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業界動向 2024.10.30

Armがクアルコムに「ライセンス供与停止」を通告 XRデバイスにも深く関わる両社の係争を解説

半導体設計最大手の1つであるArmは、10月23日、同じく半導体大手であるQualcomm(クアルコム)に対し、Armから供給されている「半導体設計ライセンス」を60日以内に契約解除する、と通告した。

これが現実のものとなると、スマートフォンやPCはもちろん、XRデバイスにも甚大な影響が出る。現在出荷されているXRデバイスのほとんどはQualcommのプロセッサーを使っており、それらの機器も出荷や開発が滞ることになるからだ。

なぜこのようなことになったのか、そして、本当に「Qualcommのプロセッサーを使ったXRデバイスの出荷停止」はありうるのだろうか?

ARM系プロセッサーとはどんなものか

まずは、いわゆる「ARM系プロセッサー」がどんなものかを振り返っておこう。

現在、半導体でもっとも広く使われているのは「ARM系プロセッサー」だ。スマホやタブレットはもちろん、スマートウォッチやヘッドホン、さらにはテレビまで、さまざまな規模・種類のプロセッサーのCPUコアとして、ARM系アーキテクチャが使われている。

Armは自社で半導体を製造せず、CPUの設計を他社に供給するビジネスをしている。ライセンスを受けた設計をもとに多数の企業がプロセッサーを設計し、それが各社製品に使われており、その最大手はQualcomm、という関係だ。

CPUアーキテクチャは重要だが、それ以上にプロセッサー全体の設計とソフト開発を支える開発環境も重要になる。製品としての価値は、そんなプロセッサー全体を支える環境であり、Qualcommはそれを機器メーカーに提供することをビジネスとしている。

逆に言えば、その辺を高いレベルで提供できているから、多くのハイエンドスマホがQualcommのプロセッサーを採用しているのだ。

XRデバイスではよりその点が大きい。小型・省電力かつ、位置認識を含めた「XRデバイスを作るための環境」が揃って提供しているメーカーは非常に少ない。自社で全てを行うアップルや、ゲーム機としての独自性・生産性を追求したPlayStation VR2を除き、スマートグラスを含むほとんどすべてのXRデバイスが、メインプロセッサーとしてQualcomm製を採用している。

そんな関係から、ArmにとってQualcommはもっとも大きな取引先の1つでもある。

問題を知るには「ライセンス供与の形」を知ることが重要

今回の話は、2022年からArmとQualcommの間で続く係争が発端となっている。

その辺を理解するには、ARM系プロセッサーを作るための「ライセンス提供」がどんな形で供給されるかを知る必要がある。

Armは自分ではプロセッサーを生産しない。「設計を売っている」わけだが、プロセッサーが作れる設計図そのものを売っているわけではない。

現在の供給形態は大まかに言えば2つある。実際にはライセンス形態はもっと複雑で、どこからどこまで設計を変更できるかでコストや狙いが変わるのだが、ざっくり2つの系統がある、と考えて欲しい。

1つはCortex License。簡単に言えばArmが提供するプロセッサーの設計をそのまま使うもので、開発コストを抑えられるのが特徴だ。

ただしそれでは性能が差別化しづらい。そこで、スマホ向けなどの大規模なプロセッサーを開発するところは「Architecture License」を選ぶようになってきた。

これはCPUの命令セットライセンス。他のARM系CPUと互換性はあるものの、CPUコアの中身自体は自由に設計できるライセンス形態である。アップルがいわゆる「Appleシリコン」を開発するために結んでいるのもArchitecture Licenseだし、Qualcommもそうだ。

今回Armは、Qualcommが同社との契約を守っていないと主張し、Architecture Licenseの停止を迫っている。

Qualcommの現在の主要製品は「Snapdragon」シリーズ。これもArchitecture Licenseを使ってQualcommが独自設計したARM系CPUコアを使っているので、スマホ向けからPC向け、XR向けまで、「Snapdragon」と名のつくプロセッサーの全てが供給できなくなる可能性がある。

NUVIA買収とOryon開発が衝突の引き金

係争のもとになったのは、2021年にQualcommによるNUVIAという企業の買収だ。

NUVIAはARM系プロセッサーを開発する企業だった。主にサーバー向けの高速なCPUを目指したものなのだが、アップルの「Appleシリコン」との競合を目指すQualcommは、その研究成果を自社のプロセッサーに組み込むためにNUVIAを買収することになった。

その買収の成果が、現在PC向けの「Snapdragon Xシリーズ」で使われている「Oryon」である。10月24日、Qualcommはハワイで開催した自社イベント「Snapdragon Summit」にて、OryonをCPUコアに使ったスマホ用プロセッサー「Snapdragon 8 Elite」を発表している。今後同社はOryonコアを使ったプロセッサーを主軸にしていくのは明白だ。

現在のXR向けプロセッサーはOryonベースではないが、2026年(発表自体は2025年中に行われるかもしれない)以降に出てくるプロセッサーはOryonベースになって劇的に性能アップ……という可能性は高い。

だが、ArmはNUVIA買収から続くQualcommとの関係をよく思っていなかった。正確に言えば、NUVIA買収に伴うArmから供給されているライセンスの扱いに解釈の違いがあるのだ。

QualcommはNUVIAの買収により、NUVIAが得ていたライセンスに基づく技術や設計をそのまま使えると判断している。だがArmは別途ライセンス交渉が必要、と主張している。

2022年からその点が訴訟となっているのだが、法廷での争いはこの12月に、米・デラウェア州の連邦裁判所で始まる予定となっている。

今回のARMの主張は法廷闘争の始まりを前に警告を発したもの……と見られている。

物別れなら「出荷停止」、だが「そうはならない」と市場は判断

では、両者が物別れに終わり、ライセンス供与が停止されるとどうなるのか?

まず、Oryon搭載のSnapdragon XやSnapdragon 8 Eliteは確実に出荷が停止される。

その他の、スマホ向け・XR向けのSnapdragonはどうなるのか? 現状では「出荷が停止されるのでは」という見方が強い。ただ、確定ではない。

これらのSnapdragonで使っているCPUコアは「Kyro」と呼ばれるアーキテクチャで、QualcommによればArmからライセンスを受けたものをそのまま使っているという。これを言葉通りに捉えればKyroのSnapdragonは影響を受けないのでは……とも思える。

しかし前述のように、実際のライセンス形態はもっと複雑なので、Armが停止すると通告したライセンス形態にどこまでが含まれるかは、両社でないと判断がつかない。

そもそも、今回の話が本当に決裂につながるか、というと、そこは多くの関係者が「そうはならないだろう」と予想しているのが実情だ。あまりに影響範囲が大きいし、ArmとしてもQualcommとしても、本気で決裂してビジネス環境を悪化させたいとは考えていないだろう。

これはある種のチキンゲームであり、お互いが良い条件で妥結するための訴訟戦術である……と見るべきだ。

10月25日夕方時点の両社の株価を見ると、Qualcommの下げ幅は意外と小さい。Armの行動がある種のブラフであり、本当に決裂したらArmの方に大きなダメージが出る……と株式市場からは判断されているのだろう。


(QualcommとArmの株価。株式市場はArmからの通告をむしろ「Armに不利」と見ているようだ)

Qualcommは最悪の場合、ARMアーキテクチャから、オープンで自由に使える「RISC-V」へ移行しうる。CPUアーキテクチャが影響するのは結局「開発環境」の問題であり、ソフトウエアがうまく開発・供給できるなら、CPUアーキテクチャは想像以上に「変更しうる」ものだ。

ただし、それは「開発環境」が前提になる。その整備には非常に長い時間が必要だ。また、CPUアーキテクチャを変えたプロセッサーを設計し、「前のアーキテクチャのものと同等以上の省電力性を含むメリット」を生み出すには、やはり設計に時間がかかる。入れ替えには最低でも、計画開始から5年単位での時間が必要だ。

いつかの段階でQualcommが、メインであるSnapdragon系プロセッサーで、ARMアーキテクチャから脱却する時期が来るかもしれない。だがそれは今ではないし、すぐにもできない。

だから今回の騒動では「12月までのどこかで妥結を見出す」と考えるのが妥当……という判断になるのである。


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