VR/XRヘッドセットは視覚(立体視ディスプレイ)と聴覚(スピーカー)で、バーチャル空間への強い没入感を得ることができるデバイス。しかし人間には他にも触覚・味覚・嗅覚を備えています。この五感を刺激することで、さらに深くバーチャルの世界へダイブできる…と言われていますが、視覚・聴覚が先行……逆にそれ以外の感覚については、触覚でもパーフェクトといえるデバイスは見当たりません。
全身の触覚を刺激するにはボディスーツ型のデバイスが必要になるため、商売として取り組むには現実的ではないというのも事実。そこで触覚デバイスに取り組むメーカーは、手の指に振動を伝える触覚フィードバック機能をもったVRグローブや、コントローラの開発に勤しんできました。
これらのデバイスを使ってみると、オブジェクトを指で持ち、引っ張るといった動きであれば確かにほどよく脳がバグります。価格もリーズナブル。6万円台の汎用VRグローブも販売されています。
対して、今回ご紹介したいSenseGloveの「NOVA 2」は5,999ユーロ(約97万円)というプライス。しかし実際に使ってみると、この価格を支払うだけの価値を感じるんです。なぜならば、指先、指の関節、手のひらにいたるまで、手というパーツ全体で触覚を得ることができるVRグローブなのですから。
3種類のフィードバック機能が備わる
複数種類のフォースフィードバック機能を搭載したことで、手の全体に高精度な触覚を伝えてくれる「NOVA 2」は、いわばVRのエンターブライズ領域を担う業務用のVRグローブです。
具体的に記すと、手のひらに圧力をかけることで、手全体で持っている・触れているという感覚を伝えるアクティブコンタクトフィードバック。大きさと硬さの感覚をエミュレートして、指に2kgの重さを感じさせることができるフォースフィードバック(磁気摩擦ブレーキ)、親指と人差し指にクリック感や衝撃を伝えられる振動触覚フィードバックといった、3種類の技術が搭載されています。
本体となるグローブ部と位置情報をトラッキングするためのトラッカーは、マウントパーツを介して固定されています。
マウントパーツを交換することで、他のトラッカーと合わせて使うことが可能です。この写真はMeta Quest 3用のコントローラーを固定したところ。HTC VIVEファミリーのトラッカーと比較するとかさばりますが、アプリ次第でMeta QuestシリーズのXRヘッドセットでも利用可能だということの証明ですね。
メッシュ生地のグローブはSMLの3サイズが用意されるとのこと。なお各指の関節および手首部分に電源供給のためのコネクタがある専用設計品のため、自分の手にピッタリと合う軍手などで流用することはできません。
キャリブレーションは極めてカンタン
「NOVA 2」を使うときはグローブをしっかりと装着しなければなりません。振動や圧力で触覚を伝えるデバイスのため、極力隙間をなくすことが重要だからです。
かといって手の大きさはユーザーごとにまちまち。S/M/Lサイズのグローブではピッタリと肌に密着させるのが難しいケースもあるでしょう。そこで「NOVA 2」は装着してから電源をいれると、浮いている部分をなくすために各指に伸びているワイヤーを自動で巻き取ります。
エヴァンゲリオンのプラグスーツを彷彿とさせる仕組みに、気持ちが盛り上がります。
セッティングアプリを起動し、手を上げる、親指をぐるぐると回す、両手を合わせるなど数種の動きでキャリブレーションは終了。1分もかかりません。グローブを装着するときにかかった時間のほうが長かったですね。
テーブルに触れ、アイテムを削り、握りつぶす
「NOVA 2」の性能を体験できるデモアプリを使ってみると、テーブルの上のマットに触れた瞬間に、安価なVRゴーグルとの表現力の差を実感しました。手のひらをマットにつけた瞬間に、手のひらに圧を感じましたし、指を曲げようとしてもほとんど動かない。そのまま手を動かしてみると、ザラザラとした素材感が伝わってきます。
これは体験としてリッチすぎませんか…?
液体の入ったフラスコを持つと、硬い物を持っているという感覚がわかる。この写真では液体を大きな容器に注いでいますが、手のひらに垂らすと波のような振動が伝わってきて、形が変動しつづける液体に触れている実感があるのです。
硬い物体をヤスリで削っているときの感覚もリアル。ぞりっ、ぞりっ、と、目がやや粗めのヤスリを使っているんだということもわかる。
そして、小さな球状の実を持って握りしめると…ぷしゃっと潰した感覚が手に残ります。実から出た液体が手を伝わって、床に水滴がぽたぽたと垂れ落ちているようなバーチャルセンスまで呼び起こされました。
世の中にはさまざまな触覚技術がありますが、ここまでHi-Fiなものは極めて珍しいのではないでしょうか。
一番驚いたのがキャリングケースです。よほど大きな設備になるのかなと思っていたら、グローブ、トラッカー、充電アダプターが収まる手荷物サイズでした。
VRChatで握手するときに使ってみたいデバイスNo.1

(Sensegloveで日本でのマーケティング担当のJordan Scholtesさん。オランダから東京に引っ越しており日本在住)
SenseGloveの「NOVA 2」はVRのエンターブライズ向けVRグローブと記しましたが、どのような現場で導入されているのでしょうか。日本でマーケティングを担当しているJordan Scholtesさんにお話を聞くと、様々なトレーニング用のデバイスとして、軍隊や研究機関、原子力発電所や工場などの現場で導入されているそうです。日本は出荷台数で見ると米国、中国について3番目に多いとのこと。
具体的にはNASAは無重力VRトレーニング用として導入。シーメンスはプロトタイプのロボットハンド開発のために、鶏卵を割らないように持つための力加減を調査するためのデバイスとして「NOVA 2」を導入しました。他にも電動ドリルやハンドミキサー、スプレー、やすりといった手で扱う工具・道具の感触を正確に得ることができるため、生身では慣れていないと危険な作業のVRトレーニング用としても、遠隔ロボット操作のコントローラとしても最適。フォルクスワーゲン、エアバス、ホンダといった企業の製造現場、開発現場や、大学などの教育機関で使われています。
バッテリーの駆動時間はスペックシート上は2~3時間。でも用途によっては4時間ほど使えることもあるとのこと。
個人で購入するには高価なデバイスです。最初のほうで触れたように、「NOVA 2」の価格は5,999ユーロ(約97万円)です。この価格は公式サイトで販売されている個人向けの価格(日本からの購入も可能)。法人向け製品としては代理店の株式会社HELTECまたは日本バイナリー株式会社経由で購入することになります(価格はそれぞれの代理店に問い合わせる必要があります)。
しかし最先端の業務用デバイスがこの価格で手に入ると考えたら、ちょっと悩む人も出てくるかも。他のデバイスでは体験できないことを、一足先に味わえるのは魅力の1つ。それこそVRChatなどのソーシャルVRで、世界中の「NOVA 2」ユーザーと握手して、その感覚を得ることができるのですから。













