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業界動向 2017.05.10

【独占インタビュー】Oculusを作った男が語る VRへの情熱、そしてSAOをきっかけにした次のプロジェクト(中編)

来日中のOculus創業者パルマー・ラッキー氏インタビューの中編です。

パルマー・ラッキー氏は2017年3月にフェイスブックを退社しました。その後、どういった活動をしているか、何には明らかになっていません。

中編では、現在VRについてどの程度情熱を持っているのか。また、アニメや映画、小説に影響を受けてきた、彼がもしSFを描くとしたらどういう世界を描くのか。そして最も気に入っているVRをテーマにしたアニメの1つ『ソードアート・オンライン』について話を聴きました。

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5年経ち、VRへの情熱はさらに増している

――いまのパルマーさんのVRに対する情熱というのはどこから沸き起こっているのでしょうか。

パルマー:Oculusを立ち上げて数年が経ちました。今はこれまで以上にVRに対して情熱を持っています。Oculusを立ち上げるまで、VRは僕の趣味でサイドプロジェクトに過ぎませんでした。立ち上げた後は、どんな日も全てをVRに捧げてきました。僕はほぼすべてのVRコンテンツを体験し、ほぼすべてのハードウェアを試し、ほぼすべてのスタジオに会ってきました。そして、この数年を通じて、VRが普及するという自信を以前にも増して持つようになりました。毎週のように「VRこそ未来だ。僕はそれを実現しなければいけない。さらに早く実現しよう」と言いたくなる体験に出会い続けてきたのです。今一番懸念しているのは、そのスピードが十分でなくなってしまうこと、そして人々がVRにワクワクしなくなってしまうこと、熱量を失ってしまうことです。

今の自分を突き動かしているのは、「いかにVRを全ての人にとって魅力的なものにするか」、「いかに普及を加速させるか」、「いかにVR開発者が利益を得てビジネス的にも成功できるようにサポートするか」といった問題意識です。現状、多くのVR開発者にとって、VR開発で自分たちの生活費を稼ぐことも難しい状況です。

――VRへの情熱はさらに増しているのですね。

パルマー:
よりVRに情熱を注いでいます。もちろん、時には反論されることもあります。それも当然です。2012年にOculusを立ち上げてから5年が経ちましたが、振り返ってみると2012年に「VRは成功する」と言ってくる人がいたら、僕は信じなかったでしょう。狂ってると思ってたと思います(笑)

――Oculusを立ち上げてからのこの5年間はいかがでしたか?

パルマー:
本当に早かったです(笑)未だに5年も経ったことが信じられません。毎日
充実していましたが、振り返ってみると本当にあっという間でした。

 

パルマーが思い描くSFストーリー

――ここで少し切り口を変えてみようと思います。パルマーさんはSF小説『スノウ・クラッシュ』などSF作品に影響を受けていますね。技術の進歩によって現実がSFの世界に近づいているという見方もありますが、もしパルマーさんが現在、アニメを作るとしたらどんなことを考えていますか。どんな未来を描きますか。

パルマー:
実は、いくつかSFアニメのアイデアを考えています。空いた時間に考えるしかないので実現できるかは分かりませんが……。

その1つは、将来、自動運転が普及した世界の話です。全ての車が自動運転になり、仕事もコンピューターがしています。人間は運転方法がわからないですし、自分の頭で考えることもしません。個人という認識すらなくなるかもしれません。その社会で例外なのが、社会のあり方に反抗するグループです。彼らは自分たちの車を運転し、組立や修理もします。コンピューターなど一切の便利な技術を使わず、自分たちの頭で考えて、システムに飲み込まれずに自由に生きようとする。

――それは『ターミネーター』や『マトリックス』とも似たディストピアな未来なのでしょうか。

パルマー:
僕が描きたいのは、良い未来です。決して機械が全てをコントロールしているディストピアではありません。ただ、少しディストピアな要素があるかもしれませんね(笑)僕の考えている物語では、技術がいかに社会に良いかを描く一方、完璧なシステムは社会の強さである個性を失わせるというテーマを描きたいと思っています。一方でグループの人々は、自分個人に誇りをもち、個性の素晴らしさを見せてくれます。

 

VRの果たす役割

――ところで、そんな世界ではVRはどうなっているのでしょうか。

パルマー:
この物語ではVRはあまり登場していません。実は大きな問題があって、もしVRが普及した世界をSFで描いたら、僕らはもう車が必要ないのではないでしょうか(笑)

――もう移動する必要がなくなりますからね(笑)

パルマー:
そうなんですよ。なんでもVRの中にありますからね。そうなるとみんなより多くの時間をVRで過ごしていると思います。

――『ソードアート・オンライン』などでは、VRが非常に魅力的なものとして描かれていることも多いですね。

パルマー:
SAOはどうでしょうか。死んじゃいますからね?(笑)でも、アインクラッドであれだけひどいことが起きたのにみんなVRゲームをやるんですよね。『アルヴヘイム・オンライン』しかり『ガンゲイル・オンライン』しかり。

ソードアート・オンラインシリーズの公式ダイジェスト映像(一瞬ですがネタバレを含みます)

――懲りないですよね。

パルマー:
日本はSAOが人気なおかげで、ゲーミングPCが少なくてVRユーザーはあまりいませんが、VR自体は非常に理解されやすいですね。一方、アメリカでも『マトリックス』のディストピアなイメージがありましたが、最近では徐々に変わりつつあります。スーパーボウルの試合をVRで中継した際にはサムスンが大掛かりな広告を出しました。何百万人もの人がその広告を見ています。その内容はとてもポジティブなものでした。

――アメリカではVRの広告が増えてきているのでしょうか。

パルマー:
かなり増えています。映画館では映画の前にVRのCMが流れます。最近良く見るのは、ダチョウがGear VRをつけるCMです。

https://www.youtube.com/watch?v=hjKd24UCPYY

「やっぱり対面がいい」への答え

――VRに対するイメージというところでいくと。ソーシャルVRが登場してきた一方で、まだ顔と顔を合わせるのが一番良いという人たちもいますよね。

パルマー:
いやー、それはどうでしょうかね。そういう人もいますよね。中には、ね。

――パルマーさんはそうではなさそうですね。

パルマー:
僕はそういう考え方をせずに育ちました。年長の方ほどそういう方が多いかと思います。考え方の違いですよね。「メールを送ったよ」と伝えてくる人がいますが、若い人たちはそういうことは言いません。

僕の親友には、一度も実際に会ったことのない人たちがいます。彼とは一緒にオンラインゲームをして、VRの中でしか会ったことがないのです。彼らはまさしく僕の友人です。両親や祖父母は、僕に「子どものときの友達は宝になる」と言って育てられました。一度も会ったことのないその親友たちこそ、まさに僕にとっては“宝”です。僕とガールフレンドも最初はインターネット上で知り合ったのがきっかけで、2年間ずっと離れていました。もしVRがあったら、(それで満足して)実際に会ってなかったかもしれないですね。

ソーシャルVRアプリ『Facebook Spaces』

――考えが違う場合は、時間が解決しそうですね。

パルマー:
まさに時間が解決すると思います。徐々に新しい価値観をもった特に若い人たちが主流を作っていきます。

 

――結構時間がかかりそうですね。

パルマー:
実際、そんなに時間はかからないと思います。多くのインターネット文化は若い世代が盛り上げてきました。次の10年で、ネットを日頃使っている人たちはみな、VRで知り合うことを受け入れ、実際に会うのと同じかそれ以上にいいものがと思うようになっていくでしょう。顔を合わせるのが一番良いという考え方もあるかもしれませんが、次の10年ではVRで会うほうが良い、となっているかもしれません。VRの中では、どんな姿にもなれます。僕はVRの中で現実より25キロ痩せた姿で会えたら、現実よりもVRで人に会いたくなります(笑)もちろん、若い世代を皮切りに技術を受け入れるフレキシブルな人たちは徐々に考え方が変わっていくと思っています。

 

大のアニメ好き

――先ほどSAOの話が出ましたが、パルマーさんは大のアニメ好きとして知られています。最初に見たアニメは『デスノート』でしたっけ。

パルマー:
そうですね。いや、そういう意味では『ポケモン』や『遊戯王』、『ドラゴンボール』を見て育っているので最初ではありません。『デスノート』は僕が大人になって始めて“アメリカで流行る前に見たアニメ”です。とにかくアニメが大好きなので。『ポケモン』も好きですよ。

――『ポケモンGO』もやられてますよね。

パルマー:
『ポケモンGO』は出たときは本当に夢中になりましたね。Ash(サトシ)のコスプレをしたまま一晩中公園でポケモンを集めていたときは、橋の下で1人で寝てました。最近はあまりやってないですけどね。

――日本限定のポケモンもいるのでがんばって捕まえてくださいね!

SAOとの出会い

――さて、VRがテーマになっていてお気に入りの『SAO』ですが、いつ頃知ったのですか?

パルマー:
実はOculusのキックスターターと関わりがあります。Kickstarterを立ち上げた週はちょうどSAOの第3話(1期第3話『赤鼻のトナカイ』)が放送された週でした(編集注:OculusのKickstarterは2012年8月1日開始)。完全に被ってたんですよ(笑)

SAOがOculusを注目する存在にしてくれたと思っています。同時にOculusがSAOを人気にしたのかもしれません、少しだけだと思いますが。SAOを見た人たちは、OculusのおかげでSAOをリアルに感じたと言います。それはOculusがあったことでVRが20年,30年も遠い存在ではなく、近い将来実現するものだと思えたからです。

Kickstarterの期間中、僕は「ソードアート・オンラインというアニメを聴いたことがあるか?」という何百通ものメールをもらいました。今だに聴かれるんですよ、「パルマー、ソードアート・オンラインというアニメを聴いたことがある?」って(笑)これまで1,000人以上が僕に知らせようとしてくれたと思います。

――猛プッシュされて実際に見たわけですね。そして好きになったということですが、どんな点が好きなんですか?

パルマー:
―――(考え込みながら)。僕がSAOで好きな部分は非常に多くあります。でも、最も気に入ってるのは「結果」です。

――結果ですか。

パルマー:
SAOというVRMMORPGの設定は、「ゲームで死んだら現実でも死ぬ」というものでした。この設定はSAOというゲームが開始された直後から明らかになります。これは非常に「真面目な結果」です。プレイヤーは誤った判断をしてしまうと、死という「結果」を迎えることになります。この点が実際に現実にあるゲームとは異なるところです。ゲームの中では何を撃ってもいいし、死んでも構わない、何度でもリスポーン(復活)できるのです。

SAOのコンセプトを知った時にグッと引き込まれました。何年も経った今でも、「現実にあるゲームで同じように『真面目な結果』を設定として取り込めないか」と考えています。それこそが本当に“リアルな結果”のある“リアルなゲーム”なわけです。どんなケアレスミスも許されない、全てを真面目に考えなければいけないゲームです。

――なるほど……。

パルマー:
茅場晶彦(※)っぽいですかね?(笑)

※茅場晶彦:SAOの開発者。SAOをサービス初日にログアウト不能にし、ゲーム内の死を現実の死という設定でプレイヤーたちを恐怖に陥れた張本人。

――彼のようになりたいということでしょうか。

パルマー:
ほんのちょっとだけ、ほんのちょっとですよ。彼が何を考えていたのか理解することはできます。茅場は悪者でした。茅場は、「真面目な結果」のあるゲームを作り、何が起きるのか知りたかったわけです。現実ではまだ誰もしたことがないことです。

――「真面目な結果」がなぜ気に入ったのでしょうか。そういう状況に陥ったときに人が何をするか知りたいのですか。

パルマー:
その通りです。現実では誰もが気をつけて判断をしています。事故で死にたくないので気をつけて車を運転します。ゲームでは誰もそんなことをしません。でももし、ゲームの中でミスをしたら、プレイが全く変わってしまったりするようゲームがあったら……それこそが現実に非常に近い世界を再現したゲームです

人間は、気をつけている社会で生活をしたいと思っていると思います。そうではない世界では暮らしたくないでしょう。自由ですが狂った世界です。映画『マトリックス』に登場するエージェント・スミスの「Machine is trying to build the world perfect for humans(機械は人間にとって完璧な世界を作ろうとしている)」というセリフがあります。人間は争いを切望し、痛みなしで幸せを得られないという考えのもと、あの映画では機械が人間に痛みを与えシミュレーションの世界を見せ続けます。

僕はスミスほど狂っていません(笑)しかし、あの言葉には少しだけ真実が含まれていると思っています。人間は全てをコントロールできてしまって結果のない完璧な世界に住みたいとは思わないのです。

現在取り組んでいるプロジェクトの1つには、この「真面目な結果」に関係するものがあります。その内容は詳しくは話せませんが。

――そういうゲームがあったらみんなやりたくなるのでしょうか。

パルマー:やりたくなると思います。もちろん僕はプレイヤーにゲーム内で死んだら現実でも死んでしまうようなゲームは作りたくないですが(笑)今あるゲームとSAOの中間にあるようなゲームがあったら、それはとても人気になると思います。

――パルマーさんの次のプロジェクトはかなり興味深いですね。

パルマー:
まだ非常に早い段階なので詳しく話せないのが残念ですが、きっとワクワクするものになりますよ

次回、後編は本日5月10日(水)19時30分に公開予定です。いよいよ、VRの未来について、長期的展望と短期での視点についての話となります。

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