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テック 2022.07.07

VRで「第三・第四の腕」 東大が余剰肢ロボットアームに関する研究を発表

東京大学 先端科学技術研究センターは、VR環境で足先と連動する余剰肢ロボットアームを開発し、装用後に体験者が「第3・第4の腕」として、自分の身体のように知覚できたという研究結果を発表しました。研究内容は英国夏時間2022年6月27日、Scientific Reports誌に掲載されました。

本研究は東京大学大学院工学系研究科の荒井謙大学院生、先端科学技術研究センターの齊藤寛人特任助教、稲見昌彦教授らが、慶應義塾大学の福岡正彬研究員、杉本麻樹教授および豊橋技術科学大学の上田祥代助教、北﨑充晃教授と共同で実施しました。

余剰肢を自分の身体のように扱えるか?

人工的に設計された余剰肢を付加することで身体機能の拡張を目指す研究「余剰肢ロボティクス」では、生まれ持って得た腕や脚と同じように、余剰肢ロボットシステムが意図したとおりに動作することが期待されます。

しかし、従来研究の多くは設計や制御の検討にフォーカスし、「ロボットシステムを身体の一部として扱えるかどうか」について、十分に調べられていない状況にありました。

今回実施された研究では、ヘッドマウントディスプレイと両手のコントローラー、装用者の動きを検知するトラッカー(腰、両足)、触覚提示デバイス(VR空間で余剰肢ロボットアームでボールを触った際に足先に反応が返されるもの)で構成された余剰肢ロボットシステムを開発。

このシステムを、健常者16名が装用者として運用し、余剰肢ロボットアームでボールを触る「ボールタッチ課題」に取り組み、「余剰肢であるロボットアームを自分の身体の一部として捉えられるようになるのか」「ロボットアーム周辺の近位空間に関する知覚変化が起こるのか」を調査しました。

実験後、実験参加者に身体感覚に関する7段階評価のアンケートを実施し、結果を解析したところ、身体所有感(※1)、行為主体感(※2)、自己位置感覚(※3)をおぼえたという結果が得られたとのことです。

(※1:ある対象に対して自身の身体の一部、またはすべてであるかのように感じること)
(※2:ある行為に対して自身の企図に応じて実施されたものであると感じること)
(※3:ある対象が存在する位置に自身の位置が重なって存在するように感じること。VR空間でのアバターにおける議論で取り上げられることが多い)

また、視覚・触覚フィードバックに対する応答時間を計測したところ、応答時間が余剰肢ロボットアームの装用前後に大きく変化したことを確認。「ロボットアーム周辺に生じた視覚と触覚の情報統合において、知覚変化を捉えられた可能性がある」とのこと。

また知覚変化(近位空間 ※4)と、自分の腕が増えたと感じる主観評価(余剰肢感覚 ※5)との間には正の相関が確認されました。

(※4:自身の身体の周辺を取り巻く空間を指し、外界からの刺激を直接的に感じることのできる範囲を指す。自己近傍空間やペリパーソナルスペースともいう)
(※5:生まれつき持った身体に加えて付加的に身体部位を持つ時に覚える感覚を指す)

上記の結果から、余剰身体部位の付加により身体機能を拡張すると、装用者は生まれ持った身体部位とは異なる、今回の研究であれば「第三・第四の腕」のような、新たな身体部位を得た感覚が芽生えることが示唆されました。こうした感覚や知覚の理解は、余剰肢ロボティクス設計における課題解決への貢献や、認知科学における身体化の議論への活用が期待されています。

(参考)プレスリリース


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