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業界動向 2018.02.03

難病と闘う少年が宇宙へ 不可能を可能に変えるVR

※本記事は、2017年12月21日にHTC社公式ブログに掲載されたMatthew Gepp氏の記事を翻訳したものです(元記事はTrick3DよりHTC社に寄稿)。

その日、ドビンス空軍基地の滑走路は静まりかえっていました。ジェットエンジンの轟音もせず、合衆国旗が風にはためく音が聞こえるほどです。しかし、空気は興奮に張りつめていました。50人以上の航空兵が整列し、きわめて特別な任務に赴く、きわめて特別な宇宙飛行士を待ち受けていました。

宇宙飛行士ゼイダン・ライトは、生まれつき心臓に珍しい欠陥がありました。7歳の若さにして心臓に38回の超音波検査と、6回の焼灼手術、4回の切開手術を受けるという困難を乗り越えています。それでも、彼の冒険心は決して失われていません。難病と闘う子供たちの夢をかなえるボランティア団体「メイク・ア・ウィッシュ」に、世界中どこにでも行けるとしたら何がしたい、と聞かれたとき、ゼイダン少年は「赤いロケットに乗って土星に行きたい」と答えました。「どうすればいいか調べてみるわね」というのが母親のションダ・ライトさんの返事でした。

こうして、ゼイダン君の家族と、メイク・ア・ウィッシュのジョージア支部、VRコンテンツ制作会社TRICK 3D、そして地元のボランティアたちは、不可能を可能にするミッションに取り組むことになりました。VRの力を利用して、宇宙探検を体験できるようにしたのです。

宇宙探検VRの制作コンセプトは、ゼイダン君自身が提供しました。彼は母親に、土星への旅をどういう体験にしたいかを、細部まで生き生きと語ってくれました。どのようにして赤いロケットに乗り、小さな緑のエイリアンに出会い、無数の星々を見ながら宇宙を飛ぶのかを。

これを元に、TRICK 3Dで、創業者にしてディレクターのチャド・エイコフ氏率いるチームがVR体験を制作しました。

「メイク・ア・ウィッシュのジョージア支部から相談を持ちかけられて、即答しました。『いいですね! それ、うちでやりますよ!』って。VRは願望や夢を形にするメディアとしてうってつけです。この取り組みは、これまで実現不可能だったことをVRが可能にした好例になると思います」とエイコフ氏は語りました。「このように有意義な目的のために、世界や体験を非常に高い水準で構築するというのは、私たちTRICK 3Dの活動理由と完全に一致することです。ゼイダン君の夢に『イエス』と言うのに迷いはありませんでした」


とはいえ、ゼイダン君を夢の目的地に送り届けるための体験をデザインするのは言うほど容易ではありません。幸い、この手の課題はTRICK 3Dのアーティストたちの大好物です。彼らは早くからHTC Viveを利用することを考えていました。親しみをこめて「宇宙飛行士のゴーグル」と呼ばれるこのヘッドセットは、ゼイダン君にできるだけ臨場感の高いVR体験をしてもらうにはぴったりです。

「このエクスペリエンスの最優先課題は、ゼイダン君に、本当に夢の土星飛行を体験しているように感じてもらうことでした」と、TRICK 3Dのリードテクニカルアーティストであるウォレン・ドローンズは当時を振り返ります。「そのため、バーチャル世界の制作は絶えず実際にViveで見てみてチェックを繰り返しながら進めました。ヘッドセットを何度となくかぶったり脱いだりすることになりましたが、ゼイダン君の反応を見て、これまで苦労した甲斐があった、やはりVRの力はすばらしいと感じました」

5月1日、ゼイダン君は「宇宙飛行士のゴーグル」ことHTC Viveをかぶり、米国ジョージア州マリエッタにあるドビンス空軍基地から土星に向けて「飛び立ち」ました。付き添いはNASAの宇宙飛行士リロイ・チャオ氏が努め、50人以上の航空兵が見送りました。


メイク・ア・ウィッシュが願いごとの実現にVRを利用したのはこれが初めてです。7歳の少年の反応は、VRの持つ可能性を示す好例といえます。子供も大人も、これまで行けなかった場所に行き、想像もできなかった体験をすることができるのです。

「ゼイダン君の夢は、私たちみんなにとって、何が可能なのかを改めて考えるきっかけとなりました。VRが人々の夢を高いレベルでかなえ、希望と喜びをもたらせることを証明したと思います」とエイコフ氏。「将来、誰も思いつきもしなかったような夢を抱く人が現れたときに、実現への道を開くイノベーティブな先例になるでしょう」

メイク・ア・ウィッシュは最近、ジョージア支部のこの取り組みを、「Most Innovative Wish of the Year (その年実現した最も斬新な願いごと)」として表彰しました。

メイク・ア・ウィッシュ・アメリカのプレジデント兼CEO、デビッド・ウィリアムス氏はこうコメントしています。「私たちは、子どもの実現不可能に見える願いごとを実現することで、家族にも希望と前向きさがもたらされたケースをいくつも見てきました。ゼイダン君の事例は、創意工夫とテクノロジーを駆使してまったく新しい形で望みをかなえることに成功した、注目すべき成果といえます」

メイク・ア・ウィッシュ・アメリカについて詳しくは、公式サイトWish.orgをご覧ください。TRICK 3Dについては、TRICK3D.comをご覧ください。


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