今までにないVRストーリーテリング! 新しい演出が話題の作品
今までにないVRストーリーテリングで話題の「Finding A Pandora X」が、現在公開中です。VRChatを利用した舞台演劇のようなライブパフォーマンスが体験できます(チケット予約が必要)。
制作はプロの俳優とブロードウェイのタレントで構成されたNYの劇団Double Eye Studios。この作品で、2020年ベネツィア映画祭のコンペティション部門で「Best VR Immersive User Experience」を受賞しました。
古代の神話を現代風にアレンジしており、体験者は古代ギリシャ神話の民のようなアバターを着て参加します。
時代とともにオリンポス山の神々が姿を消し、ゼウスとヘラの2人だけが残った世界で、パンドラが持ち去った「希望の箱」を取り戻しに行く……。そんな物語を他の7人のアバター出演者と対話をしながら進めていきます。
オススメのポイント
1. プレショーの重要性
過去の連載でも解説しましたが、VRストーリーテリング作品では冒頭がとても重要です。最初に物語の世界観やルールがわからないと、ずっと物語に没入できないまま終わってしまう可能性があります。
今回の「Finding A Pandora X」は今まで紹介した作品とは違い、出演者はアバターを着た生身の人間で、VRChat上でストーリーに基づいたライブパフォーマンスを行うことで成立します。
冒頭、ワールドに入るとアミューズメント施設でいう”キャスト”のような方(世界にあったアバターを着ている)が体験者用のアバターの着替え方や操作方法などを説明してくれました。
その後、出演者の1人が現れて、作品の世界観や物語を進める上での注意点を教えてくれます。そこでのやり取りは作業的なものとは違い、物語の入り口のような、現実世界から少しずつ作品世界に入る準備をさせてくれるような感じになっています。
作品冒頭の作り方がアトラクションのプレショーに近い形かもしれません。世界観を壊さず、物語のプロローグや登場人物のことを知ることのできるとても新しい導入方法だと思います。
2. 舞台と客席という境界線のない演劇
VR演劇と聞いて、客席から舞台を見る感じを想像された方も多いと思います。しかし、この作品には客席というものはなく、舞台そのものが物語世界の空間になっています。
したがって、出演者とユーザーの間に距離はありません。それどころか体験者も作品の一部として物語を進めていかなくてはなりません。
この話はパンドラがどこかに隠した“希望の箱”を探すという目的があります。それを出演者と体験者が一丸となって探す冒険に出るのですが、ゼウスチームとヘラチームの2つのチームに別れて、それぞれの違う話に分岐して体験が変わっていくようになっています。
最初は出演者と体験者、体験者同士にあった距離感も物語が進むにつれ距離感が縮まり、自然とみんなで物語を進めていることに気づきます。
なかなか見つからなかったものが見つかった時や仕組まれた謎が解けた時は、みんなで喜び合いました。このような一体感のあるストーリーテリング体験はなかなかできないものだと思います。
3. 場所を問わず同じ作品世界を体験
この作品はVRChat上で行われているため、世界中から参加可能となっています。実際に出演者やスタッフはニューヨークから参加しています。
体験者に関しても、私が参加した時には全部で10人程度いたと思いますが、私は日本から、その他はアメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国など様々な国から来ているようでした。
基本的に会話は英語で行われるのですが、みんなそれぞれ国が違うので、途中色々な国の言葉を耳にしました。また考え方や文化も違うので物語を進める上で、物語と関係ない行動を取る人もいたり、質問をしてもきちんと答えなかったり、物語の進行は大変だと思います。
しかし、様々な体験者の扱いに慣れている出演者が意図しないような発言や行動を取られても、嫌な雰囲気を出さずユーモアで返しながら物語を進めて行ってくれます。私が物語と関係なく、空間内にある箱を遠くに投げていると出演者の人が「これは面白いね」と言って一緒に投げてくれた時は本当に嬉しかったです。
物語の最後、“希望の箱”を取り戻し、ゼウスとヘラが消滅しなくてすんだ時、みんなでバーチャルドリンクで乾杯をしました。その後、ゼウスがバーチャル空間を自由に飛ぶ方法をプレゼントしてくれたのですが、これは本当に楽しい体験になりました。
実際の世界ではもちろん自分で自由に空を飛ぶということはできないので、この体験は私にとって良い思い出として残ることになると思います。
作品データ
タイトル |
Finding A Pandora X |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Kiira Benzing |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
約70分 |
制作国 |
アメリカ |
視聴が可能な場所 |
視聴が可能な場所に関しては作品のオフィシャルホームページをご覧ください |
Trailer
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