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業界動向 2018.06.12

医療分野でのVR/ARの将来像 専門家はこう見る

AR/VR/MRに関する開発者会議XRDC(旧名:VRDC)は、医療分野におけるVR/ARの将来像について、1本目の年次レポートを発行しました。医療に関するVR/AR/MR市場は拡大が予測されており、2023年には30億ドル~100億ドル(約3,300億円~1.1兆円)の規模になると推計されています。今年10月に開催されるXRDCでも、医療分野のセッションが設けられる予定です。

レポートでは6人の専門家へのインタビューを通して、医療分野におけるVR/AR/MRの将来像を探っています。

USC Institute for Creative Technologies/Arno Hartholt氏

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Q1:あなたの仕事について教えてください。

私はUSCのクリエイティブ技術施設(ICT)で研究開発統合部門のディレクターをしています。ICTは非営利の研究機関で、教育や医療現場で使うXR技術を開発しています。現在私は、「Bravemind」というVRツールに携わっています。これはPTSDを患う退役軍人の、暴露療法(患者を徐々に恐怖の主因に向き合わせていく治療方法)に使うものです。

Q2:VRのどういう点に一番わくわくしますか?

VRやARの中で他者の存在を感じられる点です。バーチャルの世界にコミュニケーションできる存在がいることは、非常に印象深いです。

Q3:VRの可能性を実現するための、最大の障壁は?

デバイスの改善はもちろんですが、最大のチャレンジは新しいVRのプラットフォームにおいて、どうやって意味のあるコミュニケーションを行っていくかだと考えています。
コミュニケーション出来る存在がいなければ、VRの世界の意味がなくなってしまいます。

Q4:バーチャルな人間(virtual humans)とは何でしょう?どうやって交流しますか?

バーチャルな人間は、デジタルの俳優のようなものです。人の言うことを聞き、見て、相手が何をしているのか考え、ボディーランゲージや言葉を使って応答することができます。教師やメンターといった様々な役割を演じることが可能です。ユーザーが新しいスキルを身につける際の助けとなるようなことが想定されます。通常はスクリーン越しに、マイクを通して会話します。

Q5:医療分野では、将来どのようにバーチャルな人間が活躍しますか?

バーチャルな人間はトレーニングに役立ちます。彼らは24時間365日活動できますし、動きを微調整することも可能です。例えばバーチャルな患者を演じてもらうことで、研修生は様々な技術を身につけられます。また逆に、患者が質問できる、バーチャルパーソナルドクターという役割も考えられます。

Arno Hartholt氏講演「Immersive Medical Care with VR/AR and Virtual Humans」

VR Playhouse/CEO Christina Heller氏

Q1: あなたの仕事について教えてください

3年間VR Playhouseを経営し、50以上のVRコンテンツを制作してきました。広告もあれば、PlayStation VR(プレイステーションVR・PSVR)のゲーム向けにアニメーションキャラクターを制作したこともあります。そして昨年は、SXSWにて医療分野でベストVRの賞を獲得しました。

Q2: VRのどういう点に一番わくわくしますか?

一番わくわくすることは、一番怖いことでもあります。研究によって、VRは現実の体験と同じように神経経路に影響し、記憶を作り出すとわかってきています。このように影響力のある技術を研究することはとてもわくわくしますが、無責任に使用されれば悪影響もあり、そのことを懸念しています。

Q3: VRは患者の痛みをコントロールするために、どのように使われていますか?

現在はまだごく初期の段階です。調査研究は、患者にVR体験をしてもらうことで、鎮痛薬のように最大40%、症状を緩和できると示しています。

Q4:VRにおけるクリエイティブな要素とは何でしょうか?どのように実用化しますか?

コンテンツの内容は、我々の感情やVR体験に影響を及ぼします。VRの中で鳥を見ることとトラックを見ることは、それぞれ異なる影響を与えます。私の目標は、医療の専門家とVRクリエイターを繋ぎ、病院にいることが楽しい記憶になるくらい、良質なVRコンテンツを作ることです。

Christina Heller氏講演「Digital Medicine Creating Great VR」

メルク/イノベーションスペシャリスト Zach Pinner氏

Q1: あなたの仕事について教えてください

大学在学中にゲーム開発を専攻し、VRに携わっていました。その後製薬業界という全くの異業種に転じましたが、HoloLensを使ったMRの分野で、VR関連の業務に従事しています。

Q2: 現在VRは、どのように新薬開発に使われていますか?将来はどうなるでしょうか?

VRによって、研究者はより新しく、他者と協力できる環境で化学構造を扱うことができます。現在コンピューター上で可能なこと全てがVR環境で実現できるわけではないため、今後は、コンピューターソフトウェアの機能を全てVRアプリケーションに移植したいと考えています。

Zach Pinner氏講演「Immersive Tech in Merck」

CheckPoint Organisation/執行役員、医師 Jennifer Hazel,

Q1: あなたの仕事について教えてください

私は精神科の医師であり、メンタルヘルスの治療をビデオゲームや先端技術と繋げるCheckPointの設立者でもあります。VRをメンタルヘルスの治療に導入するための課題は、特に関係者の興味関心にあります。私はこの点について注力しています。

Q2: VRのどういう点に一番わくわくしますか?

メンタルヘルスの治療に要する時間は非常に長く、民間の支援も限られています。VRやその他の技術は、新しい治療方法の選択肢を提供してくれます。これは多くの患者の治療の道のりに、革命を起こすものです。

Q3: VRの可能性を実現するための、最大の障壁は?

熟練した医師とVR技術開発者の協力(が不足している点)が、最大の障壁だと考えています。

Q4: VRはどのような恐怖症、症状に効果があるのでしょうか?

これまでのところ、VRを使った治療方法は飛行機、コミュニケーション、蜘蛛(犬や虫といったその他の生き物)、歯科医、閉所、公衆の前で話すことといった様々な恐怖症に効果があるとわかっています。

Q5: VRを使った暴露療法は、通常の治療方法とどのように異なりますか?

VRを使うまでは、暴露療法で恐怖の主因と向き合う非現実と、現実との間に多くのステップが必要でした。しかしVRを使ってまるで現実のような体験を作ることで、安全で、コントロール下に置かれ、何よりも患者が「これは本物ではない」とわかっている暴露療法の環境を実現できるようになりました。これは患者にとっても治療する側にとっても、革命的な変化です。

Jennifer Hazel氏講演「Virtual Reality for Treatment of Phobias」

IBMリサーチ/VR・ゲーム開発部門責任者 Aldis Sipolins氏

Q1: あなたの仕事について教えてください

私は神経科学を専攻し、IBMに来る以前には、Gear VRを使った脳トレーニングのゲームを開発するスタートアップのCEOを務めていました。現在はIBMリサーチにて、機械学習とセンサーを使ってVRの認知とパフォーマンスを向上させる仕事をしています。

Q2: VRのどういう点に一番わくわくしますか?

VRという新しい技術は突然、認知神経科学の分野に現れました。今もなお、VRがどのような効果や意味を持っているのか研究を続けています。VRは、革新的技術であり、人類の研究にとって宝の山です。

Aldis Sipolins氏講演「Why Virtual Reality and Machine Learning are Good for Science

The Inspiracy/代表 Noah Falstein氏

Q1: あなたの仕事について教えてください

以前はグーグルでチーフゲームデザイナーを務め、Tango ARやDaydreamに携わっていました。2017年、医療目的のゲームやストーリーテリングに特化したVRタイトルを制作するためにグーグルを辞めました。

Q2: VRのどういう点に一番わくわくしますか?

感情面へのインパクトです。VRはとても力強い感情を引き起こします。特に扁桃体と呼ばれる脳の部分を介する、恐怖、怒りのような感情です。
同時に、他のメディアよりも強い共感を引き起こすこともわかっています。この事実から、ゲームやストーリーテリングの可能性を広げ、医学的な治療行為にも応用できると考えています。

Q3: VRの可能性を実現するための、最大の障壁は?

プラットフォームを制するものを見極めることです。ゲーム業界の常として、成功を収めたプラットフォーマーは他社を締め出してしまいます。いつ波に乗るかを見定めることが肝心です。

Q4: 自身のデザインに関する経歴が、VR/ARの開発に対する見方へどのように影響していますか?

私は常に最先端技術と、それがゲーム設計に与える影響に興味を持ってきました。そして、人類を形作っている基本的な進化と生物学について考えることは、新しい技術を取り入れるうえでの大切なスタート地点だと考えています。これが分かっていれば、「shovelware(粗製乱造)」なアプローチを選ぶことなく、新しい技術を取り入れていけます。

Q5: 神経科学は、より良いVR/AR体験を作るうえでどう役立ちますか?

脳が視覚認知や前庭器官と連動して、どのように機能しているかを理解することは、VR/AR体験を作るうえでの助けになります。

例えば人の視野は、網膜上の中心窩の領域で最も鮮明になり、周辺視野に行くにしたがって徐々にぼやけていくという性質があります。この性質を利用し、高解像度のレンダリングを必要十分な領域(中心窩の領域)にとどめることで、PCにかかる描画処理の負担を大幅に軽減させることができます(フォービエイテッド・レンダリング)。

Noah Falstein氏講演「A Game Designer’s Overview of the Neuroscience of VR」

XRDC 2018は2018年10月28日~29日、サンフランシスコで開催されます。現在公式ウェブサイトにて参加登録を受け付けており、早期申し込みによる参加費の割引も受けられます。


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