Nintendo Switch 2の詳細と発売日が公開になった。
ここでは、本誌読者向けの視点からNintendo Switch 2の中身に迫ってみたい。ストレートに言えば「HMDとつながることは想定しにくい」のだが、もう少し引いた視点でこのデバイスに使われている技術や実現しようとしている体験を考えると、XRの周辺事情とも関係する、面白い特徴を備えたゲームコンソールと言えそうだ。
XRを目指したハードウエアではないが……
新型ゲーム機が出ると、やはり本誌として気になるのは「XR的に見逃せないプラットフォームかどうか、というところだろうか。
だが先ほど述べたように、Switch 2は「XRプラットフォームになる」とは想定しづらい。
理由は複数あるが、まず「速度が上がったが、それでもパフォーマンスが足りない」という点だ。
Switch 2はNVIDIAのカスタムプロセッサーを搭載している。その中身は公式には公開されていない。NVIDIAは「Switchの10倍の性能を持つ」としており、性能は高そうに見える。
だが、Switchの10倍ということは、高めに見積もってもPS4からPS4 Proくらい、ということになる。しかもおそらくは、テレビにつないで据置で使う時のものだから、携帯モードではその半分くらいというところだろうか。
これは任天堂が狙ったことでもある。任天堂にとっては、PlayStation 5のような据置型のゲームコンソールやハイエンドゲーミングPCとは異なり、持ち運んでバッテリーで動作することの方が重要だ。
また、コスト的にもできるだけ安価にする必要があるし、重量も抑えたい。
現在のゲームプラットフォームとして見た場合、SwitchはAAAクラスのゲームを提供するには性能が足りない。任天堂がSwitch 2を作ったのは、そうした状況に対応するためだ。基本を携帯モード時の画質である1080P・120Hzクラスとし、それ以上の性能不足はドックモードでの性能嵩上げと、DLSSなどのAI超解像技術を活かしてカバーしていくのだろう。
そうすると、携帯モードでは最新のポータブルゲーミングPCを少し下回るくらいの性能と考えられ、PCでいうところの「VR Ready」(VRヘッドセットを接続して快適に動作するスペックを満たしていること)とは考えづらい。
任天堂がプラットフォーム側に「VRに特化した機能」を用意すれば、性能的にはMeta Questなど向けに作られたソフトを動かすこともできるだけの力はある。
だが、任天堂にその気があるとは考えづらい。任天堂の優先順位として高くはないだろう。
また現状、外部出力は「DisplayPortに対応していない」とみられる。少なくともスペックにはその情報がない。ということは、「XREAL One」などのサングラス型ディスプレイとの接続も、Switch同様にHDMI変換用のアダプターを介する必要がある、ということになる。
なお、Nintendo Switchの簡易VRキットである「Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit」は、Switch 2に対応しないことがわかっている。これは性能が理由というわけではなく、SwitchとSwitch 2のサイズが異なるため、ダンボール製のキットが物理的に取り付けられないためとなる。
(VR Kitには対応しないが、これはダンボールのサイズの問題)
コントローラーで「没入感拡大」路線を継続
ではSwitch 2はXRとなんの関係もないか……というとそうでもない。
「触感」によるXR的表現は、Switch同様十分可能だ。そういう活かし方をするゲームがどのくらい出てくるかは疑問だが、繊細な振動表現は、ゲームに没入感を与える上で役に立つ。
コントローラーの工夫はXR的な要素を多分に含んでいる。
Switch 2では、新たに「マウス的操作」に対応したことも大きい。
Joy-Con 2は縦に持ってマウスのように使える。ジャイロセンサーによって傾きも見ているので、手のモーションとマウス的操作をセットにできるのは大きい。
(Joy-Con 2の側面にはマウスとして使うためのセンサーがある)
またPCとは異なる点として、「マウスを2つ使う」ような操作もできる。
この機能の価値は、夏に発売を予定している「DRAG X DRIVE」を見るとよくわかる。両手を前後して前へ進み、トリックやシュートでは手のモーションを使う。若干だが、日間のアクティブユーザー100万人以上を記録したVRゲーム「Gorilla Tag」にも似た操作体系だ。
(「DRAG X DRIVE」では両方のコントローラーをマウスとして活用)
両手を動かして遊ぶというスタイルはWiiやSwitchが推し進めてきた方向性ではあるが、現在はMeta QuestなどのVR系プラットフォームではおなじみだ。特に「Gorilla Tag」のヒット以降は、スティックでの移動だけではない使い方が模索されている印象が強い。
若干こじつけめいて感じられるかもしれないが、「身体的な一体感の強いユーザーインターフェース」は、XRが持つテーマの1つである没入感と大きな関連性がある。
Switch 2でも「標準搭載コントローラーによる没入感の追求」を任天堂は目指しており、その点は、XR関連開発者にもある意味でチャンスかもしれない。
また、音の面では「立体音響」に対応したことも大きい。他のゲームコンソールも対応済みだし、スマホやPCでも使えるので珍しい要素とは言えない。しかし、携帯モードでも本体のスピーカーのみで一定の立体感が期待できるので、これも没入感向上につながるだろう。
ゲームチャットという「テレイグジスタンス」
Switch 2の別の特徴に「ゲームチャット」がある。マルチプレイ中に音声やビデオでチャットができる機能であり、それ自体が珍しいわけではない。
ただSwitch 2での機能には、いくつか面白い特徴がある。
1つは「他人がプレイしているゲームの映像も見られる」ということ。プレイ中にサムネイルとして全員のプレイ動画が表示されるし、メイン画面への切り替えもできる。
2つ目は、別売のビデオカメラをつけると、それぞれのプレイしている姿を見られること。これも単に見えるのではなく、背景を切り抜いて自分の姿だけにしたり、ゲーム内に自分たちの姿をはめ込んだりもできる。
技術的に言えば、前出のようにどちらも珍しいものではない。だがSwitch 2の場合には、全員が同じように、「C」ボタン連動で簡単に使えることが重要だ。カメラは別売ではあるものの、一般的なUVCクラス対応のビデオカメラであれば使える模様で、使うためのハードルは低い。
こうした機能はある種の「テレイグジスタンス」ではある。テレイグジスタンスとは、VRの一分野であり、遠くにいる人達同士があたかも近くにいるかのように感じられる環境や関連技術のことを指す。ビデオチャットそのものが珍しいわけではないが、インターフェースを改善するとより多くの人が使えるようになり、「あたかも同じ空間で一緒に遊んでいる感覚」が強くなって価値が高まる。
アバターチャットとは別の方向性ではあるが、任天堂は「Switch登場時からあったが、まだあの当時は搭載できなかった機能」を標準搭載にすることで、この種の機能のマス化を狙っているのだ。