Home » 3DスキャンからフィジカルAIへ繋げる大きな一手 Scaniverse法人版を担当者にインタビュー


企業動向 2026.05.07

3DスキャンからフィジカルAIへ繋げる大きな一手 Scaniverse法人版を担当者にインタビュー

現実空間をデジタル化し、マシンが理解できる形にする。空間コンピューティングにおける大きなテーマの一つであり続けてきた。

このテーマに挑み続けるNiantic Spatialが、新たな一歩を踏み出した。

Niantic Spatialは、「Scaniverse」というアプリを提供してきた。スマートフォンや360度カメラで空間を3Dスキャンできるアプリで、無料で提供されている。本来は専用機材や編集ツールが必要な3Dスキャンを個人でも手軽に実施できるようにした日本でもミートアップが開かれるなど熱量の高いユーザーがいる。

Scaniverseは2026年4月に大型アップデートを実施。消費者向けだったScaniverseの法人向け「Scaniverse for business」の提供を開始し、360度カメラで撮影したデータのインポートやチームでの広範なエリアの3Dスキャン、ロボットに対応したデータ形式(ROS)での出力などに対応した。事前スキャン不要とする新たな位置推計システム「VPS 2.0」も登場した。

Niantic Spatialが目指すのは、人間とAIが対話できる生きた世界の構築だ。ロボティクスや不動産など、産業での活用が見込める。この壮大なビジョンのもと、今回のScaniverseのアップデートを牽引したのがトリー・スミス氏だ。Mogura VR編集部では、トリー・スミス氏にオンラインインタビューを実施した。

ーー まずは自己紹介をお願いします。
トリー・スミス氏:機械工学を学び、2011年に自動運転の開発に携わるところからキャリアをスタートさせました。自動車業界でTier1サプライヤーや、フォードで働きました。その後、より汎用的な“地図”の分野へと軸足を移しました。私は地図が大好きで情熱を注いでいます。腕に羅針版のタトゥーを入れているんですよ(笑)
以降はキャリアのほとんどを、地図に関連する仕事に費やしてきました。Nianticの前には日本法人もあるMapbox働いていました。Mapboxでの仕事で、日本を訪れソフトバンクワールド(ソフトバンクが年1回開催するビジネスカンファレンス)に参加したり、AWSジャパンと会ったりしました。トヨタやホンダとも仕事をしていました。
その後、2021年にNiantic Labsに入社しました。2025年の夏にNiantic LabsからスピンアウトしたときにNiantic Spatialに残り、Niantic Spatialでは6人から成るプロダクトチームを率いています。
私たちのチームは、3Dスキャンを実現するプラットフォーム「Scaniverse」を担当しています。また、自己位置推定、再構築(リコンストラクション)、空間理解のための各種ツールの開発も手がけています。

ーー Scaniverseは今回、ビジネス向けということでアプリはそのままに 「Scaniverse for business」として用途を拡張する大きなアップデートを行いました。どんな意図があるのでしょうか。
スミス氏 :Scaniverseはすでに無料で提供されているサービスです。日本にも非常にユーザーが多くいらっしゃいます。Scaniverseは引き続き誰もが無料でダウンロードして使えるものとして維持したいと考えています。
私たちは新しいものを作るのではなく、Scaniverseを基盤にして新しいエコシステムを構築したいと考えています。現在は、川が海と交わる「河口」のような移行期にあります。これまでのScaniverseはオンデバイス(※)の再構築機能を備えた消費者向けアプリでした。ビジネス版では、私たちが長年開発してきた新しいクラウド機能を追加し、ひとつの調和のとれたエコシステムを構築しようとしています。
※オンデバイス:ユーザー各自のスマートフォンなどで処理を行うこと。クラウドなどネットワーク経由で処理を行うことと対比して用いられる。
今日のScaniverseは、無料で使用できるモバイルアプリとウェブアプリが繋がったセルフサーブ型プラットフォームです。クラウドにアカウントを接続し、クラウド再構築やVPSなどの機能を利用する場合、法人向けの新たなプレミアム機能が提供されます。
皆さんがScaniverseを愛するきっかけとなった既存の機能を奪わないことが非常に重要です。そのため、オンデバイスでの再構築機能などはそのまま残しつつ、「Scaniverse for business」ではクラウド処理を必要とする新たな機能を追加しています。そしてNSDKは、開発者が独自のアプリや食品配達ロボットなどを作るための開発者向けのツールとしています。

ScaniverseやNSDKを支えている個別のより技術にフォーカスした上流のサービス群としては、スキャンデータをスプラットやメッシュに変換する再構築サービスや、画像から位置を特定するVPS(自己位置推定サービス)があります。
現在進行中のプロジェクトとして、自然言語でモデルと対話できる「空間理解」機能も開発中です。
ーー 「Scaniverse for business」と合わせて開発者向けに提供されていた開発ツールの名前がARDKからNSDKに変更になりました
スミス氏 :私たちは開発ツールをより汎用的なものにすることに注力してきました。エンターテインメントやゲームに特化するのではなく、はるかに広範な目的に対応するために軽量、かつモジュール化されたものにしています。現場検査や石油・ガス、ロボティクス、あるいは大規模施設などでのユースケースを想定しています。
ーー Scaniverseの新バージョンでは法人ユーザーがクラウド処理のクレジット料金を支払うことになりますね。インポートする動画の容量によってはすぐにクレジットを使い切ってしまうことになりそうな……ユーザーはどのように利用料を見積もればいいのでしょうか。アップデート後はスマートフォンだけでなく、360度カメラなども使え、データ量も大きく変わっています。
スミス:料金体系は私にとって非常に重要なテーマです。前職のMapboxでは、Yahoo! JAPANやゼンリンの素晴らしい方々と一緒に仕事をする機会に恵まれました。Mapboxでは「誰もが無料で始められ、クレジットカード登録なしで価値を理解できること」を非常に重要な原則としていました。これが、顧客の皆さんと適切な関係を築くための大きな土台になっていました。
価格設定のアプローチにおいて、私は5つの原則を考えています。
まず第一に、顧客は利用する前にサービスのコストを把握できるべきです。飛行機に乗るまで航空券の値段が分からないなんて嫌ですよね。
第二に、使用したサービスの分だけを支払うモデルにしたいと考え、クレジット制を採用しました。毎月定額を支払うサブスクリプションとは異なり、毎月利用できるクレジットを一つの機能に全振りしても構いません。使わない機能に対して請求することはありません。
第三に、公共の場所でデータを収集してくれたユーザーに対するインセンティブの仕組みを作りたいと考えています。例えば明治公園などをスキャンして貢献してくれた場合、割引や無料で利用できるようにしたいのです。これはローンチにはまだ間に合っていませんが、構築中のメカニズムです。
第四に、アップロードして作成されたスプラットやメッシュの閲覧は無料にします。何度でも好きなだけ無料で見ることができます。そして最後は、最も人気のある機能であるオンデバイスでの再構築を、引き続き無料で提供し続けることです。
また、現在と同様に無料枠は残ります。毎月一定のクレジットが付与され、好きな機能に使える無料ティアが提供されます。PlusプランやProプランなどの有料ティアはサブスクリプション形式で毎月より多くのクレジットが付与されます。

(記事執筆時点での料金体系)
今回のアップデートで導入された最も重要な新機能は、360度カメラからの再構築機能です。360度カメラから驚くほど素晴らしいスプラットを構築する最先端の技術があります。この機能は、Plusプランから、セルフサービスとして利用可能になります。

ーー 360度カメラのサポートは非常にワクワクします。出力側については、API提供やMCPサーバーなどと直接連携する予定はありますか?
スミス氏:現時点では、生成されたSPZやPLY、メッシュなどのアセットをダウンロードして利用していただく形になります。ダウンロードしたデータはお客様の所有物となり、自由にお使いいただけます。
将来的にはMCPや他のAPI、CLI(コマンドラインインターフェース)などとの連携も視野に入れています。具体的な時期はまだお伝えできませんが、すぐというわけではありません。しかし、我々が描くビジョンには間違いなく含まれています。
Niantic Spatialが挑むLGM構想
ーー Niantic Spatialが目標に掲げている「大規模地理空間モデル(LGM)」の構築と、Scaniverseの関係性について教えてください。
スミス氏:重要な前提として、消費者向けも法人向けも問わず、ユーザーがScaniverseで作成したデータは全てプライベートなものとして扱われます。私たちが他のモデルの学習に無断で使うことはありません。
私たちはすでに、自社で収集したデータ、ライセンスデータ、オープンソースなど、LGMを構築するための膨大なデータコーパスを持っています。Scaniverseは、私たちが自己位置推定や再構築のためのパイプラインとAPIを確立し、自信を持って提供できるレベルに達したのでそれをサービスとして提供できているという考え方になります。
私たちは、消費者やプロシューマー、中小企業、そしてエンタープライズ企業の従業員など、我々が構築しているLGMの恩恵を受ける人たちから多くを学びたいと考えています。その一方で、モデル構築のために多様なデータを収集する専用のエンジンも持っています。衛星画像からベクターマップ、ドローン画像、360度データまで膨大なデータを活用してモデルの構築に注力しています。
これまで、VPS(ビジュアルポジショニングシステム)の最大の課題は、データのキャプチャからアクティベーション(自己位置推定用アセットの生成)までのプロセスに大きなハードルがありました。これまではエンジニアに助けを求める必要があり、非常に複雑でした。

今、私たちはこのVPSを実現するためのプロセスを誰もができるものにしたいと考えています。スキャンから自己位置推定まで、あるいは自宅の美しいスプラットを見るまでのプロセスを、摩擦のないシームレスな体験にしたいのです。
ーーLGMの構築とScaniverseは分けられているということですね。
スミス氏:私たちの北極星となる目標は、「人間とマシンの両方が対話できる生きた世界モデル」を構築することです。Scaniverseは消費者やプロシューマーがLGMの恩恵をセルフサービスで体験するための最初の大きなプロダクトです。LGMはLLM(大規模言語モデル)のようなもので、単なるテクノロジーの塊にすぎません。それと対話するためのインターフェースが必要なのです。
私たちにとってScaniverseは、いわば「最初のChatGPTのウィンドウ」のような役割を果たします。これを通じて誰もがモデルとインターフェースを取り、対話できるようになるのです。
ーー 2月に発表していたCoco Roboticsとの提携はLGMへのアクセスに関するものということですね。


スミス氏 その通りです。Coco Roboticsが直面している核となる問題は、配送用ロボットが複雑な都市環境を移動する際に、自分の位置を正確に把握する必要があるということです。東京のような高層ビルが多い環境ではGPSが大きくずれてしまい、ロボットは非常に苦労します。

彼らは私たちの新しい「VPS 2.0」を活用しています。これまでの「VPS 1.0」では、自己位置推定の前にまずその場所をスキャンする必要がありました。すべてのロボティクス企業に「街全体をスマホでスキャンしてこい」と要求するのは非現実的です。
LGMを活用した新しいアプローチにより、大規模で十分な自己位置推定が可能になり、新しい都市でもすぐに稼働を開始できます。また、新しいデータをマップにフィードバックし、常に最新の状態に保つ「フライホイール」の構築にも注力しています。ロボットが増え続ける世界では、センサーの観測データを利用して世界のマップを自動的に更新・修復していくことが理想の姿です。
ゼロからすべてスキャンするのではなく、すでにあるデータを活用したいと考えています。特に日本は、ゼンリンなどの企業のおかげで世界で最もマッピングが進んでいます。新たな事業を始めるたびにデータ収集戦略を一から練り直すのではなく、既存のデータをよりうまく活用できるようにしたいのです。
スマートグラスでのデータ収集は時期尚早
ーー データ収集デバイスについて、360度カメラへの対応が始まりましたが、カメラを搭載したスマートグラスで収集するアイデアについてはどう考えていますか?
スミス氏:私たちにとってはコインの裏表のようなものです。「データ収集とモデル構築」の側面と、「構築されたモデルを使って自分の位置を把握する」という側面です。今年の年末にリリースされるSnap Spectaclesの製品版Specs向けに、私たちはVPSを提供する予定です。

これにより、グラスをかけた人が自分の位置を把握し、ロボットやスマートフォンと同じようにARコンテンツとやり取りできるようになります。しかし、データ収集に関してはプライバシーとセキュリティに細心の注意を払う必要があります。データを記録して送信するグラスをかけることに、多くの消費者は抵抗を感じるでしょう。

意図的にマップ構築のためにデータを提出する場合と、単に移動のために技術を使用する場合とでは、データを全く異なる方法で扱っています。私自身もグラスをつけてデータを収集してみましたが、あまり快適な体験ではありませんでした。初期のデータ収集は360度カメラやドローンが中心になるでしょう。
スマートグラスがマップを常時更新することに貢献する未来は間違いなく来ますが、常にクラウドにデータを送信するデバイスへの不安を取り除くのは大きな課題です。Oculus Questが発売されたばかりの頃、部屋のマップ構築をするときに自分の部屋の情報に関するプライバシーの懸念がありました。プライバシーの枠組みが整理されるまでは、グラスは主にナビゲーション用になるでしょう。
ーー 今後のロードマップについて教えてください。これはまだ始まりに過ぎないと思いますが、どのような展開を予定していますか。
スミス氏:最も重要なトレンドはAIの進化です。私たちが構築する生きたワールドモデルは、人間だけでなく、ロボットやAIエージェントによって利用されるようになります。特定の時間や場所に関する情報を得たり、オープンボキャブラリーで質問したりするようになるでしょう。
開発環境も変化しています。かつてはPokemon GOの存在もありUnityに注力していましたが、今はSwiftやKotlin、そしてロボット向けのROS(Robot Operating System)のサポートも進めています。バイブコーディング(AIを活用したコーディング)やCLI、MCPなど、進化し続ける開発エコシステムに対応できるようにすることに注力しています。
今回のアップデートでは初めて、スマホ以外のデータをセルフサービスでアップロードできるようになりますが、これで終わりではありません。年内には、ドローンやレーザースキャナーのデータもアップロードできるようにする計画です。いわゆるBYOD(Bring Your Own Data:自分のデータを持ち込む)の概念です。
エンタープライズ企業は、すでにスキャン済みの場所をもう一度スキャンしたくはありません。既存のデータをそのまま使えるようにし、導入のハードルを大幅に減らしたいと考えています。
ーーScaniverse for businessの データ管理についてですが、日本の企業はデータを自社サーバー(オンプレミス)で管理したがる傾向があります。そういった要望への対応予定はありますか?
スミス氏:多くのエンタープライズ企業が自社のインフラに多額の投資をしており、オンプレミスのソリューションを求めていることは十分に理解しています。現在はEnterpriseプランのお客様向けにのみ提供し、まだすべての方に提供できる段階ではありませんが、私たちの製品やサービスをコンテナ化し、プライベート環境で実行できるようにする機能を開発中です。
Scaniverseにはスマホで動く小さな再構築エンジンが搭載されていますが、Google Cloud上で動いている我々のインフラ機能も、オンプレミスに持ち込めるようにしたいと考えています。顧客とのPoC(概念実証)の進捗次第ですが、技術的には間違いなく可能です。
ーー 現時点でScaniverse for businessはどのような業界と特に相性が良いとお考えですか?
スミス氏:既存のユーザーがセルフサービスで家やビジネスの場所をスキャンしているのを見ると、不動産業界などは非常に面白いと思います。他にも大規模施設や石油・ガス、建設業界などですね。ここでも、既存のデータを使える(BYOD)ことが重要になってきます。
今回のアップデートは目玉だらけですが、紹介しておきたいのはチームでのコラボレーション機能です。複数の人が同じ組織に所属し、別々のデバイスでスキャンしたデータを一つの場所に統合できます。
先週、3人の同僚と一緒にNiantic Spatialのオフィス中を歩き回って合計2時間のスキャンを行いました。面積にして約2500平方メートルの広大なモデルが完成しました。
以前ならエンジニアの手を借りて長い時間がかかっていた作業ですが、4人がそれぞれ約30分スキャンするだけで、オフィス全体が完全にアラインメントされた巨大なモデルが完成したのです。不動産や建設会社が自分たちの手で簡単に実行でき、すべてのデータを1箇所にまとめられるようになります。

まだ初期段階ではありますが、様々な活用方法があります。特にサンフランシスコやロサンゼルスなど、顧客やロボティクス企業が集中している都市では、大規模な再構築の事例が最初に見られるでしょう。
そして私たちがターゲットとして期待しているのは、やはりロボティクス分野です。現在は米国のCoco Roboticsと提携していますが、日本でもパートナー探しに奔走しています。Coco Roboticsでの知見を活かし、日本のロボティクス企業や工場など、高精度なナビゲーションを必要とする分野との提携を強く望んでいます。
ーー 最後に、日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。
スミス氏 日本の素晴らしいコミュニティの皆さんには、心から感謝しています。皆さんがScaniverseをどれほど愛してくれているかを理解しています。オンデバイス再構築などの無料機能を取り上げるようなことは決してしません。それは企業向けでも個人向けでも、引き続き無料でご利用いただけます。
今回のアップデートは、プレミアム機能の追加です。360度カメラなどの新しいデバイスを使って、より大きく詳細なスプラットを生成できるようになります。また、将来的には「空間理解」や意味的クエリのような機能も追加していく予定です。
Scaniverseを、Niantic Spatialが構築している未来への「入り口」として大いに楽しんでいただきたいです。
ーー 素晴らしいメッセージをありがとうございます。


CONSULTING / DEVELOPMENT

コンサルティング・開発サービス

Moguraの知見を、あなたのプロジェクトに

mogura_next

Moguraの知見を、あなたのビジネスに
編集長の久保田を筆頭に、XR/メタバースなどバーチャル領域を知り尽くす専門チームが、リサーチからコンサルティング、企画、開発までを一貫支援。
Mogura VRで培った豊富な情報力と業界ネットワークを強みに、企業・行政機関の成果につながる最適な解決策をご提案します。