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VR体験施設 2024.11.26

広い空間を歩き回りながらVR作品を鑑賞できる 横浜駅直結の体験施設「IMMERSIVE JOURNEY」レポート 北野武が感動した古代エジプトの世界へ

2024/12/1(日)に横浜駅直結のビル「アソビル」3階に、大型XRエンターテインメント施設「IMMERSIVE JOURNEY」がオープンします。今回はそれに先駆けてメディア向けに開催された開館発表会&先行体験会の模様をご紹介します。

「IMMERSIVE JOURNEY」とは?

「IMMERSIVE JOURNEY」は、広い空間を自分の足で自由に歩き回りながらVR体験できる体験施設です。VR体験では、その場から大きく動かずに、ゲームや映像を楽しむ方式が目立ちますが、今施設では、約1,000㎡の空間の中でVRコンテンツを楽しめるよう設計されています。最大同時体験人数は75名です。

場所は横浜駅直結の「アソビル」3階。アソビルは、横浜中央郵便局の別館部分をリノベーションして開業したエンターテインメント施設です。2019年3月のオープン以来、VR・XRによるエンタメ体験ができる企画展等も多く出展されてきた経歴があります。

エレベーターで3階に上ったところに「IMMERSIVE JOURNEY」の受付があります。


また、受付のところには鍵付きのロッカーの用意もあり、体験会実施時には手荷物をここに預けられるようになっていました。横浜での買い物や旅行で荷物がかさばるタイミングでも立ち寄れそうです。

北野武& 吉村作治がVRで古代エジプトを体験 その感想は?

開館発表会は館内の広いVR体験スペースの一部を使用する形で行われました。

また、本発表会実施に際してメディア向けには事前に「IMMERSIVE JOURNEY」第一弾作品「Horizon of Khufu」(ホライゾンオブクフ)の日本語訳監修を務めたエジプト考古学者の吉村作治氏と、吉村氏と長年に渡っての親交がある、映画監督の北野武氏が登壇することもあってか、テック系メディアだけに留まらない多くの報道関係者が集まっており、本発表会への注目度の高さが伺えました。

まず、CinemaLeap代表の大橋 哲也氏より、事業および当館概要の説明がありました。

CinemaLeapは著名な国際映画祭にノミネートされるXR映画作品のプロデュース等を行っている会社です。

大橋氏は日本のXR市場について下記のような課題意識を感じていたという旨が話されていました。

・日本で日常的にVRデバイスを使用している人口はまだまだ少ないため、既存のVRユーザーだけに向けたXR作品を作り続けることは収益性の面で難しい
・既存のVRユーザー以外も作品を体験できるような場を作ろうした場合は、どうしても一回あたりの体験可能人数が少なくなってしまう。また、どうしても体験時間が短くなるため体験価格も上げにくく、そういった環境で多くの人件費をかけて運営するのはビジネスとしての継続性に限界がある。
・映画業界でいうところの映画館にあたる、作品のスタンダードな届け方や流通の手段がまだ育っていない。

そうした課題意識を抱えた中、大橋氏が出会ったのが、「Horizon of Khufu」の制作を手がけているフランスのexcurio社のxRコンテンツでした。100人規模で同時に一つの作品を体験できるという作品フォーマットのスケールの大きさに衝撃を受け、かつ、フランス現地ではVRに元々馴染みがある訳ではない一般の老若男女の多くががコンテンツを楽しみ盛り上がっていたところにも将来性を感じたそうです。そこで「日本でもこの盛り上がりを!」という気持ちから、この大型XRエンタテインメント施設「IMMERSIVE JOURNEY」の開館へと繋がったとの話でした。

「Horizon of Khufu」(ホライゾンオブクフ)を制作した、excurio社の開発とコミュニケーション部門の責任者のRaphaël Lemée 氏も登壇。今回excurio社がIMMERSIVE JOURNEYに対してコンテンツを提供したことだけに留まらず、IMMERSIVE JOURNEYそのものや今後の展開に対して強い想いや関心を寄せていました。

エジプト考古学者・吉村作治氏は、60年近くエジプトを調査している中で「ピラミッドは墓でない」という立場を取っているものの、本作の出来栄えの高さへの感動から日本語訳監修を引き受けたようで、実際に本作をVR内で見たギザやピラミッドを「よくできていてびっくりした」と評していました。

北野武氏は、足の不調でソファに着席する吉村氏を気遣いつつ、その姿を見て「クフ王かと思いましたよ!」とコメントし、それまでどことなく緊張感の張り詰め続けていた会場の空気を緩めていました。

「以前エジプト現地に訪問した際、観光客相手の押し売りが来たかと思って『シッシッ』と追い払ったのですがよく見たら迎えに来てくれた吉村さんでした(笑)」というエジプトジョークを交えつつ、吉村氏との共演歴や交友歴、吉村氏の研究の功績や自身のエジプト観なども端的に語りながら、「今は技術がすごくて、実際にエジプトまで行かなくてもこういった形で日本にいながらにして現地の雰囲気を体験出来るからすごい」と本施設に関しても触れていました。

そして司会者から「今からぜひ、武さんにもVRで本作のエジプトを体験していただきたいと思います」と促されると、「現地みたいに押し売りはいないでしょうね!?」と再びジョークを飛ばしながら、VR体験しているところを披露しました。


(「Horizon of Khufu」を体験する北野氏と吉村氏の様子。モニターに映っているのはVR内の北野氏視点の映像)

北野氏は体験後、「よくできてるなあ……。やっぱり技術すごいねえ! バーチャルって言うのも進化してるんだねえ。前に体験した時よりももっとすごくなっている!」と本作について感銘を受けている様子で、「ピラミッドは、本物とバーチャル、見られるなら両方見るべきではあると思うけれども、時間や費用の面を考えると、まず最初に見るのに一番都合がいいのはこれ(「Horizon of Khufu」)だと思います。大変面白いです。」と、締めくくっていました。

「Horizon of Khufu」で古代エジプトの世界へ



(来場者用のVRヘッドセット。HTC VIVE Focus 3を採用しているとのこと。)

入場時の受付では「体験人数」「車椅子利用者か否か」「使用言語」「任意のユーザー名(グループで体験する場合はグループ内のユーザー間でのみ自分のユーザー名がアバターに表示されるとのこと)」等の確認を受け、その内容に応じたチケットシールが発券されるのを受取り、VRヘッドセット装着時にそのシールをスタッフに手渡すという流れでした。

VRヘッドセットを装着し、現地スタッフから口頭で軽く確認と案内を受けた後、具体的なチュートリアルはVRのコンテンツ内で行われました。といっても、ユーザーに求められる動作はいたってシンプルで、「VR空間内で都度指定されるエリアに向かって自分の足で歩いて行くこと」たったこれだけです。コントローラの類は一切ない、手ぶらでのVR体験です。


© Excurio

今作は、ピラミッドのガイド役のモナが我々を迎えにきてくれるところから始まります。モナはかなりフォトリアルな造形ですが、表情が柔らかく、かつ日本語版の声を担当しているファイルーズあい氏の利発でチャーミングな演技も相まって、間近で見ても、とても安心感のあるガイド役でした。

ガイドのモナについていく形で自分自身も歩行するのですが、筆者自身は現実の様子が全く見えてない状態のVRでこれだけ長い距離を歩くのは初めての経験だったため、普段自宅で行うVRでついうっかり手や足を色んな所にひっかけたりぶつけたりして痛い思いをした数多の経験を想起し、どうしても足取りが重くなります……。

ただ、現実空間での衝突を恐れながらゆっくり歩いてしまう自分の状態が、狭いピラミッド内をおそるおそる進んで行くVR空間内の自分と完全に同期し、不思議と違和感はありませんでした。

なお、VR空間内でも現実の壁や柱、他のユーザーがいる位置は視覚的に認識できるような表示になっているため、その表示に従ってゆっくりと歩いていれば必要以上に現実空間での衝突を恐れなくても大丈夫そうです(筆者の現地での印象だと、むしろ自分のように変にVR慣れしていない方の方が的確にすたすたと歩けている印象でした)。

モナと、その後に現れるバステト(CV:沢城みゆき氏)による案内は、現実のピラミッド案内の単なる再現に留まらず、我々に4500年前当時の風景も見せます。そしてその過去の風景ですら、建築学的・科学的・歴史的なデータにしっかりと基づいて制作されているというから驚きです。

探検を終えた時には、ギザやピラミッドで起きたことが遠い異国の史実であるということ以上に、もっと自分にとってリアルに感じられるものへと変容していることに気が付きました。

「Horizon of Khufu」を実現する技術的な仕組みとは?

本体験後、CinemaLeap代表の大橋氏から本作品の技術的背景についても、個別にお話を伺いました。

ユーザーの体験機にはHTC VIVE Focus 3を採用しており、天井や床にセンサーやトラッカーなどの設置はなく、壁や床のマーカーをVIVE Focus 3のカメラで撮影することとWi-Fiによる通信によってユーザーの位置を総合的に把握し制御しているとのことです。


(この壁や床の模様は単なる装飾ではなく、全てマーカーとして機能しているとのこと)

大がかりなコンテンツに感じたので複雑な設備で環境を構築しているのかと想像していましたが、実際のところは「VIVE Focus 3・マーカー・Wi-Fi(関連機器)」の3点だけでワイヤレスかつシンプルにこの環境を構築していると聞いて驚きました。

歩き回りながら体験するVRの驚きと感動


© Excurio

VR自体は多様な形のインタラクティブ性や(遠くにいる他者との)双方向性のあるコミュニケーションなど、様々な要素をかけ合わせることが本来可能な技術ですが、本作「Horizon of Khufu」においては、手に持つコントローラを排除し、要素を「360度のVRコンテンツ視聴」「VR空間内を自分自身の足で歩行すること」にのみ絞った点が逆に秀逸です。コントローラから両手を解放されると、ゲーム慣れ・VR慣れしていない方にとっては、それだけで体験の難易度がぐっと下がります。また、このように両手が完全に空いていれば、車椅子の方も体験しやすくなるところも良いと感じました。

VR内での上下の移動の際は、基本的にエレベーター(的な表現)のみで行われ、ユーザーが歩行する際は高低差がない平地を歩く形になります。これは分かりやすいと共にVR慣れしていない人には酔いにくくなる施策でよかったです。筆者自身もそうですが、VR内の動きと実際の自分の動きにズレを感じると酔いやすくなってしまうところを、本作ではそういったシーンが限りなく排除されており、本編の体験時間は約45分と比較的長かったにも関わらず、最後までVR酔いすることなく体験できました。

そういったVR未経験の方も直感的にかつ快適に本作を楽しめるようになっている一方で、これだけ広いVR空間内を、コントローラではなく自分自身の足ではなく歩き回れるというのは、筆者のような「普段は自室の限られた空間でのVRのみ体験している」というタイプの既存VRユーザーにとっても新鮮な体験となるように感じました。

また、双方向性のあるリアルタイムなコミュニケーション要素などを排除したことで、声優のファイルーズあい氏・沢城みゆき氏両名の上質な声の演技を、多くの人が同時に、VR空間内で間近に感じられるところも本作ならではの体験です。

さらには、機器や映像の動作も終始非常に滑らかで、長時間の体験にも関わらずまったく不安定な挙動がなく、全ての動作が安定しているところも、安心感と体験としての満足感がありました。

逆に気になったところとしては、システム上の都合か暗転が比較的多く、視界が真っ暗になるたびに反射的に少し不安な気持ちになるところ(体験前に「暗転しても不具合ではないので安心してそのままお待ちください」というアナウンスはあったのですが、それでも不安が残ります)や、ガイドらに後れを取らないように歩くのに必死になりすぎて、ガイドらの説明の理解が追いつかない部分がありました。これらの部分については今後のアップデートを期待したいところです。

そしてVIVE Focus 3による指トラッキングが綺麗なのも相まり、VR内で登場する猫や家具などにどうしても自分の手で触ってみたくなってしまうのですが、実際は触ろうとしても何の反応も起こらずただすり抜けていってしまうため、そこが少し寂しく感じられました。

ただその点を含み置いても、本作はVRの一般への普及において非常に可能性があると感じました。例えば博物館や資料館で、あるいはアニメやゲームの展示会などで、もし本作のような「没入型体験」のVRコンテンツも同時に体験できるのが当たり前の世の中になったら、置いてあるパネルや展示品を衝立やガラス越しに2D的に鑑賞する体験以上の体験が常に得られるようになるのではないでしょうか。

excurio社の提唱するxRコンテンツフォーマット「ストーリーテリング× ⼤型フリーロームによる没⼊型探検」がIMMERSIVE JOURNEYを通してどのように日本に波及していくのか、今後に期待します。


© Excurio

■「IMMERSIVE JOURNEY」 チケット販売情報

開館日:12月1日(日)
営業時間:平日:11:00~21:00 土日祝:10:00~22:00
販売開始:11月1日(金)11時~
チケット料金:
【一般チケット(3名様まで/税込)】
平日:4,000円/1名
土日祝:5,000円/1名
【グループチケット(4名様以上/税込)】 平日:3,800円/1名
土日祝:4,500円/1名
*団体(50名様以上)の場合はお問い合わせください。
<体験概要>
体験時間:約45分 (ヘッドマウントディスプレイの着脱や説明等に別途15分程度)
体験可能人数:1名~4名 (5名以上の場合は2つのグループに分かれて体験可能です)
チケット購入方法:
Immersive Journey公式ホームページ:https://immersivejourney.jp/

会場:
神奈川県横浜市西区高島2-14-9 アソビル3F *横浜駅直結
※対象年齢8歳以上です。その他、注意事項を公式サイトでご確認の上、チケットを購入ください。


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