |
動画コーディング |
H264 |
ビットレート |
最大120Mbps |
ジャイロスコープ |
6軸ジャイロスコープ |
静止画モード |
タイマー撮影、HDR、インターバル、RAWモード |
動画モード |
タイムラプスモード、バレットタイム、Logモード |
ライブ配信モード |
360度ライブ配信、FreeCast (配信側から見せたい視点を選んで配信するモード) |
EV値 |
-3EV~+3EV |
露出モード |
自動、手動(シャッター速度1/8000s-55s、ISO感度100-3200)、シャッター速度優先 (1/8000s-2s)、ISO感度優先 (100-3200) |
ホワイトバランス |
自動、曇り、太陽光、蛍光灯、白熱電球 |
重量 |
90.9g (バッテリー抜き);115g (バッテリーあり) |
サイズ |
115mm x 48mm x 28mm (D x W x H) |
Bluetooth |
BLE4.0 |
Wi-Fi |
5G (最大20メートル範囲) |
micro USBカード |
UHS-I V30以上の転送速度、exFAT(FAT64) 、最大128GB |
バッテリー容量 |
1200 mAh(5V2A) |
推奨動作温度 |
0℃~40℃ |