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未分類 2018.05.02

HMD装着や衝突を回避する手法まで取り上げられた「施設型VRオペレーションセミナー」レポート(後編)

一般社団法人ロケーションベースVR協会は、「スタッフによるアテンドなどのオペレーション負担軽減」をテーマにした「施設型VRオペレーションセミナー」を2018年4月12日に開催しました。

VRアトラクション施設を運営する各社による、経験を踏まえたノウハウや提案がたっぷりの本セミナーは、VR施設運営者だけでなくハードウェア・ソフトウェアの製作者も必聴の内容でした。今回はセミナーで話し合われた中でも、資料にまとめられていない、それでいて濃厚で示唆に富む話題について、前編と後編の2つに分けてレポートします。

(前編の記事はこちら
https://www.moguravr.com/location-based-operation-seminar/

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HMDの装着について

HMDの装着は不慣れな人にとっては着脱に戸惑うことが多く、現状ではオペレーターによる補助があるアトラクションが多いです。

速水氏は東京ジョイポリスの事例として、きちんと装着できているか、焦点があっているかを口頭で確認さぜる得ないため、現状ではオペレーションをゼロにはできていないとしつつ、「TOWER TAG」では、

・先に着け方の映像を見せておく
・4人が所定の位置に付いたら、1人のオペレーターがマイクで解説。プレイヤーがが着けているのを確認して、ダメならばオペレーターがフォローする

というフローの改良を行っていると述べました。

ニンジャマスクとあわせて装着する場合は、HMDをバイザーを被るように頭の後ろから着けようとすると、目の部分に着けているニンジャマスクがズレて視界を遮り、何度もやり直してさらに時間がかかってしまうという課題があります。それに対し登壇者からは、「HMDを着けるときは必ず前から着けろ」といったスローガンがあり、この概念を流行らせたいという声が。

安藤氏が「レジ袋いりませんみたいに、施設入口でHMD着けられますというのを腕などに身に着けてもらって、その人はあまりケアしなくてもいいけれど、値段がちょっと下がるとか」と提案しつつ、「施設のみんなが丁寧につけてもらうのが当たり前で、それをやっていない施設は不親切だ、みたいな流れを変えたい感はある」と述べると、登壇者からも同意の声があがりました。

「VR ZONEならば、最初に体験するアトラクションでだけ説明すれば2回目以降の体験では説明が不要になるのでは」との質問に田宮氏は、
・1個目で丁寧に装着のアテンドをするとそこで覚えてくれないという自己矛盾がある
・これを解決するために、一回自分で着けてみるというタイミングを設けたいが回転数のロスが起きる
・未経験者が半々くらいになれば、体験者に着けさせるオペレーションで効率的になるが、まだ圧倒的に初めての人が多く、スタッフが着けさせて回転数を早くしたほうが売り上げがあがるという感覚がある
と、オペレーション軽減における短期的戦略とと中長期的戦略にジレンマがある様子を吐露しました。

安藤氏が「装着練習用のHMDのコールドモックが施設ごとにあれば」と述べたところで、「体験者の人は装着した写真を撮りたがることがあるが、その写真撮影をさせるために練習をさせればいい」と、フォトスポットがHMD装着練習場になるようなアイディアを速水氏が提案しました。

ハードについても言及があり、田宮氏は
・ハードメーカーは装着した後にいかに長時間快適に体験できるかを重視していると思うので、着け方については優先度が一個下がる
・我々が欲しいのは、説明せずにいかに着けられるのか
・そういう2パターン作ってくれるハードメーカーさんがいたら超素敵
とハードメーカーに対してリクエストを出していました。

安藤氏は「そこはやっぱり「IDEALENS」を」と本セミナーの会場であるクリーク・アンド・リバー社の製品をプッシュしつつ、頭部固定パーツがパカっと開く、あるいは眼鏡式のものになっていけば解決していくと将来への期待を述べていました。

ヘッドフォン

速水氏は東京ジョイポリスの事例から、
・HMDとは別にヘッドホンを装着する必要があり、特に「ZERO LATENCY」ではガンコントローラーを持つ必要があるので、装着に時間がかかる
・レイテンシーの問題や配線が絡むことも考え、HMD付属のオーディオストラップがあれば使ったほうがよいのでは
と指摘しました。

敢えてヘッドホンを使わないという事例として、田宮氏は「MEGASTAR JOURNEY Powered by ABAL」のように、施設内のスピーカーで音を鳴らせるならば積極的に採用したほうがよいと述べました。

安藤氏が携わったコンテンツでも、マルチプレイのゲームならばお互いの会話を大事にするためにヘッドホンは使用していないそうです。ちなみに、耳開放型の骨伝導式のヘッドホンも検討したが、バッテリーの持ちの問題からなかなか本採用になっていないとのこと。

また速水氏は、マルチのフリーロームだとヘッドホンがなければプレイヤー同士の声が聞こえないと発言しました。音声はコンテンツの内容にあわせた対応方法を考えていくべき問題のようです。

プレイスタート方法

特にマルチプレイのコンテンツにおいては、オペレーターが各体験者の様子を確認してからコンテンツをスタートさせるという段取りをとるケースが多いです。

50人もの人が一斉に体験する「進撃の巨人」では、ここまで多人数だとプレイヤーの様子はモニタリングできないので、最初に「右見てください」とアナウンスし、右を見てない人を見つけたら「この人の機材は動いてないな」と判断していた、と足立氏はオペレートの裏側を語りました。

プレイ中の衝突回避

歩き回ってプレイするフリーロームコンテンツでは、HMDにて視覚が隠れるため他のプレイヤーや壁などに衝突する可能性があり、スタッフの監視無しの運用はは難しいようです。そこでいかに人数を減らしつつ安全性を高めていくか、報告がありました。

東京ジョイポリスの「ZERO LATENCY VR」では、プレイヤー同士が接近すると警告が表示されるものの、それでも無視して近づいてしまう人がいるので、アテンドスタッフを配置しています。その後に導入された「TOWER TAG」では、VR空間で動ける範囲を実際の空間よりも小さくして、衝突の可能性を少なくしています。

他方、VR ZONE SHINJUKUの「攻殻機動隊」では、走ると不利になるなど衝突を抑制する仕組みをいれておいて、それでもヤンチャする人には壁にめり込むと即死などペナルティをガンガン与えてゲームを楽しめなくするというルール上での解決をしています。

その他、安藤氏が行っている衝突回避策として以下のようなものが挙げられました。
・壁や行動物に近づくと、視界を次第に暗くしていく。
・マルチプレイで、鎧を着せるなどプレイヤーの身体を実際の身体よりも大きくする。身体が体験者の視界に入りやすくすると同時に、パーソナルスペースを広めにすることで心理的に近づきにくくする
・コンテンツ内で視点を誘導することで、マルチのプレイヤーを同じ方向に向かせてお互いの位置が見えるようにしたり、あるいは外側を向かせて衝突しないようにする

災害発生時の対応

災害発生時には施設にてカットリレーが働いて電源が落ちるのでコンテンツが強制的に終了しますが、この時に警報が聞こえるような状態を担保する必要があります。VR ZONEがお台場にあったころ(Project i Can)は外部の音が聞こえるオープンエアータイプのヘッドホンを使っていましたが、ヘッドホンからの音が聞こえなくなった時でも一定以上の大きさの音が聞こえれば大丈夫なようなので、現状では使用していないそうです。

足立氏によると、ネットカフェなどで展開されている「VR THEATER」では、個室での利用ケースがありスタッフの目が届きづらいので、耳たぶよりも小さなヘッドホンにしているとのこと。

一方、背負うバックパックPCを用いたコンテンツでは、カットリレーが通じないケースがあります。ハシラスが開発した「TOKYO弾丸フライト」では、油圧で筐体の動きを制御していたので、全電源が喪失するとプレイヤーを救えなくなる(=別途手動で筐体から解放する手段がある)ので、コンテンツによってはカットリレー以外の対応を考える必要があるようです。

機器の故障・点検

田宮氏は、
・コントローラーやHMDがうまく動かないとき、バックヤードにあるものと交換。その後点検を行い元に戻すのだが、そこで×を付けた状態で戻す。それがもう一回バックヤードに来た時に本当に壊れているのだなというフローを作っている。
・しかし、確認の精度についてはスタッフの練度にもよるので、本当に機器が壊れているのか分からない状態でバックヤードに溜まっていく。
と、VR専門施設ならではの悩みを吐露。各地にて20店舗ほど展開している「VR ZONE Portal」も含めると備品管理も大変で、電子タグなどで管理する必要があるとも述べていました。

ゲームセンターの筐体は、経験上「ここが壊れやすいだろうな」というのが分かっているので、そのような個所の部品は交換しやすいように設計されており、さらにマニュアルや部品の流通も整備されています。それに対し、VRコンテンツ筐体は現状では台数が少ないので、そういった体制を取るコストが相当かかるようです。

安藤氏はスタッフをサポートしようとする時、遠隔では“何が見えてますか”と聞いても要領を得ずサポートしきれないという経験から「これから施設を始める人は、内部のスタッフにネットワーク、PC、ハードウェアに詳しい人を入れることは超必須」と強調しました。

堅牢性をもったシステム作りへの業界全体の知見の集積とともに、当面は故障のリスクを見ての運営が求められると、松平氏は本トピックを締めくくりました。

知見がたっぷり詰め込まれていたセミナー

本セミナーではVR施設の運営だけでなく、企画・開発・流通に関わる登壇者が語るオペレーション軽減に関する課題が取り上げられ、運営者だけでなくハード、コンテンツ開発者も含めて広く共有されるべきものでした。と同時に、今回披露されたノウハウも大型VR施設の運営者だけでなく、体験会などを行う人にも有用なものばかりだったように思います。

いかにスピーディに気軽に安心してVR体験ができる環境をつくっていけるか、本レポートがその一助になれば幸いです。

本記事は「施設型VRオペレーションセミナー」に関する記事の後編です。前編はこちらです。
https://www.moguravr.com/location-based-operation-seminar/

参考リンク

一般社団法人ロケーションベースVR協会
http://lva.or.jp/
オペレーション負担軽減ワーキンググループ検討成果(pdfファイル)
http://lva.or.jp/pdf/op.pdf