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開発 2026.08.28

キヤノンの新たなMRソリューション「MREAL Collaborator」とは? ポイントは企業への“定着化”

今年の7月、キヤノンが新たなMRソリューション「MREAL Collaborator」を発表した。期間限定で、各企業に無償利用の状態で展開中だ。

この「MREAL Collaborator」は、3Dで制作されたオブジェクトを実寸サイズのまま、VR/MRヘッドセットに表示できるもので、複数人で参加し、リアルタイムなチェックを可能にしている。製造業の領域では製品のプロトタイプ版のレビューに使用したり、新たなデザインのアイデアを共有したりと、さまざまなシーンでの活用を見込んでいるという。


(キヤノン 左:角田弘幸氏、左:田巻裕介氏)

今回この「MREAL Collaborator」に実際に触れる機会をいただいた。また、キヤノンのこれまでのXR技術に関するビジョンと課題についても説明いただいたので、著者の感想も含め、紹介していく。

100社以上への導入で見えた“長期定着”の壁

そもそもキヤノンは、これまで現実の空間をリアルタイムに撮影して3Dのボリュメトリックビデオとして出力する技術をはじめ、高精細なVR撮影を行う「EOS VR SYSTEM」、MRヘッドセット「MREAL X1/S1」のビジネス展開など、様々なアプローチを行っている。

なかでも上記デバイスで利用できる企業向けサービス「MREAL Visualizer」は、設計データ(CAD)をMRで表示可能なサービスで、コミュニケーションのとりづらい遠隔地のコミュニケーションのやりとりをスムーズにしたり、将来リリースする予定の製品のトレーニングに利用したりと、企業の様々な課題解決を見込めるものとなっていた。

実際、ダイキン工業株式会社やトヨタ自動車株式会社、JR東日本フロンティアサービス研究所など、これまでに延べ100社以上の企業が、商品開発の事前デモや設備検証などのシーンで活用してきており(具体的な事例はこちら)、課題の早期発見や試作品のコスト削減などの結果に繋がっているそうだ。

その一方、長期的にこの事業を展開していくうえでの課題も見えてきたという。それは「長期的な定着に至らない」という課題だ。キヤノン側で分析を試みた結果、大きくふたつの原因が推測できた。ひとつは、ソリューションの実装が企業担当者の熱意やリーダーシップに依存しすぎているということ。確かに、実装時には職場の業務改革の一環として組み込まれるため、モチベーションの高い状態で活用されるのだが、担当者が変更になったり、業務フロー自体が変わっていくに合わせて、定着しないケースがあるという。

もうひとつの問題は、アプリケーションの操作の複雑さだ。デバイスやソフトの操作が直感的にいかず、機能のひとつひとつを事前に学習する必要があると、そのノウハウがそもそも継承されず、結局使われなくなってしまうそうだ。

筆者も製造業におけるXR活用の取材を重ねる中で、同様の課題を頻繁に耳にしてきた。特にトレーニング等で利用する際、「まずVR機器の操作方法を覚える」というステップが発生した時点で、現場でのハードルは跳ね上がってしまう。「装着すれば即座に使える」「誰がどの環境で使っても同じ状態が再現される」……そうした理想にどこまで近づけられるかが、現場への定着を左右する大きなカギと言える。

そこで、今回キヤノンが挑戦したのが「MREAL Collaborator」である。

VR/MRデバイスを選ばず、同じ3Dデータをリアルタイムに共有

「MREAL Collaborator」の大きな特徴は、マルチデバイス対応という点だ。これまでの「MREAL Visualizer」はMREALデバイスのみに特化したサービスだったが、様々なXRデバイスの規格として使用されている「Open XR」規格に対応。Meta QuestやVIVEシリーズ、Varjoなど他社のVRヘッドセットでも利用可能になった。これによりサービス体験のためにMREALデバイスを実装せずとも、すでに社内にあるVRデバイスに実装できる。利用できる企業が一気に広がった。

また、セキュリティ面にも十分に気を配っている。先述した通り「MREAL Collaborator」は、異なる拠点にいるチームメンバーが同じ3D空間に入り、3Dデータのデザインレビューや検証を実施可能になるというコンセプトだが、この3Dデータ(CADデータ)は機密性の高いものが多く、取り扱いにはセキュリティ上の注意を要する。そのため、クラウドを介さずローカルPCやクローズドな社内ネットワーク上でデータを管理・処理する設計が採用されている。クライアント端末側にもデータが保存されないため、情報漏洩のリスクを抑えられるそうだ。

運用面では、直感的な操作性を重視したという。必要不可欠な機能に絞り込み、CADオペレーターでなくても直感的に扱える画面設計・UIを実現。PC側で、3Dデータのリグを操作できるようになっている(※3Dデータに登録されているリグ設定をそのまま読み込める)。上記でも課題とされていたアプリケーションの操作性の複雑さを解決するための試みである。

著者も実際に試してみた。実際にVRヘッドセットを装着した状態で、大型機械の3Dデータをチェックする。バーチャル空間に入ると、他のユーザーの位置は色のついた頭部で表示され、誰がどのあたりを今チェックしているのかが、すぐに把握できるようになっていた。デバイスの装着者は「機械のドアがしっかり開くか確認してほしい」など口頭とPC担当者に指示を出すことで、細かな開閉の度合いなどを確認できる(※遠方とのやり取りは別途音声通話アプリをPCを介して接続するかたちで行われた)。PC側とVR側双方のコミュニケーションが必要となるが、そのタイムラグはほぼ無く、スムーズに確認ができていた。

3Dオブジェクトの“見え方”は申し分なし。今回、Varjo、Meta Quest、MREAL X1など複数のデバイスで体験したが、どのデバイスでもハッキリとデータをチェックできた(※現状ではMeta Questなどの一部のVRデバイスでMR表示ができない状態となっているが、VR表示は可能)。MREALデバイスであれば片手持ちで覗き込むようにしてデータを確認できるため、かなり手軽に利用できた印象だ。

一方で気になる点もあった。最も大きな課題と感じたのは、コントローラーやハンドトラッキングの表示/操作ができないという点。これでは、複数人でバーチャル空間で同じものを共有していても、“指さし”が見られないのである。もちろん、指やコントローラーは直感的な操作というハードルを上げてしまうものではあるが、少なくとも手の部分が表示されるだけでも、没入感やスムーズな伝達の面で大きく寄与するだろう。また、可能であればアプリ内で空間音声に対応し、頭部トラッキングと連動して発言者の方向から声が聴こえるようになれば「今誰がどの位置から話しているのか」が分かりやすくなり、コミュニケーションはより図りやすくなるはずだ。なお、ハンドトラッキング機能に関しては次バージョンでのアップデートを検討中とのことだったので、今後のサービス向上を期待したい。

キヤノンは今後、企業の設計部門やDX推進部門などの担当者に、このソリューションを積極的にアピールしていく方針だ。また現在無償期間での提供を続けており、フィードバックされた声を受けて、さらなるアプリの向上を図っていくという。さらに、3Dガウシアンスプラッティングなど急速に需要が高まっている3Dスキャンデータについても、サービスに組み込むかを検討中とのことだ。より直感的で使いやすく、企業の業務フローの中に定着化していくサービスを目指して、キヤノンの挑戦は続く。

MREAL Collaboratorの詳細はこちら
https://www.canon-its.co.jp/solution/industry/manufacturing/xr/mr/collaborator


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