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セミナー 2025.09.10

【XR Kaigi Hub in 札幌レポート】なぜXR事業を10年続けられたのか? インフィニットループ松井氏が語る地方企業の挑戦と工夫

2025年8月22日、国内最大級のXRカンファレンス「XR Kaigi」の姉妹イベントである「XR Kaigi Hub in 札幌」が開催された。本稿は、その中で行われた株式会社インフィニットループ代表取締役会長・松井健太郎氏によるセッション「なぜ私たちはXR事業を続けられているのか ~地方企業の挑戦と工夫~」の模様をレポートする。

XR事業のリアルな現状と、地方企業が10年間も事業を継続できた秘訣とは何か。松井氏の言葉からその本質に迫る。

話者紹介:松井 健太郎氏

株式会社インフィニットループ 代表取締役会長。2007年に同社を札幌で創業。ゲーム開発を主軸としながら、2014年からXR事業に注力。2018年には株式会社ドワンゴと共同で株式会社バーチャルキャストを設立し、VTuber事業を展開。2022年には双日株式会社とのジョイントベンチャーとしてAuto VR株式会社を設立するなど、XR業界の第一線で事業を牽引し続けている。

XR事業は「夢はあるが、数字がついてこない」

「みなさん、XR事業、儲かってますか?」

松井氏のセッションは、参加者に鋭く問いかけるこの一言から始まった。XRは夢がある分野である一方、「なかなかすぐに数字が伴わないのが実情だ」と松井氏は語る。インフィニットループがVR開発に着手した2014年の「Oculus Rift DK2」から約10年。多くのプレイヤーが市場を去っていく中で、なぜ同社は事業を継続できたのか。その背景には、市場の現状に対する冷静な分析があった。

松井氏によれば、BtoC市場ではゲームやバーチャルライブ、VTuber配信などが展開されているが、それらは一時的な流行で終わってしまい、定着しにくい傾向がある。一方、BtoB市場では安全教育や医療トレーニングといった分野でじわじわと伸びてはいるものの、まだ発展途上の段階にあるという。

この根本的な課題として、松井氏は「HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の普及率がまだ低いこと」を挙げる。カンファレンス参加者のようなアーリーアダプター層を除けば、一般家庭にVRヘッドセットがないのが現状であり、絶対的なユーザー母数の少なさが事業化の大きな壁となっている。

しかし、悲観的な見方ばかりではない。松井氏はARグラスに大きな期待を寄せている。

「これまでのガジェットは趣味性が強かったですが、ARグラスはギリギリ実用領域に入っており、持ち運びできるセカンドディスプレイとして非常に優秀なデバイスです」

ARグラスはMetaなどの大手企業も本格参入し、市場は常に新しい話題に溢れている。この期待感と厳しい現実の狭間で、いかに事業を継続させるか。松井氏の挑戦の軌跡はこの問題と向き合うところから始まる。

VTuberの夢と現実、事業の柱は学校にあり

インフィニットループのXR事業における最初の大きな挑戦は、VTuber事業だった。社内で実験的に開発していたVTuber配信ソフトを株式会社ドワンゴに持ち込んだことがきっかけとなり、2018年にジョイントベンチャー「株式会社バーチャルキャスト」が設立された。

「誰でもVTuberになれるソフト」としてリリースされた「バーチャルキャスト」は、発表当初こそ大きな話題を呼んだ。しかし、事業としてマネタイズする段階で大きな壁に直面する。松井氏は「VTuber配信者とVRヘッドセット所有者という2つの層が重なる部分は非常に少なく、ここからマネタイズするのは困難でした」と、当時の苦悩をふり返る。

配信ソフトとしての収益化が難しいと判断した同社は、バーチャルイベントやBtoB向けの活用も模索する。しかし、ここでもバーチャル空間のイベント会場に来場する人口の少なさや、3Dモデル制作などの制作コストの高さが採算性の課題となった。

八方塞がりに思えた状況を打開したのは、意外なアライアンスだった。最終的に「バーチャルキャスト」は、ドワンゴグループが運営するN高等学校・S高等学校向けのVR学習システムとして提供されることで、事業の柱を確立。バーチャル空間で理科の実験などを体験できる学習コンテンツとして確固たる地位を築き、黒字化を達成した。

「我々一社だけではバーチャルキャストを継続できなかったであろうこと、そしてアライアンスの重要性を強く実感しました」と松井氏は語る。この経験が、後の事業展開における重要な指針となっていく。

大手との協業で挑む自動車業界

バーチャルキャストの経験を経て、アライアンスの重要性を確信した松井氏が次に挑んだのは、自動車業界だった。2022年、商社である双日株式会社とのジョイントベンチャー「Auto VR株式会社」を設立。自動車ディーラー向けのVR販売促進システム「オートVR」を開発した。

これは、バーチャル空間で車の内装を見たり、ボディカラーを変更したりできるシステムで、半導体不足で新車の現物確認が難しかったコロナ禍において、大きな注目を集めた。しかし、ここでも大企業との協業ならではの課題があった。

「自動車会社は規模が大きいため、導入までに時間がかかりました。我々の営業活動が軌道に乗るまで、年単位の時間を要したほどです」

さらに、経営層の承認を得ても、現場の営業担当者がVR機器を使いこなしてくれるかという、現場への啓蒙という新たな課題も浮上していた。

大手不在のXRは地方企業にこそ好機あり

一方で、インフィニットループは地元・札幌での地域連携も積極的に進めている。札幌駅総合開発株式会社と連携し、札幌駅南口広場を再現したメタバース空間「さつえき.world」を制作。VRChatで開催される「バーチャルマーケット」への出展協力や、人気キャラクター「雪ミク」を起用したARイルミネーションショーやMR体験イベントなどをJRタワーで実施。「リアルとバーチャルを融合した体験」をテーマに、地域に根差したXR活用を推進している。一見、不利に思える「地方」という立地。しかし松井氏は、「XR事業と地方企業は意外と相性が良い」と断言する。その理由は3つある。

第一に、市場に絶対的な強者がいないことだ。大手ライバルが少なく、『この会社が絶対的に強い』という状況があまりないため、規模の小さな地方企業でも存在感を示しやすい。

第二に、人材獲得のしやすさだ。VRが好きでたまらないという学生など、XR好きの開発者が一定数いるため、人材獲得がしやすい点もプラスになる。

そして第三に、コスト競争力と事業継続性の高さである。首都圏に比べてコストを抑えた開発が可能で、会社の継続性が高いという利点がある。しかし、地方企業が単独で戦うには限界がある。そこで再び重要になるのが「アライアンス」だ。

「XRという発展途上の領域で戦うには、小規模企業単独では難しいため、アライアンスを常に模索することが重要です。自社プロダクトを囲い込むのではなく、積極的に他社と共同開発を進めることで、より多くのことが実現できると実感しました」

さらに松井氏は、事業を継続するためには「純粋なXRにのみこだわっていては苦しい」と述べ、周辺領域への展開と海外市場への視点が不可欠だと説く。ソフトウェア開発だけでなく、イベント運営やグッズ販売を手がけたり、国内市場にとどまらず、直接世界を目指すべきだと強調した。

XR技術を応用し155万DLのヒット作が誕生

「純粋なXRにこだわらない」「周辺領域への展開」「海外市場を狙う」。

この戦略のポイントを体現し、大きな成功を収めたのが、PC用アクセサリーソフト「デスクトップメイト」である。

youtube.com/watch?v=Ov90HqYjUaA

デスクトップ上にバーチャルキャラクターを表示させ、好きな場所に配置したり、マウスなどで触れ合ったりすることができるこのソフトは、一見するとXRとは無関係に見える。しかし松井氏は、「その基盤技術は全てXRで培ったものです」と明かす。

開発のきっかけは、過去にメタバース空間で「初音ミク」のイベントを運営した経験にあった。この時、社内に3Dモデル制作やモーションキャプチャーのノウハウ、そしてIP権利元との交渉術が蓄積された。これらの資産を、ユーザー母数の少ないVRではなく、より広大なPCプラットフォーム、特に世界中のユーザーにアプローチできるSteamで展開しようと考えたのだ。

この戦略は見事に成功。2025年8月時点で全世界155万ダウンロードを達成し、ユーザーの6〜7割はアメリカやカナダ、ドイツといった海外ユーザーが占めている。

「デスクトップメイトは純粋なXRプロダクトではありませんが、その基盤技術は全てXRで培ったものです。XRはまだ発展途上なので、こだわりすぎず、関連する周辺領域でできることは何でもやってみるのが良い、というのが私の感想です」

XRで培った技術を、あえてXRではない市場で花開かせる。この柔軟な発想こそが、インフィニットループが厳しい市場で生き残り、成長を続けることができた最大の要因なのかもしれない。

XRの未来と「やれることは何でもやる」覚悟

セッションの最後に、松井氏はXRの未来と、事業を継続するための要点を改めて語った。

「デバイスは確実に進化しており、将来メガネ型VRヘッドセットが普及すれば、スマートフォンに取って代わるような爆発的な普及をする可能性を秘めています。その時に備え、存在感を示せるプロダクトを作ることを目指しています」

その未来に到達するために、松井氏が10年の経験から導き出した事業継続の要点は極めて明確だ。

  • 単独で生き抜くのは困難。アライアンスが重要。
  • 小さなプロトタイプを作り続け、世に出し続ける。
  • 幅広い視点を持ち、周辺領域や海外へ展開する。
  • 純粋なXRにこだわらず、やれることは何でもやっていく。

華やかなイメージとは裏腹に、地道な試行錯誤と現実的な経営判断が求められるXR事業。その中で10年間、松井氏とインフィニットループは挑戦を続けてきた。その原動力は、技術への情熱と、来るべき未来への確信、そして「生き残る」ためのしたたかな戦略にあった。

最後に松井氏は以下のように語った。

「XR事業に夢や将来性を感じている皆様には、今後5年後、10年後を見据え、ぜひ力を合わせて事業を進めていければと思います」

次回の「XR Kaigi Hub」は大阪!

「XR Kaigi Hub」の熱気は、次なる都市へ。2025年9月11日、12日の2日間にわたり、eスタジアムなんば本店にて「XR Kaigi Hub in 大阪」が開催されます。関西のXR・AI・メタバースに関心のある皆様、この貴重な機会をお見逃しなく。

XR Kaigi Hub in 大阪
開催日程: 2025年9月11日(木)・12日(金)
会場: eスタジアムなんば本店
公式サイト: https://hubinosaka.peatix.com/view

国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京で開催!

そして、年間の総仕上げとして、国内最大級のカンファレンス「XR Kaigi 2025」が東京ポートシティ竹芝で開催されます。バーチャル領域の担い手がノウハウや技術をシェアし、繋がり、高め合うことを目的とした本イベントに、ぜひご期待ください。

XR Kaigi 2025
開催日程: 2025年12月1日(月)〜3日(水)
会場: 東京ポートシティ竹芝
公式サイト: https://xrkaigi2025.studio.site/


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