4月13,14日に開催されたUnite2015Tokyoでは、VRが1つの大きなテーマでした。2日間にわたって行われた講演の中から、今回はOculus日本オフィスの井口健治氏(@needle)による「VRコンテンツ開発の勘所」の内容を紹介します。
なお、講演資料と動画は後日公開となっています。
Oculus日本オフィスの井口健治氏。1年前まではVRが大好きな一開発者だった
講演は、日本でいよいよ発売されるスマホ向けVRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)「GearVR」を中心とした開発方法について行われました。GearVRの特徴、Unityでの開発手順概要、VR酔いを抑える手法などを紹介。さらに、GearVRでのコンテンツ開発を進めているケーススタディとして、コロプラ社員による開発のポイントも紹介されました。
Gear VRについて
講演は、Oculus VR社のミッションの紹介からスタートし、Gear VRの概要が説明されました。
そして、一般向けのリリースに向けて、「Oculus Platform」と呼ばれる、開発者とコンテンツ、ユーザーをつなぐ場の整備をしていくという話がありました。
コンテンツを提供するためのOculus Platformの説明。iOSのApp StoreのようにOculus VR社がコンテンツの内容やパフォーマンス等の審査を行い、通ったものが公開される。
パフォーマンスを死守すべき
そして話は、Gear VR向けコンテンツの開発の説明に移りました。
そしてVRゲームデザインの勘所として、長時間ではなく5~20分程度の体験が良いこと、VRでの操作を前提とした画面、操作にすべきであること、そして主観視点は必須でないことの3点が挙げられました。特に最後の主観視点に関しては、VRというと主人公になりきったいわゆるFPS(ファーストパーソン・シューティング)を考えがちですが、酔いやすくもなり、作りこみは大変になります。
また、VRコンテンツの開発で最も重要なのはパフォーマンスであるとして、画質よりが多少劣ろうとも、Gear VRのフレームレート60fpsを死守すべきであることを強調しました。
パフォーマンスを向上させるための手段として、Gear VR用の開発では、スマートフォン側のCPUとグラフィクを司るGPUのパワーを変更する方法を紹介。パワーレベルを高めるとバッテリーや放熱問題が出ますが、短時間のゲームであればパフォーマンス維持に有効となります。
VR酔いを低減するための方策
VRを体験する際に体験者が感じてしまいやすいVR酔いについても理論に基づいた話がありました。VR酔いの原因は、視覚誘導性自己運動感覚(ベクション)にあるとされています。ベクションとは、目で見ている表示内容から実際に自分の身体は動いていないのに動いているように感じる感覚のこと。三半規管の、動いていないという認識との間にミスマッチが生じ、酔いにつながります。
初めてVRを体験するユーザはベクション自体が面白いと感じるが、強制的にカメラを移動させると、酔いにつながってしまうので注意が必要です。また、従来のゲームをそのまま移植すると、これまで気にならなかったようなカメラの小さな移動が酔いを引き起こすことがあります。
VR酔いの程度について、理論的に言われているという説明、不等号の大きいほうが酔いが大きい
しかし、理論と実践が異なることも多く、VR酔いに関しては、実際に作って試しながら調整するのがいいとのことです。開発者は酔いに慣れがちなので、酔いの強さは多様なテスターを多数集めて協力してもらうのがよいでしょう。
また、操作系は、Gear VR本体のタッチパッドとバックボタンを使った「注視カーソル」が利用できるほか、Android対応のBluetoothコントローラーを使う方法もあります。
VR体験中は画面の角は見えないため、ユーザーインターフェース(UI)も工夫する必要があります。
画面右に表示されているUIは、Oculus VR社が開発したコンテンツ「Rocket Toss」で表示されるもの
また、本講演の最後には、ケーススタディとして株式会社コロプラの仮想現実チームマネージャー小林傑氏から『白猫VRプロジェクト』のGear VR版の開発事例の紹介がありました。
白猫VRプロジェクトは、3人称視点で遊べるスマホアクションRPGのVR版。
Oculus Rift版ではカメラが自分の操作キャラに近すぎたため、カメラの動きが小刻みになり酔いやすいという問題が起きていました。Gear VR版ではカメラの位置をかなり遠くに設定したり、カメラワーク自体も緩やかな動きに変更しています。
そして、最後に、Gear VR本体だけでも操作できるような操作系の工夫をした紹介がありました。
今回のセッションでは、Gear VRでのVRコンテンツの開発を進めていく上での知見が共有されました。5月にはいよいよ製品版が出荷され、コンテンツも増えていくことが予想されます。
Uniteで講演を行ったOculus VRの創業者パルマー・ラッキー氏もVRコンテンツの開発を始めるなら今がその時と言っていたように、既に開発に携わっている企業・開発者の元には既に多くの知見が蓄積されています。
Oculus日本オフィスでは、ガイドラインの日本語訳の整備を進めているほか、Facebookなどでもグループを作っているので、わからないことがあったらのぞいてみることをおすすめします。
Oculusデベロッパー助け合い所 Facebook
https://www.facebook.com/groups/1535715303335703/
Oculusモバイル提出ガイド Oculus公式
http://static.oculus.com/sdk-downloads/documents/mobile_app_subm_ja_jp.pdf
Unite関連の記事はこちらもご覧ください。
Oculusの創業者パルマー・ラッキー、VRの未来と日本のコンテンツへの期待を語る
(執筆協力 flushpot1125氏)