2025年7月、Mogura VRとG-SMASHが共催したイベント「注目すべきVRゲーム市場の真相を語る」。本稿では、第1部に登壇した米国の投資会社Hartmann Capitalの投資家、JP Minetos氏の講演をレポートする。
『Gorilla Tag』の大成功に沸く北米VR市場は、日本の開発者にとって巨大なチャンスだ。しかし、その実態は日本からは見えにくい。Minetos氏は、データに基づき市場の今とヒットの法則、そしてMRの未来までを鋭く分析。グローバルを目指す全てのクリエイター必見の、そのインサイトに迫る。
登壇者プロフィール
JP Minetos(Hartmann Capital)
投資会社Hartmann CapitalでVR/AR分野を手掛ける投資家。2020年に同社へ入社し、VR/AR、ゲーミング技術、クリエイティブツール分野を担当。大手ゲームIPをVR化する「Flat2VR」や、世界初のオープンソースAR OSを開発した「Mentra」の案件を手掛けた実績を持つ。
Questトップ100の現状と旧来の成功モデル
Minetos氏はまず、Meta Questストアの現状を解き明かす複数のデータを示した。現在、Questストアのトップ100アプリケーションのうち、62%が有料アプリ、38%が無料アプリで構成されている。トップ100入りには約4,500件、トップアプリになるには15万〜16万件のレビューが必要という数字は、市場の競争と規模を示している。こうした状況を踏まえ、Minetos氏は旧来のビジネスモデルについて言及した。
「かつての成功モデルは、数年を費やして完璧なゲームを作り上げ、Metaから資金提供とストアでのプロモーションを受けて有料タイトルとして発売し、その売上から収益を得るというものでした。このモデルは、適切に行えば2025年においても機能する可能性はあります」
しかし、市場が変化する中で、この伝統的な手法だけが唯一の正解ではないと、後の講演内容は示唆していく。
市場の王者は無料のコンテンツ
現在のVR市場を語る上で欠かせないのが、Another Axiom社が開発した『Gorilla Tag』の存在だ。猿のようなアバターを操作し、腕の動きだけで移動しながら鬼ごっこを繰り広げるこのゲームは、累計売上1億ドル、月間アクティブユーザー300万人という驚異的な数字を叩き出している。Minetos氏は、このゲームが市場のルールを根底から変えたと分析する。
「『Gorilla Tag』は、VRにおけるFree-to-Play(F2P)モデルの最初の、そして最大の成功例です。基本プレイは無料で、収益の大部分はキャラクターの見た目を変えるコスメティックアイテムの販売から得ています」
特筆すべきは、その主要なユーザー層がティーンエイジャーであることだ。彼らは自分たちのクレジットカードを持っていない。しかし、親から与えられたギフトカードなどを使い、熱心にアイテムを購入していく。このビジネスモデルが、VR市場に新たな収益化の道筋を示したのだ。
『Gorilla Tag』の登場は、それまで「プレミアム価格(買い切り型)のシングルプレイゲーム」が主流であったQuestストアの常識を覆した。ソーシャルで、無料で始められ、継続的にアップデートされるコンテンツが、ユーザーを惹きつけ、巨大なコミュニティを形成する。この成功は、後続の多くの開発者に計り知れない影響を与えている。
ヒット作に潜む“4つの共通のDNA”
では、現在のVR市場で成功を収めているタイトルには、どのような共通点があるのか。Minetos氏は、Questストアのトップセラーを分析し、そこには「4つの共通のDNA」が存在すると指摘した。
はじめに、「F2Pとライブサービス」。これは『Gorilla Tag』が確立した新たな収益モデルである。一度きりの購入で完結するのではなく、継続的なアップデートやシーズン毎のイベントでユーザーを惹きつけ、長期的なエンゲージメントを生み出す。これにより、開発者は安定した収益基盤を築き、巨大なプレイヤーコミュニティを維持することが可能になる。
次に、「マルチプレイヤー」。Minetos氏は「VRは本質的にソーシャルなメディアです。他のプレイヤーと一緒にゲームをプレイするというより、同じ空間に“存在する”という感覚が重要です」と語る。アバターを介して同じ仮想空間に立ち、身振り手振りを交えてコミュニケーションを取る体験は、2D画面のゲームでは得られない強烈なリアリティと楽しさを生み出す。
次が、「VRネイティブなゲームプレイ」。ヒット作は、PCやコンソールゲームの単なる移植ではない。VRでしか実現不可能な、プレイヤーの身体性を最大限に活かした体験を提供している。『Gorilla Tag』の腕の動きだけで壁を登り、跳ね回る移動方法は、まさにその象徴だ。プレイヤーの全身を使ったアクションが、これまでにないゲームプレイの感覚を生み出している。
そして最後が、「物理ベースのインタラクション」である。仮想空間内のオブジェクトを掴んだり、投げたり、叩いたりした際に、それが現実世界の物理法則に沿ってリアルに反応することは、プレイヤーの「そこにいる」という感覚、すなわち“プレゼンス”を劇的に高める。Minetos氏は「VRで物を掴んだ時の感触がしっくりくると、それは魔法のような瞬間になります」と述べ、この物理インタラクションの重要性を強調した。
Minetos氏は、これら4つの要素が、現在のVRゲーム開発における成功の鍵であると結論付けた。
“ゲームの外”でユーザーを掴む方法
講演の中でMinetos氏が最も重要だと繰り返し強調したのが、ゲーム外での拡散戦略、すなわち「バイラルループ」の構築である。
「これは、議論の余地なく最も重要なパートです。VRゲームの成功は、ゲームの外で何が起こっているかに大きく依存しています。プレイヤーが体験した面白い瞬間をいかに共有させ、新たなユーザーを呼び込むか。この循環の設計が不可欠です」
その鍵は、プレイするたびに異なる展開が生まれる「リプレイ性」と「創発的なゲームプレイ」にある。予測不能な面白い瞬間が生まれやすいゲームは、それ自体が共有したくなるコンテンツとなるのだ。
具体的には、YouTube、TikTok、DiscordといったSNSプラットフォームがその主戦場となる。開発者は、単に面白いゲームを作るだけでなく、そのゲームプレイが「見て面白い(spectator-friendly)」ものであるかを常に意識する必要がある。他者のプレイ動画を見た潜在的なユーザーが「自分もやってみたい」と感じ、ストアへと足を運ぶ。この流れこそが、現代のヒット作を生み出すエンジンなのである。
Minetos氏は、「開発の初期段階から、マーケティング、特にこのバイラルループをどう設計するかを考えるべきだ」と語る。ゲームデザインとマーケティングデザインは、もはやセットで考慮すべきポイントなのだ。
MRはまだ“iPhoneの前のスマホ”
講演の最後に行われたQ&Aセッションでは、Mixed Reality(MR)の将来性についての質問が寄せられた。これに対し、Minetos氏は投資家としての冷静な視点を示しつつ、その大きな可能性について語った。
「投資家にとって、VRはある程度『既知のもの』になりつつあります。しかしMRはまだ『ワイルド・ウェスト(未開拓の西部)』です。現在のMRは、スマートフォン市場におけるiPhone登場以前の、BlackBerryの時代に似ています。非常に興味深く、多くの開発者が参入していますが、まだ市場を決定づける『キラーアプリ』は登場していません」
Apple Vision Proの登場は、MRへの注目を飛躍的に高めたが、コンテンツが追いついていないのが現状だ。投資家の視点から見れば、本格的な投資対象となるには、まだ実験的な段階にあるという。しかし、Minetos氏はこの未成熟な市場にこそ大きなチャンスが眠っていると示唆する。
「誰もがMRの可能性を信じていますが、それがいつ、どのような形で花開くのかは誰にも分かりません。だからこそ、今このフロンティアに挑戦する開発者には、大きな先行者利益がもたらされる可能性があるのです」
Minetos氏の講演は、データに基づいた的確な市場分析と、具体的な成功法則に満ちていた。VR/MRという、いまだ底知れぬ可能性への挑戦は、これからも続いていく。









