東京大学 廣瀬・谷川・鳴海研究室(サイバーインターフェースラボ)の鳴海拓志氏は、強い匂いとデジタルオーバーレイを使用して「食品の味を変える」技術を研究しています。
“味覚”を用いずに味を錯覚させる
映像作家であり食の愛好家でもあるSimon Klose氏は、鳴海氏の開発した“バーチャルクッキー”インターフェース「Meta Cookie」を体験した様子を投稿しています。
本デバイスでは、ARマーカーを印字したクッキーと匂いを付加するエアポンプ付きHMDを使用し、「視覚」と「嗅覚」の情報から「味覚」が変わったように知覚させることができます。
Klose氏は体験後に、「匂いが非常に素早く鼻へ射出されるため、普通のクッキーがレモンクッキーになり、はたまたイチゴクッキーへと変わった」と語っています。
こうした現象は「クロスモーダル現象」と呼ばれており、視覚や聴覚といったある感覚から、別の感覚の情報を勝手に補完するという脳の特性を利用しています。
画像や音よりも複雑な「化学的な信号」を扱う必要のある味覚情報の提示を、味覚情報を用いずに実現している画期的なデバイスです。
様々な実用化が検討
デバイスは現在、カメラの映像にバーチャルなクッキーを重ねるヘッドマウントディスプレイ、匂いを提示する何本ものエアポンプからなるヘッドセットを利用しています。
鳴海氏は現在の「風味を変える」技術以外にも、様々な応用が考えられるとしています。
たとえば、食事の「大きさ」を縮小することで、見た目は少ないのに思ったより食べていた、という技術が実現されれば、食欲不振の人の役に立ちます。
また、病院やホームレスの避難所などでの簡素な食事に対して、匂いによって風味を高めるといったこともできます。
「VAQSO VR」や「OhRoma」など、匂いを提示するデバイスは徐々に出てきています。「Meta Cookie」の技術を用いて、味覚を錯覚させるVRの登場も近いかもしれません。
(参考)
VR Scout / Bizarre VR Headset Can Change The Taste Of Food(英語)
https://vrscout.com/news/bizarre-vr-headset-taste-food/
鳴海 拓志, 谷川 智洋, 廣瀬 通孝 – “Meta Cookie : 拡張現実感によって味が変化するクッキー”
http://www.interaction-ipsj.org/archives/paper2010/demo/0124/0124.pdf