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活用事例 2017.12.20

「VRは聖杯」NVIDIAがフォトリアルVRで狙うデザインプロセス革命

コンピュータ・グラフィックス(CG)は製造業をはじめ様々な産業を支えています。そのCGのあり方がVRによって大きく変わろうとしています。

米NVIDIAを率いるCEOジェン・スン・フアン氏は、12月12、13日に東京で開催されたGTC2017の基調講演にて、VRを「CGにとっての聖杯(長年の夢)」だと強調しました。

急成長を続けるNVIDIAがなぜVRを「聖杯」と捉えているのか、同社が提供を開始したフォトリアルなVRを実現するアプリ『Holodeck』を中心に紹介していきます。

急成長を続けるNVIDIA

米NVIDIA社は1999年に創業、コンピュータのグラフィックス処理・演算処理を行うGPUを開発・製造する半導体メーカーです。コンシューマー向けにはGeForceシリーズなどゲーミング用のGPUで知られています。

近年はクラウドや、導入が世界中で急激に加速しているAI(人工知能)用にGPUを展開し、過去最高の売上を更新しています。2017年発表の通期売上高は2016年発表の売上高から38%増、四半期ベースでも2017年第3四半期は過去最高売上高を更新中と非常に好調で勢いのある企業です。

VRはCGの「聖杯」を実現する『Holodeck』

NVIDIAが2日間にわたって東京・お台場で開催したGTC2017の基調講演は満員となりました。数百人の聴衆に向かってジェン・スン・フアン氏は、今が新たなコンピューティングプラットフォームが立ち上がるタイミングだとして、GPUの性能向上が加速していることなどを紹介。VRやAIなどへの取組を具体的に説明していきました。

2時間近い基調講演は、AIや自動運転の話こそメイントピックだったものの、VRの話からスタートしました。コンピュータ上で現実(3次元)を再現するCGにとって、作り出された3次元空間をこれまでのような平面のモニターでなくそのまま現実と同じように体験できるVRは「聖杯」(長年の夢)だと話すフアン氏。いよいよ「物理法則に従ったフォトリアルなVR」が実現するとして、それを体現するツールである『Holodeck』を紹介しました。

『Holodeck』はPC向けのVRアプリです。VR内にフォトリアルな3DCGモデルを呼び出し、まるで目の前にあるかのように持ち上げたり、部品をはずしたりといった操作が可能です。色の変更や複数人でのコラボレーションも可能となっています。

現実と同じくらいのフォトリアルで材質に忠実な描画が実現することで、製造のデザイン段階でそこに実物があるように話すことができるようになるだけでなく、内部構造を瞬時に表示して説明する、構成するパーツを一気に分解し見せるといったことも可能になります。また、遠隔地にいる人同士がその距離に関係なく話し合いながら使うことができます。

基調講演では、『Holodeck』でトヨタ・レクサスの車の高精細な3Dモデルを読み込み、3名でコミュニケーションをとるデモが紹介されました。


VRがデザイン設計のフローに革命をもたらす

基調講演の後に行われたセッションでは、NVIDIA本社のプロフェッショナルVR部門のディレクター、デイヴィッド・ウェインスタイン氏が『Holodeck』の説明を行いました。

VRはデザインに革命をもたらすだろうとしながらも、プロのデザイナーが求めることはハイクオリティなVRだということでフォトリアル、精密・精緻、インタラクティブ・ダイナミック、といった要素が必要と分析しています。『Holodeck』はその要求を満たすために作り出されました。

具体的にデザイン段階のワークフローでは、3ds MaxやMayaで制作した3DのCADデータにパーツの材質を付与したものを『Holodeck』で見ることができるようになり、より直感的かつ効果的なレビューが可能になります。

見る・触れる、パーツを動かしてみるといった行動だけでなく、ペンを説明につかって空間に描くことができたり、長さを測定したり、パーツの色や材質の変更で見た目がどのように変わるのかといった試行錯誤も可能です。

また、NVIDIAが開発したAI「ISAAC」が『Holodeck』に組み込まれており、人同士の会話だけでなく、AIとのコミュニケーションもとることができます。

「できることは現実以上」を実感しつつ短期的な課題は残るが……

筆者もデモブースで『Holodeck』を体験してみました。トヨタのレクサスを前にし、隣のブースにいるもう一人の体験者とそのレクサスを満遍なく見ていきました。レクサスのモデルに含まれているパーツ数は2,000点以上ということで、パフォーマンスを発揮するために、駆動にはワークステーション用のハイエンドGPU・Quadro P6000を2枚使いフォトリアルな描画を実現していました。

パーツを掴んで好きに動かしたり、一気にパーツレベルの分解ができるのは、現実ではできない体験です。

体験の様子を収めた動

https://www.youtube.com/watch?v=5218qo4mCVQ

筆者が今回のデモで最大の課題と感じたのは、画質の「粗さ」です。デモではHTC Viveが使われていましたが、片目の解像度は1080×1200ピクセルと1K相当の画質です(両目では2160×1200)。どれだけフォトリアルな描画がされていても再生機器であるVRヘッドセットの解像度がそれを満たす水準まで高くないと粗さの目立つ結果となってしまいます。高精細な3Dデータを扱う自動車関連のデザイン会社からも「ヘッドセットの解像度が課題」という声があがっています。

この解像度は、Oculus RiftとHTC Viveといった2016年発売の現行世代のハイエンドVRヘッドセットの解像度の限界です。しかし、注意したいのは解像度の課題は比較的短期のもので、長期的な課題として残り続けることはないという点です。

VRヘッドセットの世界では性能向上が著しく、今後もさらに高解像度のVRヘッドセットの登場が予想されています。2017年10月にDELLや富士通などから発売されたMRヘッドセットは、片目で1440×1440のパネルを使用しており、より高精細な描画の再生が可能となりました。また、有機ELメーカーでもあるサムスンは片目2K画質のVRヘッドセットのプロトタイプを開発・展示しています。また、日本の液晶メーカーであるジャパンディスプレイは先日803ppiという非常に高精細で同じく片目2K画質のVRヘッドセット用パネルを発表し、2018年度の市場投入を目指しているほか、2019年度には片目3Kのパネルの投入を考えています。VRヘッドセットの高解像度化は急速に進み、粗さが段階的に解消していくことは確実です。

2,3年後にVRヘッドセットの解像度が2K、3Kと向上したときに、フォトリアルな描画を行う『Holodeck』の真価が表れることになります。VRヘッドセットのハードウェアメーカーとも共同歩調を進めているNVIDIAはをそういった動向を見越しての展開を進めています。

『Holodeck』は一般公開はまだされておらず、NVIDIA公式サイトにて現在アーリーアクセス版を提供して、フィードバックを集めています。また、利用にはGTX 1080Ti、Quadro P6000、TITAN XpといったトップクラスのGPUが必要となる点に注意が必要です。


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