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企業動向 2025.10.20

Even G1開発元CEOに聞く「スマートグラスに重要なことはなにか?」

情報系スマートグラスの中でも、一歩抜け出した存在と言えるのが、Even Realities社の「Even G1」だ。


Even Realities社の「Even G1」

スマートフォンと連動し、通知やニュース、講演用のスクリプトなどを表示する機能を持つ。日本での正式販売はされていないが、日本への配送もしてくれるし、「技適」も通っており、安心して使える製品の一つと言える。筆者も購入したが、現時点の完成度で言えば、トップグループにいるのは間違いないだろう。

先日、同社のCEO・ファウンダーであるWill Wang氏が来日した。彼に、開発の経緯とポリシー、そしてスマートグラスビジネスの今後を聞いた。


(Even Realities・CEOでファウンダーのWill Wang氏)

アップル出身、次のウェアラブルを求めて独立

――まず、Even Realitiesを創業した経緯からうかがえますか?

Wang CEO(以下敬称略):はい。私は以前Appleのエンジニアで、シリコンバレーで働いていました。Apple Watchチームのチームメンバーの一人で、Apple Watch Series 3と4に取り組んでいたんです。

そこで、Even Realities のCTOであるトム(Tom Ouyang氏)にも会いました。彼は当時、iPhoneのカメラチームのエンジニアでした。

ウェアラブルデバイスの仕事は本当に楽しくて、実はスマホの仕事よりもずっと楽しいんですよ。時計以外で次のウェアラブルを考えた時、おそらくスマートグラスを作るのが一番だと思いました。それが2018年です。

でも、その時は自分の会社を持つとは考えていませんでした。

――なるほど。

Wang:Appleで作るか、他の携帯電話メーカーで作るのか……。まず私は、Apple内でスマートグラスを作っているチームを探索しましたが、その時点では、彼らはどのように製品を作りたいかについて明確なアイデアを持っていませんでした。

だからAppleを辞めて、他にスマートグラスに関する方針が明確な会社がないか探してみようと思ったんです。

ということで、Appleを辞めて中国の2社に入社しました。

1つはANKERで、もう1つはOPPOです。私はANKERで事業の一つを管理することになり、OPPOでも携帯電話事業を管理しました。

しかし、両社とも当時は、スマートグラスを作る可能性が見えませんでした。

だから、JMGOという会社に転職しました。

――プロジェクターの会社ですね。

Wang:ご存知でしたか。小型のスマートプロジェクターを作っている会社です。2020年に参加したのですが、スマートグラスを作るならプロジェクターのことを知る必要があると思ったからです。

――なるほど。スマートグラスもプロジェクター技術を使うからですね。

Wang:3年在籍しましたが、最高のスマートプロジェクターを作ったと考えています。JMGOをジャンルNo.1の会社にすることができました。

そして、スマートグラスを作る時がきました。2023年、私はCTOのトムやJMGOの同僚何人かと一緒に、Even Realitiesを起業しました。そして、2024年にはEven G1を発表、その後販売を開始したのです。

日本発売前からすでに重要市場に

――そしてEven G1を発売したわけですね。日本では正式に発売されていませんが、私を含め、何人もの購入者がいます。

Wang:日本では大々的に宣伝はしておらず、ヨーロッパとアメリカで販売しはじめました。しかし、3ヶ月以内に日本市場は大きなマーケットになりました。今や弊社にとって2位の市場です。特にマーケティングもしていないのですが。こうして日本のメディアと話すのも初めてです。

日本のお客様は、他のスマートグラスよりも弊社の製品を好んでいるようです。

――その理由は?

Wang:似た製品にRay-Ban Metaもありますが、日本人はカメラがついていることを好まないようです。プライバシー的には良いことではありません。


(Even G1はディスプレイに特化しており、カメラやスピーカーがついていない)

日本のお客様に「なぜ私たちのメガネを買ったのですか」と尋ねると、「デザイン」という答えが返ってきました。いつもかけるメガネですから、良いデザインのメガネが欲しい、ということですね。

また、翻訳やテレプロンプターなど、私たちが宣伝した機能が評価された部分もあります。どれも、日本人が必要としているものですよね。

Metaが作っている製品は、外出時や屋外で活動しているときに使う、エンターテイメント向けなところがあります。どちらかというとアメリカのライフスタイルに近いですね。

ですから、今後さらに、日本市場は重要になると考えています。

スマートグラスの利点は「情報を人々に近づけること」

――スマートグラスの重要性が高まる理由は、何だと考えていますか? スマートグラスにもいろいろな種類がありますが……

Wang:ウェアラブルデバイスは「情報を人々に近づける」という点が重要です。

コンピュータはデスクトップからラップトップ、そしてスマートフォンへと進化してきましたが、メガネは情報をこれ以上なく「近くに」表示できる唯一の方法です。

情報を近づけるためには、ユーザーがメガネを常に着用できる必要があります。従来のARグラスや空間コンピューティンググラスは、日常的に着用できるメガネとは言えません。弊社製品については、現在利用者の多くが1日8時間以上使っています。これは競合他社の製品、が約1~2時間であるのと比較して、非常に長いです。

――確かに、Ray-Ban Metaを本気で利用すると、そのくらいの時間になるでしょうね。

Wang:ずっとかけ続けるわけにはいかないでしょう? 1、2時間では「スマホよりも重要で、いつも一緒にいる」ものとは言えません。常に身につけていられる、ということが重要なのです。

機能選択は「日常使いのため」

――そこにも関係してくると思うのですが……。今のスマートグラスには色々な選択肢があります。カメラも載せられるしスピーカーも載せられる。その中で、Even G1に搭載するものはどう選択されたのですか?

Wang:確かに、いろいろな機能を搭載している製品があります。

メガネとして日常的に使い続けたいのであれば、重すぎるものは使えない。日に何度も充電することも望まれないでしょう。だから、今の段階では「機能の一部」を搭載することが重要だと考えているんです。

スマートグラスにもっとも重要なのは「ディスプレイ」であり、メガネの形状もそれを活かすように作るべきです。

伝統的なメガネは物理世界だけを見るために作られていますが、次世代のメガネは、デジタルの世界、デジタル情報を見るのにも役立つと思います。物理的なものとデジタルを一緒に見るようなものですね。

だから、スマートグラスが重要になってくるんです。私たちの製品の場合、最も基本的な機能は「ディスプレイ」になります。

――では、カメラやスピーカーを搭載しない理由は?

Wang:カメラを搭載すれば、写真を撮ったり、動画を録画したり、簡単にAIに周りの世界を見てもらうこともできます。

しかし、今のカメラのAI機能はそんなに役に立たない。「目の前に何があるのか」「このボトルは何なのか」って遊ぶのは楽しいけど、毎日使うものではないですね。

写真や動画を撮るためにも、スマホがあるはず。なぜスマートグラスに搭載する必要があるのか? 主観視点を撮るために有用だからです。しかし、それはGo Proのようなものでも済んでしまいます。スマートグラスなら、より快適にはなりますが、今度はプライバシー上の問題を生み出します。

――スピーカーについては?

Wang:オーディオ自体は良い機能だと思います。しかし、ここでもバッテリーの問題が出てきます。スピーカーを鳴らしつつ1日中動作させられるか、と言う点ですね。あと、どうしてもテンプル(ツル)が太くなる。みなさん、かけているメガネは皆、テンプルが細いですよね。


(一般的なメガネと同じく、テンプルが細い。たのスマートグラスは皆太くなっている)

普通のメガネのように快適にしたかったので、Even G1では採用しませんでした。

マイクロLEDを選んで「グリーン」に。消費電力と輝度が重要

――ディスプレイについてはいかがですか?

Wang:Even G1は両眼・グリーン1色です。これを採用したのは「マイクロLED」を採用したかったためです。


(Even Realitiesのウェブより。表示はグリーンのマイクロLED)


(マイクロLEDはテンプルの端に埋め込まれている)

これはサイズを小さくしつつ、もっとも電力効率の高い技術です。そして現状、この技術はグリーンしかありません。ただ、2年後にはRGBのものを実現できます。遠い先ではありません。

Metaのもの(Meta Ray-Ban Display)はカラーですが、片目だけです。彼らが使っているのはマイクロLEDではなくLCOS(Liquid crystal on silicon)です。結果として、消費電力はずっと大きなものになっています。だから両眼での採用が難しかったのでしょう。我々は両眼での表示にこだわります。

――なぜ両眼での表示が必須と考えているのですか?

Wang:毎日使うものであれば、片目だけではダメです。たまに試してみるデモならいいんですけどね。毎日つけるのであれば、片目は自然ではありませんし、視力にも良くありません。違和感が出てきて、多くの人がめまいを感じるでしょう。だからこそ、我々は単眼を絶対にやりません。

両眼では視差により、表示までの距離を表現できます。周りに実際の空間がありますから、一定の距離に表示される方が自然に感じられるはずです。


(Even Realitiesのウェブより。両眼にディスプレイを搭載し、視差によって自然な表示を実現)

――もう、Meta Ray-Ban Displayは試されましたか? (取材は9月末に実施)

Wang:いえ、まだです。あなたは?

――私はMetaで体験しました。非常にはっきりとした表示でしたが、確かに、実景との距離感には不自然なものを感じました。

Wang:そうでしょう。Meta Ray-Ban Displayではないものの、私は単眼も両眼も、多数のデバイスを試しています。

使い始めると、単眼では不自然だと感じるはずですよ。きっと彼らも、次世代では両眼にするでしょう。

――表示の明るさの点はどうですか? 明るい日中では、Even G1もまだ厳しいと感じます。


(筆者私物のEven G1でテスト。空中に表示を出せるが明るい空の下ではまだ見づらい。屋内などでは全く問題ない)

Wang:マイクロLEDを採用する理由もそこです。現状、(小型のものでは)マイクロLEDが最も明るいデバイスです。

実際にはプロジェクターから光が発せられ、導光板を通る過程でいくらか光が失われます。そのため、光源は可能な限り明るいものである必要があるんです。

我々が採用したマイクロLEDは簡単に1000nitsを超え、すでにスマホのディスプレイより明るいものです。しかし、空中には「黒い部分」がないので、コントラストを生み出しづらい。だからもっともっと明るい光源が必要になります。

ただ、緑はコントラストが高い色なので、3000nitsで十分だろうとは思います。我々のデバイスをもっと明るくすることはできるのですが、電力消費を節約したいので、明るさを絞っている状況です。

スマホメーカーからは中立の市場を目指す。SDKも公開予定

――しかし、今後はスマートグラスを作るスマートフォンメーカーも現れるでしょう……

Wang:ああ、聞きたいことはよくわかります。

スマートグラスの消費電力を考えると、本体にあまり高い演算能力は入れたくない。だから、スマートフォンとの間で連携してオフロードできるようにするだろう、ということですね。

確かにその通りです。そしてスマートフォンメーカー、例えばAppleが独自のスマートグラスを作れば、独自の情報にアクセス可能になります。

――そして、そのことが競争優位性を生み出すでしょう。

Wang:たしかに。しかし、スマートフォンメーカーがスマートグラスを作った場合、「自社のスマートフォン」にしか優位性はありません。例えば、HuaweiのスマホのためにAppleがスマートグラスを作ることはない。逆も同様です。

その点、サードパーティーである私たちは、すべてのスマホ向けに仕事をするようなものです。 すべてのスマホメーカーに対して中立的な立場にいます。彼らは他の競合スマホメーカーを支持するのではなく、私たちを支持する可能性が高いでしょう。シャオミやOPPO、VIVOのようなメーカーを合わせれば、販売数は相当なものです。

――1社で巨大なシェアを目指すわけではない、と。

Wang:Apple Watchは成功していますね。Huaweiのスマートウォッチも、Samsungのスマートウォッチも同様です。そんな中にあっても、Garminの製品だって成功している。

我々が目指すのはその領域です。

――つまり、こだわりが強くプロフェッショナル的な立ち位置にいるユーザーが顧客となるわけですね。

Wang:そうした特別なユーザーを獲得したいと思っています。

Garminはスポーツのプロが欲しがるスマートウォッチでしたが、今ではもうその市場を超えて広がっています。私たちも、そのような「プロの市場」を見つけたいと思っています。働くプロをターゲットにするには、最高の仕事をするのに役立つデバイスやメガネを作ること。だからこそ、Even G1には、テレプロンプターや翻訳機が搭載されているのです。

そして、今後はもっと多くの機能を搭載する予定です。次の機種には、プロの仕事に向けた機能が増えています。その機能を活用するのは、例えば、ジャーナリストや政治家、起業家のために、いつも人と話したり、いつもインタビューを受けたり、いつもステージに立ったりする人々です。彼らを助ける機能を構築したいと考えています。

彼らの支持を得られれば、私たちの製品への認知・支持もトリクルダウンしていきます。考えてみてください。会社の中でも最初はCEO、取締役といった重役が使うかもしれませんが、のちには中間管理職の方々が使うようになるのかもしれません。

――機能を増やしていくには、デベロッパーを巻き込むことも必要です。SDKなどの公開予定はありますか?

Wang:はい。SDKを提供します。また、アプリストアのようなものを作り始めています。私たちのアプリの中で動くものです。今はありませんが、今後、より多くのアプリをブロックのように組み込みます。

――今は自社AI連携ですが、他のAIサービスはどうしますか?

Wang:これも、全てのAIサービスが使えるようにしていきたいと思います。様々なAIエージェントを開発し、我々のスマートグラスと連携していくものにします。自社のエージェントサービスも開発しますが、同時に、GoogleやMataなどの優れたエージェントサービスも利用できるよう、オープンな体制を維持します。

速度重視で提携より「自社展開」 視度調整などで日本展開ではパートナーも検討

――メガネである以上、視度調整の正確さやフィット感なども重要です。アイウェアメーカーとの連携を考えていますか?

Wang:他社と提携するつもりはありません。結局、既存のところと組んでも開発が遅くなるだけです。ソニーはホンダと組んでEVを作っていますが、なかなか製品が出てこない。要はそういうことです。

我々は、アイウェア業界の最高の人材を採用することでチームを強化しています。共同創業者はデンマークの高級アイウェアブランドLindbergの元最高商務責任者で、ヨーロッパや高級アイウェアのベテランが10人ほどいます。メインデザイナーのPhilipp Haffmansは、ドイツのアイウェアブランドの「IC! Berlin」「MYKITA」の共同創設者です。


(Even Realitiesのウェブより。デザインなどはメガネのプロを社内にリクルートして開発)

――視度調整レンズは、出荷時に組み込む形ですね。

Wang:広州に自社工場があります。今は処方箋レンズを全部中国から出荷しています。ただ、海外で作ることも検討しています。その方が出荷は早くなりますからね。

日本の提携先、例えば補正レンズ技術を持つ小売店と協力したり、各国に工場や施設を共同設立する可能性について協議を進める用意があります。日本の眼鏡店の方ともミーティングをしましたよ。

まずは「メガネ族」から。スマホはCompute Puckになっていく

――最後に。スマートグラス普及の課題は、「メガネをかけていない人にどうつけてもらうか」です。我々メガネ族は簡単ですが……

Wang:まずは、すでにメガネをかけている人々をターゲットにします。この場にいる人間(4人)のうち3人がメガネじゃないですか。少なくとも人口の半分はターゲットになります。

現在、世界では年間に10億本のメガネが販売されています。もし、この20%をスマートグラスにできるとなれば、市場は巨大です。エコシステムが確立して利便性が高まれば、メガネをかけていない人々もスマートグラスを検討し始めるでしょう。

――その時、スマートフォンとの関係はどうなりますか?

Wang:スマートグラスとスマートフォンは共存し続けます。スマートフォンは、スマートグラスの演算部分としての役割が増えるでしょう。

――すなわち、Compute Puck化するということですね。

Wang:はい。グラスのCompute Puckとしての役割を担うようになり、人々がスマホを取り出す時間は減ります。

将来的に、グラスがスタンドアロン機能を持つようになり、ある部分ではスマホは不要になります。しかし結局、効率的なタイピングなどの作業のためにスマートフォンは引き続き利用されるのではないでしょうか。


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