【独占インタビュー】「もう一度VRを変える」Oculusを作った男が語る VRとARの進化(後編)

3回に分けてお送りしてきた来日中のOculus創業者パルマー・ラッキー氏インタビューもこの後編で最終回となります。

前編、中編ではパルマー氏の人となりや頭の中で考えていることを訊いてきました。後編ではいよいよ、VRの今後について語ってもらいました。

今後数年先のVRはどうなるのか。今のVRの流れを作り、フェイスブックで世界のVRの最先端を見てきた男は未来に何を見て、その中で何に取り組むのか。未来予測は苦手、と言うパルマー氏ですが示唆の多い話が続きます。

※本記事には映画『ソードアート・オンライン オーディナルスケール』のネタバレが含まれます。

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VRHMD+インプラントの未来

――パルマーさんが考えるVRの最終形とは何でしょうか。

パルマー:
最終形は直接のニューロリンク(神経接続)です。でも、それはあまりに遠い未来の話です。僕らが生きている間に実現するかもわかりません。技術的に難しいだけでなく、実現可能かも分かりません。まだ研究段階の技術で、実現できるかもしれないという研究結果はありますが……。意識を機械に取り込むには、脳は非常に難しいインターフェースです。

――ニューロリンクが最終形だが先すぎるとすると、数十年間ではどうでしょうか

パルマー:
実現可能なことが分かっているのは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とインプラント技術の組み合わせです。筋電を操作できるセンサーを耳と腕に埋め込み、きわめて高性能なVRHMDを使えば、(パンチなどの衝撃も感じることが可能になり)現実と近い体験が可能になります。脳に接続を行う必要はありません。そしてより安全です。

――VRHMDの形はOculusのマイケル・エイブラッシュなどがいつも言っているように、やはりサングラスなのでしょうか。

パルマー:
そう思います。中にはコンタクトレンズを考える人もいますが、それはないと考えています。コンタクトバージョンが出たとしてもサングラスのほうが体験の質がよいことが明らかだからです。パフォーマンスもディスプレイの解像度も、バッテリーも全てサングラスが上回ります。

VR/ARを自由に切り替えることのできる

――続いて機能について。VR以外にもARやMR、Augmented VRなど最近は色々なコンセプトの◯◯リアリティが登場していますが、どう考えていますか。

パルマー:
どう呼ぼうと言い方は気にしていません。最終的にはARグラスとVRグラスになり、それが1つのデバイスになると考えています。現実の世界とバーチャルな世界を行き来できるようになり、現実とバーチャルが混ざった世界も体験できるようになります。その名前はMRなのかXRなのか、ARなのかVRなのか、呼び方は人それぞれかもしれないですね(笑)

現実空間を認識し、VR内に現実の要素を反映させる「Augmented VR」(2016.10、Oculus Connect 3)

――同じものになっていくということですね。

パルマー:
ARの最も良いイメージは劇場版『ソードアート・オンライン オーディナルスケール』(劇場版SAO)に登場します。現在、ほとんどのARデバイスはHUD(ヘッドアップディスプレイ、視野に情報を映し出す)です。一方、劇場版SAOで登場するAR技術はよりMRに近いもので、現実に基づいてバーチャルな世界を構築します。“オーグマー”はまさに本当の意味でのARデバイスです。

劇場版SAO 公式ティザー

https://www.youtube.com/watch?v=4slt_lQ8fPc

そして、最後のシーンが一番気に入っています。オーグマーには秘密の「フルダイブ」システムが搭載されていることが分かりますよね。あれこそがまさに未来です。オーグマーはまさにARもVRもそしてその間にあるものが全て実現しています。1つのデバイスでARゲームである『オーディナルスケール』もVRゲームの『ソードアート・オンライン』も『ガンゲイル・オンライン』もどんなゲームでもできてしまうわけです。

そして、オーグマーはゲームだけでなく、日常生活でも使えるデバイスとして描かれています。街を歩いたり、買い物をしたり。ARとVRが行き着くのはオーグマーだと思いますよ。

――どんなこともARかVRでできるようになるわけですね。HMDとインプラントの組み合わせは20年以上かかるかもしれませんね。

パルマー:
未来予測は難しいですよね。はずすと「あいつは何も分かってなかった」と言われますからね(笑)

僕はどうすればインプラントができるのか知っています。そのため、来年にもできるわけですが……。一般の人ができるようになるまでに時間がかかります。少なくとも言えるのは、みんながインプラントをしたいと思うようになるには最低5年くらいはかかるのではないでしょうか。

VR/ARを自由に切り替えることのできる

――では、5年くらい先の未来のVRはどうなると思いますか。

パルマー:
デバイスの形状が改善されますね。より軽く、薄く、コンパクトになるでしょう。解像度が向上し、明度・色彩も改善し、可変焦点(※)になります。そして5年もあれば、脳でコントロールする技術(Brain-computer Interface、BCI)を目にすることになるでしょう。

――フェイスブックのF8で発表されたような技術ですね。

パルマー:
あれはほんの一例です。この技術に関してはまさに競争が始まっているところです。脳でバーチャルなものを動かすためのBCI技術の競争には非常に多くの人々が参加しています。これまで一般消費者向けに出ているBCI技術を使ったデバイスはまだどれも使い物にならないレベルです。研究所にあるものは全く違います。もし一般に売れるようなデバイスを作ることができれば……世界は変わるでしょう。

ちなみに、BCIには脳で考えて何かをコントロールする技術と、SAOのナーヴギアのように脳に情報を送りこむ技術がありますが、後者はずっと難しい技術とされています。僕が次の5年で出てくると言っているのは前者の脳から情報をアウトプットする技術です。

フェイスブックはBCIへの取組を明らかにしている(2017.5、F8)

次の1年はコンテンツの年だが、ワクワクするプロトタイプが登場する

――では、来年はどうですか?もちろん言えないことがたくさんあるとは思いますが(笑)

パルマー:
もちろん(笑)一般的な話をします。2018年は大きな動きがないでしょう。ハードウェアは変わりません。もちろん、新たな企業が新たなハードウェアを出すこともあるかもしれませんが、メジャーとなっているプレイヤーは同じハードウェアです。

そういう意味では、次の12ヶ月は新しいハードウェアを待っているVRユーザーにとってはもしかすると少し面白くないかもしれません。コンテンツやアプリケーションが充実してくる期間です。しかし、VR開発者やVR好きにとっては非常にワクワクする12ヶ月になるでしょう。プロトタイプが出てきて最新の発表があると思いますよ。

――やはり一体型になるのでしょうか。

パルマー:
かもしれないですね。僕からは言うことができません(笑)

他者の視点を歩き回る“デプス込みの360度ライブストリ―ミング”がVRコンテンツを根本から変える

――コンテンツの進化についてはどうでしょうか。実写やCGで何か興味深い進展はあるのでしょうか。

パルマー:
360度動画は興味深いものです。しかし本当に「現実をキャプチャーする」のであればデプス(深度)情報をとる必要があります。そうすることで、撮影された現実の中を実際に動けることが理想的です。デプスのとれる360度動画、そしてリアルタイム・デプス・ライブストリーミング(デプス情報つきの360度動画を実況する技術)は、革命的です。VRコンテンツを根本から変えるでしょう。この技術を開発している会社はいくつかあります。この技術が実現すると「記憶」を記録することができるようになります。

そして、VRHMD自体にカメラが搭載されたらどうでしょうか。一体型に搭載されれば、毎日あらゆる場所にいるあらゆる人の記憶を辿ることができるようになります。すごいことですよね。この技術も5年以内には製品化されてくるのではないでしょうか。しかし、消費者レベルのものではないと思います。まずはプロのクリエイター向けの特別なものが登場すると思っています。

究極的には誰もが使うVR/ARサングラスにこうしたカメラが搭載され、常にスキャンが行われます。その情報が共有されて巨大な“世界のマッピング”が行われている状態が訪れます。こうなるには確実に5年以上かかると思いますが、5年もあれば自宅のリビングをスキャンすることは可能になるでしょう。そして、世界中の誰もがあなたのリビングを訪れることができるようになります。もしかしたら可愛い女の子が自分の部屋に来てくれるかもしれません。

パルマー氏の主張している未来に近い例と筆者が考えるマイクロソフトのWindows Mixed Realityのコンセプト動画

https://www.youtube.com/watch?v=2MqGrF6JaOM

――来るのはバーチャルな女の子でもいいかもしれませんね。

パルマー:
もちろん!

――日本にはGateboxというものがありまして……。(Gateboxのウェブサイトを見せる)

パルマー:
そう!これこれ、これ!!!!30万円くらいですよね。このアイデアは大好きです。AIを搭載したバーチャルアシスタントが何をしたいか教えてくれるのは非常に便利ですよね。一方で危うさもあります。先ほど(編集注:中編)僕が考えているSFストーリーの話をしましたが、全てをコンピューターに任せるようになってしまった場合、社会全体がそうなってしまうと何が起きるのか怖いですよね。

僕もAIワイフアシスタントを使いたいけど、みんなが使ってしまうと全てをコンピューターに管理されて社会全体では大変なことになるかもしれない。悩ましいです(笑)

Gatebox ティザー映像

https://www.youtube.com/watch?v=mMbiL8D6qX0

――デプス・ライブストリーミングの話に戻りましょうか(笑)先ほどのリビングのルームスキャンとリアルタイム・デプス・ライブストリーミングは繋がっていますね。

パルマー:
そうです。ルームスキャンはリアルタイムでなく記録な分、簡単でより早く実用化します。来年には出現するでしょう。リアルタイム・デプス・ライブストリーミングはリアルタイムなので技術的な障壁はさらに高くなります。

「もう一度VRを変えようとしている」

――いまパルマーさんが最も注目している技術は何でしょうか?

パルマー:
もちろんVRですよ!

――ですよね(笑)その中でも特にこの分野が、というのはありますでしょうか。

パルマー:
(かなり悩んだ後に)まだ言うことはできません。ただ言えるのは、僕は(Oculus Riftに続いて)「もう一度VRを変えようとしている」ということです。

――とても力強いですね。どういうものが明らかになるのか楽しみにしたいと思います。最後の質問ですが、またマチ アソビに来たいですか?そして日本にはいつ来ますか?

パルマー:
Uniteやほかのイベントと絡めば、ぜひ来年のマチ アソビには来たいと思っています。そして、次に日本に来るのは、おそらく今年の東京ゲームショウの頃でしょう。日本にはもっと回数を多く来たいと思っていますが、このインタビューの一番最初に言ったように、僕は仕事に打ち込んでいます。日本に来るのは主に楽しむためなので……。頻度を増やすと言ってしまうと、仕事をあまりしない、と宣言することになってしまうのが残念です。日本に住んでフルタイムで日本人のVRコミュニティのサポートをしようかと悩んだこともありました。諸事情あってできなかったのですが、今後も何らかの形で日本のVR開発者コミュニティを支えていきたいと考えています。

――非常に長い時間、ありがとうございました!

3回にわたりお届けしてきたパルマー・ラッキー氏のインタビューは以上となります。フェイスブックを去った後も、VRに対する想いを強め、精力的にVRに取り組む意欲を見せているパルマー氏。インタビュー中でもほのめかしてくれましたが、すでに新しいプロジェクトがいくつか始まっているようです。

インタビューからも伝わってくるように、パルマー氏の価値観は日本のアニメやゲームに少なからず影響を受けています。そして、日本のVR開発に強い関心を寄せています。今後も継続的に来日を予定しているとのこと。彼の今後のプロジェクトも、そして次回どのような姿で現れるのか、楽しみにしたいところです。

 
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この記事を書いた人

  • 慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。
    現実を進化させることができるVRに無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。これまでに体験したVRコンテンツは展示、配信合わせて500作品以上。現在ももちろんコンテンツを体験し続けており、VR業界の情報集約と提供、コンサルティングに強みがある。また、海外の主要なVRイベントでは必ず現地に足を運び、取材やネットワーク構築を行っている。2016年は6回渡米。

    Twitter:@tyranusii

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