Robloxが2025年3月に発表したAI技術「Cube 3D」は、テキストプロンプトから空間の文脈を理解し、3Dモデルを生成する画期的な機能を備えている。
2025年3月に開催されたGDC2025では「開発者の力を飛躍的に高めるRobloxの3D基盤モデル」という講演があった。
登壇したのはRobloxのプロダクトディレクターであるカラン・チャンナ氏と、エンジニアリング担当シニアテクニカルディレクターのキラン・バート氏だ。チャンナ氏はCube 3DがRoblox Studio内でどのように機能し、開発プロセスを加速させるのかを具体的に説明。一方、バート氏はCube 3Dを支える技術背景を解説し、単なるモデル生成にとどまらないシーン構成への応用可能性にも触れている。
本記事では、その講演内容を詳しくレポートする。

AIが変えるRobloxの3D制作
講演の冒頭、Robloxのプロダクトディレクターであるカラン・チャンナ氏は、RobloxプラットフォームにおけるAIの重要性を強調した。すでにレコメンデーションやモデレーションなど250以上のAIモデルが稼働しており、プラットフォーム体験の中核を担っているという。
3Dコンテンツ制作には依然として多くの課題が存在する。アセットのモデリング、テクスチャリング、環境構築、アバター設定など、複雑で時間のかかる工程が多い。チャンナ氏は、AI、特に生成AIがこれらのプロセスを劇的に加速させ、クリエイターの生産性を向上させる可能性について語った。

鍵となるのが、LLM(大規模言語モデル)に着想を得た「3D基盤モデル」の構想である。テキスト生成においてTransformerモデルが単語をトークンとして扱い、次の単語を予測するように、3D空間における「形状(Shape)」と「レイアウト(Layout)」をトークン化し、AIがそれらを理解・生成できるようにするというアプローチだ。チャンナ氏によれば、「3Dでこれを機能させるには、主に『形状』と『レイアウト』という2つのコアコンセプトをトークン化する必要があります。オブジェクトが3D空間をどのように占有し、どのように構成されるべきかを理解できれば、AIがより有機的に(3Dモデルを)組み合わせていくことができます」。

このアプローチは、単に形状を生成するだけでなく、オブジェクト間の関係性や配置(レイアウト)も理解・生成できるため、より複雑で一貫性のある3Dシーンの構築につながると期待される。
テキストから数秒でアセット生成
チャンナ氏は、3D基盤モデルの構想の第一歩としてリリースされた「Cube 3D」の機能をライブデモで披露した。Roblox Studioのベータ版として、またコンテンツ(Experience)内APIとして提供が開始されたこのツールは、テキストプロンプトから3Dメッシュモデルを生成できる。

デモでは、まずAIによって大部分が生成された部屋や遊び場、レストランなどの環境が紹介された。環境内のアセットは、「Cube 3D」を用いてテキストから生成されたものである。チャンナ氏は「この遊び場を見ると、クライミング構造からブランコまで、シンプルなメッシュ生成とテキストによるスタイリングで、一貫性のあるシーンを構築できます」と説明した。
さらに、プレイヤーがゲーム内でリアルタイムにオブジェクトを生成するデモも行われた。遊び場のシーンで「skateboard」(スケートボード)と入力すると数秒でスケートボードの3Dモデルが、「fridge」(冷蔵庫)と入力すると冷蔵庫が生成され、テクスチャも自動で適用された。チャンナ氏は「これがCube 3Dの出力で、ジオメトリ(形状)を生成します。テクスチャも数秒でロードされます」と解説した。

この機能により、開発者はプロトタイピングを高速化できるだけでなく、将来的にはプレイヤー自身がゲーム内で想像したものを瞬時に形にし、体験をカスタマイズできるようになる。
Cube 3Dを支える独自技術とは?
続いて、Robloxのエンジニアリング部門でシニアテクニカルディレクターを務めるキラン・バート氏が登壇し、「Cube 3D」を支える技術的背景について詳細な解説を行った。
Cube 3Dの中核となるのが、3D形状データをTransformerモデルで扱えるようにするための「トークン化」技術だ。バート氏は、メッシュからサンプリングした点群データを潜在ベクトルに変換し、それを離散的なトークンに変換するVQ-VAE(Vector Quantized Variational Autoencoder)のアプローチを説明した。

さらに、高品質な形状生成を実現するための3つの主要な技術革新が紹介された。
- 位相変調位置エンコーディング(Phase Modulated Positional Encoding): 従来の単純な位置エンコーディングでは、再構築時に形状が不連続になったりアーティファクトが発生したりする問題があった。これに対し、位相変調を加えることで、空間的に近い点が周波数空間でも近くなり、より滑らかで連続的な形状再構築を可能にした。
- ベクトル量子化(VQ)の工夫: 連続的な潜在表現を離散的なトークンに変換するVQプロセスにおいて、安定した学習と効果的な離散化を実現するための独自の改良が加えられている。
- 潜在空間の連続性・滑らかさの保証: 類似した形状が潜在空間上でも近い位置にマッピングされるように学習を工夫することで、形状間の自然な補間や一貫性のある生成を可能にした。
テキストから形状への変換には、テキストトークンと形状トークンを入力とする標準的なデュアルストリームTransformerアーキテクチャが採用されている。これにより、テキストプロンプトに対応する形状トークン列を生成し、それをデコーダーに通すことで最終的なメッシュデータ(占有グリッドとして出力され、マーチングキューブ等でメッシュ化)が生成される。

テクスチャ生成には、Robloxが昨年発表した「FlashTex」というモデル(内部的にSDS: Score Distillation Sampling技術を使用)が連携して利用されており、生成されたジオメトリに対して高品質なテクスチャが適用される。

パフォーマンス面では、当初60秒かかっていた生成時間を、KVキャッシングやグラフ最適化、ウェイトロードの最適化などにより、本番環境では約30秒まで短縮したという。また、安全性確保のため、「安全なトレーニングデータ」、「プロンプトフィルタリング」、「生成物分析」、という3段階の対策を講じていることも強調された。

AIがレイアウトも提案する未来
バート氏は、「Cube 3D」の技術が持つさらなる可能性についても言及した。現在のテキストから形状への生成だけでなく、その逆、すなわち形状からテキストキャプションを生成する能力も開発中であるという。バート氏は「すべてがTransformerであるため、逆方向(形状トークンからテキストトークンへ)も可能です。この双方向性は非常に強力な能力です」と述べた。

これが実現すれば、既存の3Dシーンを読み込み、その内容をテキストで理解・記述したり、シーン内のオブジェクトについて質問したりすることが可能になる。

講演の後半では、この双方向性技術を活用した「シーン生成」のライブデモが行われた。テキストで「10人座れるバーとスツール、いくつかのテーブルと椅子がある漫画風のコーヒーショップ」と指示すると、AIがその指示を解釈し、適切なオブジェクト(バーカウンター、スツール、テーブル、椅子)を選択。それらを配置するためのバウンディングボックスをシーン内に生成し、各ボックス内に対応する3Dモデルを「Cube 3D」で生成、配置していった。バート氏によると、「LLMが何を生成すべきかを判断すると、バウンディングボックスを配置し、テクスチャリングを開始します」。

さらに、「コーヒーマシンとソファを追加して」といった指示や、「プールテーブルを追加して」という指示にも応答し、AIがシーンの文脈を理解しながらオブジェクトを追加し、レイアウトを調整していく様子が示された。日本庭園風のシーン生成デモでは、「門の隣に馬を置いて」といった空間的な指示にも対応してみせた。バート氏は、「この反復的な創造プロセスこそ、私たちが非常に興奮している点です」と、その可能性に期待を寄せた。

開発ツール公開、誰でもAIで3D制作へ
講演の最後に、カラン・チャンナ氏は、「Cube 3D」の基盤モデルと推論コードをGitHubおよびHugging Face上でオープンソースとして公開したことを発表した。Robloxの公式ブログでチャンナ氏が述べているように、RobloxはAIツールはオープン性と透明性に基づいて構築されるべきだと信じている、とのこと。
Cube 3DはRobloxの中だけでなく利用できる。Roblox Studio内でのベータ機能提供と合わせ、研究者や開発者、そして広範なAIコミュニティがこの技術を学び、拡張し、業界全体の3D生成技術を進歩させることを目的としている。チャンナ氏は「Cube 3Dはローンチしたばかりなので、まだ改善すべき点はたくさんあります。しかし、クリエイターがどのように活用し、この技術で遊び始めるかを見るのはエキサイティングです」と締めくくった。
生成AIが文字情報から画像、動画へ進化する中で、インタラクティブな3D環境は一つの到達点と言える。Cube 3Dは、AIが単に個々のオブジェクトを生成するだけでなく、シーン全体の構成やレイアウトまで理解し、提案できるようになる可能性に繋がるものだ。Metaは自前のメタバース「Horizon Worlds」の制作ツールにAIを組み込み始めている。
XRやメタバースなどの3Dコンテンツの制作環境は今後AIで大きく変わっていくだろう。Robloxなど各プラットフォームがどのように取り組むのか注目したい。