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テック 2015.05.06

Oculus Rift DK2が完全動作する「変態ノートPC」はどうやって生まれたのか? マウスコンピューター 杉澤氏に聞いた誕生秘話

現在、開発中のOculus Rift。まだ開発中とはいえ、開発者キットは全世界に出荷されており、家でVRコンテンツを体験する人も多いのではないでしょうか。その際に、非常に重要になるのがPCの動作環境。

現行のOculus Rift DK2では、VRコンテンツを描画するために必要なフレームレートは75fpsとされています。また、通常の3Dゲームと違い、両目分つまり画面2枚分描画する必要があるため、非常に高いグラフィック処理能力が必要となります。75fpsが実現しない場合、遅延や残像などが発生し、完璧なVR体験ができないだけでなく、最悪酔いを生じる原因にもなります。

十分なグラフィック性能を持ったPCで動作させることが何よりも重要になりますが、Oculus VR社は必要スペックを明らかにしていません。また、多くのノートPCで動作に問題が生じるなど、敷居が高い状態になっています。

「Oculus Riftを動かすにはどのPCを買ったらいいのか」という声に応えるべく、取り組んでいるPCメーカーがマウスコンピューターです。ゲーミングPCブランドG-TuneではOculus Riftで快適に動作するPCの開発・販売を行っています。また、先日のUnite2015Tokyoなどで、展示する際のPCを各ブースに貸し出すなど積極的に協力を進めています。日本初の展示が行われたOculus Riftの最新プロトタイプCrescent Bayを動作させていたPCも同社が提供していました。

まだ開発段階のOculus Riftの性能は未知の部分も多く、動作環境も手探りの状態が続いています。その未知の世界に飛び込んでいるマウスコンピューター担当マネージャーの杉澤竜也氏に話を伺いました。

杉澤竜也:株式会社マウスコンピューター コンシューマ営業統括部コンシューママーケティング室室長
マウスコンピューターブランドおよび、G-Tuneブランドにおけるプロダクトマネージャーを務める。

未来を売っていかねばならない

ーー現在、マウスコンピューターさんで行っているOculus Riftの取組を教えていただけますか。

杉澤
Oculus Riftの開発者コミュニティと協力し、自社の店舗である秋葉原のG-Tune: Garageと名古屋ダイレクトショップでは、国内の開発者が開発したコンテンツの体験コーナーを設けています。また、2014年8月からはOculus Riftの動作を確認したOcufes監修と銘打ったデスクトップPCを発売しました。2015年1月には、CPU内蔵のインテル® HD グラフィックスが搭載されているウィンドウズのノートPCでOculus Riftを起動すると起きる「Optimus問題」(※)が発生しないノートPC i5702シリーズを発売しています。

※Optimus問題:nVIDIA社のグラフィックボードを搭載したWindowsノートPCで、Oculus Rift DK2を起動すると、Optimusと呼ばれる機能が強制的に動作してしまい、一部モードで十分なパフォーマンスが得られなくなる現象。具体的には、DK2を使う2つのモードのうち、より快適なVRを体験できる「Direct HMD Access」モードで、十分なパフォーマンスが発揮されなくなります。その際は、「Extended Desktop to the HMD」モードで動作させうることになりますが、取り回しの点でも不便でした。この問題は、CPUに内蔵されたチップセットとグラフィックボードの相性により引き起こされており、PCメーカーやユーザーレベルでは解決方法が無いとされています。開発者がイベント等でVRコンテンツを展示する際には、省スペースで持ち運びやすいノートPCを使うのが一般的ですが、この問題により、流通しているゲーミングノートPCがほぼ全てこの影響を受け、不便な状態で展示を行わざるを得ない状況が続いていました。

ー色々と取り組まれていますが、そもそもなぜ、マウスコンピューターはOculus Riftに積極的なのでしょうか。

杉澤
最初は偶然だったんです。2013年の夏、近くに住んでいた開発者の桜花一門さん(@oukaichimon)にOculus RiftのDK1(開発者キット第1弾)を偶然、体験させていただきました。体験したときに、未来を感じたんですよね。早速役員会議へと桜花さんをお呼びし、全員に被せて頂きました。

ーーいきなり役員会議ですか(笑)

杉澤
そうですね。PCメーカーとしては未来を売っていかなければいけないと思っています。ただ、その時は、まだ具体的にOculus Riftに対してどういう取り組みをしていくかは分かっていませんでしたね。

「Oculus RiftといえばG-Tune」を目指して

ーーその後、OculusRiftの普及を目指すOculus Riftの開発者コミュニティ「Ocufes」のイベント開催への協力が始まりました。まずは機材協力から始めたということでしょうか。

杉澤
はい。まずは単純に「他のお客さんがOculusRiftをやったら、どれだけ感動するんだろう」というところですね。ちょうど2013年11月に秋葉原で、数万人規模のイベント、ゲームパソコン&PC-DIY EXPOが開催されることになっていました。そこでOculus Riftを体験してもらったらいいんじゃないかと思い、『VRスキージャンプ』や、『MikuMikuAkushu』をベースに使用する3Dモデルキャラクターを変更したコンテンツなど開発者の皆さんのコンテンツを展示してもらいました。

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ーーお客さんの反応はどうでしたか。

杉澤
多くの方が衝撃を受けていて、僕らの感想は間違ってなかったということが分かりました(笑)どういう商品を出していこうかと考えだしたのもその頃です。まずは「Oculus RiftといえばG-Tuneだよね」と言ってもらえるようになりたいということでイベントなどでの機材協力から始めました。その後も、G-Tune:GarageでOcufesの開発者の皆さんのコンテンツを展示していますし、今回のUnite2015Tokyoでも機材をお貸ししています。

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マウスコンピューターの直営店G-Tune : Garageに設置されている体験コーナーで新たに4月28日から体験可能になったホラーコンテンツ「Haunted Rift 2」(制作者:@yuujii氏)。他にも数々のコンテンツを体験することができる。一覧はこちらから。

――Oculus Riftは流行るかも分からない未知のデバイスだったのではないかと思いますが、取り組むにあたって、リスクには感じなかったのでしょうか。

杉澤
リスクはほとんど感じず、未来があるという感覚でしたね。機材のご協力に関しては、元々、多くのゲームメーカー様へのイベント機材の協力を行っている関係で、イベント専用に確保しているゲーミングパソコンが多数あるんです。通称:杉澤在庫というのですが(笑)。その機材をスケジュール運用することで調整可能でしたし、展示スペースも店舗があるので特に困りませんでした。コンテンツだけは持っていないので、Ocufesの皆さんにコンテンツを展示するスペースとPCのご協力をすることで実現に至りました。

ーー実際にOculus Rift対応PCとして販売を始めたのは、2014年8月のOcufes監修PCですね。

杉澤
いかにハードウェアの懸念事項を減らしていけるかということでした。2014年7月に出荷が開始されたDK2(開発者キット第2弾)でPCスペックの問題が顕著になりました。DK1から一気に性能が上がり、多くの方が動作環境に悩まれていました。PCメーカーとしては、実際に動作検証を行った製品を出していきたいと思ったんですよね。元々ゲーミングPCでは、推奨PCということで各ゲームとコラボしたモデルを販売しています。同じことができないだろうかと。開発者の皆さんはハードウェアが専門ではないわけですし、そこはPCメーカーとしてできることがあるんじゃないかということで取り組みました。

ーーそこでOcufesとコラボしたというわけですね。

杉澤
はい。PCを売っている僕ら自身が「快適に動きますよ」と言ってもエゴですから(笑)VRの開発者が集まるOcufesに検証してもらうことで、実際に動作するかどうかを確かめたものを売ってみたらニーズがあるのではないかと思い、Ocufes監修PCということで販売を開始しました。

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Ocufes監修PC

ーーDK2用のVRコンテンツは、動作がかなり重いものも多くあります。しっかりと動作検証されているモデルは安心感があります。売れ行きはいかがですか。

杉澤
まだOculus Rift自体が開発者キットですので爆発的に売れるわけではありません。メッセージを出していきたいという目的もありましたので、これくらいかなと思っています。Ocufes監修PCに関しては、儲けではなく、指針を示すことが目的ですから。面白いのが、Oculus Riftにフォーカスされたゲーム企業様やコンテンツ制作企業様から、マウスコンピューターの法人営業部門へとPCの相談が来ることがあります。社内の方でも、このPCを案内すれば間違いないものとして薦めることになりました。

Oculus Rift DK2が完全動作する変態ノートPCが生まれた

ーーDK2の時に非常に大きな問題となったのが、インテル® HD グラフィックスとnVIDIAのグラフィックボードGeForceを搭載したノートPCで生じたOptimusの問題(※)でした。2015年1月にこのOptimus問題を回避するノートPC NEXTGEAR-NOTE i5702シリーズを出されましたよね。

杉澤
はい。やっと出せました。Optimusについては、DK2出荷時から問題になっていました。開発者の皆さんのコミュニティでも話題になっていましたが、解決策がなかったのでデスクトップを出すだけで、ノートPCを出すことができませんでした。ユーザーの声を集めて、これをやったら解決できましたという声を集めても、検証すらできない状態でした。同じ型番のPCで検証しても、1台ではできてももう1台でできないといった具合で。全然わからんという状態になってました(笑)

ーーOptimusには僕も悩まされています(笑)6月に買ったばかりのノートPCが、十分にパフォーマンスを出せないと知ったときはショックでした。

杉澤
そうなんですよね。開発者様として広めにくい環境になるのではないなと思ったので、どうにかしたかった。最終的に思いついたのが、「Optimusを完全解除する製品を立ち上げようじゃないか。やってみようか」ということで社内に提案してみました。それが、デスクトップCPUを搭載した変態ノートパソコンです。デスクトップ用のCPUなので、Optimus機能からは開放され、グラフィックボードから直接出力ができます。DK2でも快適な挙動が実現しました。

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デスクトップCPUを搭載した変態ノートPCことNEXTGEAR-NOTE i5702シリーズ

ーー目にしたときは、なるほど、そういうアイデアがあったかと目からうろこでした。

杉澤
飛びついて購入してもらった方からも、これはいいという話をいただいています。

ーー結構売れているんでしょうか。

杉澤
あまりにもニッチですからね(笑)でも、想像していたよりも売れています。ただし、我々としては、収益を立てるためというよりは、売れる売れないに関わらず、製品として用意しておきたいと思っています。物がないと大変なので、必要な方のために用意しておくという考えです。今後Oculus Riftの製品版が発売されて一般層に広がるのであれば、市場も広がっていくわけですが、この時点ではまだまだ狭い環境です。その中では、収益どうこうよりは、コミュニティに根付いていくということを取り組んでいきたいと思っています。

次は持ち運べるデスクトップPCを!

ーーOcufesという開発者コミュニティと積極的に関わるなど、コミュニティとの関係を大事にされている印象ですが、Oculus Riftの場合はそれが特に顕著なのでしょうか。

杉澤
コミュニティを重視している理由は、僕が考えるPCメーカーのありかたに関係しています。スペックで勝負する時代ではないんですよね。現在、PCの売り方を考えてみたときに、パーツが手に入りやすい今、同じパーツを持ってくれば同じ性能のPCが出来てしまうわけです。それはPCメーカー各社理解しており、それぞれの会社としての色を出してビジネスしています。パーツ好きの観点だったり、安いもの。マウスコンピューターはいかに主要用途に近いものを売っていくかという路線です。そこでOculus Riftに関わらず、コミュニティに根付いた取り組みに力を入れています。例えばe-Sportは試合のスポンサーをさせていただいたり、会場への機材協力をすることでコミュニティの皆さんと知り合って、需要が直接聞けるわけです。

ーーインディゲームなども意識されていますね。

杉澤
そうですね。自社配信のニコニコ生放送で、インディーズゲームを紹介する取り組みを行ったり、インディーズゲーム開発者の方をお招きしたリアルイベントの主催も行なっています。また、昨年はUnityさんとコラボしたゲーム開発者向けのUnity-chanモデルのPCも発売しました。MMD用という意味では、MMD制作者の銀獅さんに弊社のイメージキャラクターG-TuneちゃんのMMDモデルを作っていただいたのですが、その際に、G-Tuneの製品を使用して頂いてモデル製作を行っていただいております。
その結果として、3Dモデリング制作やMMDにおける快適動作が可能な製品として、銀獅さんお墨付きがついている、銀獅推奨のモデルを用意したりもしました。Oculus Riftに対する取組もその流れの1つです。

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MMDモデル、G-Tunesちゃん。MMDモデルを無償配布するだけでなく、キャラクターソングやLINEスタンプなども展開している。

ーーVRの普及はいよいよこれからという段階ですが、今後はどういったPCを出されていくおつもりでしょうか。

杉澤
今後も出来る限り対応していきたいです。ただし、熱の関係などどうしてもノートPCではできないことがあります。夏頃に出そうと思っているのは、ノートPCでは足りないコンテンツを動かすための、持ち運べるデスクトップPCです。20kgくらいのものを持ち歩くのは厳しいと思うので、もう少し小型で持って行きたいという人がいればそういう商品も出していきたいですね。

ーーなんと、取っ手がついていたりするのでしょうか

杉澤
そうですね。持ち運べるといってもデスクトップですので、ある程度の重さはあります。フルサイズのグラフィックボードをしっかりと積んだ上で、ギリギリ持っていけるというくらいのものになります。その分スペックは突き抜けたものになります。

持ち運びできるハイスペックデスクトップPCが次の製品になるという杉澤氏。PCメーカーは未来を売るという言葉のもと、自身が未来を感じたVRを実現するためのPCづくりを目指してコミュニティとともに歩む姿勢は、非常に共感できるものがありました。

今後、コミュニティとの連携でどういった取組を行っていくのかも楽しみです。

G-Tuneのページはこちら
http://www.g-tune.jp/

Ocufes監修PCはこちら
http://www.g-tune.jp/ws_model/ocufes/

NEXTGEAR-NOTE i5702シリーズはこちら
http://www.g-tune.jp/note_model/i5702/

※本インタビューは、4月13、14日に開催されたUnite2015Tokyoにて行ったものです。


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