全日本空輸(ANA)が、グランドハンドリング部門の訓練にVR技術を活用した新しいシミュレーターを導入しました。「∀TRAS(アトラス)」と名付けられたこのシステムは、2024年10月4日から順次、ANAが就航する全国の空港に展開される予定です。同社は空港業務の人材育成効率を向上させ、全国の空港で均一な訓練環境を提供する方針です。
VR訓練シミュレーター「∀TRAS(アトラス)」は、ANA Training Systemの略称で、ANAがXRコンテンツ制作会社の積木製作と共同開発しました。本システムは、VR技術を用いて空港内の環境を再現し、グランドハンドリングに関わる様々な業務をシミュレートできます。
「∀TRAS」に搭載されている主な訓練コンテンツは以下の4つです:
1. プッシュバック/トーイング:航空機を駐機場から滑走路まで移動させる操作
2. パッセンジャーボーディングブリッジ:搭乗橋の操作
3. 防除雪氷:冬季の航空機の除雪作業
4. 特殊車両走行:トーイングトラクターやベルトローダーなどの操作
加えて「∀TRAS」には、以下のような機能が搭載されています:
– 各シナリオ選択:4つの主要訓練コンテンツから選択可能
– 空港選択:羽田空港、那覇空港、中部国際空港、松山空港(順次、全国の空港情報も搭載予定)
– 時間帯・天候選択:昼夜や晴雨雪などの組み合わせが可能
– 機体選択:ANAが運航する全機種に対応
– イベント発生機能:不具合や不測の事態を強制的に発生させる機能
– 採点機能:訓練生の操作を評価する機能
ANAは「∀TRAS」の導入により、複数の重要なメリットを期待しています。まず、安全運航への寄与が挙げられます。VR訓練の導入によってスタッフは十分な訓練時間を確保でき、車両特性をより深く理解し、不安全な状況を模擬体験することが可能になります。スタッフの習熟度が向上し、対応能力や危険予知能力がさらに高まることが期待されています。
次に、業務効率の大幅な向上が見込まれています。実機を使わずに訓練できるため、訓練補助要員の数を減らすことができます。また、時間の制約が緩和されることで訓練効率が上がり、早期の人材育成が可能。例えば「プッシュバック/トーイング」訓練では、従来4名必要だった人員が2名で実施できるようになります。
さらに、訓練環境の均一化も重要なメリットです。VR訓練では航空機や資器材の有無、天候などの外部要因に左右されずに訓練を実施できます。全国の空港で共通の訓練環境を提供することが可能となり、教育の質のばらつきを解消できます。
グランドハンドリング業務は、航空機の安全運航を支える重要な役割を担っています。この業務には、航空機の誘導、搭乗橋の操作、手荷物や貨物の積み降ろし、機内清掃、給油など、多岐にわたる作業が含まれます。各作業は機種ごとに資格取得が必要であり、高度な専門性と正確性が求められます。
ANAは「∀TRAS」の導入により、これまで課題となっていた訓練環境の地域差を解消し、全国で均一かつ高品質な訓練を提供することが可能になると期待しています。さらに、この取り組みをグランドハンドリング業界全体の人材不足に対するソリューションの1つとして位置づけ、業界全体の課題解決にも貢献していく方針です。
(参考)プレスリリース