大きな映画祭で話題を作った後に、Oculusに独占的にリリースされる理想的な形
「Paper Birds Part1」は、音楽の才能に恵まれた主人公のトトが、影に連れ去られた妹を連れ戻すために“Paper Birdの謎”を明らかにしていく物語です。主人公トト役は劇場映画「ジョジョ・ラビット」のヨーキー役を演じたアーチー・イェーツ、さらに劇中の音楽はアルゼンチンタンゴの伝説的な人物Juan Jose Mosaliniが演奏しています。
Baobab Studiosと3darの初共同で制作されました。Baobab Studiosは以下の記事でも名前の出てくる有名なVRアニメーション制作会社です。3darも「Gloomy Eyes」やその他アディダスやサムスンなどの企業系VRやARなども制作している実力派の制作会社です。
「Paper Birds Part1」は昨年のヴェネツィア映画祭でノミネートした後、Oculus QuestとQuest2で独占的にリリースされ、2021年中にはPart2がリリースされる予定です。ヴェネツィア映画祭のような大きな映画祭で話題を作った後に、Oculusに独占的にリリースされる流れはVR映画作品にとって理想的な形だと思います(日本の作品もこのような流れが作れるように頑張らなければなりません)。
オススメのポイント
1. 味わいのある手書き風なアニメーション
「Paper Birds」の魅力は手書き風のアニメーションです。主人公トトや妹など可愛らしいキャラクターは表情も豊か。キャラクターが3Dで動くだけでもワクワクします。
特にトトがゴンドラに乗って山の上を目指すシーンは特に一見の価値があります。最初、ゴンドラの中のトトを目で追ってしまうのですが、振り向くと夕日がとても美しいです。まるで絵画のような背景で言葉を奪われました。
他のシーンでも丁寧に風景が描かれているので、本当に異国の国に行ったような体験ができます。
2. ジオラマ演出の魅力
「Gloomy Eyes」で見事なジオラマの演出した3darだけあって、今回もジオラマ演出の見せ方が素晴らしいです。
ジオラマ演出は視線誘導が肝になるのですが、完璧と言えるくらいに迷うことなく、物語を追うことができました。見せるところだけスポットライトを当てたり、Paper Birdが飛ぶのを追って、視線誘導を自然にできました。
あまりに見る範囲を絞り過ぎると、自由が無くつまらない感じになることもあるのですが、要所要所でスケール感がある演出を入れたりして、飽きさせないように工夫されています。
3. ハンドトラッキングの可能性
今回の作品で一番興味深かったのはハンドトラッキング機能を利用したインタラクションです。シーンは3箇所ぐらいしかないのですが、その瞬間にはマークが出てきます。
このハンドトラッキングの演出なのですが、トトが奏るバンドネオンの素晴らしい演奏と合わせて手を動かすと光が自分の周りに広がり、美しいシーンになります。また空に浮かんでいる光の粒に手をかざすと、自分の手に光が集まってくるシーンもあるのですが、手に何か粒が当たる感覚がして不思議な気持ちになりました。
このシーンではクロスモーダル現象(※VRによって実際に起きていないことを脳が錯覚し、それが起きたと感じてしまう現象)を久しぶりに体験しました。このハンドトラッキング機能の演出は、以前Baobab Studiosが「BABA YAGA」の最後のシーンで自分の手から魔法が出て、森に花や木を生やすシーンを思い出しました。
この部分はVRならではの面白い演出を数多く考えているBaobab Studiosのアイデアだったのかもしれません。ハンドトラッキング機能はVR映画にとって多くの可能性があると感じさせられました。
作品データ
タイトル |
Paper Birds Part1 |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
German Heller, Federico Carlini |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
約19分 |
制作国 |
アルゼンチン |
視聴が可能な場所 |
Oculus Store:https://www.oculus.com/experiences/quest/3723136981093558/ |
Trailer
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