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業界動向 2018.11.21

VRで名画に入る体験や“VR足湯”など、DCEXPO注目展示ピックアップ(後編)

2018年11月14日から16日の3日間にかけて、千葉・幕張メッセにて「デジタルコンテンツEXPO 2018(DCEXPO 2018)が開催されました。本記事では前編に続き、「DCEXPO 2018」に出展されていたVR・AR関連の展示の中から、興味深いものをいくつかピックアップしてお伝えします。

また、DCEXPOと同時開催されていた、「第26回国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC 2018)」の決勝大会からも、作品をピックアップしてお届けします。

VR Gallery

Wizmeの開発した「VR Gallery」は、世界の有名絵画の中に、VR技術で入り込むことができるという、新しい体験を楽しめるコンテンツです。会場では葛飾北斎、クロード・モネ、アンリ・マティスと、東西の巨匠3名の代表的な絵画の世界を体験することができました。


HTC VIVEを装着して、さっそく体験開始です。美術館のように絵画がいくつも飾られている空間の中で、体験したい絵画に歩いて近づいていくことで、その絵画の内側に入り込むことができます。

最初に体験したのは葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」です。ここでは巨大な波が次々と押し寄せて、波しぶきが舞う様子を、荒れた海の上にいるかのように間近に見ることができます。

次に体験したのは、クロード・モネの「睡蓮」です。こちらは北斎の絵とはかなり趣が異なり、睡蓮の葉が浮かぶ池とその周囲の風景の佇まいを、落ち着いた雰囲気で感じられます。

そして最後は、アンリ・マティスの「ダンス」です。この絵画は数人の裸婦が手をつないで、輪になって踊る様子が描かれていますが、今回はその踊りの輪の内側に入って見ることができるという、ユニークな視点での体験ができました。

今回体験できた3種類のコンテンツは、名作絵画の内側に入り込むという体験自体は共通するものの、人物の躍動感や自然の荒々しさを感じるものから、静寂な雰囲気を楽しむものまで、そのテイストはいずれも異なっており、個々の体験は短い時間ながらも楽しめるものになっていました。名作絵画の世界をより身近に感じられるものとして、今後の展開に期待したいところです。

Hapbeatによるコンテンツの臨場感向上

Hapbeat合同会社が出展する「Hapbeat」は、首にかけるだけで音楽の振動やゲームでの衝撃感を味わえる、ネックレス型力触覚デバイスです。


Hapbeatは、付属のアンプ回路で増幅された音声信号によって駆動します。モーターが内蔵された本体は非常に小型で重さも軽く、ストラップで首からかけて装着しても、ほとんど違和感はありません。ところが、モーターと糸を組み合わせた独自の振動生成機構によって、本体だけでなくストラップからも振動が伝わるため、胸から首にかけての上半身全体で振動を受けとめる形となり、本体の大きさからは思いもよらないほど、パワフルなインパクトを感じることができます。

音声信号で駆動するため、専用の駆動プログラムなどを用意する必要はなく、音楽から映画、ゲームまで幅広いコンテンツにすぐ対応できるのも強みとなっています。同会場で行われていた「IVRC 2018」の学生による出展作の中に、Hapbeatを使用した作品が存在していたことからも、その扱いやすさがよくわかります。コンテンツに手軽に体感を付与できるデバイスとして、これからの普及が楽しみです。

孤独をFoot Bath(IRVC 2018)

ここからは、第26回国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC 2018)の決勝大会に出展された作品の中から、筆者が特に印象に残ったものを選んでご紹介します。

IVRCは、学生が企画・制作したインタラクティブ作品のコンテストで、この決勝大会には一般学生部門の予選通過作品10作品に加えて、高専、高校生などによるユース部門の予選通過作品4作品、そしてフランスのLaval Virtual学生コンテストを勝ち抜いた招待チーム1作品の、計15作品が実演展示されていました。


電気通信大学情報理工学部 足湯同好会による「孤独をFoot Bath」は、VRによって1人でも他者とのコミュニケーションが可能な足湯を実現する作品です。……こう書くとわかりにくいですが、写真を見れば一目瞭然で、HMDを装着した状態で足湯に入ると、かわいい女の子のキャラクターが登場。女の子が水の中を歩く感覚や、足でお湯をかけ合いっこしたりするのを、お湯を介したインタラクションで実感できるというものです。


この“お湯を介したインタラクション”が本作のポイントで、お湯の揺らぎで女の子の存在を間接的に感じられたり、自分の足を動かして水をかけると相手からも水しぶきが返ってきたりと、お湯(水)という不定形のモノが介在することで、コミュニケーションをよりいっそうリアルに感じることができるのです。

そんな柔らかなコミュニケーションを実現する手段が、水濡れ防止のためにビニールで包まれたOculus Touchを両足に固定したり、金属板をモーターで駆動させて波を起こしたりと、わりと直球勝負の無骨な手法だというギャップも、また楽しいところ。いい意味で学生らしいおおらかなアイデアにあふれた、味わい深いコンテンツでした。


L’Allumeur de Reverberes(IRVC 2018)

パリ第8大学ATIの学生たちによる「L’Allumeur de Reverberes」は、フランスで開催されているVRイベント「Laval Virtual」の学生コンテストで受賞して、日本に招待された作品です。

タイトルを翻訳すると「街灯の点灯夫」という意味の本作は、点灯夫の少年を誘導して街灯を灯していくゲームです。この少年を誘導する方法が、プロジェクターでスクリーンに投影された画面の前で、本物の積み木を積み上げて足場を作り、少年が星々の間を歩いて渡れるようにするという、ARを活用したゲームになっているのです。

少年が上を通ることができるのは赤い色の積み木だけで、白い積み木は通り抜けて落っこちてしまいます。そのため、ちょうど少年が通れる高さに赤い積み木を置いていくのがポイントです。


サン=テグジュペリの『星の王子さま』の中に出てくる点灯夫のエピソードから着想を得たというだけあって、画面から漂うロマンチックな雰囲気と、自分の手で積み木を置いていくアナログな操作感覚が、見事にマッチしています。プレイしている人の影がプロジェクターの光を遮ると、せっかく灯した街灯が消えてしまうといった細部のアイデアも絶妙で、作品の隅々にまでセンスの良さが行き届いています

インディーゲームとしてもハイクオリティな作品だけに、制作者のみなさんの今後の活躍が楽しみです。

ARCO -Avoid the Risks of CO-(IRVC 2018)

本作を制作した“カツゾー避難する”というチームは、立教池袋高校数理研究部のみなさんです。こちらはユース部門の予選を通過した作品となっています。

本作はCO、つまり一酸化炭素という無色無臭の“目に見えないものをVRで可視化する”というテーマに挑んでいます。火災が発生した現場で一酸化炭素中毒の恐怖が迫るなか、無事に脱出することを目指すのですが、これをコントローラーを使用せずに誰でも没入感を味わえるVRコンテンツとするために、複数の自作デバイスを活用したインタラクションを実現しています。


体験者が乗る八角形の台座には、16個の磁気センサーが取り付けられており、磁石のついた専用の靴でこの上を歩くことにより、コンテンツ内で360度の自由な歩行を実現しています。台座はすり鉢状になっていて歩行しやすい形状になっているほか、体験中に握ることになる手すりも金属パイプ製の頑丈なもので、安全面の配慮も行き届いています。

さらに、HMDにはCO2(二酸化炭素)濃度を測定するセンサーが取り付けられていて、体験者の呼気に含まれるCO2濃度を計測することで、体験中の一酸化炭素呼吸量を算出する仕組みになっています。ちなみに筆者は歩行中に息が上がってしまい、一酸化炭素中毒であっという間に体験終了となってしまいました(笑)。

このように、コンテンツが目指している理想の体験を、自作のデバイスできちんと具現化するという開発力もさることながら、体験時のオペレーションもじつにスマートで、上で紹介した磁気センサーによる歩行の仕組みは、専用のサンプルを用意して体験前にきちんと説明してくれるという丁寧なものでした。

テーマの選択からデバイスの自作技術、そしてプレゼンテーションと、いずれも高校生とは思えないレベルの高さに、とにかく驚きました。少し気が早いですが、彼らの将来の活躍が楽しみです。


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