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開発 2022.10.03

日本のスタジオは、VRゲームをどう展開していくべきか——国内VRゲームスタジオ2社とMetaに訊く【TGS2022】

2022年9月15日から18日までの4日間、千葉県の幕張メッセで開催された日本最大のゲームベント「東京ゲームショウ2022」。VRヘッドセット「Meta Quest 2」を開発・提供するMetaが初となる大規模出展を行いました。2022年2月にはQuest向けプラットフォームの売上は10億ドルを突破し、VRゲームの市場規模は以前よりも大きく広がっている状況。Metaは日本での存在感をより高めつつあります。

本記事ではMetaによるラウンドテーブル「Conversation with Developers」の様子をレポート。Meta Reality Labsのストラテジックコンテンツパブリッシング 日本・韓国市場統括の池田亮氏、京都のVRゲームスタジオである株式会社CharacterBank代表取締役の三上航人氏、そして東京とサンフランシスコに拠点を置くVRゲームスタジオ・株式会社Thirdverse取締役のCBO大野木勝氏に話を伺いました。なお、モデレーターは別途Metaの担当者が務めました。


(写真左から、CharacterBank 代表取締役 三上航人氏、Meta Reality Labs ストラテジックコンテンツパブリッシング 日本・韓国市場統括 池田亮氏、Thirdverse 取締役CBO 大野木勝氏)

VRゲームはきちんと「ビジネスとして成立」するようになってきた

——皆さんはコンテンツを発表する場や制作する場として、なぜVRプラットフォームを選んだのでしょうか? そして、その中でもMeta Questプラットフォームを選んだ理由を教えていただけますか?

三上航人氏(以下、三上):
僕がVRプラットフォームを選んだ理由は、コミュニケーションがすごく伝わると思ったからです。ボイスチャット、アバター、そして何より身振り手振りなど、テキストだけでは伝わらないところも伝わります。僕は英語ができないんですが、海外のVRコミュニケーションサービスを使った際、身振り手振りで英語圏の方と無事コミュニケーションできて感動したんです。これが原体験になっています。特にMeta Questシリーズは一体型なので、コミュニケーションの幅がケーブルによって制限されません。そこに感動して「よし、これしかないな」という流れになりました。

大野木勝氏(以下、大野木):
個人的な話をするなら、2015年1月にOculus Riftの第3世代プロトタイプ(Crescent Bay)から衝撃を受けたことがきっかけのひとつです。僕は前職ではモバイルゲームの会社にいたのですが、その会社のポリシーとして「新しいテクノロジーを使ったエンターテイメント」を考えた結果としてVRへの参入を決めています。これを受けて2015年年末にファンドやTokyo VR Startups(Tokyo XR Startups)などのインキュベーションの会社も立ち上げ、かれこれ7年ほどVRに関わっています。

現在のVR市場はPCやゲームコンソールとの接続型デバイスから始まりました。当時は様々なデバイスが登場し、いわば「覇権争い」をしていたわけですが、Meta(旧Facebook)は当時からソーシャルサービスとの融合や多額の技術投資など、非常に戦略的にコミットを続けています。

池田亮氏(以下、池田):
2019年に一体型のOculus Quest(現Meta Quest)が発売されて以降、だいぶ状況が変わりましたね。翌年にMeta Quest 2が発売されてからはさらに大きく伸びています。今年2月に発表しましたが、累計売上が10億ドルを超えました。また、Meta Questシリーズ端末の発売から2年弱で100万ドルの売上げを超えるゲームタイトルも登場しています。当初こそ「VRゲームはなかなか儲からない、継続してものづくりができない」という印象をお持ちだった方も多いと思うのですが、ようやく市場として成り立つようになってきました。以前よりも多くの開発者の方々や企業に興味を持っていただけている、と感じています。

VR向きのゲームは「新規性」「VRならでは」

——VRに向いているのはどんなタイトルでしょうか?

池田:
一言で言うのは難しいですが、重視しているポイントはふたつあります。ひとつは新規性です。これは、現在のストアに並んでいるコンテンツにはない、新しい機能や技術を採用しているものです。もうひとつはVRならではの遊び方があることです。

なぜこれらが重要なのか。こうしたコンテンツがあることで、QuestプラットフォームやMeta Questという端末をプレイヤーの皆さんに選んでいただく大きな理由になるからです。今回登壇していただいている2社は、VRならではのアイデアや工夫をゲームの中に数多く採用しており、VRの可能性を引き出しています。

——三上さんは、「RUINSMAGUS ~ルインズメイガス~」というゲームを最近ローンチされましたよね。本作についてはいかがですか。

三上:
僕らが「RUINSMAGUS ~ルインズメイガス~」を作ろうとしたとき、まず「“日本から”のゲームを作るときには、どんなものがいいのだろう」と考えました。結果として「僕たちが遊んできたファンタジーRPG的な世界をVRで再現したい」といったところに落ち着いて、王道RPGに出てくるような遺跡の謎解きや冒険というスタイルを再現しています。

三上:
先ほど池田さんがおっしゃった「ならでは」で言うと、VRでは従来のゲームのような映像表現、あるいは映画的な表現が使えない部分が多々あります。自然と「VRならでは」の表現に制約されることになります。一方で、僕らは舞台劇や演劇がそこにうまく応用できるのではないかと考えました。例えば、目の前でキャラクターが「演じている」場面の一参加者になるようなシーンはここはしっかりと作り込んでいます。いかに「なりきる」ことができるかというところですね。

一例として、僕らのゲームでは「盾を構えて右手から魔法を打つ」という体験ができます。この体験は「それを演じる」ということにつながってきますし、同時に自分の中で状況を俯瞰しながら「オレは今カッコイイ!」と思ってもらえるようなものを作ろうとした、という別の軸にもつながります。

——一方の大野木さんは、この間「X8(エックスエイト)」を発表されました。こちらはどういったゲームなのでしょうか?

大野木:
まず前職のスマートフォン向けゲームの話から入りましょう。スマートフォンではコンソール機と比べてインタフェースが変化し、小さいモニターになり、情報をインプットするのにはタップやフリックをする必要が生まれます。PC向けのゲームならマウスとキーボード、あるいはコントローラーを使いますよね。ではVRはどうなっているのかというと、情報提示のインタフェースが大きく変わり、3DCGの世界に“入る”、つまり360度の体験になるところが違いになります。すると情報をインプットする手法が、コントローラーだけではなく自分の身体そのものになるわけです。

自分たちが最初に「VRならでは」として注目したのは、この「身体」を使ったゲーム内にあるオブジェクトとの相互作用、インタラクションです。いろいろなものを触ることができ、壊したり投げたり変形させたりといった体験ができる。例えば目の前にいろいろなものが飛んできて「触る」ように感じるのは、2Dディスプレイだけでは難しい。これをベースにゲームの設計を考えました。自分の身体がコントローラーになる場合、それがゲームメカニクスにどのように影響するのか、というところも考えています。

もうひとつはサウンドとビジュアルのエフェクトですね。360度いろいろなところから音が聞こえるので、日常生活ではあり得ないような経験を作るというのも思考の軸としてあります。

大野木:
僕たちの「X8」は、簡単に言えばファーストパーソンシューティング(FPS)です。このジャンルは凄まじい数、そして凄まじいクオリティの作品がリリースされています。言わば「レッドオーシャン」的なマーケットではありますが、皆さんご存じのとおり、ヒットタイトルも数多く存在しています。

さて、既存の非VRのシューターゲームの歴史とVRのシューターゲームの歴史を調べて、その中でも「VRのシューターゲームで存在していない、あるいはあまり見ないものはなんだろう?」と考えるところが「X8」のスタートでした。最近ヒットしているVRゲームは、ユーザーがこれまで経験したことのないことができるものが多いです。ではVRでこれまでに存在しなかったシュータージャンルは何かなと考えたときに、いわゆる「ヒーローベースのシューター」で、スペシャルスキルが使える。かつ、今までヒットしているVRシューターゲームの機能は踏襲しているというところをキーにしています。

大野木:
しかし、実際に作り込んでみるとそうはいかない部分もありました。レイヤーとして選べるヒーローが独自のスキルを持っているのですが、当初はジェスチャーでスキルを発動するようにしていたんです。しかし、これが結構難しくてですね……(笑)。そのため、今は「パネルを表示して、それをなぞる」という形式でスキルを発動するようにしています。

日本と海外では単語に対するイメージが異なる?

——Metaとしては、日本のデベロッパーからどんなVRゲームが開発されることを期待していますか?

池田:
日本のスタジオが全世界に向けてゲームをリリースするときに、必ずしも欧米のゲーム会社が作るような作品を作ってほしいと思っているわけではありません。日本独特の強みを出していくようなタイトルを作っていってほしい。これは「言うだけなら簡単」で、実際にはいろいろな困難があると思いますが、そこをサポートしていきたいと思っています。

——しばしば「日本のゲームは特徴的」だといわれることが多いですが、三上さんはどのようにお考えでしょう?

三上:
僕の口から言うにはおこがましいような話ではあるのですが(笑)、「日本ならでは」というと、単語に対するイメージが海外とでは違うのかなと思っています。僕たちはたびたび「ファンタジーの世界観」という呼び方をしますが、日本人の思う「ファンタジー」と欧米圏の「ファンタジー」には明確な差があるんですね。すると、単語のイメージによって、期待される要素も大きく変わってきます。「日本ならでは」という部分はこうしたワードを選ぶ段階から醸し出されてくるのかもしれない、思っています。また、これはあくまで人から聞いた話ですが、「シリアスなシーンに唐突なギャグを入れる」のも日本では多いらしいです。自分が過去に遊んできたゲームにもそうした要素があり、腑に落ちました。

——VRゲームを考えたときに、欧米と比べてまだまだ日本ではプレゼンスが低いところも現状としてあります。大野木さんはアメリカにも拠点を置かれていますが、日本のタイトルがグローバルで勝負していくときにどのような課題がありますか?

大野木:
これに対する僕の意見はごく短くて、「日本にはVRゲームスタジオの数少ない」ところだと思っています。規模感問わず様々なゲーム会社が参入し、そのうえで既存のメジャーなIPをVRに投入してくるようなことが発生しないと、なかなか多くの人々にはプレイしてもらいにくいい環境かなと。もちろん、デバイスの普及もあります。しかしこれは「鶏が先か卵が先か」の話で、デバイスだけがあってもコンテンツがなければ意味がありません。日本市場で、まずやるべきところはそこだと思っています。

——なるほど。池田さんはどのようにお考えですか?

池田:
プラットフォームサイドからの視点からですが、プレイヤーの方々との柔軟なコミュニケーション能力、そして素早い対応力のふたつが重要になってくると思っています。プラットフォームとしても市場としても、まだまだVRは新しい分野です。我々も想定外の事態にスピード感を持って対応しなければいけません。そうしたときに、言語や時差の壁を越えて柔軟に対応して頂くというのは、成功するために非常に重要な要素かなと思っています。とくにThirdverseさんに関しては、非常にうまくコミュニティとコミュニケーションされていますよね。

——日本国内のVR市場に目を向けると、まだまだVRというデバイスは、家庭用ゲーム向けには「メジャーなプラットフォーム」にはなっていません。今後VRゲームがより一般化していくためには、どんなところが必要でしょうか?

三上:
なんというか、気持ちの問題も大きいという気がしていて。遊んでいるときに、同じ空間にいる人から切り離されていて「一緒に遊んでいる感がない」ところが、一般化したという気持ちにならない部分です。体験者と一緒に見られるような、いわば「場」をVRで楽しめる状況があると、より流行っていくのかなと思っています。

大野木:
Metaの皆さんに期待するところとしては……2021年はXR部門だけで1兆円使っていますよね。それぐらいの規模の投資を、これからもどんどん行っていただければと(笑)

池田:
これには「頑張ります」としか言えませんが(笑)。これから日本の市場に関しても、継続的に投資はしていきます。体制も整えていきたいと考えています。今後パートナーのみなさんから、フィードバックをいただければ幸いです。

——最後に、今後の展望についてお聞かせください。

三上:
CharacterBankとしては、マルチプレイでコミュニケーションができるようなゲームを作っていきたいと思っています。僕自身もVRにおけるコミュニケーションに面白さを感じているところは多々あるので。

大野木:
三上さんの話にかぶせる形になりますが、Thirdverseが開発する際のコンセプトのひとつに「マルチプレイでコミュニケーションがとれる」ことを掲げています。弊社もいわゆる「メタバース」を作りたいと思っていますが、Metaの方々が言うとおり「一社で、いきなり」はできないため、まずはゲームから始めている次第です。今後もVRゲームのディベロッパー・パブリッシャーとして、VRの技術を信じて開発を続けていきたいと思っています。

メディアによるオープンQ&A;

(※ここでMetaの担当者がモデレーターを務めたセッションは一旦終了。以下、各メディアからのQ&A;となります)

——VRゲームは「作っては壊す」ことを繰り返してブラッシュアップしたりコンセプト検証をしていますよね。デベロッパーとしてはとても大変だと思いますが、それを円滑にする方法があれば教えてください。

三上氏:
ノウハウそのものというよりかなり体制の話になるのではないかと思っています。僕らは「一度作って壊す」ことを前提で作っていますし、企画書だけで評価するのではなく、作って体験して壊す、あるいは作り変える文化や社内体制作りを意識していますね。大野木さんはどうですか?

大野木:
Thirdverseも同じですね。ゲームモデルそのものは、既に存在するものを転用しているものの、実際の体験のところはきちんとVRでやる。「これ、ちょっとおかしいぞ?」「これ、いけるんじゃないか?」という感じで、試行錯誤しながら作っていますね。こうしたナレッジを積み上げていることが、自社の強みだと思っています。

——日本でもアメリカでも、Meta Quest 2の値段が上がりました。これからVRを普及させていきたい要素のある日本では、どのような影響があると考えていますか? デベロッパーのお二方にお願いします。

三上氏:
正直なことを言うと「辛いな」と思う部分はあるものの、Metaが継続的にVRへ投資し続けられるようになることの方が嬉しいかな、と考えています。赤字のままで突然やめます、というほうが怖いので。今後も取り組みを継続していただける方が安心です。

大野木:
僕らが今まで出してきたゲームは、ユーザー層としてはアメリカが多い状況です。ご存じの通りアメリカはインフレが進んでいて、値上げに関するインパクトは実はそこまで甚大ではありません。日本に関しては円安含め、ちょっと分からない部分がありますが、ひとつは他のデバイスとの比較だと思っています。今後登場するPlayStation VR2(PSVR2)等との価格差で少し変わってくるのかなと。デベロッパーとしては、良いコンテンツを出してユーザーを惹きつけていく、というところは変わらずにやっていくつもりです。

——開発にあたってMetaからゲーム内のデータを様々なデータを受け取っていると思いますが、それによってブラッシュアップされた部分などがあれば教えていただけますか?

大野木:
Metaからディベロッパー向けに公開されているダッシュボードが常にアップデートされており、細かいデータも取得することができます。ジャンルが異なるゲームでも、どこの国にどんな層のユーザーがいるかは見えており、開発をする上での参考にはなっています。データもそうですが、ユーザーからのフィードバックも大きいですね。

例えば、弊社では「ソード・オブ・ガルガンチュア」というVR剣戟ゲームを出し、同じ剣戟をコンセプトにして「ALTAIR BREAKER」をリリースしています。最初の「ソード・オブ・ガルガンチュア」はかなりリアルな剣戟を目指しており、「剣戟シミュレーター」的なハードさを持っていました。しかしプレイヤーから「難しすぎる」「ちょっとハードコアじゃない?」と、けっこう言われてしまいまして……。「VRはこれから初めて遊ぶ人がどんどん増えていくので、いきなりコアに行くよりは、ワイドなユーザーターゲット層に受け入れてもらえる、よりカジュアルなものにしたほうがいいのではないか」ということで、いろいろと変更しています。プレイヤーの方々が「リアルな体験」よりも「非日常的な体験」を求めていることがわかったので、スペシャルスキルが出せるようなゲームに変えたりもしています。

三上:
僕らもダッシュボードを見ると、海外比率が高いところがあります。デザインの方向性や日本、アジアだけでヒットするのではなく、海外でヒットするところはかなり意識して作っています。僕らとしてもグローバルで成功したいという思いはあるので、海外をメインにしながら作りつつも、日本の良さを残しつつ……これはとても難しいのですが、日本3、海外7ぐらいのイメージでやっています。

——ナレッジの共有など、日本のデベロッパーの企業を増やすためにはどのようにすればいいとお考えでしょうか? また、ディベロッパー向けにどのような整備や情報が必要だとお考えでしょうか?

大野木:
Thirdverseでは社外向けのセミナーをずっと続けており、ナレッジの共有についてはオープンにやってきています。ただ今までは技術的な部分というよりも、マーケティング観点のほうが多かったので、技術に関してもやっていったほうがいいかな、という話はしていますね。海外もそうですが、わりと同じ業界のデベロッパーも競合視しておらず、お互いに市場を大きくしていこうという考えを持っています。

三上:
僕らも「技術的な部分を社内にとどめておこう」というよりは、「横のつながり」を作っていきたいと思っています。CharacterBankはまだまだ人数が少ないのですが、技術発信については今後やりたいと思っています。市場規模もありますが、デベロッパーの数もどんどん増えていってほしいと思っているので、大きなカンファレンスがたくさんあるといいな、と思っています(笑)

——Metaはデベロッパーに様々な形で開発支援を行っていますよね。しかし、いつまでも、あるいは無限に支援ができるわけではありません。この支援パッケージやプログラムははいつごろまで続けていく予定でしょうか?

池田氏:
この支援パッケージについては、短期的な投資施策という捉え方ではなく、長期的に開発者コミュニティを支えていくために必要なものであると考えています。すぐに支援パッケージがなくなるといった話は今のところ出ていません。

加えて、開発支援のパッケージやモデルの内容は、それぞれのスタジオごとに異なります。そのため、必ずしも共通のパッケージで「みなさんに開発費用を出します」という形でやっているというよりも、必要に応じてバランスを変えつつ、皆さんのお役に立てたらと思っています。

——本日はありがとうございました。


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