2024年末に横浜駅から徒歩1分のアソビルに入っているImmersive Journeyという12/1にオープンしたばかりの施設型VRに行ってきた。この場所は1,000平米の空間をVRヘッドセットをつけたまま歩き回ってコンテンツが楽しめる。現在提供されている「Horizon of Khufu」は、古代エジプトのクフ王のピラミッド見学がテーマだ。
施設型VRとは、VRヘッドセットを装着した没入感満点のコンテンツを体験できる場所のこと。エンターテイメントコンテンツを体験できることが多いが、博物館などでは教育向けのコンテンツが提供されていることもある。
また、体験形態も施設ごとに異なる。椅子に座って体験するものもあれば、体育館のような場所で複数人で歩き回りながら体験するもの、テーマパークでVRヘッドセットを装着したままジェットコースターに乗って疾走するもの、一連のアトラクションの中で、数分だけヘッドセットを使うもの……。
とにかく家庭用のVRでは体験できないリッチな没入コンテンツは人々を魅了し、コロナ禍以前は世界中で注目を集めていた。日本ではバンダイナムコがマリオカートやエヴァンゲリオンをテーマにしたコンテンツなど複数作品を大規模に展開していたことは記憶に新しい。
しかし、2020年初からのコロナ禍で人々のエンターテイメントは家の中に移り、主要プレイヤーは軒並み総退場した……という流れがあった。
そんなコロナ禍が収束した後に街頭に人が戻ってきた。施設型VRもプレイヤーが入れ替わりつつあるが、徐々に再び立ち上がりつつある。
筆者が耳にするグローバルでの動向は比較的景気の良いものが多い。香港発のSandbox VRは、月間10万人が来場し、全世界にフランチャイズを拡大する計画を進めている。今回、横浜にオープンしたImmersive Journeyも、すでに全世界で100万人が体験済。パリ、上海など10都市以上に展開している。
本記事では、Immersive Journeyの体験を紹介しながら、直近の施設型VRが復活しつつある理由について考えてみたい。なお、Immersive Journeyの体験内容については、藤林檎さんの体験レポートが詳しいのでそちらをご覧いただきたい。
デバイスの進化により向上した体験の質
筆者も国内外で様々な施設型VRでのコンテンツを体験してきたが、Immersive Journeyの体験は国内で体験できるものとしては抜群のクオリティだ。そもそも45分もの長い間VRヘッドセットを装着したまま立ちっぱなしで歩き回り続ける体験自体あまりない。
それでもストーリーに合わせてピラミッドを余すことなく見て回り、ときに古代エジプトの世界を体感するという知的好奇心を満たせる。。体験後に筆者が思ったことは「博物館でよくやっている古代エジプト展をVRに持ってくるとしたらこうなるんだろうな」ということ。クフ王のピラミッド見学をあらゆる角度から体験できるVRコンテンツとして昇華している。
ピラミッドの中を見て回る体験、暗くなった部屋での少し怖い体験、ピラミッドの頂上から眺める体験、巨人になってピラミッドの周囲を一望する体験、古代エジプトの世界観とミイラ作りに立ち会う体験、これでもかと”体験”することになる。
この長大な見学を支えているのはストーリーだけではない。VIVE Focus 3という一体型のVRヘッドセットで出せる最大限のグラフィッククオリティ、ピラミッド内部で響く音響を再現した空間オーディオ、アクションRPGのように床が動くときのワクワクするエフェクト、そしてそれらをストーリーに組み込みどんどんピラミッド見学の世界に没入させていくUXデザイン。全体的にこれらのクオリティが高いのでバタ臭さも少なく、楽しめるものになっている。
もちろん、より高性能なPC接続型のVRであれば、さらにクオリティは上がるし、上を求めたらキリがない。どの構成要素にも違和感を感じず、程よく合格点をとれるような割り切りの良さとバランス感覚の良さが感じられた。
それを実現できるほどには、一体型のVRヘッドセットの性能が上がり、クオリティも上がったということを意味する。コロナ禍以前は一体型VRヘッドセットが一気に普及する前であり、ほぼ全てPC接続型のVRヘッドセットでの体験だった。有線接続のケーブルがぶら下がっていたり、バックパック型のPCを背負ったり、今から考えると大層な状況でVR体験をしていたわけだが、今ではPCがなくてもそれなりの体験ができるようになっている。
ストレスのかからない全体の体験設計
もう一つ印象的なポイントが、体験の質を邪魔してしまう体験者のストレスポイントが潰されている点だ。それもVRに慣れている体験者ではなく、初心者目線で。
たとえば、プレイヤー同士の接触。
Immersive Journeyは、同時に75名が体験できる。しかも同じ広大な体育館のような広い空間を、決められた順路に沿って歩き回る。VRヘッドセットをつけていない人には見えない道だが、実際は同じ空間を複雑な経路で行ったり来たりしてる。
当然、前後で体験している他のプレイヤーと接触してしまう危険性があるわけだが、それを回避するシステムが秀逸だ。
他のプレイヤーが接近すると、そのときだけぼんやりと人がいるアバターが表示され、体験者自身が避けたり、他の人がいなくなるのを待つことで接触事故を防いでいる。そもそもが「ゆっくりと見学して回る」という体験の性質上、走ったり慌てて動くこともないため、ぶつかることもない設計だ。正直、避けきれなくて服がかするくらいのことはあったが、それは問題なく、不意にぶつかってしまうことを避けるという、割り切りの良さがここまでも感じられた。
他にも、体験前の設定からヘッドセットを装着する流れ、終了時にヘッドセットをはずす流れなど、全体的にプロセスが洗練されている。VRヘッドセットを一度も被ったことのない人が引っかかりやすいポイントが潰されているため、まごついたりストレスを感じることなくスムーズに体験が進む。このあたりは、世界中にコンテンツを提供しているだけあり、現場で発生する問題を着実に対処しているからこその洗練なのだろう。
総合点の高さが生み出すもの
Immersive Journeyは総合点が非常に高い。そして、45分+αで約1時間という体験時間の長さは1体験5,000円(土日祝日の価格、平日は4,000円)というチケット価格に対しても満足度の高いものになる。
体験の質が良く、ストレスが少ないと何が起きるか。
人に勧めるという口コミに繋がる。
Immersive Journeyは2024年12月1日にオープンした。運営しているCinemaleapによれば、オープン当初こそVRの好きないわゆるアーリーアダプターや業界関係者が訪れていたようだが、12月後半にはVRを体験したことのないユーザーが中心になったと言う。筆者が体験した12月下旬も平日の昼間にも関わらず、周りは女性2人組やシニアも含めた家族連れなど、家庭用VRのユーザー層とは異なる人たちが体験していた。
別のコンテンツにはなるが、世界的に展開しているSandboxVRの人気コンテンツの一つにNetflixの人気ドラマ「イカゲーム」のVR体験がある。ドラマと同じで悲喜こもごもなデスゲームをテンポよく遊んでいくVR体験自体の面白さに加えて、体験後にVR内の様子と、実際に体験をしてる部屋の様子を組み合わせたダイジェスト動画がお土産として渡される。
(Snadbox VR「Squid Game Virtuals」公式サイトより)
そのままショート動画にアップロードできるクオリティに仕上がっており、これもまたSNSでの投稿を促して口コミを加速させるうまい仕掛けだ。
また、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の「XRライド」は2017年にスタートして以来、「進撃の巨人」、「ドラえもん」、「鬼滅の刃」など毎年コラボするIP作品を変えてコンテンツをリニューアルし続け、常にパークの1、2を争う人気アトラクションであり続けている。(人気度はUSJの公式サイト等で確認できる待ち時間をチェックすると分かる)
VRの認知度が上がり、普及し始めている現状において、家庭用では体験できないリッチな体験を初心者でも気軽に体験できる施設型VR。
日本国内でも今後盛り上がっていくことは間違いない。そしてその狼煙を上げている「Immersive Journey」は必見だ。