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業界動向 2017.12.16

新連載:VR映像プロデューサー・待場勝利の「VR映画の夜明け前」第1回

皆さん、VR映画って聞いたことがあるでしょうか?

海外ではTheatrical VRと呼ばれていて、映画製作者たちがVRを使った新たな映像表現に挑戦しています。筆者も元々、映像業界で20年以上働く中で初めてVRに出会った時、とても驚かされた覚えがあります。

筆者は現在、株式会社ejeにて国内初の映像ポータル「VR CRUISE」と国内初のVR映画館「VR THEATER」の運用に携わっています。そんな中でクリエイターたちが試行錯誤しながら作ったVR映画作品があまり紹介されていないと思い、Mogura VRで映画の紹介をさせていただくことになりました。より多くの人たちにVR映画の楽しみ方を知ってもらえる機会になればと思っています。
 

 

VR映画とは?

そもそもVR映画とは何なのか? 連載開始にあたって私なりに定義してみました。

1、ストーリーがある
2、没入感がある
3、VRヘッドマウントディスプレイで体験する
 
この3つの要素があるものを本連載ではVR映画と呼びたいと思います。

VRに関しては、今までの映画作品と違って映画の主人公になって敵を倒したり、ヒロインと恋愛ができたりというようなインタラクションのある映像作品も出てきているため、映画とゲームとの違いを説明しづらくなっている状況があります。そんな中でVRの映画作品と呼んでも良いのではないか?と思われる作品を紹介させていただこうと思います。

初めて出会ったVR映像作品 『Cirque du Soleil’s Zarkana』

私が一番最初に出会ったVR動画系コンテンツで、まさにVRの世界に入るキッカケとなった作品です。これが映画作品?と思った方もいるかもしれません。シルク・ドゥ・ソレイユは世界的にも著名な舞台上でパフォーマンスを行うエンターテインメント集団です。ここで紹介したいのはそのシルク・ドゥ・ソレイユが手掛けるショーの一つ『Zarkana』をFelix&Paul; StudiosがVR映像化したものです。


 
映像が始まると、体験者(=自分)はまさにZarkanaが上演されるラスベガスの劇場の中のステージに立っています。そこにシルク・ドゥ・ソレイユの出演者たちがステージの奥から体験者に挨拶をしながら登場します。最初は出演者たちと目があってビックリしたり、緊張したりするのですが、このやり取りによって、自分はこの世界に存在している何者かなんだと認識させられます。その後、出演者たちは体験者の隣に座って、ステージ中央を見るように促します。ステージ中央を見るとロープを使って男性2人がステージの天井近くまで上がっていったり、下りてきたりするパフォーマンスが見られます。

ステージパフォーマンスを観客となって見るコンテンツなのかなと思ってしまうのですが、実はシルク・ドゥ・ソレイユの世界の中に入って、シルク・ドゥ・ソレイユの出演者と一緒にパフォーマンスを見るコンテンツです。まさに自分もシルク・ドゥ・ソレイユの仲間の一人になれるコンテンツなのです。
 

さらに映像を細かく観察してみると、ステージから反対には座席があり、座席を掃除している清掃員などを見ることができます。そこで、自分がステージを見ている観客なのではなく、シルク・ドゥ・ソレイユの世界に入り込んでいることに気づかされます。単なる鑑賞ではなくて、体験ができるVR映画なのです。

最新作『THROUGH THE MASK OF LUZIA』

続いて紹介する『THROUGH THE MASK OF LUZIA』は、2017年6月にリリースされたFelix & Paul Studiosの最新作です。メキシコにインスピレーションを受けたシルク・ドゥ・ソレイユの作品『LUZIA』の舞台をVR映像化したものになります。
 
映像が始まると目の前に現れた少女が、3種のマスクを被っていきます。体験者は少女が被るマスクの種類によって、色々な世界が描かれたパフォーマンスを体験します。


 
最初に少女が猛獣のマスクを被ると、湖畔にシーンが変わります。その湖の水を飲みに猛獣が歩いてきます。猛獣はこちらに気づいているようで、目の前まで近づいてきます。その瞬間、上空から森の精のようなものが下りてきて、猛獣と森の精で不思議なパフォーマンスが行われます。ステージが回転し、不思議な感覚を体験できます。


 
次に少女が爬虫類のマスクを被ると、目の前にすごく体の柔らかい何者かが、蛇のようにクネクネ踊っています。人間の体がこんなに曲がるのか?と驚くくらい、クネクネと踊っています。また、自分を囲むように他の爬虫類もパフォーマンスをしています。
 
3つめの馬のマスクを少女が被ると、今まで全く違った視点で、ステージ中央の蝶々を追いかける馬が出現します。2階席あたりの高台からの視点で、ミニチュアのような視覚効果を用い、早回しでパフォーマンスを見せます。少しコミカルに見えるのですが、それがまた不思議な世界観を作り出しています。次のシーンでは、空中ブランコを先ほどと同じような視点で見せます。早回しやスローモーションなどの再生速度を変える演出を駆使し、シルク・ドゥ・ソレイユの舞台を見に行くことでは体感できない、本当に不思議なパフォーマンスを体感できます。


 
最後のシーンでは、3つのマスクを前に少女は何かを言いたげにじっと体験者を見つめます。その時、体験者は初めて、3つのマスクを被ったあとの視点がマスクを被った少女の視点だったのではないか?と思えます。

 

 ステージパフォーマンスを解体し、VR向けに再構成

今回のFelix&Paul; Studiosが製作したシルク・ドゥ・ソレイユのシリーズは、ステージパフォーマンスを見せるだけのコンテンツだけではなく、シルク・ドゥ・ソレイユの世界をVRの映像世界で新たに再現したものです。シルク・ドゥ・ソレイユのステージパフォーマンスを一旦解体し、VR映像用に再構築することによって、新たなVR映画作品になっています。シルク・ドゥ・ソレイユシリーズでは必ず体験している人が何者なのか?を考えさせます。体験している人間が何者か?が分かった時、初めて作品のテーマの全貌が見えてくる作品になっています。
 
私がFelix&Paul; Studiosの作品と出会ってから約3年。彼らはVRという新たなメディアを使った革新的な映像作品を発表し続けています。最初に出会った時はまだカナダの小さな制作会社でした。それが今ではハリウッドから多数のプロジェクトの話が来るような超メジャーVRスタジオになりました。そんな超メジャーVRスタジオになった彼らですが、まだまだ挑戦を続けています。私はそんな彼らから目が離せません。もし、今後Felix&Paul; Studiosという名前と出会ったら、ぜひそのコンテンツをチェックしてみてください。きっと先進的なVR映像が体験できるはずです。
今回ご紹介させていただいたコンテンツはGear VRでご体験いただけます。
またコンテンツの詳細は下記の公式HPをご覧ください。

『Cirque du Soleil’s Zarkana』
https://www.oculus.com/experiences/gear-vr/546012682168754/
『THROUGH THE MASK OF LUZIA』
https://www.oculus.com/experiences/gear-vr/1360461600675039/

※本記事の内容はあくまで私見に基づくものです。ご了承ください。 

※Felix&Paul; Studiosとは?

VR映像分野の先導的クリエイターとして知られているカナダの映像スタジオです。シルク・ドゥ・ソレイユ他多数の革新的なVR映像作品を発表しています。その他にも音楽、ドキュメンタリーなどの作品でも世界中から評価を得ています。また今年の7月には本格的なVR映画作品『MIYUBI』を発表し、今最も注目するべきVRスタジオです。

 


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